通勤の足として定着している自転車。しかし、交通事故に占める自転車の割合は高まっている。「自転車は歩道を走るもの」という誤解が大きな原因という。NPO法人・自転車活用推進研究会(自活研)の小林成基理事長に、安全で快適に自転車を利用するために必要な対策を聞いた。

(聞き手は田中太郎)

自転車の保有台数は約7000万台。国民の足としてすっかり定着しています。長期的に利用が増加している理由は何でしょうか。

小林 成基(こばやし・しげき)氏
特定非営利法人(NPO)自転車活用推進研究会理事長兼事務局長。1949年生まれ。小杉隆衆議院議員(当時)の政策秘書などを経て2000年に自転車活用推進研究会を立ち上げた。現在、日本サイクリング協会評議員、東京商工会議所環境社会検定(エコ検定)企画委員などを務める。近著に『自転車はここを走る!』 (エイムック 2344、共著)などがある。(撮影:鈴木愛子)

小林:実際には8000万台とも言われています。防犯登録だけでは売れている自転車の3分の2ぐらいしか把握できず、正確な統計はありません。

 利用者が増え続けている理由は、主に3つあります。ライフスタイルの変化とガソリン価格の高騰、そしてものすごいスピードで進んでいる高齢化が影響を与えています。自動車を運転しなくなった高齢者の6割が自転車に乗り換えているという調査結果もあります。徒歩や公共交通に切り替える人は3割ぐらいしかなく、自転車が断トツに多いのです。

 自転車があふれているという印象が強い中国では4億台と言われていますが、13億人以上の人口に対しての数字です。しかも、日本で「原付き」と呼ぶバイクもこのカテゴリーに入っています。比率で言えば、日本が圧倒的に高いのです。

 われわれは「自転車ツーキニスト」と呼んでいますが、2000年ごろから通勤に自転車を使う人が非常に増えてきました。東京23区では14%が通勤通学に自転車を使っています。自転車通勤を奨励する企業も出始めています。

最近、ケタはずれにスピードが出るものやブレーキがないものなど「危険な自転車」が問題になっています。

小林:ブレーキがないものは車両ではないですよ。言語道断です。「ピストがいけない」とよく言われますが、競技用の自転車であり、公道を走るものではありません。

「誤解」の横行が安全を損ねる

非常識な利用者は論外として、日本では「自転車は歩道を走るもの」という誤解が横行していることが、自転車の安全を損ねていると指摘されていますね。

小林:交通安全白書によると、自転車の交通事故は2011年で約14万4000件です。死亡事故者数でいうと、4612人のうち13.6%が自転車関連のもので、長期的に比率は高まっています。事故の原因を調べると、ほとんどが交差点での出会いがしらで、自動車が認知していないことが原因で事故が起きていることがわかってきました。自転車から自動車は見えるけれど、自動車からは歩道を走っている自転車まではなかなか目が届きません。そこで、警察庁が2011年の10月に「自転車は車両であることを徹底する」という趣旨の通達を出しました。

 これは法律の解釈を変えたわけでも何でもなく、もともと道路交通法では自転車は車両であり、車道を走ると定めています。なぜ、あえて通達を出す必要が生じたのかというと、自動車の交通量が増えた1970年に緊急避難的に自転車は歩道を走っていいというルールをつくったからです。例外的に認めたはずのルールが、いつのまにか当たり前になってしまったのです。

 本来は、自動車免許を取得する際に「自転車は車両であり、自動車と同じなんだ」とドライバーに教えればよかったのです。これまで、日本ではそれをやってきませんでした。

 警察庁と並行して国土交通省でも議論を進めています。自転車に歩道を走らせていると交通事故は減らない。しかし、車道は危なくて走りにくい。それならば、どういう整備をすればよいのかを話し合うために委員会をつくり、2012年の4月に「みんなにやさしい自転車環境-安全で快適な自転車利用環境の創出に向けた提言」をまとめました。私も議論に参加しましたが、この提言書でも「自転車は車道を走らないと危険」という前提に立ち、道路整備の在り方を提案しています。

2012年11月には国土交通省と警察庁が「自転車利用環境創出ガイドライン」を出しました。どのような内容でしょうか。

小林:自転車は車道の左側を走ることを大前提に、将来的に自転車が走りやすい環境を確保するため、自転車ネットワーク計画(モデル道の拡大版)を作る指針を細かく示しています。

ガイドラインの効果はすぐに現れるのでしょうか。

小林:2011年10月の通達でも、自転車を歩道走行は止めることになっていましたが、道路を管轄する現場の担当者にはまだ抵抗があるようです。ただ、最近では金沢市が、バスと自転車が道路のスペースを共有するルールを作るなど対策を進める自治体が各地に登場しており、全国から視察者が集まっています。

「クルマ脳」を転換しなければならない

でも、大量の自転車が車道を走ると渋滞の原因になりませんか。

小林:海外ではそういう議論はないのですが、日本では交通の妨げになるという声もあります。みんなが自動車最優先の「クルマ脳」になってしまっているから、そんな議論になってしまうのです。人が歩行するのも、自転車が走行するのも交通ですよね。これからはクルマ前提の道づくり、街づくりを変える必要があります。

この記事は会員登録(無料)で続きをご覧いただけます
残り1032文字 / 全文文字

【11/27(木)まで年額プランがお得】お申し込みで…

  • 毎月約400本更新される新着記事が読み放題
  • 日経ビジネス14年分のバックナンバーも読み放題
  • 会員限定の動画コンテンツが見放題