『アサシン クリード』シリーズなどで知られるフランスの大手ゲームパブリッシャー、Ubisoft Entertainment SAが、2025年11月13日(現地時間)、上半期の決算発表を直前に延期し、株式の取引停止を要請するという異例の措置を取りました。市場では驚きをもって受け止められており、一部アナリストからは大型買収や会計問題といった憶測も出ています。この異例の事態は、同社の株価が過去5年間で95%以上下落するなど、大きな変化の渦中で起きました。
発表15分前の異例事態、Ubisoftが決算発表を延期し株式取引停止
通常、企業の決算発表は厳格なスケジュールに沿って行われますが、今回のUbisoftの対応は極めて異例でした。多くの海外メディアが報じたところによると、投資家向けのカンファレンスコールが予定されていた時刻の、わずか15分前に延期が発表されたとのことです。この突然の決定と同時に、同社はユーロネクスト取引所に対し、11月14日の市場開始時から結果が公表されるまで自社の株式および債券の取引を停止するよう要請。多くの海外メディアがこの件を報じており、その異例さから動向が注視されています。
なぜ延期されたのか?CFOの内部メールとアナリストの分析
突然の延期の裏では何が起きているのでしょうか。現在までに判明している公式の説明と、専門家による分析を整理します。
「学期末のクロージング」という公式説明
VGCなどのメディアが確認した従業員向けの内部メールの中で、UbisoftのCFO(最高財務責任者)であるフレデリック・デュゲ氏は、延期の理由を「学期末のクロージングを確定するために追加の時間が必要」なためと説明しました。さらに、取引停止に踏み切ったのは「不必要な憶測と市場のボラティリティを制限するため」であり、「法的規制により、これ以上の情報を共有できない」と付け加えています。この説明は、手続き上の遅延であることを示唆する一方で、詳細を語れない何らかの事情があるとも受け取れる内容となっています。
アナリストが指摘する2つの可能性:「大型買収」か「会計問題」か
Niko Partnersのアナリスト、ダニエル・アフマド氏は、SNS上の投稿などでこの異例の事態に言及しています。同氏は主に2つの可能性を指摘しており、一つは、会社に大きな影響を与える「重要な発表」、例えば他社による大型買収や、逆にUbisoftが大規模な事業売却を行うといった動きの前兆である可能性です。もう一つはより深刻なシナリオで、監査の過程で何らかの「会計・財務上の問題」が発覚し、その対応に追われている可能性です。いずれの可能性も、同社が何らかの重要な状況に直面している可能性を示唆しています。
背景にある深刻な経営状況とTencentの存在感
今回の事態は、同社が直面する厳しい経営状況の中で起きました。ここ数年、Ubisoftは業績の低迷に苦しみ、その中で外部資本との関係を強化してきました。
5年間で95%減、低迷する株価
GamesIndustry.bizは2025年11月13日時点で、Ubisoftの株価は過去5年間で95.51%下落しており、前年比でも49.44%減と、極めて深刻な状況にあると報じています。また、VGCは2024年9月時点で、同社株価がおよそ11年ぶりの低水準にあると伝えており、株価の低迷が長期化していることがうかがえます。
存在感を増すTencentと新子会社「Vantage Studios」
経営の苦境が続く中、Ubisoftは中国の巨大IT企業Tencentとの関係を深めています。最近では、Tencentが約25%の株式を保有する新子会社「Vantage Studios」を設立。この新会社は『アサシン クリード』や『ファークライ』といったUbisoftの最重要フランチャイズの将来の開発を主導するとされています。経営の独立性を維持しつつもTencentとの連携は強まっており、こうした背景から、アナリストが指摘するような買収や事業売却といった憶測も一部で出ています。
正式発表で何が語られるか
Ubisoftは「今後数日以内」に延期された決算を発表するとしています。その正式発表では、延期の具体的な理由が何であったか、Tencentとの関係性について新たな動きはあるのか、そして今後の開発体制についてどのような説明がなされるかが焦点となります。




