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犬の多様性は1万1000年前に始まっていた。初期人類が共に暮らす中で様々な犬を育んでいった

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(著)

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Image by Istock cynoclub
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 犬には様々なサイズと形があり、現在、700〜800種以上の犬種が存在するといわれている。その多くは18世紀以降の人工的な繁殖(ブリーディング)で生み出されたと考えられていた。

 ところが最近、国際研究チームが5万年前から現代までのイヌ科動物643点の頭蓋骨を調べたところ、犬の多様性は1万1000年前にはすでに始まっていたことが確認された。

 研究チームは、初期人類が狩猟や牧畜や移動といった暮らしの中で、用途に合う犬を選択し、交配させ、受け継がせたことで姿の違いが広がったと考えている。

 犬の形が数千年前にさらに多様化し、現在のような幅の広さへとつながっていったことも明らかになった。

 この研究成果は『Science』誌(2025年11月13日付)に発表された。

犬の種類が増え始めたのはいつから?

 イギリス・エクセター大学とフランス国立科学研究センターをはじめとする国際研究チームは、犬の多様性がいつ生まれたのかを調べるために、オオカミや犬の先祖、現代の犬など、5万年前から現代までのイヌ科動物の頭蓋骨643点を調査した。

 40以上の研究機関が協力して3Dモデルを作成し、幾何学的形態測定法という手法で頭蓋骨の大きさや形を比較し、犬の姿がどのように変化してきたのかを精密に調べた。

 幾何学的形態測定法とは、頭蓋骨の決まった位置に点を打ち、その点の並び方を3Dで比べて形の違いを調べる方法である。長さや幅だけでは分からない細かな曲線の違いも数字として比べられるため、いつどのように変わったのかを詳しく知ることができる。

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本研究で3次元モデル作成のために用いられた現代の犬の頭蓋骨の写真 Image credit: C. Ameen (University of Exeter)

すでに1万1000年前から犬の種類に変化

 研究チームは、ロシア北西部のヴェレチェ遺跡から発見された中石器時代(約1万1000年前)の頭蓋骨が、家畜化された犬の最古の証拠であることを確認した。

 また、アメリカ大陸の約8500年前、アジアの約7500年前の遺跡からも、家畜化された犬の頭蓋骨が発見されている。

 これらの頭蓋骨を詳細に調べた結果、1万1000年前からすでに頭蓋骨の大きさや形に多様性が見られた。

 ブルドッグやボルゾイのような極端な特徴はなかったが、様々な違いが存在していた。

 研究チームは、初期人類が狩猟や牧畜、移動などの生活の中で、それぞれの用途に合う犬を意識的に選び、交配させて子孫に受け継がせてきたと考えている。

 こうした人間の選択が積み重なったことで、犬の見た目や性質にも多様性が生まれた。

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で3Dモデルを作るために使われた、考古学的なイヌ科動物の頭蓋骨の写真。 Image credit: C. Ameen (University of Exeter)

犬種の多様性は数千年かけて広がった

  研究チームは、犬の頭蓋骨が小さくなり始めたのが約9700〜8700年前であることを突き止めた。

 さらに約7700年前からは大きさのばらつきが広がり、約8200年前以降には顔や体つきの違いがより大きくなっていったことが明らかになった。

 新石器時代(約1万〜5000年前)の犬には、更新世(約2万6000〜1万2000年前)のイヌ科動物(=家畜化以前の野生の犬やオオカミ)と比べて2倍もの多様性がみられた。

 つまり、家畜化された犬の多様性は、すでにこの時代に大きく広がっており、現代の犬種の幅の半分が新石器時代に生まれていたことになる。

 エクセター大学のカーリー・アミーン博士は、犬の多様性は18世紀以降、とくに19世紀のヴィクトリア朝時代(1837年から1901年まで)のブリーダーだけで生み出されたのではなく、人間社会との長い共進化の成果であると語っている。

 また、フランス国立科学研究センターのアロウェン・エヴィン博士は、現代の犬にはブルドッグのように顔が短いものや、ボルゾイのように顔が長いものなど極端な形もあるが、そうした姿は古代の標本には見られなかったと述べている。

 ただし新石器時代の段階ですでに多様性は大きく広がっていたとも説明している。

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 現代の犬(ピンク)と現代のオオカミ(緑)の頭蓋骨の形の違いを、両者の平均的な頭蓋骨の形を基準にして可視化した図。。Image credit: C. Brassard (VetAgro Sup/Mecadev)

犬の家畜化のはじまりには今も謎が残る

  また、研究チームは、かつて「原始犬」と呼ばれた、後期更新世(約2万6000~1万2000年前)のイヌ科動物の標本について、家畜化の特徴を示す頭蓋骨は確認できなかったと報告している。

 これは、犬の家畜化が始まったごく初期の段階を考古学的な記録だけで特定するのが難しいことを示している。

 オックスフォード大学の教授で本研究の責任著者であるグレガー・ラーソン氏は「犬の家畜化の初期段階はいまだ明らかではなく、最初の犬も依然として特定できていない」としながらも、「犬が登場すると急速に多様化したことは今や自信を持って示せる。その初期の多様性は、自然環境による影響と、人間と共に暮らすことで受けた大きな影響の両方を反映している」と語っている。 

 この研究は、人間社会の文化的・生態学的な変化が、犬という最も身近な動物の進化の歴史にどのような影響を及ぼしてきたのかを知るうえで重要な発見となった。

References: Science / Exeter.ac.uk

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この記事へのコメント 32件

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  1. 犬や家畜でやってて人間でやってないわけ無いと思うんだが、改良されたヒトって見たこと無いね

    • -5
      1. 犬たちみたいにもっとこう、職能に特化したような人種とかがいないなと思って
        犬に比べたら全然多様性無いでしょ人間

        • -6
        1. ナチュラルに優生思想語る人がおったで。

          • +7
          1. 「優生思想」という言葉自体がここ百数十年くらいのもんでしょ

            • -6
          2. 多様性無いなんだから、優生は無いって事なんじゃないの?

            • 評価
        2. 世代交代遅いからね…
          アフリカは歴史が長いだけに部族間での変異が大きいと聞いたことがある

          • +6
          1. 狼や犬は2歳ぐらいから初産いけるしね…
            ヒトだと世代回していくのに10倍ほど年数が掛かる

            そうこうしているうちに、200~300年もすれば
            支配者と被支配者が入れ替わったり
            世の中が変わって必要とされる仕事や技能も違ってきたり、
            形質の差が品種固定されるほど世襲でずっと特定の身体能力が必要な生業を担い続けている血縁集団って、そうそう居なさそう

            • +1
        3. 特化型は生きる場が少ないからでない?
          プロ野球戦力外通告みたいに年齢的にどうにもなんなくなったり、飛脚みたいに走力・持久力をはるかに上回る機械が出てくると特化能力に秀出てる”だけ”の人物は必要無くなる。

          犬みたいに目的別選別を受けた多犬種がいなくても、知識と道具で群れ全体の対応力・適応力を伸ばして来たから、特定の何かに秀でて無くても生きられる様になった。

          単純に役に立たなくなったら殺すわけにもいかない社会になったし、見合いや一夫一婦制などで平均化もしてるとは思う。

          • +2
          1. そういう社会システムになったのって、それこそここ100年くらいでしょ
            人類の歴史に比べればほんの一時のことに過ぎない
            それ以前の歴史の中で生まれてきていたら記録に残っていると思うんだけど、寡聞にして知らない
            それこそ奴隷なんて風習があったんだから、ヒトの品種改良くらいやってそうだと思うんだけど

            • -7
          2. >それこそ奴隷なんて風習があったんだから

            品種改良には交配管理が必須だけど、
            家畜でなくヒトで そこまで強権的に
            主人側が組合せを指定して種付けできた時代や地域ってあるか?
            むしろ、奴隷って基本的に結婚禁止のケースが多くない?
            (必ずしも守られていたとは限らないが…)

            奴隷の子が代々必ず奴隷って訳でもなく、
            一口に奴隷といっても古今東西いろんなパターンの制度があって、
            自分の身請け金を貯めて自由民になったり
            戦争捕虜からの奴隷なら次の戦いの趨勢によっては帰還できたり、
            いろいろ流動的な部分も大きいし。

            不確実性の大きい繁殖を自前でやるより、
            必要なスキルの奴隷は新しく買ったほうがコスパ良いんだと思う。

            • +2
        4. 騎馬民族系は自動車が普及した現代でも先天性のO脚が多いとか、
          イヌイットは脂肪を主食とする代謝に適合した遺伝子を持つとか、
          局地的なのだと、カニ爪やバルタン星人みたいな遺伝性の裂手・裂足症は、ほとんどの地域では忌避されて そんなに子孫を増やしてないけど、椰子の木に登って実を穫る生活をしている島の部族には便利だったために 人口の2~3割?(ウロ覚え)とかってレベルで裂手・裂足症がいるとか、
          村民の半分が盲目の砂漠の部族は、聴力や触覚で井戸掘りの水源を探し当てる能力に長け、むしろ盲目のほうが「徳を積んで神の恵みを受けて生まれてきた子」と見なされるとか、
          そういう話は聞いたことがある。

          • +8
    1. 10年以下で次の世代に繋がる犬に比べれば人間の世代交代サイクルは長すぎるし、そもそも人間の犬化個体、いわゆる自己家畜化(幼形成熟)個体は社会的に淘汰対象なので…

      • +2
      1. ヒトの性成熟は15年で、サイクル自体にはそれほど長いとは思えない。
        とはいえ、犬よりもコストはかかるだろうな。

        • -1
        1. 人のサイクルを15年と見積もるなら犬は3年以下で1サイクルを回せてしまうな…

          • +1
    2. 当然できるだろうけど、問題点としては

      ・個体寿命が長すぎる
      ・出産まで時間がかかり、出産しても個体数が少ない
      ・遺伝子が複雑で結果が出るまでめんどい(同等遺伝子でも生育環境で差が出る)
      ・それを維持できる上位機関(当然国家の枠を超えた超法規的な上位機関)がない

      これぐらいかな?
      例えばちょっと違うけどダメ例としては「スペイン・ハプスブルク朝」ってのがあるけど、
      近親を繰り返し、最後の子が早世して断絶するまで2世紀程度かかっている
      このような権力維持のための”閉じた系”のなかですら「完全な失敗」を確認するのにこれだけかかるので、
      「”多様性”とは何か」「”優秀”とは何か」を考えながら遺伝子組み合わせをしていくとなると
      サンプルが多すぎるし、最初の掛け合わせ個体がどう能力を発揮するかを見るのに
      四半世紀かかり、そこでまたトライ&エラーを考えて掛け合わせる個体を探し…無理だな!

      • +3
    3. 調べてみたところ、結局は人間の流動性が他の動物に比べて高すぎるために品種として確立しないということらしい。
      ・身分制度によって階層をまたいでの婚姻を禁じていたカースト制においても、遺伝子調査によって階層間に混じり合いが確認されている。
      ・海洋に隔てられた大陸間での間でも遺伝的交流が見られる。
      ・犬の品種間遺伝的差異に比べてヒトの人種間の差異は10分の一ほどで、数世代程度では品種として独立しない。
      ・おそらく数千年遡ったところで全人類の遺伝的差異自体がそれほど多様ではなく、統一されている。
      などなど

      むしろ多様性などという言葉とは程遠いほど、ヒトという種は遺伝子が統一されているようだ。このように遺伝子の多型が少ないまま世界中へと広がった生物は、他の地域では「侵略的外来種」と呼ばれている。

      • +1
      1. カーストに関しては、ヒンドゥー教徒とムスリムなんかにしてもそうだけど
        昔のほうが案外緩めに共存していて
        西洋人が入ってくるようになってから現地の統治機構として階層社会の分断を再生・強化したって部分もあるそうだからなぁ…

        • +2
  2. まあ結局どのワンコもかわいいってことですけどね。

    • +5
  3. 多様性という言葉が何度も何度も繰り返えされているけど具体的には書かれていない
    脳容積が狼に比べて小さいとあるが、それは犬の多様性ではなく狼との違い
    もっとマズルが伸び明らかに標準と異なる集団がいたとか
    脛の骨の長さのバラつきが広がったとか
    原文に書かれているのかな?

    • +6
    1. 狼の頭蓋骨は、古代も現代も、各地のサンプルも、
      どれも似たり寄ったりの形や大きさで、差が少ない。

      犬は、形こそ現代の短頭種(ブルドッグやパグ)や長頭種(ボルゾイやロシアン・ウルフハウンド)ほど極端なマズルの長短ではないが、それでも、狼タイプに酷似した品種群の他、ダックスフントやウィペット的な頭蓋骨バランスの品種群など、バリエーションの幅がある。ていうか、現代犬は、パグやブルドッグみたいな潰れ顔の短頭種が、イヌ科動物の顔面プロポーションとして外れ値すぎる。
      頭蓋骨の大きさについては、古代犬は、現代犬のばらつき幅よりは若干狭めなものの、それに準じるくらい、狼タイプ~小型まで、既に多様性が見られる。

      • +1
    2. > 1万1000年前からすでに頭蓋骨の大きさや形に多様性が見られた。

      > 研究チームは、初期人類が狩猟や牧畜、移動などの生活の中で、それぞれの用途に合う犬を意識的に選び、交配させて子孫に受け継がせてきたと考えている。
      > こうした人間の選択が積み重なったことで、犬の見た目や性質にも多様性が生まれた。

      こういう文中に出ている例え以外にも、実際の子たちの大型犬・中型犬・小型犬の時点で多様性満載では?
      例えば有名な狩猟犬だけに絞ってもラブラドール・レトリーバーやビーグル、ダックスフントまで多様性満載

      • -2
      1. 多様性が出たと考える(結論を出した)データが出てないと書いているんだ
        医療系の論文なら最後にデータがまとめて載る
        最近の「ワニの記事』でも現代のワニに通じる特徴が背骨についていたとあるだろ
        「多様性がみられた」は具体的ではないよって話
        古い頭蓋骨は先端から頭の後ろまで長さのばらつきが何%内に収まるけど、途中から大きくズレ始めるとか
        縦横比の変化率を追うとかそういうのが鍵なんだ

        • +4
        1. リンクが付いてるサイエンスの、
          図4-Bあたりが、直感的に分かりやすいと思う。

          • +1
  4. 変らないのは1万1000年前から犬は人間を愛してくれているということか。
    だから大事にしてあげてくれ(猫、その他もな)

    • +7
  5. 人類がアフリカから世界中に散らばっていく過程で犬もそれにくっついて一緒に散らばっていったと考えたら1万1000年前でも遅すぎるぐらい
    人間が意図的に家畜化しなかったとしても自然環境の差から多様化は起きただろうし、それこそ人間のように勝手に自己家畜化していった可能性だってある
    雪原や海を渡っていく人間達に犬を派遣する組織がこの時代からすでに暗躍していたのかもしれない…

    • -2
  6. 本筋から外れて申し訳ないけど1万年や2万年前は全然初期人類じゃないよね
    初期人類という術語があるわけじゃないけど
    最初期の人類が現れたのは700万年前、現生人類は30万年前というのが通説で
    どう見ても初期じゃない

    • +6
    1. 表現するなら初期文明ってところかな

      • +1
  7. やはり氷河期に生活圏が重なる感じになったんだろうか

    • 評価
  8. これだけ多様性あっても、子犬はどの品種でもおんなじ姿してるの不思議だね

    • 評価

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