■anond:20250814151600

つまり主張はあれど、エビデンスは必要ない、と言うことか。了解。それはそれで考え方としては全然ありだと思うよ。

と、思うけど、念のため。ここまでお付き合いいただいたので考え方だけは伝えさせてほしい。

どんなに優れた社会制度だって考えた時点では上手くいくというエビデンスなんかなかったはずだ

これはちょっと考え方が違うのよ。エビデンスは「○×という政策をとったら上手くいきました』（例：婚姻支援で結婚した夫妻の出生率は高いので、婚姻支援は少子化対策に有効である）みたいな事ばかりじゃない。

やったことのない施策についても、組み合わせて上手く行くかもと言う可能性をひとつずつ積み上げていくこと。これも立派なエビデンス。そしてそこから先は今までやったことのない、未知の施策にも繋がるので、エビデンスをやっていたら未知の施策ができない、ということはないのです。

だから、あなたの考え方を実現するべきだ、と考えるなら、なんとなくでもいいからフレームワークに従って考えてみて。

以下の様なステップを踏む。

• 自然に発生している現象を確認する
  • 例えば、やたらと子どもが多いクラスタを観察して共通点を探す
  • 医療だと、健康寿命が長い人の共通点を確認する
• 確認した現象をできるだけデータを取る
  • 例えば「女性は低学歴より高学歴の方が出生率が高い」
  • 医療だと「地中海沿岸にやたらと寿命の長い人たちがいる」
• そのデータから仮説を立てる。
  • 例えば「女性の学歴を上げると子どもが増える」 「高学歴女性は給与水準が高いので、高い給与水準だと子どもが増える」 「女性にお金があると子どもが増える」 「高学歴女性が働く環境は企業に子育て支援とキャリア継続の施策が調っているので子どもが増える」
  • 医療だと「地中海の温暖な気候が健康寿命を延ばす」 「イタリア語・スペイン語は健康に良い」 「特にオリーブオイルの消費量が明らかに高いので、オリーブオイルを飲むと健康によい」
• 次に仮説を検証する。これには色々な統計を使って情報を集めて分析する。
  • 例えば
    • 「女性の学歴を上げると子どもが増える」……○,×　 クロス集計の結果、日本における氷河期世代末期以降では真。しかし外国では依然として高学歴女性の出生率が低いという例も多数。
    • 「高い給与水準だと子どもが増える」……△　世帯収入とは明らかに相関がある。しかし、結婚した世帯に限ると大きな差が無い。従って給与水準は婚姻率を上昇させることによって寄与していると考えられる。
    • 「女性員お金上がると子どもが増える』……× 諸外国で直截給付を行った場合でも伸びなかった。増額も一般生活費を賄える程度までの金額では効果がみられなかった。
    • 「高学歴女性が働く環境は企業にキャリア継続の施策が調っているので子どもが増える」……○ クロス集計の結果日本では真。日本以外の国と合わせて確認すると、キャリア継続施策とともに行われている国でのみ高学歴女性の出生率が上がっている
  • 医療なら
    • 「地中海の温暖な気候が健康寿命を延ばす」……× 同じような気候の外国では特に健康寿命は長くない。
    • 「イタリア語・スペイン語は健康に良い」……× 他のイタリア語圏、スペイン語圏では特にみられない。
    • 「特にオリーブオイルの消費量が明らかに高いので、オリーブオイルを飲むと健康によい」……△ 動物実験レベルだがリノール酸が多いひまわり油よりもオレイン酸が多いオリーブオイルを接種したラットの方が心疾患イベントを示す値がよかった。
      
• ======実施のハードル的に絶望的に巨大な壁======
  
• 実証実験・介入試験・を行う
  • 例えば、ある女性たち100人を半分にわけ、学力や世帯所得などの他の条件を揃えた上で、片方は大学に進学させ、ホワイト企業にに就職させる。もう片方は高卒で中小企業でブラック企業に就職させ、20年観察する…なんて実験は人道上できないので、どうするか考えないといけない。せいぜいできるのは、経済的理由で進学を諦めている女性たちをランダム化して支援をした群と支援をしなかった群を見比べる、とかがギリギリ。これも倫理委員会通らないと思うのでどうするか。普通は不可能な事も多いので、前の段階の数字を沢山あつめてアプローチすることになる。
  • 医療なら、オリーブオイルを大量に使う習慣のない集団に毎週大量のオリーブオイルを支給して、とにかく全部使えと依頼した集団と、そうでない同じ地域の集団（実験に応募していない人たち）を比べて、各種健康指標や、重大な疾患の出現率などを比較する
• 社会実装して、結果をさらにメタ解析する
  • 例えば、キャリアが中断しない施策をより厳格に企業に義務づけ、企業にも支援策を行う施策を実行する。効果測定として、キャリア継続支援の充実度と、子どもの数という指標を直截集めて集計し関係があるかどうかを観察する。
  • 医療なら「地中海食」と名付けた食事療法プログラムを高リスク群の一次予防（なる確率が高いがまだなってない人）二次予防（一度その病気になっている人が再発防止・改善を目指す）で適用し、その実施度合いと、健康指標や重大な疾患の出現率、寿命などを比較する。

こんな感じ。最後になればなるほど強固なエビデンスということになる。

ここで言っている「医療」の方は実際に行われたプログラムで無茶苦茶有名なやつの例だ。「地中海食は心疾患イベント、脳血管イベントを抑制し、健康寿命を延ばす」というのは事実として確認されている。

また、金を配る系の施策が子どもの数を増やさない、と言うエビデンスは最後の社会実装の結果解析で出てきたものなので、効果は無いと言う強固なエビデンスがある、なんて言われている。

ただ、これも絶対じゃないけどな！

医療の方はなぜ例に出したかというと、そうやって言われたが実は後にケチが付いていて

• 代表的な研究のデザインに問題があって実は結論のうちいくつかはエビデンスとして怪しい
• 後の研究で「トランス脂肪酸」が悪いと言う事が分かっている。しかし実験した当時は分かってなかった。オリーブオイルを増やしたことでトランス脂肪酸が減った間接的効果が大きかったのでは、と言う指摘
• 研究結果はいずれも欧米人で、アジア人に適用できるか？
• そもそもなぜ数ある長寿地帯から地中海が選ばれたのはなぜ？同じぐらい長寿でいったら日本もそうだが？　と言う答えに「日本人は日本食、特に大豆を食うから健康にいいという予備調査結果が出ているが、欧米の食生活に取り込む事が難しかったため」という話がある

とかいろいろある。

ここからわかるのは、強固なエビデンスなんて手順をきちんと踏んでいけば覆されるものであると言う事なので、エビデンスなんてなくていいんだ！じゃなくて、積み上げて考えてみてほしい。

そうじゃなければ、社会革命みたいな手段を執らない限りなかなか政策を実現するのは困難だと思う。

貴方の今の話は最初の現状観察がギリギリできているかできていないかと言うレベルなので、次とその次のステップをやってみると色々な考えがクリアになるよ。

Permalink | 記事への反応(1) | 18:44

ツイートシェア