はてなキーワード: 奥座敷とは
もうすぐ10年目。
特に目立った実績があるわけでもないが、何とか毎月の締めをこなし、営業さんたちのスケジュール管理や資料準備に追われている。
趣味は旅行。といっても、流行りのリゾートやSNS映えするグルメ旅ではなく、静かな寺社仏閣をめぐる地味なものだ。
社会人になりたての頃、ふと立ち寄った高円寺の気象神社でもらった御朱印が綺麗で、あれからずっと時間ができれば地図を広げて次はどこを巡ろうかと考えている。
近場なら関東近郊の日帰りでも十分楽しめる。川越や佐原、成田山や高尾山など、古い町並みを歩くだけでも心が落ち着く。
けれど、いざ本格的にディープな旅をしたくなると話は別だ。
京都や奈良の奥座敷、四国のお遍路道、山陰の石見や出雲大社、九州の天領日田や霧島神宮……。
こうした場所に行こうとすれば、どうしても一泊二日では時間が足りない。移動だけで半日かかってしまうからだ。
現実には、週末を使っての強行軍が関の山で、土曜の早朝に出発して、日曜の夜に疲れ果てて帰ってくる。
次の日は当然、月曜から仕事。身体は重く、旅の余韻にひたる暇もない。
ふと、「週休三日だったらなぁ」と何度思ったことか。
最近、その「週休三日制」が現実味を帯びてきたというニュースを見た。
政府や一部の企業が実証実験を始め、働き方改革の一環として「週休三日」を導入する動きがあるらしい。
ここまでは非常に良い。
その中で耳にするのが、水曜日を休みにして、週の真ん中にリフレッシュ日を設けるという案だ。
確かに、週に一度の中休みがあれば、連勤の疲れは軽減されるかもしれない。
火曜と木曜だけを頑張れば、また休みがやってくる。魅力的に聞こえる。
金曜が休みになると、金・土・日の三連休が確保される。これこそ、旅行好きにはたまらない魅力だ。
木曜の夜に出発し、金曜に移動。土曜はしっかり観光。日曜はゆっくり帰る。
三日あれば、関西だって四国だって、じっくり巡ることができる。
例えば、松江から出雲を回って、尾道で一泊し、しまなみ海道を渡って今治へ……こうした旅程も夢ではなくなる。
もちろん、水曜休みのメリットも理解できる。週の途中で一息つきたい気持ちも分かる。
ただ、私にとって週休三日制の一番の魅力は、「人生の時間を少しでも自分のために使える」ということに尽きる。
忙しさに追われる日常の中で、自分の心と向き合い、知らない土地に立ち、昔の人の暮らしや祈りに触れる時間。
それがあってこそ、また日常に戻ってこられる。
時は明治の末か、あるいは大正の初めであったか。帝都の片隅、人目を忍ぶように佇む小料理屋「潮騒亭」の奥座敷での出来事である。主の源爺は、齢を重ねてますます腕を上げた古参の職人。その日の客は、海軍の武官らしき壮年の男であった。
男は、威厳のある声でそう言った。源爺は、にこやかに頷き、「かしこまりました」と応じたものの、内心では少しばかり困惑していた。連日のように珍しいものを所望され、献立の種も尽きかけていたのである。
その時、源爺の脳裏にふと、先日市場で見かけた色とりどりの野菜の鮮やかな色彩が蘇った。西洋料理の影響か、近頃は生野菜を口にする者も増えてきたと聞く。ならば、それを寿司の技法と結びつけてみてはどうだろうか。
源爺は、熟練の指先で酢飯を握り、海苔でそれを囲んだ。そして、賽の目に切った胡瓜、トマト、レタスなどを、まるで宝石を散りばめるかのように、その上に盛り付けたのである。仕上げに、少量のマヨネーズを糸のように絞りかけた。
男は、運ばれてきたその見慣れない寿司を見て、目を丸くした。「これは一体…?」
「これは、わたくしが考案いたしました、『サラダ軍艦』と名付けたものでございます」と、源爺は少しばかり誇らしげに答えた。
男は、半信半疑ながらも、その寿司を一つ口に運んだ。すると、新鮮な野菜の歯応えと、酢飯の酸味、そしてマヨネーズのコクが絶妙に調和し、これまで味わったことのない風味が口いっぱいに広がった。
「ほう…これは面白い。実に斬新な味だ」
男は、満足そうに頷き、次々とサラダ軍艦を平らげていった。そして、勘定を済ませる際には、源爺にこう言ったという。
「源爺、今日のこの『サラダ軍艦』、なかなか乙なものよ。近いうちに、また所望するとしよう」
その言葉通り、その後もその武官は度々「潮騒亭」を訪れ、サラダ軍艦を注文したという。そして、彼の同僚や友人たちにもその噂は広まり、いつしかサラダ軍艦は、隠れた人気メニューとなっていったのである。