特集 2025年8月21日

「意思のある石」を探す

なにげなく見ている街の景色には「意思のある石」があるという。

なんだろうそれは。「意思のある石を探しませんか」というお誘いを受けて、我々は神奈川県厚木市に向かった。

1975年宮城県生まれ。元SEでフリーライターというインドア経歴だが、人前でしゃべる場面で緊張しない生態を持つ。主な賞罰はケータイ大喜利レジェンド。路線図が好き。(動画インタビュー)

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開始5分であっけなく見つかる

今回「意思のある石」探しに誘ってくれたのは、漫画家・イラストレーターのネルノダイスキさんである。

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左:林さん、中央:ネルノダイスキさん、右:井上、右端:厚木市のポストでお送りします。

ネルノダイスキさんといえば、『大人も知らない みのまわりの謎大全』(ダイヤモンド社)が大ヒット中。なんと17万部も売れているという。

17万部。僕の地元(宮城県石巻市)の全市民に1冊ずつ配ってもまだ余る。すごい。あやかりたい。仏像みたいに体をさすったらいいんだろうか。初対面だから我慢した。

そのネルノダイスキさんが最近気になるのが、「意思のある石」。なんですかそれは。撮りためているという写真を見せてもらう。

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石が木の根元に転がっていたり、ビニールシートを押さえたりしている。

ネルノダイスキさん(以下ネルノ):人が意思を持って手に取り、そこに置いた石が気になるんです。そのサイズの石を、なぜそこに置こうと思ったのか、推測するのが楽しいんですよ。

なるほど。例えば左下の写真なら「風でビニールシートが飛ばされないよう、そこそこ重い石を選んで置いたんだろうな」みたいなことが読み取れるわけである。

林:チラシとか飛ばないように、重りに置いてあるのありますよね。ガムテープで巻いて、マジックで「重り」って書いてあったりする。​​​​​

ネルノ:ありますよね! 店の名前も書いてあったりして。

林:あれおかしいですよね(笑)

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探索のスタート地点は小田急線の本厚木駅。ネルノさんがよく散歩する街だという。

本厚木駅、結構大きなターミナル駅だ。駅前も栄えている。そんなに都合良く石なんて見つかりますかね……? 

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キョロキョロしながらバスターミナルを抜け、開始から5分。

林:これどうですか?

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あった。
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ネルノ「まさにこういうのです! これも『石』とカウントしてます」

焼き鳥屋の看板が風で倒れないように、重しとして置いてあるブロック片。こういうことか! あっけなく見つかってしまった。

つまり、ここでの「石の意思」は、こういうことである。

石の意思:押さえる
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さらに引いて見ると、のぼりベースやポリタンクなど総動員して看板を押さえている。看板押さえアベンジャーズ。みんな頑張れ。
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「物を押さえる」という用途では、ゴミのネットを押さえる石も見つかった。レンガも「石」としてカウントします(ネルノさん基準)
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丸みのある石もゴミネットを押さえる。堂々としたたたずまい。川から来たのかな。

トップスピードで石を発見するネルノさんと林さん。2人に着いていくと、だんだんこちらも「石」を見つける目が身に付いてくる。

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でもこれはバケツのふたを押さえているわけではない、ただただ落ちている石。
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「こういうんじゃないですよね」「そうですね。これはちゃんとお金を出した石です」

いろんな「意思」で置かれる石

下ばかり見て歩くので、蝉の死がいを見つけてギャッとなったりしつつも、石の意思は「物を押さえる」だけじゃないこともわかってきた。たとえばこれ。

石の意思:隠す
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あらかわいい。

レンガのブロックに猫が載っている。単純に装飾としてかわいい。

しかしよく見ると、コンセントに挿されたケーブルを隠しているようにも見える。「何かを隠す」のも石の仕事のひとつのようだ。

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ガス管を隠すブロックたち。雨どいから石に水滴が垂れて苔むしている。

さらにこういう意思もある。

石の意思:区切る
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自転車の横にブロックが2つ置いてありますね。

ネルノ:このブロックは「自転車を駐めてもいいのはここまで」という区切りでしょうね。手前が通路になっているので、邪魔にならないようにという配慮でしょう。

ボロボロになって土台だけ残ったパイロンも気になるが、この子もかつて自転車ゾーンを区切っていたのだろうか。でもブロックのほうが「線」として区切りやすそう。重たくて動かしにくいし。

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別の場所にあった「区切り」パターン。隣の家との敷地をフェンスで区切っているが、さらに先に、ちょん、と石が置かれている。かわいい。
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縁石の一部に違う石がはめこまれている。「空いてる隙間にちょうどいい!」となったか。街角のミラクル。

なるほどなるほど~と、新たな視点を得てホクホクする我々。

そんな浮かれ気分に喝を入れるかのように現れたのが、超デッカい「区切り」だった。

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ちょっとちょっと
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駐車禁止か……!

林:これすごいですね!

ネルノ:中にコンクリートが詰められますよ。死ぬほど重いんじゃないですか。

林:文字もDIYですね。マスキングしてスプレーで書いてる。

ネルノ:絶対に駐車させないぞ!という強い意思を感じます。

林:でもこれ、固定されてなくないですか……?

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確かに置いてある場所が不揃い。でもちょっと手をかけただけではびくともしない。

いや~強固な駐車禁止でしたな~と、その場を離れた我々だったが、後日ストリートビューで同じ場所を見てみたら、5個のブロックすべてがきれいに端に寄せられていた。

このブロックを動かせる人物が厚木にいる。いったい何者なんだ。

「意思」がよくわからない石たち

次々見つかる石であるが、それらすべてにしっかりした「意思」が読み取れる……というわけではないのだ。

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ポツンと石

林:これなんですかね?

ネルノ:絶対に誰かがここに置いてますよね。

林:こっちのスロープと材質が似てませんか?

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欠けたスロープに合わせてみるけど違った。結局なんなのかわからない。
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さらに先に進むと、電柱のそばに大きな石が落ちている。なんなんだ。石の街・厚木。

ネルノ:あっちにゴミのネットがありますけど、それを押さえるため……?

林:いざとなったら使われるんですかね。

ネルノ:それにしても、周りにこのブロックが生み出された形跡がないですよ。

林:明らかにこれを頑張って持ってきた人がいる。

その人物の目的はなんなのか。いろいろ考えた結果、導き出されたのが「石をゴミに出そうとして回収されなかった説」。ありそう……!

ネルノ:石って捨て方がわからないんですよね。

林:確かに! 一か八かで捨ててみるから、ゴミ捨て場の横に石がたまっていくんだ。

ネルノ:なので邪魔にならないところに置いたり、いい感じの隙間にそっと押し込めたりしがちなんですよ。そこまで切羽詰まった困りごとじゃないから、問題を先送りしている感じですよね(笑)

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物置の下の隙間にそっと押し込められた石。林「うちの本棚もこんな感じですよ」
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フェンスに空いた穴を埋める、透かしブロックの欠片。「ここにピッタリ!」ってなったのかな。
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車止めの奥に車止めがある。以前使っていた石の車止めを、そっと奥に押し込んだ説
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こちらはラーメン屋の店先。石の車止めがポーチの端っこに寄せられている。ベンチを温めている感じ。「俺たちまだイケます!」という顔をしている。

歩いていると、ちょっと開けた公園に着いた。しかしこの日の気温は30℃。7月の猛暑よりだいぶ過ごしやすくなったものの、昼下がりの公園には……。

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人っ子一人いないのだった。
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誰もいないのでぶら下がり放題。

それにしても、街を歩くと子どもどころか、大人ともすれ違わない。

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誰もいないな……。

のび太が「どくさいスイッチ」を押したくらい誰もいない。でも石ばかり見つかる。なんだか不安になってきた。

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ツタだらけの電柱はあった。これはこれで人類がいない世界みたいではある。

⏩ 石以外も見よう

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