前編記事『がん治療に「最後の砦」があった…最高峰の医療技術が集まる「がんセンター」の実態』より続く。
成功率97・5%を誇る高度な技術
頭頸部がんの患者数は、がん全体の約5%と少なく、手術、放射線、抗がん剤とあらゆる治療を駆使しなければならないため、ふつうの病院では対応が難しい。がん研有明病院で最前線に立つのが、頭頸科部長の三谷浩樹医師だ。
「とくに『マイクロサージャリー』と呼ばれる、のどの再建手術には、高度な技術が求められます。
たとえば、進行した下咽頭がんを切除したときには、患者の小腸を30cmほど切り取り、首に移植して食道を再建します。その際、マッチ棒ほどの太さの血管を顕微鏡下でつなぎ合わせなければなりません。失敗すれば、移植した腸が壊死してしまうのです。
当院では、このマイクロサージャリーをこれまで約4800件実施し、成功率は97・5%と、非常に高水準です。
切除から再建まで、院内で一貫して行えるため、治療にかかる時間を短くできるほか、不測のトラブルにも迅速に対応できるのが強みです。
さらに外科手術だけでなく、当院には経験豊富な放射線治療医や化学療法医もいますから、さまざまな可能性を検討したうえで、患者さんに納得してもらえる治療を提供できていると思います」
がん研有明病院には全国から頭頸部がん患者が集まるため、がん専門医にとって貴重な研鑽の場ともなっている。頭頸科だけで18名の医師が在籍し、技術の継承・向上に努めていることも、安心材料の一つと言えるだろう。
頭頸部がんと同様、予後が極めて厳しいとされるのが、肝臓がん、胆道がん、膵臓がん(肝胆膵がん)だ。これらの難治がんの治療では、近年、重粒子線治療が保険適用で受けられるようになった。
重粒子線治療とは、炭素イオンを光速の約70%まで加速させ、がん病巣にピンポイントで照射する最先端の放射線治療。通常のX線と比べて、周囲の正常組織へのダメージを最小限に抑え、根治効果が高いと言われている。