積極財政を掲げる高市早苗首相が、財政健全化を「省是」とする財務省に対して対決姿勢を鮮明にしている。
時の首相も介入できない「聖域」とされてきた自民党税制調査会の中核メンバーを大幅に入れ替えて「高市カラー」に染め上げたほか、財務省が錦の御旗にしてきた財政健全化目標の見直しまで表明した。閣僚や副大臣・政務官にも高市氏の息がかかった積極財政派が大挙して登用されており、財務省は「孤立無援」の状況に置かれている。
「進次郎政権」を確信していたのに
自民党税制調査会は10月24日、高市早苗政権発足後、初めて「インナー」と呼ばれる幹部による非公式会合を開いた。年末の税制改正を取り仕切る「税のマフィア」のような存在で、従来は財務省に近い財政規律派が多数を占めていた。
ところが「財務省出身の税専門家だけで役員を固めず、税調のスタイルをガラっと変えてほしい」との高市首相の意向を反映し、顔ぶれが激変。SNS上で、減税を阻む「ラスボス」とあだ名されてきた宮沢洋一氏(1974年・旧大蔵省)は会長ポストから早々に更迭され、インナー経験のない前政調会長の小野寺五典氏が後任に抜擢された。
さらに、ナンバー2の小委員長には山際大志郎元経済再生担当相が就き、元経済産業相の西村康稔衆院議員もインナー入り。ともに商工族の有力議員で、企業の設備投資や賃上げを後押しする産業界寄りの税制を志向すると見られている。
同じく新入りの井林辰憲衆院議員(2002年・国土交通省)は「責任ある積極財政を推進する議員連盟」のメンバーだ。加えて、首相側近の一人である松島みどり衆院議員も首相補佐官との兼務という異例の形でインナーに送り込まれた。「党税調が財務官僚に篭絡されないようにするためのお目付け役」(官邸筋)の意味合いがあるという。
財政規律派の後藤茂之元経財相(1980年・旧大蔵省)と、財務省が「将来の首相候補」として推し活してきた小渕優子元経産相はインナー続投となったものの、宮沢前会長の右腕として税制改正の実務を担ってきた後藤氏はこれまでの「小委委員長」から「小委員長代理」に降格された。
2021年からインナーを務め、石破茂前政権下では税調顧問として、与党内で浮上した消費税減税論を「政治生命をかけて反対する」と封じ込めた森山裕前幹事長も税調を去り、財政規律死守の「砦」としての役割は、もはや果たせそうにないのが実情だ。
自民党税調との「二人三脚」を誇示してきた財務省主税局幹部からは「『積極財政派にあらざれば人にあらず』とも言われる高市政権の発足で、厳しい対応を迫られると覚悟していたが、いきなり横っ面を張られた感じだ」と嘆く声が漏れている。
「将来にツケを残さないという考え方は借金を残さないということではない。最悪なのは、経済成長しない世の中を将来に残してしまうことだ」
かねてこう公言してきた高市首相と財務省はもともと水と油の関係。しかも、先の自民党総裁選では高市氏の最大のライバルだった小泉進次郎氏に省を挙げて「肩入れ」しただけに、ばつが悪い。小泉圧勝を信じて疑わず、主計局の有力官僚を政策参謀として派遣したほか、水面下では「小泉政権」の誕生を見越し、少数与党からの脱却に向けた野党との連立工作にまで関与していた。