この国は金持ちと貧乏人に分断された第2部 新・富裕層はこんな人たち、新・貧困層はこんな人たち 日本人の6人に一人が貧乏で71人に一人が大金持ち

新・富裕層と新・貧困層の対決が始まった!

億万長者は増えている

 日本社会に厳然として存在する超「格差」を、明確に指し示すデータがある。

 仏大手経営コンサルティング会社キャップジェミニ社の「ワールド・ウェルス・レポート」によれば、'11年の日本で100万ドル(約7800万円)以上の投資可能資産を保有する富裕層は約182万2000人。日本人の約71人に一人が大金持ちなのだ。

 右のグラフを見れば一目瞭然だが、'02年以降、リーマンショックの発生した'08年を除いて、毎年、新しい"億万長者"が生まれている。

-AD-

「5億円以上の金融資産を持っている富裕層を『ビリオネア』と呼んでいますが、'09年に2万6326人だったのが、'11年は3万4879人と増えています。その多くは医療法人や弁護士事務所を経営している。代々の資産を受け継いで、それを大きく殖やしている方も多いですね。

 彼らのほぼ9割が何かしらの不動産を保有していると考えられます。そのうち約10%がマンションオーナー。マンションといっても一棟丸々保有していて収益性が高いため、富が富を生み出すのです」(船井総合研究所・小林昇太郎氏)

 一方、前節で触れたように新・貧困層も増殖している。OECD(経済協力開発機構)が定める相対的貧困率(所得が所得分布の中央値の半分に満たない世帯員の割合)は、'03年の14・9%から'09年には16%に上昇した。日本人の約6人に一人が平均所得の半分以下の収入で暮らしていることになる。

 二極化する新・富裕層と新・貧困層—彼らの実態をデータで見ていこう。

 生活保護受給者は増加の一途で、'12年3月現在、その数は約211万人(約153万世帯)。これに必要となる予算は約3兆7000億円と膨大なものになっている。

 財政を圧迫する生活保護の受給者は今後まだまだ増える可能性が高い。新しい貧困層が出現しているからだ。彼らはどのような人たちなのか。ワーキングプア問題に取り組むNPO「POSSE」事務局長の川村遼平氏が語る。

-AD-

「現在、40代を中心とする中高年フリーターが問題となっています。非正規労働者のまま、若者ではなくなった人たちで、多くは無年金と言われています。同じ職場で働く若者たちから見ても、彼らの置かれた環境は悲惨でしかない。それが将来の自分の姿だと思ったら……、親や正社員の友人から『仕事を頑張れ』と言われても頑張れないのが現状なのです」

 かつても貧困者はいたが、貧困の質が大きく変化している。高度成長期には、貧しくとも、将来はよりましな生活ができると期待できたから、低賃金でも不満を募らせることはなかった。

 しかし、今やひとたび貧困層に転落してしまえば、職どころか、満足な食さえ手にすることができない。将来が良くなる見通しもない。真面目に働いても報われない、という絶望と諦めが新・貧困層にはある。

金持ちばかりが住む町

 さらに、貧困は連鎖していく。東京大学大学院教育学研究科大学経営・政策研究センターが発表したデータは衝撃的だった。年収200万円以下の両親の下で育った子どもの4年制大学進学率は28・2%。彼らの35・9%が高校卒業後、就職を選んだのだ。

※各区の平均世帯年収と高所得者居住割合は、総務省の「平成22年国勢調査」と「平成20年住宅・土地統計調査」を基にアトラクターズ・ラボが算出した。高所得者居住割合は年収1500万円以上の世帯が住む割合。生活保護受給率は東京都と大阪市の資料による

 逆に両親の年収が1200万円以上だと、子どもの62・8%が4年制大学に進学、就職したのはわずか5・4%だった。

 つまり、親の年収が子どもの学歴に如実に影響するわけだ。個人の努力よりも、生まれによって社会階層が決まる。這い上がることのできない無力感、閉塞感が社会全体に蔓延している。

 当然、新・富裕層と新・貧困層が住む土地の二極化も進んでいる。不動産マーケティング会社アトラクターズ・ラボ社の試算によれば、東京23区内の平均年収は「西高東低」だという。

-AD-

 都心の一等地で知られる千代田区では平均世帯年収が約750万円と最も高く、住人の約7人に一人が年収1500万円以上という富裕層だ。

 平均年収の最下位は足立区で、その額は約461万円。生活保護受給率を見ると、東日本最大のドヤ街、山谷を抱える台東区が1位で、約21人に一人が生活保護受給者となっている。

 大阪24区では市の北側に比較的多くの高所得者が住む。生活保護受給率全国ワースト1で約4人に一人が生活保護を受給する西成区では、平均世帯年収は約257万円。東京都千代田区と比べると、約3倍もの年収の格差がある。

 年収が高い人が多く住む土地には超高級マンションの計画が引きも切らず、欧米の巨大金融機関の資金が投下される。アトラクターズ・ラボ代表の沖有人氏がこう話す。

「都心の一等地ほど、マンションの資産価値が維持されやすい。高額物件を買うことのできる富裕層は、転売で儲けられる可能性も高いのです。

-AD-

 富裕層は投資用であれ、自宅用であれ、不動産を買うときに絶対に妥協をしません。1億円出して山手線外の物件を買うなら、2億円出して内側に買う。そのほうが、リスクが低いことを知っているからです。

 逆に低所得者は手の届く金額や目先の利便性で選んでしまうため、大きく値下がりする物件を選んでしまう。こうした違いがお金持ちと低所得者の差を拡大してしまうのかもしれません」

 これに追い打ちをかけるのが、民主党政権と自民党と公明党が推し進める「社会保障と税の一体改革」だ。この「改革」によって、低所得者層はさらに大きな打撃を受ける。

 復興増税や消費増税、社会保障費の増加が、片働き子ども2人世帯の可処分所得にどのようなインパクトを与えるのか。

 大手シンクタンクが試算したところ、年収300万円世帯の場合、可処分所得が8・87%も減少する。片や年収2000万円の高所得世帯は7・41%の減少に留まる。より高所得者の場合だと、影響はもっと小さい。

-AD-

 貧困者にはますます生きづらい社会になり、一方金持ちも「怠け者たち」にどうして自分たちの納めた税金を使わせるのか、不満を抱いている。両者の溝は到底埋まりそうもない。

「週刊現代」2012年8月18・25日号より

関連タグ

おすすめ記事