■遠い海を映す瞳
ある街で、ひとりの子が石畳に座っていた。
その目は遠い海を映し、声は母の国の歌を抱いていた。
机は与えられず、文字は埃の上にしか刻めなかった。
やがて成長しても、門は閉ざされ、与えられたのは誰も誇れぬ労働だけだった。
通りを行く者は、その子を見て笑い、ある者は冷たく肩をはねのけた。
そのとき老いた旅人が言った。
「学びを奪い、働く場を閉ざす者は、
自らの子に石を投げているのだ。
やがてその石は、時をめぐり、彼らの家の窓を打つだろう」
私はその言葉を聞き、胸にひやりとした。
――報いとは雷のように外から落ちるものではない。
それは、人が閉ざした扉の内で育ち、やがて響く音なのだ、と。
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