「苅田町」を含む日記

■日産、追浜工場〈車両生産終了〉が部品サプライヤーにもたらす現実

要旨

日産自動車は追浜工場（年間能力約24万台）の車両生産を2027年度末で終了し、モデル生産を福岡県の日産自動車九州へ集約すると発表した（https://global.nissannews.com/ja-JP/releases/250715-01-j）。工場そのものの閉鎖は未決定で、跡地活用を含め検討中としている（ロイター 2025/07/15 https://www.reuters.com/business/autos-transportation/nissan-says-oppama-plant-will-stop-production-by-end-fy202728-2025-07-15/）。さらに鴻海（Foxconn）と追浜でのEV生産を協議中との報道もある（ロイター 2025/07/06 https://www.reuters.com/business/autos-transportation/nissan-considers-foxconn-ev-output-save-oppama-closure-nikkei-says-2025-07-06/）。

直近のインパクト（2027年度末まで）

• 生産ロットの消滅：現行ノート／オーラ向け実需12万台規模が九州へ転出
• JIT物流の崩壊：追浜への1日数回搬入が不要となり、京浜地区の運送会社が仕事減
• 設備償却の繰上げ：車種専用治具・金型の寿命が3年前倒し終了
• 代表的な影響企業：アディエント追浜工場、マレリ追浜工場　ほか

中長期インパクト（2028年度以降）

• 地理的優位性の消失：神奈川県内に本社を置くサプライヤー2,051社の近距離メリットが消滅
• 再投資か撤退かの二択：九州拠点未整備の中小は工場新設、他OEM転換、事業売却を迫られる
• コスト構造の再編：横須賀→苅田町の輸送で部品原価が2〜5％上昇する一方、日産は価格据え置きを示唆
• 鴻海案の不確定要素：Foxconn EV生産が成立すれば、再度追浜向けロットが生まれる可能性

具体的シナリオ

• A. 九州移転・増設

九州工業地帯にサテライト工場を新設し、福岡県の立地補助（固定資産税5年免除など）を活用

• B. 共同モジュール化

競合サプライヤー同士が合弁し、大型モジュール単位で納入し物流回数を半減

• C. 脱日産化

トヨタ東日本、ホンダ寄居など他社の小型EVラインへシフトし海外OEM依存度を高める

サプライヤーへの提言

• 事業ポートフォリオの棚卸し：日産向け売上50％超企業は九州移転CAPEXが想定CFの何年分か即試算
• 輸送コストの見える化：産業立地補助や自治体物流支援を加味した総原価を算出し価格交渉材料に
• EV専用部品・海外OEMの開拓：日産の北九州LFP電池計画は2025/05/09に撤回（ロイター https://www.reuters.com/en/nissan-abandons-plan-ev-battery-plant-southern-japan-nikkei-reports-2025-05-09/）されたため、外部パートナーとの共同開発・調達網構築を優先
• 人的リソースの再配置：神奈川の熟練工を期間限定で九州へローテーションし雇用ショックを緩和

業界全体への示唆

• 国内完成車ラインは250万台体制へ再編が進行中であり、追浜での車両生産終了は序章にすぎない
• 京浜地区の自動車クラスターは空洞化リスクが高まり、EVスタートアップや輸送機器Ｒ＆Ｄ用途への転換も検討される
• 九州は「マルチOEM型・電動車サプライチェーン」への変貌が進行中
  • トヨタ系PPESは福岡県苅田町で次世代電池工場を計画していたが、2025年3月に立地協定締結を秋ごろまで延期。着工時期も未定。計画自体と国の経安法補助枠（上限約856億円、総枠3500億円の一部）は維持
  • 日産の北九州LFP電池工場は2025/05/09に正式撤回（ブルームバーグ https://newsdig.tbs.co.jp/articles/withbloomberg/1902782）
  • ホンダとLG連合は米オハイオ州に40GWh級電池工場を建設中で、日本国内・九州での新設計画は現時点で存在しない
  • 海外勢（中国・韓国系）の九州進出は半導体や素材分野の調査段階にとどまり、EV電池セル量産ラインはまだ公表されていない
• 当面の日産九州はe-POWERと内燃機の混流ラインが主力で、純EV量産は未定。サプライヤーが「EV一色」と誤解して急ぐと投資リスクが高い

まとめ

追浜での車両生産終了は、サプライヤーに地理優位の喪失と再投資の二者択一を突きつける分水嶺となる。コスト、顧客、技術の三面でリスク分散を急ぎ、多拠点・多OEMモデルへの転換を図ることこそ生存戦略となる。工場用途が未定とはいえ、JITロットの消失という事実は動かない。意思決定の先送りは許されない。

Permalink | 記事への反応(0) | 15:17

ツイートシェア