Credit:OpenAI
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「年を取ると時間の流れを早く感じる」神経科学的な理由が明らかに

2025.11.02 18:00:45 Sunday

年を重ねるほど、「1年があっという間に過ぎる」これは多くの人が実感として報告していることです。

ではなぜ、年齢を重ねるとそのような時間感覚の変化が起こるのでしょうか? ここには脳の働き方そのものの変化が関係している可能性があります。

これまで心理学では、日常生活に新しい刺激が減ったり、同じような出来事が繰り返されたりすることで、時間の流れが早く感じられると説明されてきました。

しかし、「なぜ脳がそう感じるのか」を神経科学のレベルで示す証拠は、これまでほとんどありませんでした。

英バーミンガム大学(University of Birmingham)らの国際研究チームは、映画を見ているときの脳活動を解析し、加齢に従い、脳が出来事を細かく区切らず、より大きな流れとしてまとめて処理するようになっていることを発見しました。

これが同じ時間でも、若い時と加齢時で、記憶の時間感覚が大きく異なる原因となっているようです。

この研究の詳細は、2025年10月8日に科学雑誌『Communications Biology』にオンライン掲載されています。

Temporal dedifferentiation of neural states with age during naturalistic viewing https://doi.org/10.1038/s42003-025-08792-4

脳は「時間」をどう処理しているのか

私たちは、世界を連続的に体験していると思いがちですが、実際にはは「エピソード(出来事)のまとまり」として時間を区切って処理しています。たとえば映画を見ていて、登場人物が別の場所に移動したり、話の展開が変わったりすると、私たちは自然に「ここでシーンが変わった」と感じます。

脳の中でも同じように、場面の切り替わりに合わせて活動のパターンが変化します。つまり、脳は「今の出来事が終わり、新しい出来事が始まった」と判断して、それぞれを別のまとまりとして処理しているのです。

研究チームは、このように同じ脳の活動が続いている時間のまとまりを1つの単位として解析しました。

脳が出来事をどのようなリズムで区切っているかを調べることで、時間の感じ方の仕組みを明らかにしようとしたのです。

今回の研究では、18歳から88歳までの577人が参加しました。参加者はアルフレッド・ヒッチコック監督による8分間の短編サスペンス映画『Bang! You’re Dead』を視聴し、その間の脳活動を機能的磁気共鳴画像法(fMRI)で測定しました。

この映画は、別の16人の参加者が見た際に「物語の切り替わり」と感じた場面が報告されており、5人以上が一致したタイミングをもとに19か所のイベントの区切り(イベント境界)が定義されています。そのため、映画の進行に沿って脳がどのように時間を区切るかを観察するのに適していました。

研究チームは、この脳の活動パターンがどのタイミングで変化するか、脳のどの領域で活動が変化し、「どのくらい細かく出来事を分けて捉えているのか」を高精度で解析しました。

こうしてこの研究は、脳が“時間の流れをどのように刻んでいるのか”という仕組みを可視化したのです。すると若い人ほど脳は出来事を細かく区切って処理しており、高齢になるほどひとつの出来事を長く区切る傾向があることがわかってきたのです。

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