開始5分であっけなく見つかる
今回「意思のある石」探しに誘ってくれたのは、漫画家・イラストレーターのネルノダイスキさんである。
ネルノダイスキさんといえば、『大人も知らない みのまわりの謎大全』(ダイヤモンド社)が大ヒット中。なんと17万部も売れているという。
17万部。僕の地元(宮城県石巻市)の全市民に1冊ずつ配ってもまだ余る。すごい。あやかりたい。仏像みたいに体をさすったらいいんだろうか。初対面だから我慢した。
そのネルノダイスキさんが最近気になるのが、「意思のある石」。なんですかそれは。撮りためているという写真を見せてもらう。
ネルノダイスキさん(以下ネルノ):人が意思を持って手に取り、そこに置いた石が気になるんです。そのサイズの石を、なぜそこに置こうと思ったのか、推測するのが楽しいんですよ。
なるほど。例えば左下の写真なら「風でビニールシートが飛ばされないよう、そこそこ重い石を選んで置いたんだろうな」みたいなことが読み取れるわけである。
林:チラシとか飛ばないように、重りに置いてあるのありますよね。ガムテープで巻いて、マジックで「重り」って書いてあったりする。
ネルノ:ありますよね! 店の名前も書いてあったりして。
林:あれおかしいですよね(笑)
本厚木駅、結構大きなターミナル駅だ。駅前も栄えている。そんなに都合良く石なんて見つかりますかね……?
キョロキョロしながらバスターミナルを抜け、開始から5分。
林:これどうですか?
焼き鳥屋の看板が風で倒れないように、重しとして置いてあるブロック片。こういうことか! あっけなく見つかってしまった。
つまり、ここでの「石の意思」は、こういうことである。
トップスピードで石を発見するネルノさんと林さん。2人に着いていくと、だんだんこちらも「石」を見つける目が身に付いてくる。
いろんな「意思」で置かれる石
下ばかり見て歩くので、蝉の死がいを見つけてギャッとなったりしつつも、石の意思は「物を押さえる」だけじゃないこともわかってきた。たとえばこれ。
レンガのブロックに猫が載っている。単純に装飾としてかわいい。
しかしよく見ると、コンセントに挿されたケーブルを隠しているようにも見える。「何かを隠す」のも石の仕事のひとつのようだ。
さらにこういう意思もある。
ネルノ:このブロックは「自転車を駐めてもいいのはここまで」という区切りでしょうね。手前が通路になっているので、邪魔にならないようにという配慮でしょう。
ボロボロになって土台だけ残ったパイロンも気になるが、この子もかつて自転車ゾーンを区切っていたのだろうか。でもブロックのほうが「線」として区切りやすそう。重たくて動かしにくいし。
なるほどなるほど~と、新たな視点を得てホクホクする我々。
そんな浮かれ気分に喝を入れるかのように現れたのが、超デッカい「区切り」だった。
林:これすごいですね!
ネルノ:中にコンクリートが詰められますよ。死ぬほど重いんじゃないですか。
林:文字もDIYですね。マスキングしてスプレーで書いてる。
ネルノ:絶対に駐車させないぞ!という強い意思を感じます。
林:でもこれ、固定されてなくないですか……?
いや~強固な駐車禁止でしたな~と、その場を離れた我々だったが、後日ストリートビューで同じ場所を見てみたら、5個のブロックすべてがきれいに端に寄せられていた。
このブロックを動かせる人物が厚木にいる。いったい何者なんだ。
「意思」がよくわからない石たち
次々見つかる石であるが、それらすべてにしっかりした「意思」が読み取れる……というわけではないのだ。
林:これなんですかね?
ネルノ:絶対に誰かがここに置いてますよね。
林:こっちのスロープと材質が似てませんか?
ネルノ:あっちにゴミのネットがありますけど、それを押さえるため……?
林:いざとなったら使われるんですかね。
ネルノ:それにしても、周りにこのブロックが生み出された形跡がないですよ。
林:明らかにこれを頑張って持ってきた人がいる。
その人物の目的はなんなのか。いろいろ考えた結果、導き出されたのが「石をゴミに出そうとして回収されなかった説」。ありそう……!
ネルノ:石って捨て方がわからないんですよね。
林:確かに! 一か八かで捨ててみるから、ゴミ捨て場の横に石がたまっていくんだ。
ネルノ:なので邪魔にならないところに置いたり、いい感じの隙間にそっと押し込めたりしがちなんですよ。そこまで切羽詰まった困りごとじゃないから、問題を先送りしている感じですよね(笑)
歩いていると、ちょっと開けた公園に着いた。しかしこの日の気温は30℃。7月の猛暑よりだいぶ過ごしやすくなったものの、昼下がりの公園には……。
それにしても、街を歩くと子どもどころか、大人ともすれ違わない。
のび太が「どくさいスイッチ」を押したくらい誰もいない。でも石ばかり見つかる。なんだか不安になってきた。

