私の奥歯
以前から左下の奥歯に虫歯があり、長年の治療の中で金歯をかぶせていた。しかし、それでもダメで、ついには抜歯し、インプラントをすることになった。
いまはインプラントによって人工的な歯が装着され、快適な食生活を送れている。しかし、これまでの治療で何十万もかかってしまった。計算するのが怖いぐらいの金額だ。
ちょうどニュースで金の価格が高騰し、1gあたり2万円と言っていた。そうだ、あのときの金歯、売ったらいくらになるんだろう。ひょっとして、結構な額になるんじゃないか?
値段を予想する
売る前にある程度値段を予想しておこう。なぜならその方が面白いから。
金は1gあたり2万円なので、4.6gで9.2万円ってこと?やった~!……と言いたいところだが、そう甘くはない。
実は、この金歯には金以外の部分もある。
ファイバーコアと金が混ざった状態で、金の質量だけを知るにはどうすればよいか?算数のつるかめ算を使えばいい。数学で言えば連立方程式だ。中学1年生の内容。
そのためには等式が2つ必要である。一つはファイバーコアと金の質量の和が4.6gというもの。もう一つの等式は何かというと、この金歯の体積だ。ファイバーコアと金の密度がわかっているので、質量と体積の相互変換が可能である。なので、金歯の体積さえわかれば連立方程式が解ける。
金歯の体積を求める
金歯の体積を求めるにはどうすればよいか。パッと思いつくのは、コップに水を満杯に張り、金歯をそーっと入れて溢れた水の質量を測定するというものだ。
しかし、水滴は扱いづらいし、コップの水面に表面張力が働くこともあり、正確に測定するのは難しい。
もっといい方法がある。アルキメデスの原理を使う方法だ。アルキメデスは、金の王冠に不純物が混ざってないかを調べるよう言われ、浮力を用いて王冠に不純物が混ざっていることを明らかにした。
アルキメデスの原理を簡単に言うと、次のようなものである。
アルキメデスの原理によれば、先ほど「正確に測定するのは難しい」と言った「金歯をそーっと入れて溢れた水の重さ」は、水中の金歯の浮力と同じということになる。
つまり、水中の金歯の浮力を測れば、金歯の体積が分かる。浮力が2g重なら体積は2㎤、浮力が3g重なら体積は3㎤といった具合だ。
金歯の浮力を測定する
では金歯の浮力はどうすればわかるだろうか。そのためには作用・反作用の法則を用いる。
金歯の浮力は言わば「水が金歯を押す力」であり、その反作用として「金歯が水を押す力」がある。両者は同じ大きさだ。実は、この「金歯が水を押す力」は、はかりで測定することができる。
要は、金歯を水に入れると、金歯が水を押す力の分だけ、はかりの示す値は大きくなる。
実際にやってみた。
増えた0.7g分は浮力の反作用によるものだ。つまり「金歯が押しのけた水の重さ」は0.7g重であり、金歯の体積は0.7㎤である。
連立方程式を解く
金歯の質量は4.6gであり、体積は0.7㎤である。また、調べたところ、金の密度は15g/㎤で、ファイバーコアの密度は2.5g/㎤だ。この4つの値を使って金歯に含まれる金の質量を求める。
この金歯には3.4gの金があることがわかった。
ただし、この金は純金ではなく、18金として計算している。一般的に金歯は純金ではなく、耐久性を上げるために銀や銅を混ぜている。18金に含まれる金の割合は75%だそうだ。つまり、3.4gの18金には、純金換算で 3.4 × 0.75 = 2.6gの金が含まれていることになる。
現在の金相場は1gあたり2万円なので、この金歯には約5万円の価値があるということになる。うれしすぎる……。
買取価格を予想する
この金歯に5万円の価値があるからといって、買い取り業者がこれを5万円で買い取ってくれるわけではない。当たり前の話だ。金歯から金を取り出すための手間賃、買い取り業者のテナント代、その他もろもろの費用が、買い取り業者のマージンとして発生する。
なんとなくだが、実際の買取価格は半分ぐらいではなかろうか。

