米アマゾンらが経済学者を雇う理由~デジタル経済学者のシェアエコ化
ウーバーも、マイクロソフトも!
こんにちは。パロアルトインサイトCEO兼AIビジネスデザイナーの石角友愛です。
前回、行動経済学とAIを融合した新しいスタートアップについて書いたところ(『いまシリコンバレーで「AI(人工知能)×行動経済学」が最強なワケ』)、たくさんの反響がありました。
そこで今回はスタートアップではなく、アマゾンやマイクロソフト、グーグル、Uber、 Airbnbなどのテック大手が経済学者をこぞって獲得する争奪戦について書きます。
米アマゾンで活躍する「150人の経済学者たち」
アマゾンのチーフエコノミストはPat Bajariというワシントン大学で教授をしている経済学者です。
彼のもと150人ほどの経済学者(または経済学の博士号を持つ人)をアマゾンは抱えているとハーバードビジネススクールの記事にありました。
中には大学院を卒業したてのルーキーエコノミストを青田刈りするケースもあります。このようにIT企業で経済学の知見を生かして働く経済学の専門家を、「デジタル経済学者」「テック経済学者」と呼びます。
それではこの「デジタル経済学者」は具体的にアマゾンやグーグル、ウーバーで何をしているのでしょうか。
その共通点は、事業のデザイン設計とデータ解析です。
たとえば、「広告事業」。Amazonやグーグルなどの多くのIT大手がオークションベースの広告プラットフォームを持っていますが、そのオークションシステムのデザインをデジタル経済学者が担当することが多いのです。
またデジタルマーケティングとして広告を配信する側でもデジタル経済学者の知見が生かされます。データ解析をしながらそれぞれのチャネルでのROAS最適化などの予測をします。
売り手と買い手をつなぐ、求職者と企業をつなぐなどの「マーケットプレイス事業」でも、デジタル経済学者たちは活躍しています。
例えば、売り手の商品をどんな順番にランク付けするかというインセンティブ作りの課題や、ユーザーの短期的行動を理解した上でマーケットプレイス全体の均衡状態をどう保つかなどのデザインを行います。
Amazonの場合、商品を売りたい事業者がマーケットプレースとしてAmazon上で販売していますが、その時にどうやったら自分の商品が一番上にランクされるかという課題が売り手の悩みなのですが、そのインセンティブ作りの裏には経済学者の頭脳が生かされていたのです。
ウーバーの「値段戦略」に貢献するデジタル経済学者
それだけではありません。
たとえば、「評価経済デザイン事業」もまたデジタル経済学者たちは活躍の舞台となっています。
ユーザーからのレビューやコメントがサイトの重要なコンテンツになっている場合(例:Amazon、トリップアドバイザー、日本では食べログなど)、コメントの際にどんなバイアスが起こりやすいかをデジタル経済学者は理解し、そのバイアスを最小限にするためのシステムデザインを行います。
デジタル経済学者は「値段戦略」でも重要な役割を果たします。
実際、ウーバーは通勤時間などの需要が供給量をはるかに超える時間帯ではダイナミックプライシングと言って値段を動的に変えていますが、その値段戦略にもデジタル経済学者が貢献していると言われています。たとえば、ここまで値段をあげたら均衡状態が崩壊する、というようなシミュレータがあったら便利だと思います。
スティーブ・バルマーが信頼したハーバード大教授
ここで面白いのが、経済学者たちは大学に籍を置きながら、IT企業に対して貢献をしているということです。
たとえば、マイクロソフトの元CEOであるスティーブ・バルマー氏に信頼され、マイクロソフトのオンライン広告事業でチーフエコノミストとして活躍したSusan Athey教授は当時ハーバード大学で経済学を教えながら、年に2回大学を休職しマイクロソフトでフルタイムで働いていたそうです。
こうすることで、教授は研究をつづけ論文発表を行いながら、自分たちの幅広い知見を、会社特有の課題に生かすことができます。
また、会社特有の課題を解決する過程でアカデミアにいるだけでは見えづらい業界や現場の理解をすることが出来ます。
多くの経済学者がビジネススクールなどの大学院で教鞭をふるっているため、社会経験のある生徒に本当に役に立つ授業をするためにも、そのような経験は生かされるのです。これからの未来は、このようなデジタル経済学者がシェアリングエコノミー化して、色々な企業の課題解決に貢献するようになると思われます。
アカデミアと産業界の「真のコラボレーション」
私は日々AI技術を日本企業に導入するパロアルトインサイトのCEOとして言っているのですが、AI導入は労働集約型モデルでは成り立ちません。
なぜなら、データサイエンティストなどのAI開発をする人の作業内容に個人間の大きな質の差があり、その差が下手をすると何億円以上の差を生んでしまうからです。ある一定レベルの労働力を大量に抱えてなりたつ仕事ではないからです。
今後、データ活用の中で機械学習の専門家だけではなく、デジタル経済学者の需要ももっと増すでしょう。
最高レベルの知識を持つ専門家を集約して色々な企業にその知見を提供する、知識集約型モデルの集大成として、上記のようなアカデミアと産業界の真のコラボレーションが生まれることを私は期待しています。