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1冊の本が独房の少年を救った。元受刑者が550の刑務所図書館をつくるまでまでの物語

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(著)

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Image credit: Freedom Reads
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 人生のどん底から這い上がるきっかけは、ほんの些細なことだ。誰にも会えず、誰とも話せない孤独な独房の中にいた少年にとってそれは1冊の本だった。

 アメリカで罪を犯した17歳の少年は、冷たい壁に囲まれた独房で絶望に押しつぶされそうになっていた。

 彼を救ったのは、受刑者たちがシーツと枕カバーを繋ぎ合わせて、こっそりと届けてくれた1冊の本(詩集)だった。

 その詩集が持つ言葉の力は、少年の魂を揺さぶり、やがて彼を名門イェール大学へと導き、今では全米中の受刑者たちに「希望」を届ける活動へと繋がっている。

 これは、1冊の本で人生を変えた男性の物語だ。

若き過ちと厳しい代償

 レジナルド・ベッツ氏(45)が事件を起こしたのは、彼がまだ16歳のときだった。

 アメリカ、バージニア州フェアファックス郡で車内で男性が眠っている隙を狙い、車ごと奪う自動車強盗を働いたのだ。

 アメリカにおいて、人が乗車している状態での車両強奪は、被害者の生命を脅かす極めて悪質な重罪とされる。

 さらに同国の司法制度には、凶悪犯罪を犯した未成年を「成人」として裁く規定があり、特にアフリカ系アメリカ人の若者に対して厳しい判決が出る傾向にある。

 ベッツ氏も成人として裁かれ、懲役9年の判決を受けた。彼が収監されたのは成人の重犯罪者が集まる刑務所で、その期間の大半を独房で過ごすことになった。

 罪を犯した代償は厳しいものだった。たった1人で独房に閉じ込められた、ベッツ氏は17歳の時、頭がおかしくなりそうになり、周囲に聞こえるほどの大声で「誰か!俺に本を送ってくれ!」と叫び続けていた。 

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Image by Istock

シーツの「滑車」で運ばれてきた1冊の本

 彼の叫びに応えたのは、同じ刑務所の受刑者たちだった。

 ある日、彼らは破れたシーツと枕カバーを結び合わせて即席の滑車装置を作り、独房の隙間を通してベッツ氏の元へ1冊の本を送り届けた。

 枕カバーの中から出てきたのは、ダドリー・ランドールの詩集『ザ・ブラック・ポエッツ(The Black Poets)』だった。

 「それが人生を根底から変えた」後に彼はそう語る。

 ページを開いた瞬間、彼の内面で変化が始まった。独房にいながら言葉を通じて広い世界に触れた彼は、むさぼるように本を読み、やがて自らも詩を書き始めた。

 彼は学ぶことこそが、この場所から唯一の「脱出ルート」になると確信したのだ。

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The Black Poets

イェール大学へ進学後、恩送りを開始

 9年後、刑期を終えて出所したベッツ氏は、遅れを取り戻すように猛勉強に励んだ。

 大学で学士号を取得した後、イェール大学法科大学院に進み、法務博士号を取得した。かつての受刑者が、法律の専門家、そして詩人として新たな人生を歩み始めたのである。

 だが、彼は自身の成功だけで満足はしなかった。その恩を社会へ還元しようと考えた。

 これは日本語で「恩送り」と呼ばれるもので、誰かから受けた親切や好意を、直接その人に返すのではなく、別の誰かに送っていくことで、善意のバトンを社会に広げていく行為だ。

 彼は刑務所改革を訴え、非営利団体「Freedom Reads」を設立し、全米の刑務所に図書館を作り、受刑者に本を届けるプロジェクトを開始した。

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Image credit: Freedom Reads

全米の刑務所会に図書館を設立、本を寄贈する活動

 「刑務所は地球上で最も孤独な場所である」

 Freedom Readsのウェブサイトにはそう記されている。これは創設者であるベッツ氏自身が痛いほど理解している事実だ。

 2020年の設立以来、同団体は550以上の図書室を刑務所内に設置し、これまでに27万5000冊以上の本を寄贈してきた。

 これは、殺風景な刑務所の中に、学びや思索、対話が生まれるコミュニティを作る試みであり、更生支援の一環なのだ。

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Image credit: Freedom Reads

 実際に本を受け取ったメイン州の受刑者、チーフ・ベア氏はこう語る。

 「仕事から戻って、ずらりと並んだ本棚を見たときは驚いた。まるでクリスマスの朝、プレゼントを開けた子供たちのようだった。普段は食事以外で独房から出てこない連中が、本の周りに集まっていたんだ」

 活動資金はマッカーサー基金やメロン財団などの寄付によって支えられており、最近もミズーリ州の刑務所に35の図書室が新設された。

 かつてベッツ氏が独房で受け取ったのは、ボロボロのシーツを伝って降りてきた枕カバーに入った本だった。今、彼が届けているのは、美しい本棚に並べられた真新しい本だ。

 だが見た目は違っても、ページを開いた受刑者が受け取るものは同じだ。本は、閉ざされた世界にいながらにして得られる広い知識であり、人生を再びやり直すための道標なのだ。

References: Freedomreads / ormer Inmate Who Received Contraband Book While in Solitary Has Now Built Hundreds of Prison Libraries

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この記事へのコメント 25件

コメントを書く

  1. 希望はいいものだ 多分最高のものだ 素晴らしいものは決して滅びない

    • +52
    1. 自分もアンディが図書館を大きくしていくところを連想してた
      あの話大好き

      • +11
  2. いやいやw
    本に逃避してないで懺悔と思考に時間を費やせよ
    刑期は暇潰しの時間じゃないんだぞ???

    • -55
    1. 刑期終えて出所したって事は、社会的には罪を償い終えたって事です。
      人の心奥なんて誰にも分からないし、証明できないから、行動で判断するんですよ。

      出所後にちゃんと社会復帰を果たしたってことは、反省してる可能性が大きい。それを認める人も社会に多いって事です。全部行動なんですよ。心の底から反省したと言ってて行動が真逆なら社会はその人を認めないからです。

      この方の更生に本が大きく影響した可能性は大きいですし、それが他の受刑者にも波及するかもしれないなら良い行いだと思いますよ。

      • +26
    2. お前みたいな無知で浅慮で攻撃的な人間にこそ本が必要なのに、こういう奴ほど本を読まないんだよなあ。悲しい現実だね。

      • +25
    3. 私もそう思う
      海外の凶悪犯罪者の刑務所内での生活とか知るとちょっとなと思うよ
      無期とかで出られる望みはまずないんだけど、態度が良ければ刑務官や他の受刑者と多少の人間関係が築けて
      ボランティア活動なんかに取り組めばそれがその人のやるべき仕事になり
      知らない人とも手紙などでやりとりできる
      本人が善的な言動をすれば限られた世界でも社会が形成されるし成長もできる
      それは素晴らしいことだけど、じゃ刑務所に入る原因となった何人もの罪なく〇された人は、バラバラにされ遺棄され後から捜索しても骨の欠片も見つからない人々は…と考えてしまうと、刑務所の意味を更生にだけ全振りするのは違う気もする

      • -2
    4. 君もマイナス稼ぎに逃避するのはやめよう

      • +7
    5. 釣りなの?それともマジで言ってる?

      • 評価
    6. 彼が本を読んだことによって、刑務所に図書館が充実したって記事なのにどうして暇潰しと解釈できるの?
      本を読まないとそうなるの?
      書いてて変だなと思わないのかな

      • +4
  3. 17歳の男子の「誰か!俺に本を送ってくれ!」に
    詩集で応えるってなかなかのセンスだなと思った
    日本って欧米に比べて詩とか詩集の地位低いよなぁ

    • +28
    1. 学生時代に詩を書いてると馬鹿にしてくるヤツいたけどあれなんなん?
      現代の子はそんなことしないかな?しないでいて欲しいわ~
      さておき。
      高村光太郎の詩とか好きです✨

      • +11
    2. 最近はtwitter文化により短文が再評価されてる気がする。
      詩はあいかわらず低いかもしれないけど、俳句は若者たちに人気あるイメージ

      • +2
  4. ショーシャンクにもこんなシーンあったな

    • +7
  5. まだ若い少年が狂いそうだから暴れるとか薬が欲しいとかそういう傾向に走らず、本を大声で要求してるというのは他の受刑者的にも助けたくなる感じだったんだろうね

    • +33
  6. 被害者も居るんだから美談の前にムショに送られるような罪を犯さないで欲しい
    それってそんな難しい事なのかな
    もしそうならば罪を犯してしまうムショの外の環境をどうにかすべきじゃないかと

    • +11
    1. 働く為の知識を与えてくれる学校教育を誰もが受けられる訳じゃない。スラムに生まれた時点で戸籍は無いし物心ついたらギャングの使い捨てのパシリ、日本の幼稚園レベルの教養すら教わる機会は一生無い。

      日本みたいに単一民族の島国でも無戸籍の人や半グレ集団が居る。州を移動して歩け、なんなら国境をも越えられん事もない国々で撲滅なんて簡単な話じゃない。

      • +6
  7. まあまだ殺人みたいな何しても償えない罪じゃないから美談に感じるけど、
    元は凶悪犯だからなあ。
    刑務所の中の人よりも17歳の少年はどうしたら罪を犯さなかったのか知りたい。

    • +6
  8. サムネに尻尾をピンと立ててケツを擦り付ける黒猫が見える

    • -1
  9. 私には美談と思えない
    が、評価する人がいるのも確か
    どうして簡単に人を許せるのだろう
    私にはわからない
    もっともっと罪の重さに悩んで泣き崩れて暮らせばいいのにとさえ思う
    (どちらの立場からの人がいてもいいよね)

    • +3
    1. 美談でなくとも、罪の償いにはお金も必要なことも現実。社会に復帰して、より稼ぐためには知識、教養、技能も必要な場合もある。その為には本も読めないと

      • +1
    2. その罪の重さを理解する為には「教養」が必要。教養が無いから犯罪を犯す。

       知識がないと何でこうなったか解らんから『己の不遇』に泣き暮らすダケであって、罪の重さに泣き暮らす訳ではないんだぞ?

      何故こうなったのか理解し罪の重さに泣き暮らさせたいのなら社会教育が必要だという話。 スラム育ちとか日本の幼稚園レベルの教養すら学ぶ機会が一切与えられていないから自分には知識がないと気付く為の知識を得る機会が無い。

      • +8
    3. 私は、罪を犯したのは100%その個人の責任だと信じて疑わないその発想が怖いし
      自分が罪を犯さずに済んでいるのは極めて幸運だったからかもしれないって可能性に
      まったく思いの及ばないその想像力のなさが怖い

      • 評価
  10. そりゃあ イロイロある。
    けど
    ヒトの心に未だ残っているが
    息絶えずに ささやかに 人とヒトの間を静かに確かに巡って育ってゆくのを見るのは
    どの立場の人をとっても救いになるのではない?🤔
    禍を世界に盛大に解き放ってしまった後のパンドラの箱に最後の最後に残ったのが小さなちっぽけなだったんだとさ。

    • 評価

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