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情シスはなぜ採れないのか——役割が増えすぎた2025年の現実

2019年に情シスの業務範囲を整理した記事を公開しました。このコンテンツは多くの情シスの方に読んでいただいており、今でも初めて情シスの方からお声がけ頂くきっかけにもなっています。

それから5年。2025年の情シスは、当時とは比べものにならないほど複雑さが増しています。経済動向の不安定さやスタートアップ不況、M&Aの加速も重なり、情シスの必要性は高まり続けていますが、採用はかつてないほど難しくなっています。

今回は「2025年の情シスの業務範囲」と「なぜ今こんなに採れないのか」を整理します。


情シスが抱える業務範囲の拡大

情シスが抱える業務範囲の拡大について下図に示します。次に特に増加した業務内容に注目してまとめていきます。

コーポレートIT (情シス)の担う全体業務イメージ 2025

コロナ禍の名残としてのハイブリッドワーク

フルリモートは減ったものの、完全なオフィス回帰にも至っていません。その結果、VPN、Zscaler、SASE、IDaaS、デバイス管理、ゼロトラストなど「どこからでも安全に働ける環境づくり」が情シスの標準業務になりました。

以前はオンプレ中心で済んでいた組織でも、クラウド利用が当たり前になり、アクセス経路や端末管理の複雑さが急激に増しています。

働き手の多様化

副業、業務委託、派遣、海外人材の活用が一般化したことで、一時的なアカウント発行や限定的なリソースアクセスの設計が必要になりました。権限分離、ID棚卸し、BYOD対応など、情シスは「アクセスガバナンスの管理者」としての役割を強く求められています。

AX/DXの“期待の過剰積載”

情シスが本来担ってきたのは社内IT基盤の維持管理ですが、AX(Automation Transformation)やDXの推進役として期待されるケースが増えました。特にAXについてはデジタル技術の見本市であるCEATECでも注目されるほどになっています。

しかし現実にはDXは「経営判断」「業務設計」「プロジェクト推進」が中心で、情シスだけで完結するものではありません。期待と実態のズレが、情シスの負荷を増大させています。

情シスに吹く強い向かい風

スタートアップ不況による優先順位の変動

VCの圧力やデットファイナンスの返済プレッシャーにより、スタートアップではEXITのためのM&A模索が一般的になりました。その過程で、情シスに入社時に期待されていた「セキュリティ整備」「ISMS取得」「クラウド運用設計」などが後回しにされることがあります。

また、見せかけの粗利改善のため、バックオフィスや情シスがレイオフ対象になるケースも出ています。

M&Aによる仕事の急減リスク

M&Aでは、事業統合後に使用システムが併合先に統一されるケースが多く、情シスが扱うシステムが急に減ることがあります。CxO、高給取りプログラマ、バックオフィスと同様に、情シスも統合の影響を受けやすいポジションです。

セキュリティ委員会の一般化

2020年代以降、大企業や中堅企業を中心にセキュリティ委員会を設置する企業が増えました。ハイブリッドワーク、ゼロトラスト、SaaS増加、M&Aなどにより、情シスだけでは判断しきれない領域が増えたためです。セキュリティ委員会の取りまとめを情シスが担うこともありますが、調整力が必要なため高いソフトスキルが求められます。

一方で中小企業では委員会が未整備の企業も多く、情シス一人に丸投げされているケースもあります。この格差が、情シスの役割の曖昧さと採用難を加速させています。

なぜ情シス採用はここまで難しくなったのか

要件の多様化で“完全にフィットする候補者”は存在しない

SaaSは分かりやすい例ですが、企業によって利用する基盤構成も大きく異なり、前職での経験がそのまま活かせるケースは減少しています。

情シスに必要なスキルセットは年を追うごとに増えており、「全部できる人」は市場に存在しません。

AX/DX成功者は転職市場に少ない

DXを情シスが担うイメージが広がり、企業も「情シス=DXができる人材」と期待しがちです。しかしDXには業務コンサルの要素を期待されることも多く、実務経験がある情シス人材は市場にほぼ存在しません。

情シスとAX/DXのロールは切り分けたほうが採用成功率は高まります。

人材紹介会社にとって“旨味がない”職種になった

情シスは採用人数が少なく(1〜2名)、企業ごとに役割・守備範囲・裁量が異なり、再現性のあるマッチングが非常に難しい職種です。

結果として紹介会社にとって効率が悪く、前向きに取り組んでくれるエージェントが少ない状況です。

「良い候補者が全然こない」「紹介が雑」という声が増えているのは、この構造が背景にあります。

情シス採用のポイント(2025年版)

全部を1人に求めない

情シスは“オールインワン”人材が存在する職種ではありません。

必要なスキルを役割ごとに分けて、どこを内部で担当し、どこを外部に出すのかを整理することが前提になります。

役割を分割して採用する

  • SaaS管理

  • ID/権限管理

  • セキュリティ

  • AX/DXの支援

  • ヘルプデスク

これらを一つの求人票に詰めると誰も応募してこないため、ロールを分ける必要があります。

外部リソースの併用を前提にする

セキュリティ監査準備、SaaS棚卸し、ヘルプデスク、統制の一部などは外部委託が現実的です。情シス1人目採用では「内製する部分」と「外注する部分」の仕分けが重要です。

採用には時間がかかる想定を持つ

市場にいない人材を追い続けると、採用は永遠に決まりません。

必須スキルを絞り、外部補完と組み合わせながら徐々に体制を整えることが現実解です。

情シスは2025年、会社の基盤そのものになった

情シスは単なるIT管理者ではなく、ハイブリッドワーク、アクセスガバナンス、セキュリティ、DX、組織運営など、会社の“安全な成長”を支える基盤職種に変わりました。

しかしその役割の重要性とは裏腹に、採用はかつてないほど難しくなっています。だからこそ情シス採用では、「全部できる人」ではなく、役割の分割、外部リソースの活用、現実的な期待値の設定が不可欠です。

情シスの複雑化が進む2025年。企業はどのように人を迎えるのか。その問いが、これからの組織づくりの鍵になるのだと思います。


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