俺は夜な夜なはてなブックマークを漁るのが日課だ。ホッテントリを眺め、気になった記事にポチポチとブックマークをつける。コメント欄には、いつものように鋭い意見や皮肉や妄言が並ぶけど、最近、ちょっと妙なことに気づいた。
ある記事――たぶん偏った政治系のニュースだった――のコメント欄で、所謂「はてサ」と呼ばれるアカウントの書き込みを見かけた。
はてサってのは、はてブで左派的なコメントをバンバン投稿するアカウントの俗称だ。
過激な言葉で政府や企業を批判し、タグに「ネトウヨ」「また自民党か」を連発する。
いつもの風景だと思ってスルーしたけど、そのコメントが妙に引っかかった。
「この記事、ちゃんと読んだ? 真実を隠してるよ。私のエントリーを見て。」
覗いてみるとはてな匿名ダイアリー、増田のURLだ。
興味本位でクリックすると、短い投稿が現れた。内容は、メディアの偏向や権力の裏側を告発するものだったけど、なんか…異様に生々しい。文末にはこう書かれていた。
「ブックマークしたあなた、コメント欄で私の名前を呼んで。話したいことがある」
ゾクッとしたけど、増田なんて誰かの悪ふざけだろ? そう思ってブラウザを閉じた。
翌日、はてブを開くと先のはてサの新しい書き込みがメタブで付けられていた。
「なんで無視するの? 私のエントリー、ちゃんと読んだよね?」
背筋が冷たくなった。気持ち悪いから、しばらくはてブを触らないことにした。
数日後、友達と飲んでた時に何気なくその話をしたら、そいつが真顔でこう言った。
「お前、あのはてサのコメントに反応しただろ? あれ、触っちゃダメなんだよ。」
「は?」と聞き返すと、そいつは声を潜めて続けた。
「あのはてサって、ただのユーザーじゃないって噂がある。昔、はてブで過激なコメントしまくってたアカウントが、ある日突然消えたんだ。けど、その後も、特定の記事にそいつのコメントが現れる。リンクをクリックすると、増田に誘導されて…そこで名前を呼ぶと、そいつが『見つける』らしい。」
冗談だろ、と思ったけど、帰宅してパソコンを開いた瞬間、画面がフリーズした。はてブが勝手に起動し、コメント欄に新しい書き込みが表示される。
振り返っても誰もいない。部屋の明かりが一瞬チカッと点滅した。慌てて電源を切ったけど、モニターの反射に、なんか…人影みたいなものがチラついた気がした。
それ以来、はてブを開くたびに、例のはてサのコメントが目に入る。政治記事、技術記事、猫の写真まで、関係なく現れる。「見て」「話して」「ここにいる」。
増田のリンクも、ブロックしたはずなのに復活する。昨日なんて やっと、俺は決めた。はてなのアカウントを削除する。でも、最後に一つだけ試してみたいことがある。