研究にせよ経営にせよ、やり方が上手ければ成功する確率は上がります。ではどういうやり方をすればよいのか。マネジメントにおいては、その「やり方」の重要な要素として「戦略」があることは多くの方が認めておられることと思います。ただし、どういう「戦略」をとるべきかに関していろいろな考え方があることも事実でしょう。状況に応じてとるべき「戦略」が変わることもあるとすれば何を信じたらよいのか、その戦略がどんな時にどこまで有効でその戦略を実行するには具体的にどうすればよいのか、つまり戦略の実行方法が必ずしもはっきりしていないところが実務家にとっては悩ましい場合もあります。
今回ご紹介するリチャード・C・ルメルト著「戦略の要諦」[文献1]は、戦略を立て、実行していく方法や注意点が解説されており、特に実務家にとっては非常に有益な手法が示されていると感じました。「○○戦略」というような戦略の概念や考え方を述べているわけではないのですが、かえって汎用性が高いやり方のようにも思います。以下、興味深く感じた内容についてまとめてみたいと思います。
はじめに、フォンテーヌブローの森にて(Introduction: The Roof of the
Dog’s Ass)
・「戦略を立てるスキルは三つの要素で形成される。第一は、ほんとうに重要なのはどれで、後回しにしてよいのはどれかを見きわめる能力。第二は、その重要な問題の解決は手持ちのリソースで現実的に解決可能なのかを判断する能力。第三は、リソースを集中して投入する決断を下す能力、逆に言えば、貴重なリソースを小出しにしたり、一度にいろいろなことに手を出したりする愚を犯さない能力である。三つのスキルはどれが欠けてもならず、三つがそろって初めて課題の核心(crux)、つまり最重要ポイントに全力集中できるようになる。最重要ポイントは単にむずかしいだけでなく成否を分ける勝負どころであって、かつ、集中的に取り組めば克服可能な難所を意味する。[p.11-12]」
・「戦略とは困難な課題を解決するために設計された方針や行動の組み合わせであり、戦略の策定とは、克服可能な最重要ポイントを見きわめ、それを解決する方法を見つける、または考案することにある。[p.14]」「戦略の策定とは、単なる意思決定ではない。意思決定の場合、とりうる行動の選択肢があらかじめリストアップされていて、その中から選ぶことが想定されるが、戦略を立てるときはそうではない。まずは課題の特定から始まる。[p.18-19]」「戦略策定と目標設定はちがう。戦略は組織が直面する課題から始まるのであって、先に最終到達地点としての目標を設定するのは順序があべこべである。・・・よき戦略家であるためには、直面する課題の複雑さや困難さをまるごと受け止めなければならない。そのうえで、課題の最重要ポイント、すなわち成否を決するような勝負どころを見きわめるセンスを養わなければならない。さらに、我慢強さも必要になる。錯綜する問題の闇の中に最初にかすかに差し込む光に飛びつきたいという誘惑はあまりに強いからだ。また、外から押し寄せる難題を解決するだけでなく、組織自体が健康体であるよう注意を払い、内部崩壊を防がなければならない。加えて、いくつもの問題を抱える場合、組織の目的と戦略を立てる自分自身の野心とのバランスをとることも必要だ。あなたと他のステークホルダーとでは、めざす目的もちがえば価値観や信条もちがうことをよくわきまえなければならない。よき戦略家であるためには、方針と行動の一貫性を保ち、多すぎるイニシアチブや両立不能な目的を同時に追求して努力を水泡に帰すような愚を避けなければならない。[p.19]」
・「本書で訴えたいことは、大きく分けて四つある。第一に、戦略を立てる最善の方法は、困難な課題に正面から立ち向かうことである。一足飛びに目標を掲げ、思い描く終着点を語る人が多すぎる。最初にすべきは困難な問題をじっくり見つめ、その構成要素やそこに作用している要因を理解することだ。・・・第二に、活用できるリソースを確認する。難所をクリアするにはさまざまな能力やツールが必要だ。気合と根性だけでは乗り切れない。第三に、いかにも魅力的な誘惑に負けたり横道に逸れたりしないよう注意する。[p.23]」「たとえばミッション・ステートメント作りに何日もかけるとか、四半期業績目標の進捗状況チェックに毎日時間を費やすといった愚は避けること。[p.23-24]」「第四に、グループやワークショップ方式で戦略を立てるやり方は落とし穴が多いと心得る。以上のように、本書で論じるのは困難な課題に正面から向き合い最重要ポイントを見つけて集中攻撃する戦略であり、その要諦を理解する一助になればさいわいである。[p.24]」
第1部、課題に基づく戦略と最重要ポイント(Challenge-Based Strategy
and the Crux)
・「戦略とは、組織の命運を決するような重大かつ困難な課題を解決するために設計された方針と行動計画の組み合わせを意味する。戦略とは単に目標を掲げることではない。問題解決の一種と捉えるべきである。[p.26]」
第1章、戦略自動作成機は存在しない(Carolyn’s Dilemma: How Do I
Create a Strategy?)
・「戦略策定は問題解決の特殊な形である。『特殊』と断ったのは、学校時代によく宿題に出された問題のように明文化されておらず、何が問題かはっきりしないうえ、はるかに複雑だからだ。[p.40]」「戦略課題はおおざっぱに分けて三つの形をとると私は考えている。選択に関する課題、工学設計上の課題、それから途方もなく困難な課題である。・・・選択に関する課題は、選択肢はすでにあきらかになっているが、不確実性や数値化できない要素があって選ぶのがむずかしいときに生じる。・・・工学設計上の課題は、何かまったく新しい製品や構造物を構想するケースで生じる。[p.41]」「そして、途方もなく困難な課題である。用意された選択肢はなく、設計をテストする工学的なモデルもない。そもそも解決策が存在するかどうかも定かではなく、どう行動したらどんな結果に結びつくかも予測できない。こうした手強い課題に取り組むときには、その課題の本質を見きわめることが重要である。[p.42]」
・「今日では役に立つ分析ツールが豊富に存在するし、シミュレーションや問題解決のためのノウハウ(他の状況との類比、視点の転換、成功した方法の応用など)も潤沢にある。だがこれらはあくまできっかけや刺激となるにすぎない。用意されたリストから戦略を選ぶということはできない。戦略はあなたが考えだすものだ。診断に基づいて解決策をあなたが何通りか考え、その中から最善と判断したものをあなたが選ぶ。そして具体的で一貫性のある行動計画に落とし込んでいく。[p.49]」
第2章、課題を解きほぐす(Untangling the Challenge: Finding
and Using the Crux)
・「途方もなく困難な課題は分析しただけでは解決できないし、既存のフレームワークも適用できない。しかるべき解決策は、注意深く診断して問題がどんな構造になっているのかを理解し、要素を再構成し、再検討し、問題を切り分けて的を絞り、類例を探し、ひたすら考えるというプロセスの中から浮かび上がってくるのである。だから戦略は選ぶものではなくゼロからデザインするものであり、目的への道を描き出す創造と言うべきだろう。・・・戦略は既存のフレームワークに基づいて導き出すものではない。このことは、知識だけでは不十分であることを意味する(もちろん知識は必要である)。[p.53]」「フレームワークは、ある状況で重要な要素に注意を促すツールとして用意されているのであって、これを使えば特定の状況に適した戦略を導き出せるわけではない。[p.57]」「混沌とした状況を整理して最重要ポイントを見定め、ここをアタックすれば成功すると呼びかける役割を果たすのが、戦略的なリーダーである。全力で立ち向かえば行けそうだと思わせてくれるからこそ他の人はこのリーダーに従う。手もつけられそうもなかった問題がなんとかなりそうだと感じられることが重要なのである。[p.63-64]」
・「私は・・・すぐれた戦略家が途方もなく困難な状況に取り組む際のアプローチを分析し、共通する手法を発見した。収集・分類・選別がそれである。収集とは、直面する難題と機会をリストアップし、何も見落としがないようにする作業である。こうすれば、最初に思い浮かんだものから取り掛かるという愚を避けることができる。・・・分類では、リストアップした項目をグループ分けする。[p.66]」「収集と分類が終わった段階で、取り組むべきことが多すぎるし、絡んでいる利害も多すぎるとあなたは気づくだろう。そこで選別が必要になる。まずはことの緊急性に基づいて順位をつけ、喫緊の課題をいちばん上にし、先送りできるものは改に回す。・・・選別が終わったら、次は重要性と取り組み可能性を評価する。[p.67]」「死活的に重要なのに手がつけられそうもない課題には、最大限の注意を払わなければならない。それを解決可能なピースに切り分けることはできないか。他の組織が直面している課題との共通性はないか。この種の課題に関する経験者やエキスパートが社内にいないか。どんな要因が取り組みを不可能にさせているのか、その要因は取り除けるのか。アーチの要石のように、そこさえ打ち砕けば全体が一気に取り組みやすくなる最重要中の最重要ポイントはないか。あるいは困難な課題をパーツに分解したうえで、それぞれについて改めて収集・分類・選別のプロセスを行ってはどうか。[p.68]」「途方もなく困難な課題に取り組むとき、収集・分類・選別のプロセスを経て最重要ポイントにフォーカスしない限り、解決はきわめて困難になり、しかも長くかかるだろう。いや、解決できないかもしれない。[p.69]」「選別プロセスが完了しアタックするポイントが定まったら、取るべき行動を何通りか考えることが第二の手順となる。[p.70]」「課題を注意深く診断し、その構造を徹底的に分析し、最重要ポイントをとことん考える。このとき役に立つ方法を六つ上げておこう。粘り抜く、類推する、視点を変える、暗黙の前提を言語化する。つねに『なぜ』と問う、無意識の制約に気づく、である。[p.76-77]」
第3章、戦略は長い旅路である(Strategy Is a Journey)
・「戦略を一種の長期目標あるいはスローガンと勘違いしている例があまりに多い・・・。戦略はそういうものではない。むしろ、困難に次々に遭遇しては打ち勝って前へ進む旅に似ている。[p.89]」「すべての課題を一挙に解決する魔法のような戦略は存在しない。[p.90]」
第4章、どこなら勝てるか(Where You Can Win: The ASC)
・「組織の強みは歴史や伝統あるいは評判などに基づくことが多い。しかしこれでは、最大の利益が得られるところ、つまり『勝てる』ところにフォーカスしたことにはならない。・・・戦略を考えるときには、さまざまな問題や野心や願望はひとまず棚上げにして、他といちばん差をつけられそうなところ、つまり『勝てる』ところにフォーカスしなければならない。[p.103]」
・「いくつもの課題が浮かび上がってきた状況で、どれかにフォーカスするとなれば、それ以外の課題は棚上げするか先送りしなければならない。つまり重点的に取り組む課題を選ぶのであり、この意味で最重要ポイント自体を選ぶということになる。最も重要な勝負どころであって、かつ乗り越えられそうな対象を選ぶ[p.105]」。「線形計画法からの連想だが、・・・線形計画法は・・・通常は制約関数と目的関数の交点が解となる。ところが、ときに制約関数が多すぎたり厳しすぎたりすると、交点が存在しない(解がない)ことがある。このような時、戦略は空集合(null set)だと私は呼んでいる。この場合、制約条件のすくなくとも一つを緩和しない限り、解は望めない。[p.114]」「空集合から抜け出すには、価値観や展望が課す制約条件のどれかを緩和するか、排除しなければならない。[p.117]」「何が『重要』かは状況によってちがうし、取り組む人の利害によってもちがう。・・・事業戦略や組織戦略の場合には、その事業なり組織なりの存続が懸かっているような問題が文句なしに最重要と位置づけられる。・・・次なるテストは取り組み可能か、つまり妥当な期間内で克服できそうか、ということになる。人智では乗り越えられないような課題は、いかに重要でも戦略の対象にはなり得ない。[p.120]」「取り組みが可能かどうかは、組織のスキルとリソース、解決までに許容される期間に左右される。[p.120-121]」「戦略とは未来につながる長期的な大構想でなければならないという考え方・・・のほうが戦略は立てやすい。だがこれでは、最も重要な勝負どころにフォーカスして行動計画に落とし込むという困難なプロセスをやらずに済ますことになる。[p.122-123]」
第5章、戦略と成長(The Challenge of Growth)
・「経営陣は何かというと『成長』を求めるが、成長期待は企業の規模とバランスがとれているのか、検討が必要だ。・・・成長が課題だという場合の多くは、じつは競争圧力、組織のアジリティ(機敏性)、起業家精神が課題なのだ。・・・単に売り上げを伸ばすのではなく価値創造による利益を伴う成長を実現すること――これが、誰でも名前を知っているような成功企業の最大の特徴である。・・・この特徴を七つの要素に分解して解説する。[p.137]」
・「成長への7つの道・・・1,ユニークバリューを提供する・・・その企業ならではの特別な価値を提供する・・・これは圧倒的に多くの場合に事業で成功するための基本方程式だ。[p.141]」「2,不要な活動を排除する[p.146]」「成長するためには、・・・不要な事業を刈り込み、成長が期待できる事業にフォーカスすることがぜひとも必要だ。[p.147]」「3,機敏であれ・・・競争の激しい状況では、反応時間がきわめて重要な意味を持つ。[p.151]」「4,合併・買収を活用する[p.156]」「M&Aで企業が成長を実現するためには、いくつかルールがある。まず、・・・自社の基本的な競争戦略を加速または進化させるためのものと考えることだ。M&Aで売上高を増やそうとか利益を増やそうなどと考えてはならない。また、複雑な組織、事業範囲が広く製品が他分野におよぶ多角的な企業、従業員数が非常に多い企業を買収してはいけない。[p.157]」「5,必要以上に払わない・・・多くの研究が企業買収に否定的な結論にいたった理由の一つは、買収する側が価値以上に払ってしまうことにある。[p.163]」「過大なプレミアムがついてしまう最大の原因は、自信過剰である。[p.165]」「6,バケモノを育てない・・・ここでいう『バケモノ』とは、多くの古い組織の中枢に巣くう仕組みやシステムのことだ。バケモノは長年の間にできあがった決まりや規範や前例と、それを神聖視する官僚的な人間とで構成されている。[p.167]」「7,細工はしない[p.169]」「利益平準化を行う企業はその後に株価の急落に見舞われる確率が大幅に高まるという。[p.171]」
・「メディアが急成長中の企業をもてはやす状況では、成長が価値創造による利益を伴うとは限らないことをつい忘れがちだ。価値創造による利益を伴う成長はめったに実現できないし、実現できても気をつけないとあっという間に終わってしまう。[p.174]」
第6章、戦略と権力(The Challenge of Power)
・「戦略は、リーダーが設計する方針あるいは方向性だ。上から“戦え”と命令しても効果がないと気づいたとき、戦略が始まる。リーダーは誰がどこでどう戦うかを考え、その方針を示す。近代的な企業における戦略の実行とは、放っておいたらやらないことをシステムの一部にやらせるために権力を行使することを意味する[p.177]」。「最高責任者として十分な権力を付与されない限り、自分で戦略目標を立て、それをめざすことはできないし、それどころか、自分の任務遂行のために介入することさえうまくいかないだろう。[p.187]」
第7章、行動の一貫性(Creating Coherent Action)
・「一貫した方針と行動は互いに支え合う。理想的なケースでは、その結果として相乗効果が生まれ、いっそうの競争優位につながる。[p.196-197]」「それぞれに異なる価値観を持ち、それなりに妥当な主張をするさまざまな利害関係者に対してキッパリとノーと言わなければならない。これが、一貫性を押し通すことの代償である。戦略家は政治家になろうとしてはいけない。妥協して誰もが入れるような大きいテントを立てるのは、戦略家の仕事ではない。[p.210]」
・「規模が大きく多様で複雑な・・・組織が、何かに特化した企業と同じような一貫性を追求するのは無理がある。その分を、リソースの厚みで補うべきだろう。・・・大きな組織の場合、行動計画を立てる際にすくなくとも最小限の一貫性を保てるようにすべきだ。単刀直入にいえば、互いに矛盾する行動をとってはいけない。[p.217]」
第2部、診断(Diagnosis)
第8章、アナロジーとリフレーミング(What Is the Problem?
Diagnosing Through Reframing and Analogy)
・「課題の核心を見抜くには、課題を構成するさまざまな要素の関係性を理解しなければならない。正確な診断を行うには、アナロジーとリフレーミングという二つのツールが役に立つ。[p.221]」
・「診断ツールで最もよく使われるものの一つが『アナロジー』である。類似の状況を探して現在の課題との共通性を見つける手法だ。アナロジーをうまく使うコツは、よく似ていると思われる状況を二つ以上探し、それらの状況の経過や因果関係を理解したうえで、現在の課題との関連性を考えることである。[p.235]」「リフレーミングの重要性を教えてくれるのは、アメリカ軍のドクトリン(戦術教義)であるエアランド・バトル(ALB)である。当初の診断では、ほとんど解決不能、すくなくとも妥当な期間内には解決不能だとされた問題を、ちがう角度から見ることで創造的な解決が導き出された例である。[p.240-241]」
第9章、比較とフレームワーク(Diagnose via Comparison and
Frameworks)
・「何かを計測するときには必ず比較が行われる。[p.249]」「外部との比較は条件を揃えるなどの調整が必要で、いくらかむずかしいが、ときに予想外の知見やヒントを得ることができる。[p.250]」「既存のデータを新たな視点から見ることで、予想外の問題点や意外なチャンスを発見できることがある。・・・分類の仕方を変えてみるだけで、新たなヒントが得られることが少なくない。[p.254]」
第10章、分析ツールの活用は慎重に(Use Sharp Analytical Tools
with Care)
・「今日ではさまざまなビジネス分析ツールが出回っている。・・・複雑な状況の診断を試みる場合には、白黒をはっきりさせてくれる切れ味のいいツールがいかにも有効に見える。たしかに問題の最重要ポイントを鮮明に浮かび上がらせてくれることもあるが、判断を誤らせ、見当外れの結論に導いてしまうこともある。[p.266]」「優秀なツールは諸刃の剣だということを忘れないでほしい。扱いには注意が必要である。[p.266-267]」「自分の使うアナロジーやフレームワークはどんな性格のものか、なぜそれを使うのかを理解することは、適切な戦略策定の第一歩である。[p.277]」「投資意思決定ツール、BCGマトリクス、破壊的イノベーションの理論といったフレームワークは、状況を分析するうえで役に立つこともある。このほかにも、バリューチェーン分析、購買行動モデル、多項ロジットモデル、マッキンゼーの7Sフレームワーク、ブルー・オーシャン戦略、シナリオ開発、ベンチマーキング、製品ライフサイクル理論、根本原因解析など多くのツールが存在する。ここで注意すべきは、どれも少数の要素にのみ注目するということだ。要素が一つに絞り込まれることもままある。またどのツールも何らかの前提の上に成り立っている点にも注意が必要だ。前提に合致しない状況でツールを適用すると、道を誤ることになりかねない。[p.286-287]」
第3部、最重要ポイントを攻略する(Through the Crux)
・「第3部では、見極めた最重要ポイントをどう攻略すべきかを論じる。[p.290]」
第11章、強みを探す(Seek an Edge)
・「強みは必ず何らかの非対称性から生じる。・・・すぐれた戦略家はあらゆる非対称性に目を光らせ、どの非対称性が一方の優位になりうるかを見抜く。[p.291]」「企業同士の競争では、これといった強みが何もないのに利益を期待することはできない。ではどこに強みや優位性を探せばよいのか。大雑把に言って五つある。第一は情報である。・・・第二はノウハウである。・・・第三は地位である。・・・第四は効率である。・・・第五は組織のマネジメントである。・・・他社とのちがいや他社との差異が強みになりうる。[p.293]」
・「成功体験を持ち資産が蓄積されてきた企業は、とかく荒っぽい価格競争に突入しやすい。だがその結果はひどいことになる。[p.295]」「ベルトラン競争で勝つ唯一の方法は、競争相手を駆逐して市場を独占することである。でなければ競争相手の誰よりも原価を低く抑えることだが、これはまずできまい。・・・現実の世界で成功する戦略は、競争相手よりよい品質を提供する、好条件を提示する、得意とするセグメントに特化する、などだ。[p.296]」
・「優位性の一つに、意外なもの、たとえば新しい需要と古い知識、既存事業と新しい技術を結びつける手腕が挙げられる。[p.298-299]」「結びつけることは一企業内でできるが、その切り離しのほうは通常は業界全体を巻き込む現象となる。・・・コンポーネント単体に特化してすばやく地位を確立することが競争優位になり、システムに固執する企業に先んじることができる。[p.305]」「単純な大量生産で成り立つ規模の経済と、大規模組織において実現しうる規模の経済の間には大きな乖離がある。というのも組織が大きくなるほど中間管理職が何階層も必要になり、それらを調整し統合するしくみが必要になるからだ。こうした理由から、規模の経済だけを追求した合併はだいたいにおいて失敗に終わる。・・・規模は、広告や研究開発では重要な意味を持つ。どちらも競争相手の予算規模に敏感だからだ。以上のように規模の問題は一筋縄ではいかず、注意深い事前分析と精査が必要である。[p.310]」「規模の経済が単位コストを押し下げるのに対し、ネットワーク効果は製品やサービスの価値を高める。[p.313]」
第12章、イノベーション(Innovating)
・「発明が忽然と出願することはまずない。新しい発見や洞察はたしかに無から生まれるにしても、その後に議論や協働を重ねて骨格が定まっていくものだ。つまり発明はけっして瞬発的なものではないし、時代の空気やニーズにも左右される。[p.321]」「技術の進歩は層状に重なって波のように押し寄せ、それぞれの層はその前の層の知識やインフラの上に築かれる。だから戦略家は、一世紀以上続くような長い波と、目先の短い波の両方を的確に評価しなければならない。短い波は多くの場合、何らかの新しいメリットの実現コストを大幅に押し下げる形でやって来る。大企業が基調的な技術で競争優位を構築するためには、目先の利益は短い波に乗って得るとしても、つねに長い波を見ていなければならない。これに対して規模の小さい企業やスタートアップ、あるいは大企業の個別事業は、短い波にフォーカスして戦略を立てるとよい。そのほうが技術やイノベーションの恩恵を最大限に手にすることができる。[p.322-323]」「長い波は・・・後から総括することはできるが、予測するのはむずかしい。[p.325]」「遠い将来ほど技術の予測はむずかしい。予測可能と言えるのはせいぜい五~七年だろう。それより先については、何通りかの見方を用意し、Aの可能性が高いとか、AとBの組み合わせになる可能性が高いといったシナリオに賭けるほかあるまい。・・・長い波が変化している間にも、技術の進歩は短いスパンで起きている。そうした短い波は、何かを作るコストが下がって商業化・実用化が可能になったときに発生することが多い。[p.327]」「まだ競争にならないうちに急成長を遂げ独走する――これが成功するイノベーションの典型である。だがまさにこの成功が既存の大手の注意を引く。巨大企業は若い成長企業を取り込むか出し抜いて事業を拡大しようとする。若い企業はその機動性と風通しのいい組織を活かして既存大手との競争でリードを維持・拡大することが、次の最重要ポイントとなる。[p.339]」
第13章、組織の機能不全(The Challenge of Organization
Dysfunction)
・「ときには問題が組織自体だということもある。・・・組織が原因で生じる最も一般的な問題は、その組織が得意としてきたこと、専門にしてきたことの歴史に根ざしている。それも、特化した分野における成功に起因することが多い。ある時代にうまくいったこと、とりわけ成長し繁栄していた時期に最高にうまくいっていたことが『ウチのやり方』として定着してしまう。アーノルド・J・トインビーは『歴史の研究』でこの現象を成功体験の『偶像化(idolization)』と呼び、文明衰退の一因と断じた。[p.344-345]」「規模が大きくなるほど組織運営はむずかしくなる。規模が大きくなれば、いくつもの専門家集団を調整し調和させる苦労が大きくなるし、情報を必要な部署に確実に伝達することも困難で時間がかかるようになる。また規模が大きいほど個々の努力の効果が薄れるので、モチベーションの維持はむずかしくなる。[p.352]」
・「組織と文化が戦略的な要素であることは言を俟たない。この二つが企業の競争的地位を支えている間は、競争優位の源泉となる。だが効率や変化やイノベーションの重石となるようなら、戦略上の不利益となる。組織の危機を無視した壮大なミッション・ステートメントや成長戦略は、それ自体が問題の一部だ。よき戦略家は、外向きの目標達成に注ぐのと同じ熱意をもって、社内の問題に取り組まなければならない。[p.366-367]」
第4部、リーダーを迷わす誘惑(Bright, Shiny Distractions)
第14章、目標が先ではない(Don’t Start with Goals)
・「会社にとって死活的に重要な課題あるいは機会は何かを分析も理解もせずに恣意的に目標が決められたとすれば、それは裏付けのない目標と言わねばならない。対照的に、よい目標はすぐれた戦略策定の結果として導き出される。[p.371]」「裏付けのない目標は、会社の現実からかけ離れていると言わねばならない。[p.372]」「戦略を立てるときは、当然ながら自分たちの野心や価値観を再確認することになる。だが野心や願望や価値観は、何をすべきかを教えてはくれない。[p.376]」「目標を先に立ててそこから戦略に後戻りしてうまくいく可能性はゼロである。[p.377]」「目標は人を動機づけるとよく言われる。だが思い付きの非現実的な目標を示されても、がんばって達成する意欲は湧かないだろう。むしろ社内にしらけたムードが広がり、嘘や数字のでっち上げが横行するにちがいない。[p.384]」
第15章、戦略と目標管理はちがう(Don’t Confuse Strategy with
Management)
・「数値目標を並べ立てても戦略にはならない。戦略とはある状況に作用する要因を診断・分析し、どう取り組むかに関する論理的な主張でなければならない。数字の洪水で思考を押し流してはならない。[p.392]」「目標を達成するのに部下の尻を叩けばよいだけなら、話は簡単である。リーダーは毎年より高い目標を掲げ、『結果を出せ』とがんばらせればよい。そういう単純な世界では戦略など不要だ。[p.393]」
・「ドラッカー流の目標管理に取り組む企業にとって現在主流のアプローチは、バランスト・スコアカード(BSC)である。・・・このシステムでは四つの視点(財務・顧客・業務プロセス・学習と成長)で業績を評価する。[p.395]」「企業の直面する課題が現在の業務効率とは別のところにある場合、バランスト・スコアカードは解決の手掛かりにはならない。既存事業の見直しや新規事業の開拓には、バランスト・スコアカードは有効ではないのである。[p.402]」
第16章、現在の財務実績は過去の戦略の結果である(Don’t Confuse Current
Financial Results with Strategy)
・「現在の利益は過去の投資や行動がもたらした収穫であって、それは時には何世代も前だったかもしれない。今日の利益は、現在のマネジャーや社員のハードワークの結果だとは言い切れない。むしろ現在の利益は、ほぼまちがいなく過去の賢明な判断、幸運、戦略に由来する。[p.405]」
第17章、戦略プランニングの活用と誤用(Strategic Planning: Hits and
Misses, Use and Misuses)
・「長期的展望に基づくプランニングは、大きな流れや主要なイベントが予測可能であって、かつその予測に基づいて今日投資する気概を組織が持ち合わせていれば、役に立つだろう。[p.427]」「問題が持続する性質のもので、かつ誰にとってもあきらかであれば、長期戦略プランを立てやすい。・・・問題が比較的短期的に変化するものであれば、わざわざ長期戦略を立てるにはおよばない。[p.435]」「ビジョン、ミッション等々と順繰りに『ステートメント』なるものを作成するのは単に時間の無駄である。そもそもたくさんのステートメントが必要だという主張には論理的裏付けもないし、それが有効だという証拠もない。[p.435]」「高邁なパーパスを掲げても、利益を優先しても、本書が論じる課題ありきの戦略にはまったく役に立たない。[p.438]」
・「製品や製造のライフサイクルが数年、数十年におよぶ場合には、戦略プランに意味はあるし、大きなメリットもある。・・・だが多くの企業にとって、戦略プランニングは期待した成果をもたらさなかった。[p.440]」「根本的な問題は、彼らが戦略プランニングと称するものは戦略を立てていないことだ。彼らが実際にやっているのは売上高や利益といった財務指標がどうなるかを予想し、予想通りの実現をめざすことである。要するに一種の予算計画を立てているのであって、重要課題に取り組もうとはしていない。戦略プランニングの過程で幅広い問題を取り上げることはあっても、すぐに議論の中心は財務指標に戻ってしまい、続いて予算の割り当てという段取りになる。[p.441]」
第5部、戦略ファウンドリー(The Strategy Foundry)
・「戦略ファウンドリーとは、少人数の経営幹部が集まって課題を検討し、最重要ポイントを見きわめて、課題解決のための一貫性のある行動計画を立てるプロセスのことである。・・・長期予算計画を立てるだけの戦略プランニングとはまったくちがう[p.448]」
第18章、ラムズフェルドの疑問(Ramsfeld’s Question)
・「経営・産業・経済・競争・事業戦略を分析する技術は過去半世紀で大きく進歩した。だが、費用対効果や競争状況をどれほど精密に分析したところで、それ自体がよい戦略を生み出せるわけではない。[p.461]」「戦略策定がうまくいかない問題の最重要ポイントは、戦略とはあらかじめ定められた目標、とくに業績目標を実現する方法のことだ、という経営陣の思い込みにあるのではないかと考えるようになった。となれば必要なのは、そうした思い込みを打破することである。また、戦略策定を専任の副社長に任せきりにするとか、行動計画を各部門のリーダーに丸投げするといったやり方も改めなければならない。このほか、戦略立案の議論が権力や地位の影響を受けないようにすること、状況分析が終わるまで本格的な議論は先送りすること、最も効果的なところにエネルギーを集中することも重要だ。これらは『戦略ファウンドリー』と私が呼ぶプロセスの特徴でもある。[p.465]」
第19章、戦略ファウンドリーの疑似体験(A Foundry Walkthrough)
・戦略ファウンドリーの進め方の事例紹介
第20章、戦略ファウンドリー――コンセプトとツール(Strategy Foundry
Concepts and Tools)
・「戦略ファウンドリーは、経営幹部のチームが戦略を目標設定と混同しないよう正しく導き、組織が直面する問題を洗い出し、診断し、最重要課題の最重要ポイントを見きわめ、どう取り組むか議論する場である。戦略ファウンドリーの成果は、組織にとっていま最も重要なことがあきらかになること、それに取り組むための行動の指針が定まることだ。最後に、対外的な発表や説明にも注意を払う。[p.489]」
・「最も重要なのは、組織が直面する課題を洗い出し、診断することである。課題から始めることで、経営陣お気に入りのプロジェクトや世間受けする目標が議論の中心になってしまう事態を防ぐことができ、意識が問題解決へと向かう。[p.496-497]」「さまざまな企業で戦略策定のコンサルティングをした経験から言うと、およそ三分の一の企業では、戦略課題は組織構造や業務プロセスに、つまり社内にあると考えられる。内部の問題を掘り下げるのは容易ではないが、得るものは大きい。[p.502]」
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実務家にとって、何を、どのように行うかを明確にすることは重要ですが、従来の多くの「戦略」では、そうした点よりも、「こういう考え方、こういう方針でやればうまくいくことがある」という点に主眼が置かれていたように思います。世の中の成功事例をまとめたり、そこから論理的に導かれたりした戦略を行えば、ある状況下ではうまくいくと言えることもあるでしょうが、「どんな場合にでもうまくいく方法」という観点からはそれでは不十分でしょう。実務家にとって、世の中にあふれる「戦略」が今一つ使いにくい原因はそのあたりにあるように思います。
それに対して本書の方法は、特別な特徴を持った「戦略」自体ではなく、使える戦略を「作る方法」が解説されていて、実務家にとって非常に使いやすい方法になっているように感じます。何を「戦略」と言うかは論者によって様々でしょうが、何かの実現を目指すならば、研究者にとっても使いやすく有用な考え方が示されているように感じました。
文献1:Richard P. Rumelt, 2022、リチャード・C・ルメルト著、村井章子訳、「戦略の要諦」、日経BP、2023.
原著表題:The Crux: How Leaders Become Strategists