研究開発マネジメントノート

研究開発とそのマネジメントについてのいろいろ

「戦略の要諦」(ルメルト著)より

研究にせよ経営にせよ、やり方が上手ければ成功する確率は上がります。ではどういうやり方をすればよいのか。マネジメントにおいては、その「やり方」の重要な要素として「戦略」があることは多くの方が認めておられることと思います。ただし、どういう「戦略」をとるべきかに関していろいろな考え方があることも事実でしょう。状況に応じてとるべき「戦略」が変わることもあるとすれば何を信じたらよいのか、その戦略がどんな時にどこまで有効でその戦略を実行するには具体的にどうすればよいのか、つまり戦略の実行方法が必ずしもはっきりしていないところが実務家にとっては悩ましい場合もあります。

今回ご紹介するリチャード・C・ルメルト著「戦略の要諦」[文献1]は、戦略を立て、実行していく方法や注意点が解説されており、特に実務家にとっては非常に有益な手法が示されていると感じました。「○○戦略」というような戦略の概念や考え方を述べているわけではないのですが、かえって汎用性が高いやり方のようにも思います。以下、興味深く感じた内容についてまとめてみたいと思います。

はじめに、フォンテーヌブローの森にてIntroduction: The Roof of the Dog’s Ass
・「戦略を立てるスキルは三つの要素で形成される。第一は、ほんとうに重要なのはどれで、後回しにしてよいのはどれかを見きわめる能力。第二は、その重要な問題の解決は手持ちのリソースで現実的に解決可能なのかを判断する能力。第三は、リソースを集中して投入する決断を下す能力、逆に言えば、貴重なリソースを小出しにしたり、一度にいろいろなことに手を出したりする愚を犯さない能力である。三つのスキルはどれが欠けてもならず、三つがそろって初めて課題の核心(crux)、つまり最重要ポイントに全力集中できるようになる。最重要ポイントは単にむずかしいだけでなく成否を分ける勝負どころであって、かつ、集中的に取り組めば克服可能な難所を意味する。[p.11-12]」
・「戦略とは困難な課題を解決するために設計された方針や行動の組み合わせであり、戦略の策定とは、克服可能な最重要ポイントを見きわめ、それを解決する方法を見つける、または考案することにある。[p.14]」「戦略の策定とは、単なる意思決定ではない。意思決定の場合、とりうる行動の選択肢があらかじめリストアップされていて、その中から選ぶことが想定されるが、戦略を立てるときはそうではない。まずは課題の特定から始まる。[p.18-19]」「戦略策定と目標設定はちがう。戦略は組織が直面する課題から始まるのであって、先に最終到達地点としての目標を設定するのは順序があべこべである。・・・よき戦略家であるためには、直面する課題の複雑さや困難さをまるごと受け止めなければならない。そのうえで、課題の最重要ポイント、すなわち成否を決するような勝負どころを見きわめるセンスを養わなければならない。さらに、我慢強さも必要になる。錯綜する問題の闇の中に最初にかすかに差し込む光に飛びつきたいという誘惑はあまりに強いからだ。また、外から押し寄せる難題を解決するだけでなく、組織自体が健康体であるよう注意を払い、内部崩壊を防がなければならない。加えて、いくつもの問題を抱える場合、組織の目的と戦略を立てる自分自身の野心とのバランスをとることも必要だ。あなたと他のステークホルダーとでは、めざす目的もちがえば価値観や信条もちがうことをよくわきまえなければならない。よき戦略家であるためには、方針と行動の一貫性を保ち、多すぎるイニシアチブや両立不能な目的を同時に追求して努力を水泡に帰すような愚を避けなければならない。[p.19]」

・「本書で訴えたいことは、大きく分けて四つある。第一に、戦略を立てる最善の方法は、困難な課題に正面から立ち向かうことである。一足飛びに目標を掲げ、思い描く終着点を語る人が多すぎる。最初にすべきは困難な問題をじっくり見つめ、その構成要素やそこに作用している要因を理解することだ。・・・第二に、活用できるリソースを確認する。難所をクリアするにはさまざまな能力やツールが必要だ。気合と根性だけでは乗り切れない。第三に、いかにも魅力的な誘惑に負けたり横道に逸れたりしないよう注意する。[p.23]」「たとえばミッション・ステートメント作りに何日もかけるとか、四半期業績目標の進捗状況チェックに毎日時間を費やすといった愚は避けること。[p.23-24]」「第四に、グループやワークショップ方式で戦略を立てるやり方は落とし穴が多いと心得る。以上のように、本書で論じるのは困難な課題に正面から向き合い最重要ポイントを見つけて集中攻撃する戦略であり、その要諦を理解する一助になればさいわいである。[p.24]」

第1部、課題に基づく戦略と最重要ポイントChallenge-Based Strategy and the Crux
・「戦略とは、組織の命運を決するような重大かつ困難な課題を解決するために設計された方針と行動計画の組み合わせを意味する。戦略とは単に目標を掲げることではない。問題解決の一種と捉えるべきである。[p.26]」
第1章、戦略自動作成機は存在しないCarolyn’s Dilemma: How Do I Create a Strategy?
・「戦略策定は問題解決の特殊な形である。『特殊』と断ったのは、学校時代によく宿題に出された問題のように明文化されておらず、何が問題かはっきりしないうえ、はるかに複雑だからだ。[p.40]」「戦略課題はおおざっぱに分けて三つの形をとると私は考えている。選択に関する課題、工学設計上の課題、それから途方もなく困難な課題である。・・・選択に関する課題は、選択肢はすでにあきらかになっているが、不確実性や数値化できない要素があって選ぶのがむずかしいときに生じる。・・・工学設計上の課題は、何かまったく新しい製品や構造物を構想するケースで生じる。[p.41]」「そして、途方もなく困難な課題である。用意された選択肢はなく、設計をテストする工学的なモデルもない。そもそも解決策が存在するかどうかも定かではなく、どう行動したらどんな結果に結びつくかも予測できない。こうした手強い課題に取り組むときには、その課題の本質を見きわめることが重要である。[p.42]」
・「今日では役に立つ分析ツールが豊富に存在するし、シミュレーションや問題解決のためのノウハウ(他の状況との類比、視点の転換、成功した方法の応用など)も潤沢にある。だがこれらはあくまできっかけや刺激となるにすぎない。用意されたリストから戦略を選ぶということはできない。戦略はあなたが考えだすものだ。診断に基づいて解決策をあなたが何通りか考え、その中から最善と判断したものをあなたが選ぶ。そして具体的で一貫性のある行動計画に落とし込んでいく。[p.49]」
第2章、課題を解きほぐすUntangling the Challenge: Finding and Using the Crux
・「途方もなく困難な課題は分析しただけでは解決できないし、既存のフレームワークも適用できない。しかるべき解決策は、注意深く診断して問題がどんな構造になっているのかを理解し、要素を再構成し、再検討し、問題を切り分けて的を絞り、類例を探し、ひたすら考えるというプロセスの中から浮かび上がってくるのである。だから戦略は選ぶものではなくゼロからデザインするものであり、目的への道を描き出す創造と言うべきだろう。・・・戦略は既存のフレームワークに基づいて導き出すものではない。このことは、知識だけでは不十分であることを意味する(もちろん知識は必要である)。[p.53]」「フレームワークは、ある状況で重要な要素に注意を促すツールとして用意されているのであって、これを使えば特定の状況に適した戦略を導き出せるわけではない。[p.57]」「混沌とした状況を整理して最重要ポイントを見定め、ここをアタックすれば成功すると呼びかける役割を果たすのが、戦略的なリーダーである。全力で立ち向かえば行けそうだと思わせてくれるからこそ他の人はこのリーダーに従う。手もつけられそうもなかった問題がなんとかなりそうだと感じられることが重要なのである。[p.63-64]」
・「私は・・・すぐれた戦略家が途方もなく困難な状況に取り組む際のアプローチを分析し、共通する手法を発見した。収集・分類・選別がそれである。収集とは、直面する難題と機会をリストアップし、何も見落としがないようにする作業である。こうすれば、最初に思い浮かんだものから取り掛かるという愚を避けることができる。・・・分類では、リストアップした項目をグループ分けする。[p.66]」「収集と分類が終わった段階で、取り組むべきことが多すぎるし、絡んでいる利害も多すぎるとあなたは気づくだろう。そこで選別が必要になる。まずはことの緊急性に基づいて順位をつけ、喫緊の課題をいちばん上にし、先送りできるものは改に回す。・・・選別が終わったら、次は重要性と取り組み可能性を評価する。[p.67]」「死活的に重要なのに手がつけられそうもない課題には、最大限の注意を払わなければならない。それを解決可能なピースに切り分けることはできないか。他の組織が直面している課題との共通性はないか。この種の課題に関する経験者やエキスパートが社内にいないか。どんな要因が取り組みを不可能にさせているのか、その要因は取り除けるのか。アーチの要石のように、そこさえ打ち砕けば全体が一気に取り組みやすくなる最重要中の最重要ポイントはないか。あるいは困難な課題をパーツに分解したうえで、それぞれについて改めて収集・分類・選別のプロセスを行ってはどうか。[p.68]」「途方もなく困難な課題に取り組むとき、収集・分類・選別のプロセスを経て最重要ポイントにフォーカスしない限り、解決はきわめて困難になり、しかも長くかかるだろう。いや、解決できないかもしれない。[p.69]」「選別プロセスが完了しアタックするポイントが定まったら、取るべき行動を何通りか考えることが第二の手順となる。[p.70]」「課題を注意深く診断し、その構造を徹底的に分析し、最重要ポイントをとことん考える。このとき役に立つ方法を六つ上げておこう。粘り抜く、類推する、視点を変える、暗黙の前提を言語化する。つねに『なぜ』と問う、無意識の制約に気づく、である。[p.76-77]」
第3章、戦略は長い旅路であるStrategy Is a Journey
・「戦略を一種の長期目標あるいはスローガンと勘違いしている例があまりに多い・・・。戦略はそういうものではない。むしろ、困難に次々に遭遇しては打ち勝って前へ進む旅に似ている。[p.89]」「すべての課題を一挙に解決する魔法のような戦略は存在しない。[p.90]」
第4章、どこなら勝てるかWhere You Can Win: The ASC
・「組織の強みは歴史や伝統あるいは評判などに基づくことが多い。しかしこれでは、最大の利益が得られるところ、つまり『勝てる』ところにフォーカスしたことにはならない。・・・戦略を考えるときには、さまざまな問題や野心や願望はひとまず棚上げにして、他といちばん差をつけられそうなところ、つまり『勝てる』ところにフォーカスしなければならない。[p.103]」
・「いくつもの課題が浮かび上がってきた状況で、どれかにフォーカスするとなれば、それ以外の課題は棚上げするか先送りしなければならない。つまり重点的に取り組む課題を選ぶのであり、この意味で最重要ポイント自体を選ぶということになる。最も重要な勝負どころであって、かつ乗り越えられそうな対象を選ぶ[p.105]」。「線形計画法からの連想だが、・・・線形計画法は・・・通常は制約関数と目的関数の交点が解となる。ところが、ときに制約関数が多すぎたり厳しすぎたりすると、交点が存在しない(解がない)ことがある。このような時、戦略は空集合(null set)だと私は呼んでいる。この場合、制約条件のすくなくとも一つを緩和しない限り、解は望めない。[p.114]」「空集合から抜け出すには、価値観や展望が課す制約条件のどれかを緩和するか、排除しなければならない。[p.117]」「何が『重要』かは状況によってちがうし、取り組む人の利害によってもちがう。・・・事業戦略や組織戦略の場合には、その事業なり組織なりの存続が懸かっているような問題が文句なしに最重要と位置づけられる。・・・次なるテストは取り組み可能か、つまり妥当な期間内で克服できそうか、ということになる。人智では乗り越えられないような課題は、いかに重要でも戦略の対象にはなり得ない。[p.120]」「取り組みが可能かどうかは、組織のスキルとリソース、解決までに許容される期間に左右される。[p.120-121]」「戦略とは未来につながる長期的な大構想でなければならないという考え方・・・のほうが戦略は立てやすい。だがこれでは、最も重要な勝負どころにフォーカスして行動計画に落とし込むという困難なプロセスをやらずに済ますことになる。[p.122-123]」
第5章、戦略と成長The Challenge of Growth
・「経営陣は何かというと『成長』を求めるが、成長期待は企業の規模とバランスがとれているのか、検討が必要だ。・・・成長が課題だという場合の多くは、じつは競争圧力、組織のアジリティ(機敏性)、起業家精神が課題なのだ。・・・単に売り上げを伸ばすのではなく価値創造による利益を伴う成長を実現すること――これが、誰でも名前を知っているような成功企業の最大の特徴である。・・・この特徴を七つの要素に分解して解説する。[p.137]」
・「成長への7つの道・・・1,ユニークバリューを提供する・・・その企業ならではの特別な価値を提供する・・・これは圧倒的に多くの場合に事業で成功するための基本方程式だ。[p.141]」「2,不要な活動を排除する[p.146]」「成長するためには、・・・不要な事業を刈り込み、成長が期待できる事業にフォーカスすることがぜひとも必要だ。[p.147]」「3,機敏であれ・・・競争の激しい状況では、反応時間がきわめて重要な意味を持つ。[p.151]」「4,合併・買収を活用する[p.156]」「M&Aで企業が成長を実現するためには、いくつかルールがある。まず、・・・自社の基本的な競争戦略を加速または進化させるためのものと考えることだ。M&Aで売上高を増やそうとか利益を増やそうなどと考えてはならない。また、複雑な組織、事業範囲が広く製品が他分野におよぶ多角的な企業、従業員数が非常に多い企業を買収してはいけない。[p.157]」「5,必要以上に払わない・・・多くの研究が企業買収に否定的な結論にいたった理由の一つは、買収する側が価値以上に払ってしまうことにある。[p.163]」「過大なプレミアムがついてしまう最大の原因は、自信過剰である。[p.165]」「6,バケモノを育てない・・・ここでいう『バケモノ』とは、多くの古い組織の中枢に巣くう仕組みやシステムのことだ。バケモノは長年の間にできあがった決まりや規範や前例と、それを神聖視する官僚的な人間とで構成されている。[p.167]」「7,細工はしない[p.169]」「利益平準化を行う企業はその後に株価の急落に見舞われる確率が大幅に高まるという。[p.171]」
・「メディアが急成長中の企業をもてはやす状況では、成長が価値創造による利益を伴うとは限らないことをつい忘れがちだ。価値創造による利益を伴う成長はめったに実現できないし、実現できても気をつけないとあっという間に終わってしまう。[p.174]」
第6章、戦略と権力The Challenge of Power
・「戦略は、リーダーが設計する方針あるいは方向性だ。上から“戦え”と命令しても効果がないと気づいたとき、戦略が始まる。リーダーは誰がどこでどう戦うかを考え、その方針を示す。近代的な企業における戦略の実行とは、放っておいたらやらないことをシステムの一部にやらせるために権力を行使することを意味する[p.177]」。「最高責任者として十分な権力を付与されない限り、自分で戦略目標を立て、それをめざすことはできないし、それどころか、自分の任務遂行のために介入することさえうまくいかないだろう。[p.187]」
第7章、行動の一貫性Creating Coherent Action
・「一貫した方針と行動は互いに支え合う。理想的なケースでは、その結果として相乗効果が生まれ、いっそうの競争優位につながる。[p.196-197]」「それぞれに異なる価値観を持ち、それなりに妥当な主張をするさまざまな利害関係者に対してキッパリとノーと言わなければならない。これが、一貫性を押し通すことの代償である。戦略家は政治家になろうとしてはいけない。妥協して誰もが入れるような大きいテントを立てるのは、戦略家の仕事ではない。[p.210]」
・「規模が大きく多様で複雑な・・・組織が、何かに特化した企業と同じような一貫性を追求するのは無理がある。その分を、リソースの厚みで補うべきだろう。・・・大きな組織の場合、行動計画を立てる際にすくなくとも最小限の一貫性を保てるようにすべきだ。単刀直入にいえば、互いに矛盾する行動をとってはいけない。[p.217]」

第2部、診断Diagnosis
第8章、アナロジーとリフレーミングWhat Is the Problem? Diagnosing Through Reframing and Analogy
・「課題の核心を見抜くには、課題を構成するさまざまな要素の関係性を理解しなければならない。正確な診断を行うには、アナロジーとリフレーミングという二つのツールが役に立つ。[p.221]」
・「診断ツールで最もよく使われるものの一つが『アナロジー』である。類似の状況を探して現在の課題との共通性を見つける手法だ。アナロジーをうまく使うコツは、よく似ていると思われる状況を二つ以上探し、それらの状況の経過や因果関係を理解したうえで、現在の課題との関連性を考えることである。[p.235]」「リフレーミングの重要性を教えてくれるのは、アメリカ軍のドクトリン(戦術教義)であるエアランド・バトル(ALB)である。当初の診断では、ほとんど解決不能、すくなくとも妥当な期間内には解決不能だとされた問題を、ちがう角度から見ることで創造的な解決が導き出された例である。[p.240-241]」
第9章、比較とフレームワークDiagnose via Comparison and Frameworks
・「何かを計測するときには必ず比較が行われる。[p.249]」「外部との比較は条件を揃えるなどの調整が必要で、いくらかむずかしいが、ときに予想外の知見やヒントを得ることができる。[p.250]」「既存のデータを新たな視点から見ることで、予想外の問題点や意外なチャンスを発見できることがある。・・・分類の仕方を変えてみるだけで、新たなヒントが得られることが少なくない。[p.254]」
第10章、分析ツールの活用は慎重にUse Sharp Analytical Tools with Care
・「今日ではさまざまなビジネス分析ツールが出回っている。・・・複雑な状況の診断を試みる場合には、白黒をはっきりさせてくれる切れ味のいいツールがいかにも有効に見える。たしかに問題の最重要ポイントを鮮明に浮かび上がらせてくれることもあるが、判断を誤らせ、見当外れの結論に導いてしまうこともある。[p.266]」「優秀なツールは諸刃の剣だということを忘れないでほしい。扱いには注意が必要である。[p.266-267]」「自分の使うアナロジーやフレームワークはどんな性格のものか、なぜそれを使うのかを理解することは、適切な戦略策定の第一歩である。[p.277]」「投資意思決定ツール、BCGマトリクス、破壊的イノベーションの理論といったフレームワークは、状況を分析するうえで役に立つこともある。このほかにも、バリューチェーン分析、購買行動モデル、多項ロジットモデル、マッキンゼーの7Sフレームワーク、ブルー・オーシャン戦略、シナリオ開発、ベンチマーキング、製品ライフサイクル理論、根本原因解析など多くのツールが存在する。ここで注意すべきは、どれも少数の要素にのみ注目するということだ。要素が一つに絞り込まれることもままある。またどのツールも何らかの前提の上に成り立っている点にも注意が必要だ。前提に合致しない状況でツールを適用すると、道を誤ることになりかねない。[p.286-287]」

第3部、最重要ポイントを攻略するThrough the Crux
・「第3部では、見極めた最重要ポイントをどう攻略すべきかを論じる。[p.290]」
第11章、強みを探すSeek an Edge
・「強みは必ず何らかの非対称性から生じる。・・・すぐれた戦略家はあらゆる非対称性に目を光らせ、どの非対称性が一方の優位になりうるかを見抜く。[p.291]」「企業同士の競争では、これといった強みが何もないのに利益を期待することはできない。ではどこに強みや優位性を探せばよいのか。大雑把に言って五つある。第一は情報である。・・・第二はノウハウである。・・・第三は地位である。・・・第四は効率である。・・・第五は組織のマネジメントである。・・・他社とのちがいや他社との差異が強みになりうる。[p.293]」
・「成功体験を持ち資産が蓄積されてきた企業は、とかく荒っぽい価格競争に突入しやすい。だがその結果はひどいことになる。[p.295]」「ベルトラン競争で勝つ唯一の方法は、競争相手を駆逐して市場を独占することである。でなければ競争相手の誰よりも原価を低く抑えることだが、これはまずできまい。・・・現実の世界で成功する戦略は、競争相手よりよい品質を提供する、好条件を提示する、得意とするセグメントに特化する、などだ。[p.296]」
・「優位性の一つに、意外なもの、たとえば新しい需要と古い知識、既存事業と新しい技術を結びつける手腕が挙げられる。[p.298-299]」「結びつけることは一企業内でできるが、その切り離しのほうは通常は業界全体を巻き込む現象となる。・・・コンポーネント単体に特化してすばやく地位を確立することが競争優位になり、システムに固執する企業に先んじることができる。[p.305]」「単純な大量生産で成り立つ規模の経済と、大規模組織において実現しうる規模の経済の間には大きな乖離がある。というのも組織が大きくなるほど中間管理職が何階層も必要になり、それらを調整し統合するしくみが必要になるからだ。こうした理由から、規模の経済だけを追求した合併はだいたいにおいて失敗に終わる。・・・規模は、広告や研究開発では重要な意味を持つ。どちらも競争相手の予算規模に敏感だからだ。以上のように規模の問題は一筋縄ではいかず、注意深い事前分析と精査が必要である。[p.310]」「規模の経済が単位コストを押し下げるのに対し、ネットワーク効果は製品やサービスの価値を高める。[p.313]」
第12章、イノベーションInnovating
・「発明が忽然と出願することはまずない。新しい発見や洞察はたしかに無から生まれるにしても、その後に議論や協働を重ねて骨格が定まっていくものだ。つまり発明はけっして瞬発的なものではないし、時代の空気やニーズにも左右される。[p.321]」「技術の進歩は層状に重なって波のように押し寄せ、それぞれの層はその前の層の知識やインフラの上に築かれる。だから戦略家は、一世紀以上続くような長い波と、目先の短い波の両方を的確に評価しなければならない。短い波は多くの場合、何らかの新しいメリットの実現コストを大幅に押し下げる形でやって来る。大企業が基調的な技術で競争優位を構築するためには、目先の利益は短い波に乗って得るとしても、つねに長い波を見ていなければならない。これに対して規模の小さい企業やスタートアップ、あるいは大企業の個別事業は、短い波にフォーカスして戦略を立てるとよい。そのほうが技術やイノベーションの恩恵を最大限に手にすることができる。[p.322-323]」「長い波は・・・後から総括することはできるが、予測するのはむずかしい。[p.325]」「遠い将来ほど技術の予測はむずかしい。予測可能と言えるのはせいぜい五~七年だろう。それより先については、何通りかの見方を用意し、Aの可能性が高いとか、ABの組み合わせになる可能性が高いといったシナリオに賭けるほかあるまい。・・・長い波が変化している間にも、技術の進歩は短いスパンで起きている。そうした短い波は、何かを作るコストが下がって商業化・実用化が可能になったときに発生することが多い。[p.327]」「まだ競争にならないうちに急成長を遂げ独走する――これが成功するイノベーションの典型である。だがまさにこの成功が既存の大手の注意を引く。巨大企業は若い成長企業を取り込むか出し抜いて事業を拡大しようとする。若い企業はその機動性と風通しのいい組織を活かして既存大手との競争でリードを維持・拡大することが、次の最重要ポイントとなる。[p.339]」
第13章、組織の機能不全(The Challenge of Organization Dysfunction
・「ときには問題が組織自体だということもある。・・・組織が原因で生じる最も一般的な問題は、その組織が得意としてきたこと、専門にしてきたことの歴史に根ざしている。それも、特化した分野における成功に起因することが多い。ある時代にうまくいったこと、とりわけ成長し繁栄していた時期に最高にうまくいっていたことが『ウチのやり方』として定着してしまう。アーノルド・J・トインビーは『歴史の研究』でこの現象を成功体験の『偶像化(idolization)』と呼び、文明衰退の一因と断じた。[p.344-345]」「規模が大きくなるほど組織運営はむずかしくなる。規模が大きくなれば、いくつもの専門家集団を調整し調和させる苦労が大きくなるし、情報を必要な部署に確実に伝達することも困難で時間がかかるようになる。また規模が大きいほど個々の努力の効果が薄れるので、モチベーションの維持はむずかしくなる。[p.352]」
・「組織と文化が戦略的な要素であることは言を俟たない。この二つが企業の競争的地位を支えている間は、競争優位の源泉となる。だが効率や変化やイノベーションの重石となるようなら、戦略上の不利益となる。組織の危機を無視した壮大なミッション・ステートメントや成長戦略は、それ自体が問題の一部だ。よき戦略家は、外向きの目標達成に注ぐのと同じ熱意をもって、社内の問題に取り組まなければならない。[p.366-367]」

第4部、リーダーを迷わす誘惑Bright, Shiny Distractions
第14章、目標が先ではないDon’t Start with Goals
・「会社にとって死活的に重要な課題あるいは機会は何かを分析も理解もせずに恣意的に目標が決められたとすれば、それは裏付けのない目標と言わねばならない。対照的に、よい目標はすぐれた戦略策定の結果として導き出される。[p.371]」「裏付けのない目標は、会社の現実からかけ離れていると言わねばならない。[p.372]」「戦略を立てるときは、当然ながら自分たちの野心や価値観を再確認することになる。だが野心や願望や価値観は、何をすべきかを教えてはくれない。[p.376]」「目標を先に立ててそこから戦略に後戻りしてうまくいく可能性はゼロである。[p.377]」「目標は人を動機づけるとよく言われる。だが思い付きの非現実的な目標を示されても、がんばって達成する意欲は湧かないだろう。むしろ社内にしらけたムードが広がり、嘘や数字のでっち上げが横行するにちがいない。[p.384]」
第15章、戦略と目標管理はちがうDon’t Confuse Strategy with Management
・「数値目標を並べ立てても戦略にはならない。戦略とはある状況に作用する要因を診断・分析し、どう取り組むかに関する論理的な主張でなければならない。数字の洪水で思考を押し流してはならない。[p.392]」「目標を達成するのに部下の尻を叩けばよいだけなら、話は簡単である。リーダーは毎年より高い目標を掲げ、『結果を出せ』とがんばらせればよい。そういう単純な世界では戦略など不要だ。[p.393]」
・「ドラッカー流の目標管理に取り組む企業にとって現在主流のアプローチは、バランスト・スコアカード(BSC)である。・・・このシステムでは四つの視点(財務・顧客・業務プロセス・学習と成長)で業績を評価する。[p.395]」「企業の直面する課題が現在の業務効率とは別のところにある場合、バランスト・スコアカードは解決の手掛かりにはならない。既存事業の見直しや新規事業の開拓には、バランスト・スコアカードは有効ではないのである。[p.402]」
第16章、現在の財務実績は過去の戦略の結果であるDon’t Confuse Current Financial Results with Strategy
・「現在の利益は過去の投資や行動がもたらした収穫であって、それは時には何世代も前だったかもしれない。今日の利益は、現在のマネジャーや社員のハードワークの結果だとは言い切れない。むしろ現在の利益は、ほぼまちがいなく過去の賢明な判断、幸運、戦略に由来する。[p.405]」
第17章、戦略プランニングの活用と誤用Strategic Planning: Hits and Misses, Use and Misuses
・「長期的展望に基づくプランニングは、大きな流れや主要なイベントが予測可能であって、かつその予測に基づいて今日投資する気概を組織が持ち合わせていれば、役に立つだろう。[p.427]」「問題が持続する性質のもので、かつ誰にとってもあきらかであれば、長期戦略プランを立てやすい。・・・問題が比較的短期的に変化するものであれば、わざわざ長期戦略を立てるにはおよばない。[p.435]」「ビジョン、ミッション等々と順繰りに『ステートメント』なるものを作成するのは単に時間の無駄である。そもそもたくさんのステートメントが必要だという主張には論理的裏付けもないし、それが有効だという証拠もない。[p.435]」「高邁なパーパスを掲げても、利益を優先しても、本書が論じる課題ありきの戦略にはまったく役に立たない。[p.438]」
・「製品や製造のライフサイクルが数年、数十年におよぶ場合には、戦略プランに意味はあるし、大きなメリットもある。・・・だが多くの企業にとって、戦略プランニングは期待した成果をもたらさなかった。[p.440]」「根本的な問題は、彼らが戦略プランニングと称するものは戦略を立てていないことだ。彼らが実際にやっているのは売上高や利益といった財務指標がどうなるかを予想し、予想通りの実現をめざすことである。要するに一種の予算計画を立てているのであって、重要課題に取り組もうとはしていない。戦略プランニングの過程で幅広い問題を取り上げることはあっても、すぐに議論の中心は財務指標に戻ってしまい、続いて予算の割り当てという段取りになる。[p.441]」

第5部、戦略ファウンドリーThe Strategy Foundry
・「戦略ファウンドリーとは、少人数の経営幹部が集まって課題を検討し、最重要ポイントを見きわめて、課題解決のための一貫性のある行動計画を立てるプロセスのことである。・・・長期予算計画を立てるだけの戦略プランニングとはまったくちがう[p.448]」
第18章、ラムズフェルドの疑問Ramsfeld’s Question
・「経営・産業・経済・競争・事業戦略を分析する技術は過去半世紀で大きく進歩した。だが、費用対効果や競争状況をどれほど精密に分析したところで、それ自体がよい戦略を生み出せるわけではない。[p.461]」「戦略策定がうまくいかない問題の最重要ポイントは、戦略とはあらかじめ定められた目標、とくに業績目標を実現する方法のことだ、という経営陣の思い込みにあるのではないかと考えるようになった。となれば必要なのは、そうした思い込みを打破することである。また、戦略策定を専任の副社長に任せきりにするとか、行動計画を各部門のリーダーに丸投げするといったやり方も改めなければならない。このほか、戦略立案の議論が権力や地位の影響を受けないようにすること、状況分析が終わるまで本格的な議論は先送りすること、最も効果的なところにエネルギーを集中することも重要だ。これらは『戦略ファウンドリー』と私が呼ぶプロセスの特徴でもある。[p.465]」
第19章、戦略ファウンドリーの疑似体験A Foundry Walkthrough
・戦略ファウンドリーの進め方の事例紹介
第20章、戦略ファウンドリー――コンセプトとツールStrategy Foundry Concepts and Tools
・「戦略ファウンドリーは、経営幹部のチームが戦略を目標設定と混同しないよう正しく導き、組織が直面する問題を洗い出し、診断し、最重要課題の最重要ポイントを見きわめ、どう取り組むか議論する場である。戦略ファウンドリーの成果は、組織にとっていま最も重要なことがあきらかになること、それに取り組むための行動の指針が定まることだ。最後に、対外的な発表や説明にも注意を払う。[p.489]」
・「最も重要なのは、組織が直面する課題を洗い出し、診断することである。課題から始めることで、経営陣お気に入りのプロジェクトや世間受けする目標が議論の中心になってしまう事態を防ぐことができ、意識が問題解決へと向かう。[p.496-497]」「さまざまな企業で戦略策定のコンサルティングをした経験から言うと、およそ三分の一の企業では、戦略課題は組織構造や業務プロセスに、つまり社内にあると考えられる。内部の問題を掘り下げるのは容易ではないが、得るものは大きい。[p.502]」
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実務家にとって、何を、どのように行うかを明確にすることは重要ですが、従来の多くの「戦略」では、そうした点よりも、「こういう考え方、こういう方針でやればうまくいくことがある」という点に主眼が置かれていたように思います。世の中の成功事例をまとめたり、そこから論理的に導かれたりした戦略を行えば、ある状況下ではうまくいくと言えることもあるでしょうが、「どんな場合にでもうまくいく方法」という観点からはそれでは不十分でしょう。実務家にとって、世の中にあふれる「戦略」が今一つ使いにくい原因はそのあたりにあるように思います。

それに対して本書の方法は、特別な特徴を持った「戦略」自体ではなく、使える戦略を「作る方法」が解説されていて、実務家にとって非常に使いやすい方法になっているように感じます。何を「戦略」と言うかは論者によって様々でしょうが、何かの実現を目指すならば、研究者にとっても使いやすく有用な考え方が示されているように感じました。


文献1:Richard P. Rumelt, 2022、リチャード・C・ルメルト著、村井章子訳、「戦略の要諦」、日経BP2023.
原著表題:The Crux: How Leaders Become Strategists

「イノベーションの科学」(清水洋著)より

イノベーションや研究開発はさまざまな抵抗を受けることがあります。研究がうまくいくかどうかわからない、あるいはよくない波及効果があるかもしれない、という懸念からの反対は比較的わかりやすいものですが、うまくいくとわかってからも反対を受けることがあります。研究結果として、新しいよいやり方が見つかったのなら、それはすぐに利用されるに違いないと思ってしまいがちですが、そういう場合ばかりではありません。

世の中を変えるような有意義なイノベーションであっても、そのようなイノベーションへの反対があることはよく知られています。イノベーションは創造的破壊ともよく言われ、有用な新しい方法が生まれる創造的な側面と、新しい方法により古い方法が破壊されてしまう破壊的な側面があるため、古い方法が破壊されることによって被害を受ける人々がイノベーションに反対する場合があることは理解に難くありませんが、意外に見落とされているのではないでしょうか。特に研究開発を進めておられる実務家の皆さんにとっても、反対論が出てくる理由やその背景についてよく理解しておくべきことのように思います。そこで、今回は、破壊される立場も含めてイノベーションを考察した、清水洋著「イノベーションの科学 創造する人・破壊される人」[文献1]の内容について考えてみたいと思います。破壊される人の立場を理解し、考察することは、イノベーションや研究開発をうまく進める上で非常に有意義だと思いますので、以下、本書の内容から興味深く感じた点をまとめたいと思います。

はじめに
・「イノベーションとは、経済的な価値を生み出す新しいモノゴトを指します。創造的破壊(Creative Destruction)とも言われ、企業の競争力や経済成長の源泉になります。・・・創造的破壊と言うわけですから、古いモノゴトを、新しいモノゴトが創造的に破壊します。古いモノゴトがより良い新しいモノゴトへ置き換わるからこそ、生産性が高まるのです。そしてそこには、創造する人がいると同時に、破壊される人もいます。新しいモノゴトが、古いモノゴトのためにスキルを身につけてきた人たちのスキルを破壊するのです。[p.i]」
・「創造する人・・・たちにとって創造は希望です。しかし、・・・ある人の希望が、他の人の安定的な暮らしを壊してしまう側面があるのです。破壊される人は抵抗します。その抵抗や破壊されるスキルの保護が強いと、創造的破壊は広く導入されません。[p.iii]」
・「イノベーションにおける創造と破壊を『人』の観点から見ていくことで、より上手く、より効果的にイノベーションと付き合っていけるはずです。創造するにはどうすれば良いのか、破壊されないためには何をすべきなのか、そして包摂的な社会をつくるには何がカギとなるのかを考えていきましょう。これが本書のテーマです。[p.iv]」

第1章、イノベーションとは何か
・「シュンペーターは、イノベーションを創造的破壊と言い表しました。[p.6]」「既存のやり方を破壊して、新しく創造することが経済成長には必要であり、これをシュンペーターはイノベーションだと定義したのです。[p.8]」
・「イノベーションには不確実性がつきものです。これは、イノベーションが新規性を伴うからです。新しいものを生み出そうとするわけですから、当然、実績はありません。どのような結果になるかを事前に見極めることはできません。新規性の程度が高くなればなるほど、不確実性も大きくなります。これはイノベーションの大きな特徴の一つです。[p.14]」「私たちが得られる新規性の程度は、試行錯誤の量に比例します。・・・失敗しないようにするために慎重に吟味して試行錯誤の数を減らしてしまうと、たいした成果は得られないのです。社内で肝いりのプロジェクトとして早い段階で精査しようとすればするほど、新規性の高い成果は遠のいてしまいます。[p.16]」「新しいチャレンジをするためには、それが失敗するリスクをシェアする仕組みが必要です。・・・イノベーションを生み出す競争は、リスク・シェアの仕組みをアップデートして、試行錯誤を多く行う競争でもあるのです。[p.16-17]」
・「イノベーションには創造と破壊の両面があります。それぞれの影響は時間差で出てきます。この時間差が抵抗を生みます。・・・イノベーションを生み出すことによって、真っ先に恩恵を得るのはそれを生み出した企業家とそこに投資をした投資家です。・・・イノベーションのより大きな恩恵は、生産性の向上による経済成長や、新しい産業や雇用の創出、生活の質の向上などです。・・・生み出した人が手にした利益よりも、その後に私たちが得た恩恵の方がはるかに大きいのです。[p.20]」「その恩恵が全体に広がるまでには時間がかかります。・・・新規性の高いイノベーションであればあるほど、それが生み出された当初は粗雑なものです。これが洗練されていくことによって、使えるものになっていきます。累積的なイノベーションが積み重ねられるのには時間がかかります。また、新規性の高いイノベーションであればあるほど、補完的な制度の整備が遅れます。・・・そして、経済成長の恩恵は、すぐにすべての人々や地域に均一に広がるわけでもありません。短期的には、不均一に広がります。[p.21]」
・「イノベーションにより破壊されるコストは、スキルが破壊される人に局所的に、そして短期的に現れます。そのため、破壊的な側面が大きいものであればあるほど、既存のモノゴトのやり方で上手く行っている、あるいは新しいモノゴトにより自身のスキルや強みが陳腐化させられてしまう人や組織は強く抵抗します。[p.24]」「長期的には社会全体への恩恵があるとは分かっていても、自分のスキルが置き換えられてしまう負の影響の方が大きければ抵抗するのは当然です。[p.25]」「このような抵抗に対して、『自分のことだけ考えるな』とか『スキルが陳腐化したのは自己責任だ』と責めたり、イノベーションを導入しようとする人に『抵抗勢力に負けるな』と鼓舞したりしても、それほど意味はありません。新しいチャレンジを促し、抵抗を減らす上で大切なのは、リスクのシェアの仕組みです。[p.26]」

第2章、創造する人の特徴
・「高い業績を上げる人は、子どもの頃から優秀だったことをはっきりと示しています。[p.32]」「優れた才能を持っているかどうかは遺伝的な要素が作用しているとしても、その才能が開花するかどうかは環境による[p.34]」。
・「創造性の高い人たちは、開放性と外向性が高いのです。・・・これは、外からの新しい刺激の入りやすさだと考えられています。自分の頭の中だけで考えていては同じようなことばかりを考えてしまい、新しいつながりは得られにくいのです。また、開放性が高い人は、集中力に欠けるという特徴もあります。[p.38]」「これも外からの情報の入りやすさに関係しています。[p.38-39]」
・「私たちのやる気も創造性に影響します。[p.40]」「しかし、高い創造性を発揮するためには、やる気があれば良いわけでもありません。内的動機づけが大切なのです。これは、探索の多さに関連しています。・・・外的動機づけが高い人は、自分が満足する報酬や承認が得られると思ったところで探索をやめてしまいがちです。[p.42]」「しかし、内的に動機づけられている人は、そもそもそれをすること自体が好きなわけですから、・・・試行錯誤を止めないのです。[p.43]」「しかし、外的な動機づけが高くなると、内的な動機づけが低下してしまうのです。[p.43]」「どうやって内的動機づけを高めるのでしょうか。・・・自分で、やることを選択でき、実際に自分で意思決定することが内的動機づけを上げてくれます。一つ目のポイントは自己決定性の促進と言われるものです。[p.45]」「二つ目のポイントは、タスクそのものについてです。人は、興味があるもの、好きなものにこそ、高い内的動機づけを持つのです。・・・この二つは伝統的なマネジメントとは相いれません。マネジメントの基本は、目標を決め、その達成に必要なタスクを決め、タスクを分解し、人に割り当て、効率的に管理することです。・・・タスクが細かく分解されるからこそ、専門性が生まれ、効率的になります。これこそが分業の力です。だからこそ、当人が行っているタスクがどのような大きな構想(ビジョン)に、どのようにつながっているのかをフィードバックしてあげることはとても大切です。自分がやっているタスクが意義あるビジョンへの一歩だと思えれば、内的動機づけが上がります。[p.46]」
・「一般的には、カリスマ性の高さはイノベーションを生み出すのに上手く機能すると考えられています。しかし、カリスマ性の高さとイノベーションの創造の間にはこれまでのところ実証的には頑健な関係は見られていません。カリスマ性の高いリーダーは、経営資源の動員には成功するものの、自らのアイディアに固執する傾向もあるのです。[p.55]」
・「領域知識と創造性の間には、・・・逆U字型の関係が見られています。[p.58]」「その領域をよく知らなくても、知りすぎていても創造的破壊は生まれない[p.59]」。
・「イノベーションというと、どうしても、それを生み出す人には他の人にはない才能がそもそも備わっていたのだと考えがちです。しかし、より大きな視点に立つと、むしろ環境が重要だということが分かります。ある特定の特徴を持つ人がイノベーションを生み出す傾向をつくっているのは環境なのです。[p.66]」

第3章、破壊される人は誰か
・「イノベーションによって社会からなくなった職業は枚挙に暇がありません。イノベーションによって、その職業についている人のスキルが破壊されたのです。このような破壊はこれからも予想されています。[p.68]」
・「創造的破壊は、人や原材料といった生産要素の中で相対的に価格が高いところで起こる傾向があります。・・・つまり、人のスキルの破壊は、その破壊が誰かのビジネス・チャンスになっているときに起こるのです。[p.73]」「破壊の程度の大きいイノベーションは、新規参入企業から生み出されやすい傾向があります。・・・新規参入の程度は、参入障壁の高さで決まります。[p.74]」「人のスキルが破壊されやすいのは、労働力を節約することが企業にとって儲かる状況で、なおかつ、参入障壁が下がっている場合です。[p.76]」
・「定型的なタスクが多い職業ほど、イノベーションによって代替されやすい[p.80]」。
・「自分のスキルが陳腐化すると感じた時に、すぐに対応できる人は心配ありません。しかし、そういう人ばかりではありません。[p.87]」「短期的な利益を大きく見積もり、長期的な利益を小さく見積もる人は、時間割引率が高いということになります。・・・現在得られる価値を過大に評価する傾向がある人は、教育や健康など、将来に利益を生むために現在のリソース(時間や努力)を割かず、自分に対する投資をしないのです。・・・スキルのアップデートやキャリア・チェンジの必要性をうすうす感じていたとしても、それに向けて動き出せないのです。定型的な仕事をしている人で、時間割引率の高い人は注意が必要です。[p.88]」
・「私たちが考えなくてはならないのは、創造的破壊を促進しながらも、その負の効果をどのようにすれば小さくできるかです。・・・また、ヒトのスキルを破壊するイノベーションであったとしても、それは『補完的なものであり、より自由に生産的な仕事ができるようになるものだ』というふれこみと共に現れます。これは長期的には正しいのですが、短期的には正しくありません。破壊される人と、より生産的な職業に就く人は多くの場合、別人です。これは破壊される個人の人生にとっては大きな問題です。だからこそ、抵抗が起こります。[p.99]」

第4章、新しいモノゴトへの抵抗
・「抵抗が大きく力を持つと、そのイノベーションが社会に浸透しません。[p.102]」「イノベーションへの抵抗は、社会全体の生産性を下げます。[p.103]」
・「なぜ、抵抗するのでしょう。もちろん、新しいモノゴトに心理的な抵抗を覚える人もいます。新しいものよりも、慣れ親しんだものを好む気持ちはわかります。しかし、・・・抵抗するのは、イノベーションが破壊するものが自分のスキルだからです。自分が構築してきた人的資本を破壊するからだとも言えます。自分のスキルが破壊されれば、所得が下がったり、失業したりします。自分の生活の基盤が崩れてしまいます。・・・イノベーションの恩恵と損失が現れるのには時間差があります。この時間差が大きければ大きいほど、そして、イノベーションに伴う損失が局所的であればあるほど、抵抗は大きくなるのです。[p.107]」
・「イノベーションが起こると、既存のモノゴトは競争圧力にさらされ、生産性が上がるのです。代替しようとする側と代替されないようにする側での競争です。これにより、双方の生産性が上がるのです。これはある意味では、好ましい抵抗と言えるでしょう。望ましくないのは、競争によらない抵抗です。[p.110-111]」「既存のモノゴトで競争力を構築してきた企業は、新しいイノベーションを生み出すよりも、既存のビジネスをできるだけ長く存続させることに熱心になるのです。[p.119]」「ロビー活動は、政府を収奪的にする可能性があります。企業は熱心にロビー活動をして、自社に不利な状況をできるだけ排除し、有利な状況となるように働きかけます。ロビー活動は認められたものですし、合法的なものです。しかし、既存企業に圧倒的に有利です。[p.120]」

第5章、アメリカ型をマネするな
・「なぜ、アメリカからインパクトの大きなイノベーションが生み出されてくるのでしょう。それは、ラディカルなイノベーションの生成に適したナショナル・イノベーション・システムがあるからです。ハーバード大学のピーター・ホールとデューク大学のデビッド・ソスキスらは、リベラル型と調整型の二つに経済のタイプを分けています。[p.134]」「リベラル型と調整型の国では、資源の配分方法が異なることがポイントです。リベラル型の国では市場メカニズムが、調整型の国では組織が資源配分において中心的な役割を果たしています。・・・リベラル型の国の企業は資本市場から直接資金を集める傾向があります。それに対して、調整型の国の企業は、銀行や自社の社内留保からの資金調達が重要な役割を担ってきました。・・・リベラル型の場合は、従業員に対する雇用保護の程度は弱く、企業は必要な人材を労働市場から調達し、需要の縮小などにより人員が過剰になったり、イノベーションによりスキルが陳腐化した場合などには、速やかに解雇を行います。一方、調整型の国では雇用保護の程度が強く、社内の労働市場が発展しやすくなります。[p.135]」「リベラル型の国にはラディカルなイノベーションを起業が生み出すのには良い条件がある一方で、調整型の国には累積的なイノベーションを生み出すのに良い条件がそろっています。[p.137]」「日本では、ラディカルなイノベーションが足りないと指摘されることがしばしばあります。そのようなイノベーションを生み出すための条件に乏しいのですから、当たり前だともいえます。[p.138]」
・「アメリカでは中程度のスキルの職業に就く人の割合やその人たちの賃金が減っています。いわゆる中間層が減り、スキルの二極化が進んでいます。随意契約の存在や労働組合の弱体化などにより、イノベーションによって破壊されるリスクは個人が負担するようになっています。また、アメリカのナショナル・イノベーション・システムにおいて、国防予算が重要な役割を担っています。莫大な国防予算が物理学や工学の基礎研究を支え、研究開発型のスタートアップを促進しています。ベストプラクティスで導入できるものは取り入れるべきですが、アメリカ型のイノベーション・システムの創造の側面だけに焦点を当て、表面的な模倣をしても成果は上がらないどころか、問題だけをつくりだしてしまうでしょう。[p.163-164]」

第6章、自己責任化する社会
・「イノベーションは二つの異なるリスクを伴います。一つ目は、イノベーションを生み出す上でのリスクです。・・・イノベーションを生み出そうとしても、失敗するリスクがあるのです。二つ目は、イノベーションにより自分がこれまでに培ってきたスキルが代替されてしまうリスクです。[p.167]」「リスクへの対応の基本は、シェアです。[p.168]」「企業が複数のビジネスを社内に持っておく多角化は、リスク・シェアにおいて重要な役割を担ってきました。[p.169]」「ただ、企業内でのリスクの共有には明確な変化が見られています。・・・1980年代にはいると、・・・多くの企業が徐々に多角化の程度を低くし、ビジネスの選択と集中を図っていったのです。特にアメリカでは専業企業が多くなっています。・・・これは、分散投資が企業内ではなく、投資家レベルでなされるようになってきたとも言えます。[p.170]」「イノベーションの創出に失敗するリスクの負担は広く分散的にシェアされるようになった一方で、イノベーションに破壊されるリスクのシェアは集中的になっています。そのリスクは、一部は企業が負担していますが、その負担は徐々に個人が負うようになっています。[p.177]」
・「1980年代に入るまでは、責任は他者を助ける個人の義務のことを意味していたとモンクは指摘しています。それが今日では、責任とは、自分で自律し、それを怠った時にはその結果を引き受けるという意味に変わってきているというのです。彼は、これを、『義務としての責任(他者への責任)』から、『結果責任としての責任(自己責任)』への変化と名づけています。[p.187]」
・「私たちが、自らの選択の結果に責任を持つという原則のもとで生きるならば、選択の失敗の困窮は受け入れなければなりません。この社会では、イノベーションにより破壊されるリスクは個人に大きくのしかかります。そうなると、イノベーションへの抵抗も強くなります。もし思わぬ困難に直面したとしても、最低限の穏当な生活が保障される安心感は、私たちの将来設計には欠かせません。そのためには、自己責任の考えを超え、共に生きる人々の生活にも責任を持つことが大切です。[p.191]」「イノベーションを生み出すチャレンジに伴う失敗には寛容になっているのですが、イノベーションによりスキルが破壊されてしまう結果には不寛容になっているのです。自己責任という考え方の広まりがそれを後押ししています。スキルを破壊された人は、そこから立ち直るのは簡単ではなくなっています。[p.192]」

第7章、創造と破壊のためのリスク・シェア
・「インパクトの大きいイノベーションが起こると、短期的には賃金が下がったり、失業が多くなったりします。これは、イノベーションの破壊的な側面による負の影響です。これを放っておくと、経済的な格差が広がってしまう可能性があります。また、陳腐化させられてしまう側の人や組織の強い抵抗により、イノベーションが社会に浸透しない場合もあります。反対に、スキルや強みが陳腐化し、生産性が下がった企業を保護しすぎると、社会全体の収益水準を下げてしまいます。そのため、速やかな退出も重要です。このように創造的破壊にはトレードオフがあるのです。この負の影響への対処が求められるのは、政府です。つまり、政府はイノベーションを促進していく政策をとりつつも、この負の影響にも対処しないといけないのです。[p.196]」「イノベーションにより破壊されるリスクを個人に負わせていると、自分のスキルに投資ができる人とできない人の間で、格差が開きます。・・・だからこそ、政府の再分配が必要です。[p.197]」
・「イノベーションの観点から助言するならば、ぜひとも自分のスキルを陳腐化するためのリスキリングに踏み出してください。[p.213]」「自分のスキルを陳腐化させる側に回ることこそが、イノベーションと補完的な仕事をすることになるのです。[p.213-214]」
・「私たちの時間は有限ですし、私たちのカラダは一つです。これがスキルやキャリアをかたちづくる上での分散投資を難しくします。一人で分散投資を行うことには限界があるからこそ、人と人とが支えあう単位を広げていく必要があるのです。[p.228]」
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イノベーションによる「破壊」というと、昔ながらのやり方であったり、技術、製品が陳腐化することに注意が向きがちだと思いますが、イノベーションにより人のスキルが「破壊」されることがもたらすリスクにも目を向ける必要がある、ということでしょう。こうした破壊の影響は、イノベーションの創造段階においても、イノベーションに反対する動きとして現れることもありますので、研究者にとっても重要です。もちろん、スキルが破壊されてしまう人々への対応は、研究者が考えるべき範囲を超えていることがほとんどでしょうし、実際にそうした人々を救済できるものでもないかもしれませんが、研究開発が社会にもたらす影響の一つとして、決して無視してはいけないことのように思います。


文献1:清水洋、「イノベーションの科学 創造する人・破壊される人」、中央公論新社、2024.


「『感情』は最強の武器である」(ムロディナウ著)より

研究を行う上で、理性が重要なのは言うまでもありません。しかし、研究の成果には研究を行う人の感情が大きく影響します。研究に限った話ではないのですが、やる気を持って仕事をすれば質的にも量的にもよい成果があがるし、やる気がなければたいした成果があがらずに終わるということはしばしば経験するように思います。これは、やる気の有無によって努力の量が変わるというだけのことなのか、それ以上の何かがやる気(より広い意味で「感情」)によって影響を受けるのか、マネジメントの実務を考える上でも興味深い点のように思われます。

今回ご紹介する、レナード・ムロディナウ著「『感情』は最強の武器である 『情動的知能』という生存戦略」[文献1]では、「感情」のもたらす影響が解説されており、実務家にとっても非常に示唆に富んだ内容であると感じました。特に、この分野の科学的知見は近年大きく進歩しているようですので、今までなんとなくわかったつもりでいたような「感情」に関する知識や経験的洞察の本質について、過去の思い込みや常識を再検討するよい材料を提供してくれているようにも思います。以下、興味深く感じた点を中心に内容をまとめてみたいと思います。

はじめに
・「私が子供のころには・・・人間の振る舞いにもっとも強く影響を与えるのは理性的思考であって、情動は望ましくない結果を招く非生産的な役割を果たすことが多いと信じられていた。だがいまではもっと解明が進んでいる。思考や決断を促す上で情動は理性と同じくらい重要だが、その作用のしかたは異なる。理性的思考は目標や関連するデータに基づいて論理的結論を導きだすが、情動はもっと抽象的なレベルで作用する。それぞれの目標に当てはめる重要度や、データに与える重み付けに影響を与えるのだ。そうして築き上げられる評価の枠組みは建設的であるだけでなく、不可欠なものだ。知識と過去の経験の両方に根ざした情動は、現在の状況や未来の見通しに関する考え方を、多くの場合とらえがたいが重大な形で変える。そのしくみに関する知見のほとんどは、この分野の研究がかつてなく急増したここ10年ほどの進歩による。本書は、人間の感情の理解に起こったその革命に関する本である。[p.4]」
・「現在のように情動の研究が爆発的に盛んになる以前、ほとんどの科学者は、はるばるチャールズ・ダーウィンにまでさかのぼる枠組みで人間の感情をとらえていた。情動に関するその伝統的な理論では、直観的に妥当そうに思えるいくつもの原理が示されていた。それは以下のようなものだ。『恐怖、怒り、寂しさ、嫌悪感、喜び、驚きという少数の基本的な情動が存在していて、それらはすべての文化に共通しており、おのおのの機能は重なり合っていない。それぞれの情動は外界の特定の刺激によって引き起こされる。それぞれの情動はいつも同じ特定の振る舞いを引き起こす。それぞれの情動は脳内にある専用の特定の構造体の中で生じる』。またこの理論には、・・・二分法的な心の見方も取り入れられていた。すなわち、心は競合し合う2つの力からなっていて、一つは論理的で理性的な『冷たい』力、もう一つは情熱的で衝動的な『熱い』力であるという見方だ。・・・1995年のダニエル・ゴールマンの著作で有名になった、ジョン・メイヤーとピーター・サロヴェイによる『情動的知能(心の知能)』の理論も、一部それに基づいている。我々が自分の感情について考えるための枠組みにもなっている。だがそれは間違っているのだ。[p.4]」
・「人間の感情に関する昔ながらの学問に現代のツールを当てはめた感情神経科学は、情動に対する科学者の見方を一変させている。・・・たとえばそれぞれの『基本的』な情動は、実は単一の情動ではなく、ある範囲、すなわちカテゴリーに含まれるさまざまな感情を十把一絡げに表現したものであり、そのカテゴリーどうしも必ずしも明瞭に区別できるものではない。例えば恐怖もそれぞれ微妙に違うし、場合によっては不安と区別するのが難しい。もっと言うと、長いあいだ『恐怖』の中枢と考えられてきた扁桃核は、実際にはいくつもの情動で鍵となる役割を担っているし、逆にすべてのタイプの恐怖に欠かせないわけでもない。[p.6-7]」「もっとも重要なこととして、かつては情動は効果的な思考や決断を脅かすものと信じられていたが、いまでは、情動の影響を受けないと決断をすることも、さらには思考することもできないと分かっている。[p.8]」

第1部、情動とは何かWhat Is Emotion?
第1章、思考と感情――情動とは何か、感情の理論はどのように発展してきたかThought Versus Feeling: What is emotion, and how have our ideas about feelings evolved over the ages?
・「不安な状態で思考をすると、悲観的な認知バイアスが働くことが分かっている。つまり、不安を感じている脳があいまいな情報を処理すると、考えられる複数の解釈の中からより悲観的なものが選ばれがちだ。[p.21]」「情報処理は『理性的』な作業であるだけでなく、情動と深く絡み合っているのだ。感情神経科学によれば、生物学的な情報処理を情動と切り離すことはできないし、切り離すべきでもない。人の場合、情動は理性的思考と対立するものではなく、理性的思考の道具の一つである。[p.22]」
・「ダーウィンは、人類は進化の途中のある時点で・・・非理性的な情動を覆すことのできる理性的な心、『神のような気高い知性』を編み出したと考えた。・・・ダーウィンの考え方に根ざした情動の伝統的理論は、脳とその進化に関する『三位一体モデル』と呼ばれるものと密接に結びついている。[p.32]」「三位一体モデルでは、人間の脳は洗練度の異なる(進化的に時代の異なる)3つの層からできているとされる。いちばん深いところにある爬虫類脳(トカゲ脳)は、基本的な生存本能の座。中間にある辺縁脳(情動脳)は先史時代の哺乳類から受け継いだもの。そしていちばん外側にあってもっとも洗練された新皮質が、理性的思考のパワーの源とされている。・・・辺縁脳は、恐怖・怒り・悲しみ・嫌悪・喜び・驚きという、伝統的理論における基本的情動の座であるとされている。[p.33]」「このモデルでは・・・それぞれの情動は外界の特定の刺激によって引き起こされ、反射作用に極めて近い。・・・三位一体モデルでは、情動と脳の構造、進化とがしっかりと対応している。唯一の問題点は、正確でないこと、せいぜい言って大幅に単純化されすぎていることである。・・・一つの問題としてこのモデルでは、各層どうしが大量に情報を交換し合っていることが考慮されていない。・・・さらにそれぞれの情動は、かつて考えられていたのと違ってどこか一つの脳領域に集中してはおらず、もっとずっと広く分散しているらしい。・・・最後に、進化は三位一体モデルに示されているとおりには進まない。[p.34]」「新しい構造体が生まれるあいだも古い構造体は進化を続け、その機能も、もっと一般的に脳全体における役割も変化してきた。『[一層ずつ]付け足されることで脳が進化してきたのでないことはほぼ間違いない』と、・・・神経人類学者テレンス・ディーコンは言っている。[p.35]」「いまでは、情動は脳の神経回路にしっかりと組み込まれていて、『理性的』思考のための回路と切り離せないことが分かっている。[p.39]」
第2章、情動の目的――情動の進化上の目的と、昆虫から人間まで動物における情動の違いThe Purpose of Emotion: The evolutionary objective of emotions, and how emotions differ in animals ranging from insects to humans
・「『何も考えずに』おこなう反応のことを、心理学では『反射的反応』という。これは、刺激から反射への結びつきが次の3つの条件を満たすものを指す。(1)特定の出来事や状況によって引き起こされる。(2)特定の振る舞いが生じる。(3)刺激が与えられるとほぼ毎回起こる。[p.41]」「反射的反応は人が進化を通じて受け継いできた基本的特徴の一つだが、どこかの時点でその方法が改良されて、周囲の困難に対応するためのさらなるシステムが備わった。より柔軟で、それゆえより強力なシステムである。それが情動なのだ。情動は、我々の心の中でおこなわれる情報処理において、反射的反応の一つ上のレベルに位置する。・・・原始的な脳を持つ動物ですら、情動のおかげで、環境に合わせて精神状態を調節できる。それによって、刺激と反応の対応関係を周囲の特定の要素に合わせて変化させたり、さらには先延ばしにしたりできる。人間の場合、情動のもたらすこの柔軟性のおかげで、理性的な心からの入力も受け入れて、より優れた決断やより高度な行動をおこなうことができる。[p.45]」「反射作用では、ある特定の誘因・・・が、それに合わせた自動的な反応・・・を引き起こす。しかし情動の働き方はそれと異なる。誘因はもっと漠然としているし・・・、それから直接引き起こされるのは行動でなく、強弱さまざまな情動・・・である。すると脳はその情動と、ほかにいくつかの要素・・・を考慮して、反応のしかたを『計算』する。こうすれば、一定の誘因/反応のルールを膨大な数取り揃えておく必要がなくなる。しかも柔軟性が大幅に高まるため、さまざまな反応しかた(何もしないことも含む)を検討して、熟慮の上で決断を下すことができる。・・・情動が引き起こされると、事実や目的や道理、および情動的要素に基づく精神的計算によって行動が導き出される。状況が複雑な場合には、このように情動と理性を組み合わせることで、実行可能な正解をより効率的なルートで達成できるのだ。高等動物の場合、情動はもう一つ重要な役割を担っている。情動を引き起こした出来事からその反応までのあいだに『遅延』を設けることができるのだ。そのおかげで我々は、ある出来事に対する本能的反応を理性的思考によって巧みに調節したり遅らせたりして、もっと適切な機会を待つことができる。・・・身体が栄養分を欲しがっていても、視界に入った食べ物を自動的に口に入れることはしない。代わりに空腹感という情動を感じるのだ。[p.49]」
・「アンダーソンは・・・アドルフスと一緒に、情動を定義する特性として動物界全体に通用するものを現代の手法で見つけ出し、・・・もっとも顕著な特性として、誘意性、持続性、一般適用性、強度適応性、自動性という5つを特定した。[p.54]」
第3章、心と体のつながり――身体状態は思考や感情にどのような影響を及ぼすのかThe Mind-Body Connection: How your physical state influences what you think and feel
・「コア・アフェクトとは自分の身体の調子を反映したもので、身体の各器官系に関するデータや、外界の出来事に関する情報、そして世界の状態に関する自分の考えに基づいて何となく感じる気分、それを指し示す一種の温度計と言える。[p.64]」「コア・アフェクトと情動の関係はまだ十分に解明されていないが、情動を生み出すもっとも重要な要素や材料の一つであると考えられている。[p.64-65]」「情動は・・・5つの主要な特性を持っていて、悲しみや喜び、怒りや恐れ、嫌悪や自尊心などいくつもの具体的な形をとるが、コア・アフェクトには2つの面しかない。一つは誘意性で、これはポジティブとネガティブのどちらかであり、自分の気分の良し悪しを表す。もう一つは覚醒性で、これは誘意性の強度、つまりどのくらい強くポジティブ又はネガティブであるかを指す。・・・コア・アフェクトはおもに体内の状態を反映するが、それとともに物理的環境からも影響を受ける。[p.65]」「情動が生じる際には、コア・アフェクトによって与えられた自分の身体からの入力が、自分の置かれた状況、その状況の背景、および予備知識と組み合わさることで、自分の経験する情動が生み出されると考えられている。[p.66]」「高等動物の場合、ホメオスタシスを乱すものを監視する番人としての神経状態がコア・アフェクトであって、身体はその影響を受けて適切に反応する。[p.68]」「恐れなどの情動的経験は多数の脳領域にまたがったネットワークから生じるようだが、コア・アフェクトは2つの特定の領域における活動と相関している。[p.69]」「心地よいか深いか、ポジティブかネガティブか、良いか悪いか(あるいはその中間のどこか)を表す誘意性は、『すべて問題なさそうだ』とか『何かが変だ』といってメッセージに相当する。それを生み出すのは、前頭前皮質の中でも眼窩のすぐ上に位置する眼窩前頭皮質である。・・・覚醒性の次元は、感覚刺激に対する敏感さの状態、神経心理学的な警戒度に相当する。・・・覚醒性は扁桃核というアーモンド形の小さな構造体の活性と相関しており、この扁桃核はさまざまな情動の生成に役割を果たしていることが知られている。[p.69]」
・「コア・アフェクトと心のやり取りはニューロンを介しておこなわれるだけでなく、血液中を循環したり臓器に分配されたりする分子、たとえば神経伝達物質のセロトニンやドーパミンの作用を介してもおこなわれる。心身相関の中核をなすコア・アフェクトは、10年前や20年前に考えられていたよりもはるかに強力であることがいまでは分かっている。そのあまりの変化に、かつではトンデモ扱いされていた学説がいまでは主流になっているほどだ。たとえば、近年では瞑想やマインドフルネスが科学界に受け入れられている。実践している人はそうは言わないが、どちらも自分のコア・アフェクトをつねに意識しておくための方法である。[p.72]」「脳と身体は完全に一体化した一つの生物ユニットであって、コア・アフェクトはそのシステムの重要な一部なのだ。[p.77]」
・「我々が環境に合わせた形で反応できるのは、状況と自分の行動の引き起こす結果を予測するパワーが脳に備わっているからだ。我々の脳がたえず未来を予測していることの証拠が、驚きという情動である。・・・脳の予測と合致しない出来事に直面すると、驚きという情動が生じる。その情動は無意識の心に、いまの図式(スキーマ)が間違っていて修正が必要かもしれないと伝える。さらに、意識的な精神の情報処理を中断させて、注意をその予想外の出来事に向けさせる。予想していなかった出来事は脅威になりかねないからだ。[p.81]」「生きていく中で人間の脳は、つねに・・・即時の予測をおこなって、必要であれば行動を取る準備を整えている。その計算で鍵となる要素の一つが、コア・アフェクトである。周囲に関する情報は感覚がもたらしてくれるが、自分の身体の状態に関するデータはコア・アフェクトが提供してくれるからだ。[p.82]」
・「たとえば他人とトラブルを起こして相手を罵りがちな人は、血糖値が下がってコア・アフェクトがネガティブになると有意に攻撃的になる。まずい食べ物もネガティブな影響を与える。[p.87]」「次のことを心に留めておくべきだ。自分や相手の態度や決断が、みなコア・アフェクトに大きく影響されるということを。[p.88-89]」「自分のコア・アフェクトを抑えるいちばんの方法は、コア・アフェクトをモニタすることだ。[p.89]」

第2部、情動の驚くべき力Pleasure, Motivation, Inspiration, Determination
第4章、情動が思考を導く――情動が情報処理に及ぼす影響How Emotions Guide Thought: Emotions as a mental state that influences our information processing
・「神経科学者のラルフ・アドルフスは次のように言う。『情動という心の機能状態は、脳を特別な作動モードに切り替えて、目標を調節したり、注意を向けさせたり、精神的計算においてさまざまな要素に割り当てる重みを変えたりする』。[p.98]」「精神的計算のしかたは何通りもある。どこに注意を集中させるか?取りうるそれぞれの行動に伴う代償と恩恵にどれだけの重み付けをするか?リスクをどれだけ重視するか?あいまいな入力や情報をどのように解釈するか?これらの精神的情報処理はすべて情動に促されるのだ。[p.100]」
・「空腹感は食料獲得の価値を高めるために進化した情動状態だが、実際にはそれよりも幅広い。物全般に当てはめる価値を高めるのだ。[p.110]」「一般的にポジティブな情動状態は、ある程度のリスクを取るよう促す効果をおよぼす。[p.117]」「研究によると、喜びに満ちている人ほど創造的で、新たな情報を受け入れ、柔軟で効果的な思考をおこなうという。[p.118]」
第5章、感情はどこからやってくるのか――脳はどのように情動を形作るのかWhere Feelings Come From: How the brain constructs emotion
・「神経科学によって得られた重要な教訓の一つは、物理的世界に関しても社会的世界に関しても、我々の知覚する現実は客観的な出来事を受動的に記録したものではなく、能動的に構築したものであるということ。それにはれっきとした理由がある。この世界を直接知覚するためには膨大な量の情報が必要だが、我々の意識的な精神能力はそれを処理するにはあまりに限られているため、脳はいくつもの便法を用いるしかない。[p.132]」「感情の場合、情動的経験が構築される際には、状況や環境、そして自分の精神状態や身体状態、すなわちコア・アフェクトといった直接的なデータが用いられる。これらの入力は、痛みや味、音などの感覚を知覚する際に脳が用いるのと同じたぐいのトリックや便法を用いて統合・解釈され、最終的にあなたは何かを感じる。[p.134]」
・「『情動的知能(心の知能)』 という言葉は・・・1990年に2人の心理学者が作った言葉だ。・・・ピーター・サロヴェイと・・・ジョン・メイヤーである。[p.139]」「2人の論文・・・には、次のように記されている。『『情動的知能』とは、自身や他者の情動を的確に評価して表現すること、自身や他者の情動を効果的に統制すること、感情を生かしてやる気を起こし、計画を立て、物事を達成すること、これらに寄与すると仮定される一連のスキルのことである』・・・サロヴェイとメイヤーは、情動と理性を切り離すことはできず、それどころか社会で大成功を収めている人たちの多くは情動的知能が高いことを見抜いた。[p.140]」「情動的知能に秀でた人は、自分の情動表現をモニタして、他者の反応に自分自身を合わせる術をわきまえている。相手が送ったり受け取ったりしている信号に気づいて、はるかに効果的に意思疎通ができる。[p.142]」「心理学では、他人の考えや感情を理解できる人のことを『パースペクティブ・テイカー(視点取得型人間)』という。他人の視点に立てる人は、集団の情動を円滑に導いて、競争と協力のちょうど良いバランスを見出すことができる。そうでない人はもっとずっと苦労する。このように、他人の視点に立つことは重要な社会的スキルであって、仕事でも私生活でも、人を惹きつけて説得し、数々の分野で成功するための鍵となるのだ。[p.143]」
第6章、動機――欲求と思考の関係――欲望の起源と脳内の快楽、および両者と動機の関係Motivation: Wanting Versus Liking: The origin of desire and pleasure in the brain and how they motivate you
・「動機とは、目標達成のために努力しようという意志だと考えることができる。[p.145]」「1980年代半ばには倫理学の教科書でも、報酬系は喜びを引き起こす構造体であって、快楽の感情を通じて生存や繁栄に必要な行動を促すと説明されるようになった。この理論によれば、我々は痛みや不快感を引き起こす事柄を避けて、喜びを最大化するような行動を取る。・・・しかし一部の研究者・・・は、このモデルでは答えられない疑問に直面していた。・・・我々の感じる快楽の程度だけでは報酬系を半分しか説明できないことに気付いたのだ。[p.160]」
・「バーリッジは、我々の報酬系の中では、何かを好むこと(嗜好、liking)とそれを欲しがる動機とは別のものであるという仮説を立て、後者を”wanting”と名付けた。[p.163]」「我々の報酬系の中には『快楽レジスタ』つまり『嗜好回路』が存在するが、それとは別に、好むものを求めようとするためのプログラムも持っていなければならない。そのため報酬系の中には『欲求回路』も別に存在していて、それが、特定の快楽を追求するだけの動機を抱くかどうかを決めているのだ。[p.164]」「ドーパミンは『快楽物質』ではなく『欲求物質』だということになる。・・・本当の脳内『快楽物質』はオピオイドとエンドカンナビノイドだったのだ。[p.165]」「嗜好は一つの主要な構造体の中で生じるのではなく、報酬系全体に散らばるいくつもの小さな組織塊に分散していることが分かった[p.167-168]」「一方、欲求システムの鍵となるのは側坐核であって、欲求システムは嗜好回路に比べてより集中していることも分かった。[p.168]」
第7章、情動と決意――情動は鉄の意志をもたらすDetermination: How emotions can create an iron will
・「決意とは、達成したいと思った目標を、障害や困難をものともせずに追求しようという堅い決心のことである。[p.184]」「2007年に決意の物理的側面を支配する神経回路の集まりが発見されると、大きな衝撃が走った。その集まりは、『情動サリエンス(顕著性)ネットワーク』と『指揮制御(実行制御)ネットワーク』という、協調して働く2つの別個のネットワークからなる。[p.187]」「一般的な脳機能の多くは、大きなものから直径数ミリメートルと小さなものまで、多数の神経節からなる複数のネットワークの相互作用によって生じるのであって、しかもそれらのネットワークは複数の構造体に分散している。情動サリエンスネットワークと指揮制御ネットワークもまた、そのように複数の構造体が集まってできている。『サリエンス』とは『もっとも顕著なこと』または『もっとも重要なこと』という意味で、サリエンスネットワークはその言葉どおり、内的情動や外的環境をモニタして、何が重要であるかに注目する。・・・神経科学者ウィリアム・シーリーは次のように述べている。『我々の脳はたえず大量の感覚情報を浴びせられているため、行/動を導く上で自分にどれだけ関係が深いかに応じて、それらの情報にすべてスコアを付けていかなければならない』。情動サリエンスネットワークは、それらの入力の中からもっとも関係性の高いものを特定し、それをもとにあなたを行動(または行動しないこと)へと駆り立てる。一方、指揮制御ネットワークの働きは、目標に関係のある事柄に集中しつづけて、気を逸らそうとするものを無視することである。[p.188]」

第3部、情動の傾向と情動を抑える術Emotional Tendencies and Control
第8章、あなたの情動プロファイル――自分がどのような情動を持ちがちで、状況にどのように反応しがちなのかを知るYour Emotional Profile: Assessing witch emotions you are more inclined to feel, and the manner in which you tend to react to potentially emotional situations
・「ミーニーは、人の情動プロファイルが遺伝的素因とエピジェネティクスの両方によって決まり、エピジェネティクスは育ちが影響をおよぼす上での重要なメカニズムであるらしいことを発見した。・・・あなたの情動プロファイルにもっとも大きな影響を与えているのは、幼い頃の経験なのだろう。大人になってから情動プロファイルが大きく変化することはふつうはない。変えようと努力しない限り、ある程度固定された形で成人期に突入する。しかしミーニーの研究結果は、それを変えられることを示している。小さい頃の自分から受け継いだ情動プロファイルは必ずしも永久不変ではない。自分の脳は変えることができる。その第1段階は、自分の情動プロファイルを知ることである。[p.216
・羞恥心と罪悪感を測るテスト[p.220]、不安感を測るテスト[p.225]、怒りと攻撃心を測るテスト[p.228]、オックスフォード幸福感テスト[p.232]、恋愛/愛情を測るテスト[p.236
第9章、情動を操る――情動をどのようにコントロールするかManaging Emotions: How to regulate your emotions
・「仕事や私生活で成功するためにもっとも重要なのは、自分の情動状態を知ってコントロールすることなのだ。[p.247]」「中でももっとも有効な3つの方法論をいまから紹介しよう。その3つとは、受容、再評価、表現である。[p.248]」
・「ストア哲学者たちが考えていたのは、自分の情動の心理的な奴隷になるべきではないということだ。・・・自分の力で成し遂げたり変えたりできる事柄に取り組んで、そうでない事柄には勢力を無駄遣いするな。ストア哲学者たちはとくに、自分ではどうにもならない事柄に情動的に反応するなと警告している。・・・他人の振る舞いを変えさせることに自分の幸福感を結びつけてしまうのは、天気に結びつけるのと同じくらい無駄なことだ。[p.250]」
・「たったいま起こったことに理屈をつけるというのは、情動反応が生じる際に脳がたどるステップの一つである。心理学ではそれを『評価』という。・・・脳が物事を理屈づける道筋を変えれば、好ましくない情動につながるサイクルを避けることができる。そのように思考を誘導することを、倫理学では『再評価』という。・・・再評価では、思考の中に現れてくるネガティブなパターンに気づいて、それを現実に即したもっと望ましいパターンに変える。[p.253]」
・「研究の世界では、自分の感情について話したり書いたりすることを『感情ラベリング』と呼ぶ。・・・感情ラベリングには幅広いさまざまな効果があり、たとえば心をかき乱すような写真や動画を観た後の悲しみが弱まったり、人前で話すと緊張する人の不安が静まったり、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の上昇が和らいだりする。[p.259-260]」
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感情がやる気や行動の質や量に影響することは経験的によく知られていることでしょう。しかし、感情をうまく操る方法についてはそれほどわかっていなかったと思います。とはいえ、感情とは何なのか、どう扱えばよい成果に結びつけられるのか、についての近年の科学の進歩は非常に大きく、かなりのことがわかりつつあるようです。研究活動はただ努力をすれば成果があがるというものではないという面がありますので、感情を味方につけてうまく活用し、より大きな成果を狙うことも研究をうまく進めるための手法のひとつと言えると思います。最新の研究成果を活用することは、研究者は自分の専門分野では日常的に行っていることでしょうが、マネジメントの方法論についても最新の科学を活用する必要は大きいように思います。


文献1:Leonard Mlodinow, 2022、レナード・ムロディナウ著、水谷淳訳、「『感情』は最強の武器である 『情動的知能』という生存戦略」、東洋経済新報社、2023.
原著表題:Emotional: How Feelings Shape Our Thinking

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元研究者

年齢は60代なかば。メーカーで研究グループのリーダーをしていましたが、その後研究の第一線を離れました。このブログを始めた理由は、2010.3.21の記事「はじめまして」をご覧ください。メール:randdmanage(a)gmail.com

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