いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

2025年大阪・関西万博の終了直前に「かけこみ万博」してきた話


www.expo2025.or.jp
www.nikkei.com


2025年大阪・関西万博が、ついに10月13日(月・祝)に最終日を迎えます。

開幕前、そして開幕してしばらくの間は「最低の万博」とか「行く価値なし」「税金の無駄遣い」などという酷評が目立っていたのですが、後半はすごい盛り上がりを見せ、10月に入ってからは、平日でも20万人を超える入場者で、入場チケットも売り切れてしまいました。

僕がこれまで体験してきた万博はみんなそうだったのですが、最初は「わざわざ混んでいるところに見に行かなくても勢」が多かったのが、会期半ばくらいから「やっぱり行っておくべきかなあ」という雰囲気になり、後半から終盤は「なんとかして行っておきたい」になるんですよね。

経験上わかっているはずなのに、人間は、そして、僕自身も同じことをくり返している。

先に万博沼にはまってしまった長男があまりにも万博推しなのをみていて、僕もだんだん「一度くらいは行ってみようかな、これが人生最後の万博になるかもしれないし(死亡フラグ)」という気分になってきて、会期終盤の10月9日の木曜日に1日だけ休みをとって、九州から日帰りで行ってきました。



WEBを積極的に利用して「並ばずに楽しめる万博」を目指している、というのもきいていたので、事前に行きたいパビリオンの入場予約に応募したのですが、第5候補まで入力したものの、全部外れ。悪い予感はしたものの、まあ、人気パビリオンを狙いすぎたかな、みたいな楽観もあったのです。

本当は前日の仕事終了後に会場近くまで行って、朝から万博を満喫したかったのですが、もうすでに12時からのチケットしか残っておらず、結局、1日で九州から万博会場を往復する、というスケジュールにしたのです。大阪のホテルはものすごく高かったし(と思って博多のホテルも検索してみたのですが、最近はインバウンド需要なのか、どこのホテルもかなり値段が上がっていますね)。

入場ゲートはすごく混雑してる、と聞いていたので、少し遅めに行ったほうが入場までの待ち時間が短いかな、と12時半くらいに夢洲駅に着きました。入場ゲートはそれほどの大行列にはみえず、そんなに時間はかからずに中に入れるかな、と。

いやしかし、そこからが長かった……

入場ゲートは見えているのに、遅々として進まない行列。
50メートル先のゲートに辿り着くのに1時間半くらいかかって、会場に入れたときには、14時近くなっていました。

安全確保のためにはやむなし、ということなのかもしれませんが、それこそIT技術や効率化で、もうちょっとどうにかならないものなのか。この荷物検査の待ち時間はかなりのストレスでした。

会場内は、とにかくすごい、人、人、人……
パビリオンは当日予約もできる、ということだったので、隙あらばスマートフォンで当日予約を取ろうと頑張ったのですが、まず空きがない。たまに空きが出ても、アクセスしたときにはもう空席なし。人気アーティストのコンサートのチケット争奪戦みたいなことを、万博会場でやる羽目になるとは……

仕方がないので、並べば入れるパビリオンで待ちながら、人気パビリオンのネット確保を狙おう、という作戦に切り替えたのですが、「並べば入れる」と聞いていたパビリオンの多くは「入場規制中」になっていて、並ぶことすら不可能になっていました。

人気パビリオンが入れないときには、何か国かが合同でやっている『コモンズ』が入りやすくておすすめ、みたいな話も聞いていたのですが、その『コモンズ』すらずっと「入場制限中」でした。

「並ばずにすむ万博」が、会期末には「並ぶことさえできずに門前払いされる万博」になっているのです。

とはいえ、大阪まで慢性疲労みたいな状態を抱えたままやってきて、何もしないで帰るわけにもいかない、ということで、なんとか少し並んだら入れたアルジェリア館をみて(内容は「うん、この状況でも入場規制されない理由もわかる」という感じでした)、『夜の地球儀』や『日本の最近のロボット技術の紹介』など、入れそうなところに入る、しかない状況。

せめてドイツビールくらい飲むか、今日は運転しないし、と思ったらレストランはどこも大行列で休憩所は満席。会場はものすごく広くて歩くのは大変だし、10月9日でも日中は陽射しが強くてかなり暑い。真夏に来た人たちはよく生きて帰れたな、と思うレベルです。

会期もあと少し、大混雑でみんな「疲れるだけ、何もできない……」と心がささくれ立ち、会場内で「いやー、なーんもできん。ドイツビールだけ飲んだよ」と電話している声、ぐったりしている子ども、疲れ果てて横になっている高齢者、幽鬼のごとく、暑い会場をぼんやりしながら行き場もなく回遊している大勢の人たち、スタッフの疲労困憊も伝わってきます。

2025年、このインターネット時代に、観たことがないレベルの人混みと疲れ果てた人々を観ることができる貴重な機会だったといえるかもしれません。

外国のパビリオンの外壁に書いてあるカタカナでの国の名前を、なんだかSwitchの新作リストに載っている「誰がこれを買うんだ?と疑問になる量産型ダウンロードソフト」みたいだなあ、と思いながら、僕も行き場もなくさまよっていました。

アメリカ館は休館日で、イタリア館は最初から諦めており、個人的に行ってみたかったフランス館は「展示は3時間待ち、フランスパンは1時間半待ち」とのことでした。

それを聞いたときの率直な第一印象は「3時間待てば入れるのか、フランス神対応!」だったんですよ。どこのパビリオンも本当にすごい人の数で、並ぶことすら許されない状況だったから。

帰りの新幹線の時間に間に合うか微妙だったし、この炎天下に3時間並べるほどの熱意も体力もいまの僕にはありませんでした。映画『国宝』(あるいは、『鬼滅の刃』の最新作)1本分、並ぶのか……スマホのバッテリー、日帰りだから1個でいいや、と思わずに、3個くらい持ってくればよかった……

結局、フランス館はあきらめました。
そういえば、1985年のつくば万博のときに、富士通館で2時間半並んだなあ、あのとき、子どもたちに付き合って一緒に並んでくれた母親はすごかったなあ、などと思いつつ。

いやしかし、ここまでパビリオンに「入れない」どころか「ほとんど門前払い」の状態だとは予想を超えた混雑でした。
会場の周囲をめぐるリング状通路から会場を眺めつつ「見ろ、人がまるでゴミのようだ!」と内心つぶやかずにはいられない、我もまたワンオブゴミ。


周りをみると、けっこう大勢の人がずっと僕と同じようにスマホにかじりつき、当日予約パビリオンを何度も更新しながら確保しようとしていたので、みんな考えることは同じなんだな、と思いました。
そりゃ当日予約なんてできないよ。
なぜかオーストラリアとカナダのパビリオンはときどき「△」になって空きらしきものが出るのですが一瞬のうちに埋まってしまい、「これは本当に空いているのか?当日予約勢に期待を維持させるためのフェイクなのか?」と疑問にもなりました。

でも、その「当日予約トライ」が、あまりにも悲惨な状況の会場での心のよりどころというか、数少ないエンターテインメントになっていた気もします。
パビリオンには入れない、飲食店は大行列、暑くて人が多くて会場はだだっ広い。

この万博でもっとも重要なのは間違いなく「スマホのバッテリー」でした。
あと、会場内では現金が全然使えない。いやそこで「時間の節約、効率化」を図るのであれば、それ以前にもっと効率化のボトルネックになっている部分があるのでは?

会場でスマホの画面ばかり見なければならないのが「未来の万博」なのかよ……


ただ、正直なところ、夕方くらいになって、なんだかちょっと楽しくなってきたんですよ。
パビリオンには相変わらず全然入れないし、とにかく人が多くて会場は広くて足が痛いし、展示物もそこに至るコストを考えると、「コスパが悪い」と感じてしまう。

でも、あまりにもすごい混雑で、(うまく利用できないけれど)IT化が進んでいるために、「この悲惨な状況のなかで、どうすれば楽しむことができるのか」を工夫してみたい、という、僕の「効率厨」の血が騒いできたのです。この難攻不落の万博の攻略法を編み出してみたい、とでも言えばいいのか。
『エルデンリング』を前にしたフロムゲーマーは、こんな気分なのかもしれないな、と思いつつ、僕は会場内を歩き回っていました。

中に入れないのであれば、その建築を比較してみよう、とか、疲れ果てている人々を観察しよう、とか。
万博グッズを全身につけている人たちをみながら、開幕前、開幕時にはあんなに逆風だらけだったのに、人というのは「適応」する生き物なのだなあ、と感心せずにはいられませんでした。

もはや「価値があるパビリオンだから入るのが大変」というより、「なかなか入れないパビリオンだからこそ、入ることに価値がある(ような気がする)」という状況なのでしょう。


長男は、一度万博に行ったあと「もうちょっと観たい」と言って、万博に再挑戦していました。

僕もアルジェリア館、その他しか観ることができなかった夕方には、「もう一度チャンスがあれば、今度はもっと効率的にパビリオンやイベントを攻略できるのに!」と残念な気持ちになってきました。
ここまでやれなさすぎると、かえって、開き直れるのかもしれません。

もう会期も終わりでチケットもなく、来ることはないからこその無念さなのでしょうね。とりあえずこの雰囲気を味わえただけでも、こうしてブログのネタにはできたわけですし。

ありがたいことに、夕方からの日本館の当日入場チケットが公式サイトからなんとか取れたので、最後に日本館だけ観ることができました。

感想としては、「とりあえず日本がんばってるんだな」というのと、「真面目だな」というのと。

館内を巡りながら、僕は昔読んだ『美味しんぼ』の結婚披露宴での「究極のメニュー」と「至高のメニュー」の対決のエピソードを思い出していたのです。

そのなかでは「祝い事」として、あるいは伝統を引き継いでいくこと、素材を大事にすることの大切さが語られ、「地味だけど意味がある料理」が並んでいきます。

でも、「対決」が終わったあとで、山岡さんは、「とりあえず対決も終わったということで、これからはキャビアとかフォアグラとか、披露宴らしい華やかな料理もどんどん出てきますよ!」と、宣言するのです。みんな大喜び。

日本館の展示は真摯なもので、勉強にはなったけれど、僕はやっぱり、万博のパビリオンには「おお!」と驚嘆するような「華やかさ」が欲しかった。
俗だというのは百も承知だけれど、なんとか入れてくれた恩も感じているのだけれど、物足りなさはありました。
日本館は、ホスト国というのもあって、けっこうがんばって遅い時間まで人を入れているようだ、という話も聞いていたのです。

ただ、火星の石をみることができたのは本当によかったです。僕が生きているうちに火星に行くことはなさそうだから。日本館ありがとう。おかげで万博に行った気分にはなれました。



最後、花火が始まる音を聞きながら急いで夢洲駅に向かいました。ディズニーランドと同じように家路につく人が増える夜は、比較的パビリオンの混雑も緩和されそうではあったのですが、花火後の大渋滞に巻き込まれると、僕は今日中に家に帰れなくなってしまうので。

会場内での滞在時間は、約5時間くらい。
観ることができたパビリオンは、日本館、アルジェリア館の2つ。

とにかく、足が痛い。疲れた。攻略欲はわいたし、とにかく歴史的なイベントを「体験」できたことは良かった、とは思います。

パビリオンにこだわらなければ、珍しい建物やライトアップされた夜の風景を眺めるだけでも、けっこう楽しいかもしれません。


あらためて感じたのは、僕はいつも「どうせいつかはやりたくなること」を先延ばしにして、余計な労力を使ったり、結果的にできなくなったりし続けているな、ということでした。

Amazonのセールとかでも、「あとでまとめて買おう」とカートに入れておいた商品が、いつのまにか「在庫なし、入荷未定」になってしまっていることがよくあります。
予約特典が欲しかったのに、直前になったらもう少し値下がりしないかな、と待っていたら、特典付きが無くなってしまうことも。

万博も「どうせ〇〇だから」とかいう前に、少しは興味があったのなら、会期はじめの頃の空いているうちに一度行ってみればよかった。

僕は子どもの頃から「好きなものは最後にとっておく」習慣がありました。
その結果「美味しいものを、美味しいうちに食べられない」ことが多々あったのだけれど、結局、それはずっと変わらなかった。
人間はなかなか変われない。
つくば万博から40年経っても、やっぱりみんなパビリオンの前で行列している。

いや、むしろ、万博というのは、「インターネット時代に、これだけの行列や人混みを体験できる貴重なイベント」なのかもしれないなあ。

とりあえず、運営側も観客も、万博、おつかれさまでした(会期は10月13日まであるけど)。


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