10月30日から11月9日までの11日間にわたり、東京ビッグサイトでは、急速な変革が進むモビリティをテーマに“豊かで夢のあるモビリティ社会の構築”に向けたさまざまなアイデアが集う大イベント「Japan Mobility Show 2025」(JMS2025)が開催されている。
「東京モーターショー」として約70年もの歴史を積み重ねてきた同イベントは、電気自動車(EV)への転換やマイクロモビリティの多様化などといった社会トレンドの変容を背景に、大規模なアップデートを実行。2023年の前回開催から名称を現在の形へと変更し、航空・宇宙業界やIT・通信・エレクトロニクス産業など、モビリティに関係するすべての領域から仲間が集い、そして未来を提示する“共創プラットフォーム型イベント”として隔年開催されている。
今回は、モビリティ業界の一大イベントに出展する数多くの企業の中から、いわゆる“自動車メーカー”ではない数社をピックアップ。電気メーカーながら自動車産業への参入を目指すシャープや、無人運転技術の社会実装に向けて取り組みを本格化するT2など、各企業の現在地について取り上げていく。
クルマの新しい価値を提案するシャープの「LDK+」
会場内でもひと際多くの注目を集めていたのは、大手電機メーカーのシャープ。自動車メーカーではない同社がブース内に展示しているのは、今回が初公開となるシャープのEV「LDK+」だ。
2024年9月にその構想が発表されたLDK+は、親会社である鴻海科技集團(Foxconn)のEX「Model A」をベースとして開発されたもの。シャープがこれまで培ってきたAIや家電、エネルギー機器などのさまざまな領域における技術を結集させることで、既存のOEMからは生まれない“シャープらしい”EVの開発を目指しているという。
そんなLDK+のメインコンセプトは“Part of your home”。リビングルームの拡張空間として活用できる空間づくりに注力することで、EVと住空間やエネルギー機器をつなぎ、絶え間なく続くくらしに溶け込んだ「もうひとつの部屋」として機能するモビリティだとする。
住居に溶け込む自家用車 - さまざまな技術も凝縮
具体的には、座席の回転やプロジェクター・スクリーンの搭載により、シアタールームやリモートワーク用空間としての活用が期待されるとのこと。またAIと家電をつなぐシャープ独自のAIoTプラットフォームを通じて、住居内のキッチンや空調などとも連動しており、車内でもプラズマクラスター発生装置などによるエアコントロールを行うという。加えて、V2H(Vehicle to Home)システムとも連携できるため、太陽光発電や蓄電池との組み合わせにより効率的なエネルギーマネジメントも可能になるとした。
10月30日に行われたプレスブリーフィングに登場したシャープ 専務執行役員の種谷元隆CTOは、LDK+について「ドライブから帰り、家に駐車したその瞬間から、このEVはLDK+としての新たな世界観や新しい価値を提供する空間に変わる」と表現。斬新な発想から生まれた、シャープだからこそ創れる新型EV。今後は2027年の商品化、および自動車市場市場参入に向けて、さらなる開発を進めるとしている。
無人運転技術で物流改革を目指すT2の“3つの発表”
またJMS2025に併せてさまざまな発表を行った企業のひとつが、自動運転トラックを活用した物流インフラサービスを提供するT2だ。「2024年問題」などを背景に深刻化する物流業のドライバー不足を解決するべく、2022年に設立された同社。代表取締役CEOの熊部雅友氏は、「自動運転技術の開発にとどまらず、自ら“運送会社”として既存プレイヤーなどと強固に連携することで、日本の物流を支えていく」とT2の目指す姿を語る。
そんな同社は7月、自社開発したレベル2自動運転対応トラックを用いて、関東-関西間の幹線輸送における商用運行を開始。ユーザーとしては佐川急便・西濃運輸・日本郵便・福山通運・三井倉庫ロジスティクスの5社が参画し、自動運転トラックという新たな輸送オペレーションの有効性の検証や、品質および安全性が確保された自動運転の事業性確認を見据え、サービスが開始された。
参画社数の拡大で社会実装へまた一歩前進
商用運行の開始以来、その走行距離は5万kmを突破し、ユーザーである大手物流企業からも好意的な反応を得られたとするT2は、10月30日に新たな参画企業を発表。味の素やカゴメなど加工食品メーカー6社の物流を担うF-LINEが、11月より自動運転トラックでの幹線輸送商用運行に参画することを明かした。
さらにT2の熊部CEOは、この商用運行のユーザーとして新たに大和物流も参画することを公表した。同社は2026年1月より、大和ハウス工業向けの住宅用建材や設備などの輸送において、T2の自動運転トラックの利用を開始予定。定期運行を行った後、将来的には大和ハウス工業以外の既存取引先の輸送における利用も検討していくという。
そしてT2はこうした物流サービスの拡大、ひいては2027年の開始を目指すレベル4自動運転トラックでの幹線輸送サービス実現を見据えて、高速道路における無人運転と、ICと顧客の各拠点を結ぶ一般道での有人運転を切り替える新拠点の設置を発表した。同拠点の設置にあたっては、神奈川県綾瀬市の東名高速道路・綾瀬スマートICに近接する土地を活用。11月より着工し、2026年2月の完成を目指して取り組みを進めるとする。同社はこうした取り組みの拡大を通じて、さらなる効率化による物流業界の変革を後押ししていくとしている。
三菱重工グループがモビリティショーに?
また、メカトロニクス技術を核としてさまざまな社会課題の解決に取り組む三菱重工機械システムは、三菱重工グループとして初めてJMSに出展した。同社が展示したのは、車両搬送ロボット・合流支援システム・総合環境システムの3製品。それぞれの特徴や強みについては、同社 モビリティ事業本部 車両搬送ロボット事業推進責任者の福島大輔氏らより説明された。
特にブース内で存在感を放つのが、人の代わりに車両の搬送・駐車を行う自律型車両搬送ロボットだ。同ロボットは、完成車の保管現場における車両の移動を、人手を介さずに行うもの。現状ではドライバーが1台ずつ運転し移動させていたというが、人手不足などの問題から自動化が求められているという。そのためこの電動ロボットでは、空きスペースをロボット自ら見つけて移動させることで、運転手の心理的ストレスや不慮の事故を防ぐことができるとする。
また自動運転システムの開発者に対して大きな価値を提供するのが、統合環境試験システムだ。同システムでは、雨や霧、雪、逆光などの自然環境やさまざまな走行シナリオを、屋内環境にて高精度かつ繰り返し再現可能。どんな環境下でも確実な安全性を求められる先進運転支援システムや高度自動運転の安全性・信頼性評価を効率的に行うことで、社会実装を加速させるとした。
半導体強化のデンソー、新製品発表のボッシュにも注目
これらのほかにも、これまで提供してきた数々の自動車部品に加え、電動車の中核を成す新型インバータを開発するなど、半導体技術の進歩を続けるデンソーは、SiC(炭化ケイ素)半導体ウェハへの独自3次元構造の実装や、カーエアコンで培われた冷却技術を活用した、パワーカードの平置き両面冷却構造の実現など、さらなる技術アップデートを林新之助代表取締役社長自らアピール。
ボッシュも日本法人の代表取締役社長を務めるクリスチャン・メッカ―氏が登壇し、日本初公開となったバイワイヤブレーキアクチュエータをはじめ、ハードウェア・ソフトウェアの両面で多様な製品群を紹介した。
このほかにも数々の企業が軒を連ね、それぞれが全力で取り組む“未来のモビリティ社会”への挑戦の証が立ち並んぶ、東京ビッグサイト。いわゆる花形であろう自動車メーカーだけでなく、それらを作り上げるために不可欠な数々の企業からも、モビリティの未来を感じてみてはいかがだろうか。











