空港税関での警告始まる
中国では2018年における国慶節の国定休暇は10月1日(月)から7日(日)までの7日間であったが、これに前週の9月29日(土)と30日(日)を加えれば、合計9連休となった。
この国慶節休暇を前にして人々の心が浮き立っていた9月28日(金)に、上海浦東国際空港の第2ターミナル(T2)では海外から帰国した中国人旅行者たちが“海関(税関)”の携帯品検査を受けるために長蛇の列を作っていた。
彼らの大部分は“代購(代理購入)”を生業(なりわい)とする業者やその協力者で、税関検査場前にスーツケースを広げて税関職員による携帯品検査の順番を待っていた。海外から1つのフライトが到着する度に代理購入業者や協力者など100人近くが税関検査場前に並ぶので、順番待ちの列はますます長くなっていった。
彼らのスーツケースには海外から購入してきた各種の商品が溢れていたが、それらの大部分は中国国内の顧客から海外での代理購入を依頼されたものであった。
しかし、今までならば、海外から帰国した中国国民に対する携帯品の検査はおざなりなのが通例で、時には税関職員が気分次第で見て見ぬ振りで検査場を素通りさせてくれたのだが、9月28日の税関職員は今までと違い、帰国者の携帯品を詳細に検査し、免税範囲外の外国商品を見つけては個々に関税をかけたのだった。
これは翌日から始まる国慶節休暇を利用して海外へ出かける人々(代理購入業者とその協力者だけでなく、友人知己から海外での物品購入を依頼された庶民を含む)に対し、帰国時に空港の税関で厳しい携帯品検査が待ち受けていることを警告するためのものであり、それがメディアを通じて大きく報じられることを見越してのものだった。
例を挙げれると、税関職員は箱入りの“面膜(フェイシャルパック)”を1個ずつ数える徹底ぶりで、3箱のフェイシャルパックに対して200元(約2340円)の関税を課したし、Tom Fordの口紅10本に対して1800元(約2万9200円)の関税を課した。
ある若者は隠し持っていた数個の高級腕時計を密輸品として摘発され、関税額は178万元(約2884万円)と算定された。彼は税関職員に土下座して見逃してくれるよう懇願したが、それが認められるはずはなく、その場で密輸犯として連行された。
代講という野放図な密輸
中国で“代購”がビジネスとして動き始めたのは2005年ごろであった。留学生や国外で働く人々が帰国の際に、当時の中国では入手困難であった有名ブランドの腕時計やバッグ、化粧品などを親戚や知人の依頼を受けて持ち帰り、小遣い稼ぎをしたのが始まりであった。
これに続いて、海外旅行のガイドや航空会社の客室乗務員(キャビンアテンダント)などの海外と中国を行き来する人の中で一部の商売に目敏い人たちが、国外で廉価で購入した商品を国内で高価で販売して、差額を稼ぐビジネスモデルを確立したのだった。
中国では1970~80年代にはローレックスの腕時計が富裕を示す象徴だったが、1990年代になるとLVのロゴで名高いルイ・ヴィトンが身分と地位の象徴になった。
そうした著名なブランド品は精巧な偽物が製造されて中国国内に氾濫していたから、物乞いの老婆が高価なルイ・ヴィトンのバッグを抱えていたので驚いてよく見たら、拾った偽物だったという笑い話のような経験が筆者にもある。
21世紀になった現在でも、中国人のこうした有名ブランド品に対する興味は増すことはあっても減ることはない。
2017年3月8日に“財富品質研究院”は『新販売業態下における奢侈品市場の未来』と題する報告を発表したが、その中で「目下中国人の奢侈品消費額は依然として増加傾向にあり、2016年には1204億ドルに達し、全世界の半分に近い奢侈品を中国人が購入した勘定になる」と述べている。
こうした奢侈品だけでなく、“馬桶蓋(温水洗浄便座)”、“嬰児床(ベビーベッド)”、“奶粉(粉ミルク)”などから菓子類まで多くの海外商品を顧客の注文に応じて、海外で代理購入する専門の業者が雨後の筍のように出現し、いつの間にか中国国民の生活に根差した存在となった。
彼らは海外旅行へ出かける人々に声をかけて協力を仰いだり、格安の旅行団を組織したりして、海外で買い付けた物を携行品として持ち帰らせる、あるいは海外在住の中国人や中国人留学生に商品を買い集めさせた上で、商品をコンテナに詰めて送り出し、密輸まがいの方法で中国国内へ輸入するのである。
2015年5月発行の『広東対外経済貿易発展研究報告』に掲載されている「2009年-2014年中国海外代購交易規模増長率」によれば、海外代理購入取引額は、2009年に50億元だったものが、2010年:120億元、2011年:265億元、2012年:483億元、2013年:767億元、2014年:829億元と順調に伸びたが、その増加率は2010年:140%。2011年:120%、2012年:82%、2013年:59%、2014年:62.3%を徐々に縮小する傾向にあるようだ。
なお、残念ながら、筆者は2015年以降の数字を確認できていない。
オーストラリア国民の粉ミルク危機
ところで、オーストリアでは現地在住の中国人たちによる粉ミルクの爆買いが慢性化している。
これは、2008年8月に開催された北京オリンピックが終了した直後の9月に中国国内で発覚した、メラミン入り粉ミルク事件の影響によるもので、中国国内の親たちは、いまだに国産粉ミルクに不信感を持ち、外国産粉ミルクに対する需要は極めて大きい。
この結果、オーストラリアのスーパーマーケットでは、オーストラリア産粉ミルクが入荷して商品棚に並ぶと、早朝から列を作って待っていた代理購入を行う中国人たちが殺到して買い漁り、瞬く間に売り切れとなる。
これに困ったのは、地元のオーストラリア国民であり、乳幼児のために粉ミルクを買いたくてもスーパーマーケットの商品棚には影も形もない。地元のスーパーは粉ミルクに販売数量の制限を設けたりしてみたが、粉ミルクを買いに来る中国人が多すぎて、何の効果も生んでいないのが実情である。
10月8日、あるオーストラリア人の父親が同地最大のスーパーマーケット「ウールワース(Woolworths)」宛てに手紙を書き、8月にウールワースが粉ミルクの販売数量を1人当たり2缶から8缶に緩和したが、それ以降粉ミルクが買えなくなって困っているとして、販売制限を8缶から2缶へ戻すよう切実な依頼を行った。
オーストラリアのテレビ局「9News」がこの手紙について報道したことで、中国人による粉ミルクの代理購入は改めてオーストラリア国内で脚光を浴び、社会問題としてクローズアップされている。
オーストラリアには100万人もの中国人が居住しているが、そのうちの20万人が代理購入になんらかの関わりを持ち、中国人留学生にとって大事な収入源になっていると言われている。
これではいくら粉ミルクの販売制限を行っても焼け石に水であり、オーストラリア人の父親が販売制限の強化を要望した気持ちが理解できる。しかし、この父親が粉ミルクの購入に苦労するのは今しばらくの我慢かもしれないのである。
それと言うのは、2018年8月31日に開催された中国の第13期全国人民代表大会常務委員会第5回会議が、『中華人民共和国電子商務法(中国電子取引法)』(以下「電子取引法」)を票決によって採択し、同法は2019年1月1日から施行されるからである。
代講を規制しても国産品への不信は消えず
電子取引法は2013年から5年の歳月をかけて立法化されたものであり、現状では野放し状態にある中国の電子商取引業界の規制を強化することを目的としている。
インターネット上で代理購入の商品を仲介する電子商取引プラットフォーム(Electric Commerce Platform)や、インターネットを通じて顧客からの注文を受けて海外で商品の代理購入を行う、“代購業界”も規制の対象となるのである。
電子取引法に関して中国メディアが報じた“代購”関連の要点は以下の通り。
(1)“代購”を行うには、商品の買い付け国と中国の双方で営業許可証を取得することが必要である。これと同時に納税が必須であり、食品関連では食物流通許可証の取得が必要である。
(2)中国語のラベルがなく、“国家認証認可監督管理委員会”(以下「国家認証委」)が認証した工場で生産したものでない粉ミルクや保健品の類は販売できない。
(3)電子取引法に違反した場合は、電子商取引プラットフォームには最高で200万元(約3240万円)の罰金、“代購”業者には最高で50万元(約810万円)の罰金を科す。
2019年1月1日に電子取引法が発効すると、粉ミルクの“代購”を行うには、中国だけでなく、買い付け国でも営業許可証の取得が必要となるが、これは、さほど簡単なことではない。
買い付け国で営業許可証を取得すれば、当然ながら営業税や企業所得税、果ては経営者や従業員の個人所得税などの支払いが必要となり、“代購”ビジネスの旨味は大きく減少する。
さらに、買い付け国で購入した粉ミルクに別途準備した中国語のラベルを張り付けることはできても、国家認証委が認証した工場で生産した粉ミルクではないので、中国国内での販売は許されない。これを無視して販売すれば、“代購”業者には最高で50万元の罰金が科されることになる。
また、電子商取引法の発効に合わせて、海外旅行客の携帯品に対する税関検査も一定期間が経過するまでは今まで以上に厳しくなるものと思われる。
“代購”はネット上の電子商取引プラットフォームと、そこに広告を出す“代購”業者によって成立するが、上記の図式で考えれば、“代購”というビジネスモデルが来年1月1日以降に存続できないことは明白と言わざるを得ない。
それは、中国人観光客の訪日によって沸き上がっていた「爆買い」、すなわち“代購”によって引き起こされた特定商品の買い漁りが終息するということか。そうなれば、爆買いに頼る日本の小売業界にとっての打撃は大きいものがある。
ただし、粉ミルクで考えれば、中国国民の大半が国産の粉ミルクを信用していないのに、それを乳幼児に無理やり飲ませようとすれば、親たちの反発は必至である。中国政府が親たちの反発をどこまで抑えることができるかが、電子商取引法の成否を決めるものと思われる。
粉ミルクの“代購”を規制するよりは、国産粉ミルクの信頼回復が先決だと思うのだが、後者がいかに困難かは、悲しいことに、中国政府が一番良く知っているのである。