デザイン/鍋田哲平 ウェブデザイン/ヨネダ商店 イラスト/おーるい みちひさ 企画・制作/AERA DIGITAL ADセクション
栗原 友
乳がん治療と予防切除を語る
たまたま2つの保険に加入していたこともあり、
遺伝子検査も迷わず受けられた。
ただ、その結果は「次の決断」を促す内容だった―。
常に前向きに進んできた栗原さん。すべての女性が
元気をもらえるインタビューをお届けする。
たまたま1年前、保険に2つ加入
インタビュールームに現れた栗原友さんは、はつらつとしていた。取材だからテンションを上げているという感じではなくキラキラした何かが体から出ているような。乳がんがテーマのインタビューなのにこちらの不安が消える。だが栗原さんは「不安になってほしい」という。
「不安をあおる企画は嫌ですが、私はこのインタビューを読む方に『もしかしたら私も』と不安を感じてほしい。大半の人はまさか自分が乳がんになるなんて思ってもみないでしょう。どうしても人ごとになってしまい、検査を受けてみようとも思わない人が多そうです。私がそうだったから」
検査自体は短時間で終わるのに、つい「今度」にしてはいないだろうか。放置すると手遅れになる一方で、早期発見なら治療する方法もある。
「自分ががんになるなんて想像できないのは、特にお若い方だと仕方ないですよね。仕事に、子育てに忙しくて検査どころじゃない人も多いはず。私の場合、毎年受けていた乳がん検診を忙しくて1回だけパスしたら、その間にがん細胞が育っちゃってたんですけどね」
- Tomo Kurihara
- 1975年生まれ。株式会社クリトモ、株式会社KIMAMA(いずれも代表取締役)。2019年に乳がんが発覚し、治療。遺伝子検査の結果を見て今後のがん予防のために乳房の全摘・再建手術、卵巣の摘出を行う。母は料理研究家の栗原はるみさん、弟は料理家の栗原心平さん。
栗原さんが異変に気づいたのは2019年のこと。自分で触ってみて、左胸に違和感があった。
「日頃からセルフチェックをしていたわけではありません。娘を連れて友人とグアムに旅行し、水着を着てボディーオイルを塗っていたら、胸にゴリッとしたしこりがあるのに気づきました」
嫌な予感はしたものの、いったん忘れて旅行を満喫しようと、栗原さんは腹をくくった。ただ、帰国後もシンガポール出張が待ち構えていたため、それから1週間程度は行動しなかったという。
「ちょうど連休中で医療機関も休診だったので、『休みだからしょうがないよなぁ』と思ってしまいました。ただ、乳がんの治療をした知人に話を聞いたり、どこの病院で診てもらうのがいいかを調べたりはしていました」
連休明けに栗原さんは自宅近くの医療機関を受診。だが、担当医の対応に不信感を抱き、別の医療機関へ転医を決めた。精密検査の結果、トリプルネガティブの乳がんのステージⅡと判明した。
※トリプルネガティブ乳がんとは「エストロゲン受容体」「プロゲステロン受容体」「HER2受容体」の3つの重要な分子がすべて陰性(=反応がない)である乳がんを意味する。一般的な乳がんでは、これらの受容体が陽性であれば、一般的なホルモン療法や分子標的治療が可能だが、トリプルネガティブ乳がんではそれが難しく、治療の選択肢が限られてしまう。
主治医となったドクターから勧められたのが遺伝子検査。栗原さんはためらうことなく受けた。
遺伝子検査を受けたらがんになりやすいDNAだった
「本当にたまたまなんですが、がんが発覚する1年ほど前、保険に2つ加入していたので、費用のことは気になりませんでした。高校時代の後輩が保険会社に勤めていて、勧められたんです。私は最悪のケースに備えておくタイプだから、手厚く保障をかけておこうという話になり、結果的にそれが正解となりました」
遺伝子検査の結果、栗原さんは「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」であることが判明した。これは「BRCA1」もしくは「BRCA2」と呼ばれる遺伝子に先天的な病的変化があり、もともと乳がんや卵巣がんになりやすい体質であることを意味する。この遺伝子の異常は、親から子へ50%の確率で受け継がれるという。
※出典:日本乳癌学会「患者さんのための乳がん診療ガイドライン 2023年版」
「検査担当の医師から事前にヒアリングを受けた際、『自分のDNA(遺伝情報を記録する物質)にはがんになりやすい遺伝子があるのでは?』と思っていました。その頃、父(故・栗原玲児さん)も肺がんの闘病中で余命宣告を受けていましたし。つい気になって家系をさかのぼると、がんになった祖先が意外に多かったんです」
予防のため両胸の全摘・再建手術
HBOCと診断されたことも踏まえて、栗原さんは左の乳房をすべて摘出するとともに、念のため、もう片方も予防的に切除することを決めた。
「私が入院していた病院では切除の後に再建手術ができました。費用は保険金でまかなえました」
乳房を両方とも切除することを迷う人もいる。
「私は迷いませんでした。再びがんになる可能性を減らせるなら、切除したほうがいいよねって。もともと自分の胸の形が好きじゃなかったし、好みの形に再建できるならラッキーだと思いました」
一貫してポジティブな姿勢の栗原さんだが、手術日程を知り、驚いた。
「くしくも私の誕生日だったんです。毎年、誕生日には私たち家族がお気に入りにしているレストランに集まっておいしい料理を食べるのが恒例だったので、無理をお願いして手術日を少しだけ遅らせてもらいました」
治療前は不安になることもあった。
「がんで髪の毛が抜けたまま生えてこない女性のブログを読んでしまってショックで……。『やっぱり治療はやめる』と主治医に駄々をこねた日もありました。主治医からは『髪の毛のターンオーバー(生え変わり)のことを研究している看護師がいるから、その人の話を聞いた後で判断しなさい』と諭されました」
がんと診断されたときも、ステージが判明したときも泣かなかったが、「一度だけ、最初に髪の毛が抜けた直後に泣きました」。
栗原さんがつけていたカツラの値段は安いものではなかった。体がだるく、通院時はタクシーをたくさん使った。
「手術を受けた病院を紹介してくれた知人に電話して、お礼とともに『退院したら一緒に旅行に行きませんか?』って誘ったら、『これから先も大変だから、お金は残しておいたほうがいいよ』と忠告されました。まさに、その通りでした」

卵巣の予防切除も
栗原さんの病気には関係ないが、抗がん剤の治療後、まさかの偶然で飼い猫もがんを患った。その治療費も当然、全額自己(飼い主)負担である。
最初の手術が終わり、翌2020年。栗原さんはさらに先を見据えた決断をする。卵巣の摘出にも踏み切ったのだ。
「卵巣に明らかな問題はなかったですが、予防的な切除です。実は先に予防切除した右胸でも、がんが見つかったんです。右胸はステージ0でしたが、この先、卵巣がんなどになる可能性もあるなら思い切って摘出したほうがいいだろうと判断しました」
この予防的切除から5年を経た今も、栗原さんは『いつか再発するかも』と思いながら日々を過ごしている。ビクビクしながらではなく、あくまでポジティブな思考で。
「遺伝子検査でがんになる可能性が高いという判定が出ているわけですし、早めに再発に気づけたほうが治療も軽くてすみます。手術後も定期検診を受け続けたほうがいいと思い、そうしています」
栗原さんは、3カ月に1回のペースで定期検診を続けている。
「主治医に全面の信頼を置いているので、少しでも気になることがあれば相談します。そういう医師に出会えてよかった」
前向きになれたのは娘と保険のおかげ
おだやかにほほえむ栗原さんだが、しみじみと次のようにも語った。
「私が前向きになれたのは、娘と保険のおかげですね。家族が心理面での支え、保険が金銭面での支えになりました」
がんを宣告された当時、娘は4歳だった。
「臨床心理士からのアドバイスを参考に、私は自分の病気のことを娘に言うことにしました。『がん』という言葉は怖いから、娘が好きなアニメ映画の悪者にたとえて『そいつがママの胸に潜んでいるから、病院に入院して戦わなきゃいけないの』と伝えました」
直後は「ママがかわいそう!」と叫んで泣き崩れたが、すぐに気持ちを切り替え、「がんばってね」と応援してくれた。
「私のがんが再発する可能性があることはもちろん、遺伝子検査の結果、娘にも50%の確率でがんになるリスクがあることを事あるごとに伝えています。ある日突然、その可能性を知ることのほうが娘にとってはショックが大きいと考えました。『ママの病気は再発するかもしれないし、自分もママと同じ病気になる可能性がある』と知りながら成長したほうがいいと思うからです」

毎日、ブレスト・アウェアネス
- 第一歩は普段の状態を知ること
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少し前まで、乳がんの早期発見につながる自助努力として、セルフチェックが推奨されてきた。定期的に乳房を触り、異常を探す「自分でできる簡易診断」的な位置づけだ。月に1回のセルフチェックは意外に忘れやすく、続けづらい。今はそこから一歩進み、もっと気楽に「習慣化する」取り組みが提唱されている。それが「ブレスト・アウェアネス」(乳房を意識する生活習慣)だ。
違いは、月に1回などの定期的なチェックではなく「日頃から見る」という点。いつも自分の乳房を観察し、普段の状態を把握しておけば、ちょっとした異変にも気がつきやすくなる。ブレスト・アウェアネスでは、自分の乳房の健康を守るため、次の4つを実践することを呼びかけている。
- (1)自分の乳房の通常の状態を知っておく
- (2)乳房の変化に気をつけるようにする
- (3)変化に気づいたらすぐ専門医に診てもらう
- (4)40歳以降は2年に1回のサイクルで乳がん検診を受ける
(1)と(2)は普段の心がけ。入浴時や着替えの際の習慣にするといい。チェックすべき乳房の変化は、下記「ポイント2」内の5つと、触ったときの痛みの有無。わずかでも違和感があったら検診時期を待たずに、すぐ専門医に診てもらおう。




提供:富国生命保険相互会社

