2025-09-09

遠い海を映す瞳

ある街で、ひとりの子石畳に座っていた。

その目は遠い海を映し、声は母の国の歌を抱いていた。

机は与えられず、文字は埃の上にしか刻めなかった。

やがて成長しても、門は閉ざされ、与えられたのは誰も誇れぬ労働だけだった。

通りを行く者は、その子を見て笑い、ある者は冷たく肩をはねのけた。

そのとき老い旅人が言った。

「学びを奪い、働く場を閉ざす者は、

自らの子に石を投げているのだ。

やがてその石は、時をめぐり、彼らの家の窓を打つだろう」

私はその言葉を聞き、胸にひやりとした。

――報いとは雷のように外から落ちるものではない。

それは、人が閉ざした扉の内で育ち、やがて響く音なのだ、と。

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん