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ゴッホより普通にラッセンが好き〜チームラボと「アート」について

※5/30 19:20 修正しました
※6/1 12:00 英語版に永野の説明を入れました
※6/1 12:00 ラッセンは日本でしか知られておらず、海外の方からは「誰??」になるため、同様に語られる「トーマス・キンケイド」のような存在であると英語版に追加しました。

先日、私が主宰したイベント「Components. Artist Talk Series #2: feat. Elliot Woods[Kimchi and Chips] & 藤本実[MPLUSPLUS]」@KORG「STUDIO EXTREME TOKYO」でのこと。ゲスト・アーティストのエリオット・ウッズ[Kimchi and Chips]が、つい2週間前から世界のメディアアート(メディアアートとは何か?の説明については省くが、ゴッホとかピカソとかがやってる"アート/芸術"の流れにある、近現代から始まった一種類であると言う感じで見ておいて下さい)界において現在進行系で大きな波紋を起こしている、"とある事件"について、本人からの言及があった。トークはこちらのYouTubeにて見ることが出来るので、是非ご覧下さい。

今(2025/5/30)、世界のメディアアート界で何が起こっているのか

そもそも「何が起こっているんですか?」ということなんですが、日本の「チームラボ」の作品が、韓国/英国のアーティスト「Kimchi and Chips」の「パクリ」だ!!!というコメントがチームラボのインスタグラム上に溢れ、"炎上"と言えるほどの騒動になっているということ。

チームラボの“teamLab Phenomena Abu Dhabi”(2025)におけるこの作品が、「Kimchi and Chips」の「Light Barrier(2014)」他にそっくりじゃん!!と、鑑賞者がチームラボのインスタに書き込んだコメントから全てが始まりました。下記がKimchi and Chipsの作品です。

Kimchi and Chips "Light Barrier"(2014)
Kimchi and Chips "HALO(2018)"
Kimchi and Chips "ANOTHER MOON(2021)" Photo by (c) Jochen Tack

下記画像がインスタ上での大議論。“teamLab Phenomena Abu Dhabi”(2025)をチームラボが投稿したコメント欄において、世界中の高名なメディアアーティストやキュレーターがこの"コピー騒動"について怒りを表明している。

彼ら/彼女らは、チームラボの作品に@Kimchi and Chips とタグ付けをして、「完全にKimchi and Chipsのコピー。オリジナルの方が良いからこれじゃなくてKimchi and Chipsを見て」「私は北京でKimchi and Chipsの素晴らしい作品のキュレーターを担当した。このような直接的なコピー作品を見るのは本当に悲しい」「コピーならコピーでリスペクトを表すべき!」など、それぞれの意見を表明している。今現在も、その怒りのコメント投稿は勢いを増すばかりである。下記にコメント欄に投稿された意見を貼る。

「なんというKimchi and Chipsの素晴らしいコピー作品なんでしょう!」「Kimchi and Chipsの枠品をチェックして。彼らはオリジナル作品を作るのに、ものすごく苦労しているから」
「うわあ、これは悲しい…」「2014年のKimchi and Chipsの作品のパクリだね」「チームラボはインスタのコメントを隠すのではなく、グローバルに向けてのもっとマシなコミュニケーションをするべき」
「Kimchi and Chipsにリスペクトを送ろう!」「Kimchi and Chips、あんたたちは最高!」
「他のアーティストの剽窃をするのは、チームラボにとってのデジタル・ハラキリ(切腹)になるよ」

本当にあらゆる国のアーティストやファンが、Kimchi and Chipsへの連帯を示している。しかしトークにおいて、エリオット・ウッズが言及したのは、「cryptomnesia」(クリプトムネジア)。心理学用語で、無意識的盗作潜在記憶と呼ばれる現象でありました。

以前に聞いたり見たりした情報を忘れてしまい、後でそれを思い出した時に「自分が考えた新しいアイデア」だと勘違いしてしまうこと


例えば、ピカソですら"クリプトムネジア"をやらかしたりする。上画像の右側の比較は、左側がジョルジュ・ブラック「ヴァイオリンとろうそく立て」(1910年)で、右側がパブロ・ピカソ「アコーディオン奏者」(1911年)。こういったことは列挙に暇がなく、"非難すべきこと"では無かったりするのである。

でも世界に無数にあるアートをチェックするなんて物理的に不可能だし、もうどうすればいいの?!無自覚にパクリをやってしまっていたら怖い!どうしよう!

■真鍋大度は作品制作時に徹底的なリサーチを行う

そして、そういうことを避けるために、例えば国際的に評価されているメディアアーティストの真鍋大度は、作品制作時に「徹底的なリサーチを行う」ことで知られています。彼は論文も書くし特許も取ります。リサーチはこちらから見ることができます。

真鍋大度のリサーチは一般に公開されている

このデジタル/検索/Googleありがとう/なんかやらかしたらすぐにSNSで大炎上時代に、わざわざ訴訟リスクのある"パクリ"をやるバカ(あっ言っちゃった)はなかなかいないわけで、たまにいると「やるな!」という気持ちになる。(そして秒で炎上し、秒で取り下げられる)

即座に思い出されるのが、メディアアーティスト"クワクボリョウタ"の作品『10番目の感傷(点・線・面)』を無邪気に再現した「オリジナルのあそび」の記事をメディア「VERY」に掲載した2020年の"事件"。記事公開から秒で「これクワクボリョウタじゃん!!!!!」とSNSで絶叫が起こったのですが、筆者が即座にクワクボリョウタの作品からインスパイアされたものであることを認め、きちんと正式に謝罪を行い、記事においてもクワクボリョウタについて言及することで、まっとうなものになったのです。


↑クワクボリョウタのオリジナル『10番目の感傷(点・線・面)』
↓VERYに掲載された「オリジナルの遊び(即座にクワクボリョウタの作品がリファレンスであると修正完了済)」

きちんと修正された記事

■「チームラボ」がなぜ批判されているのか?


非表示にされたコメント

エリオット・ウッズも言ったように、ピカソですら"クリプトムネジア"をやらかす。そして、上記のクワクボリョウタの例のように、間違った行いをしてしまった場合は、きちんと公式に謝罪をして、和解をし、見る人に正しい知識を伝えなければならない。そうでないと、"デジタル・ハラキリ"をすることになる。

今回チームラボが世界中のアーティスト/オーディエンスから非難されているのは、

インスタグラムにおいてKimchi and Chipsに言及したコメントをチームラボ側が"非表示"にしている

からなんです。

Kimchi and Chipsがタグ付けされたコメントが非表示にされている
「あなたのコメント、インスタで非表示(シャドウバン)されるよ!」「チームラボのような企業が、作品を関連作品やインスピレーション源として認める分には問題ないと思うけど、もし"知的財産権の侵害"になったら、法的責任を問われることになるよね」

インスピレーション源であったのならそうだと、全く関係ないのであればその意を、「公式にステートメントとして」出せば良い。そうではなく、"Kimchi and Chipsに言及したコメントを、チームラボが非表示にしていく"という姿勢が非難を呼んでいるのです。

■日本からの反応

イベントの会場に来てくださり、質問をしてくださった松浦 知也/マツウラトモヤ/Matsuura Tomoyaさんが、「チームラボよ、どこへ行く?」という記事を公開されました。この記事も、松浦さんの記事の補足として書いています。同記事内で言及があったように、チームラボが"パクリ"という騒動が起こったのは、これが初めてではありません。そしてまた、チームラボも、米企業に「パクリ」をされているという訴訟を行い、勝訴しています。

国内でインパクトが強いのは、『BASSDRUM』Toyoshi Moriokaさんが書かれている「メディアアートとパイオニアと名乗ることの難しさについて」で触れられている、株式会社ココノヱ(岡山)製のデジタルアートと、チームラボ作品が類似している件。

↑株式会社ココノヱ(2010年)
↓チームラボ(2013年)

この"類似"は当時Web業界で

「マジかよ」

と凄まじいざわめきになったのですが、特に訴訟などは行われず、ココノヱはWhatever Co.と合流し、今も元気に活動を続けています。

■海外スタジオの作品

Design I/O (including Theo Watson)"CONNECTED WORLDS"(2015)
Design I/O (including Theo Watson)"CONNECTED WORLDS"(2015)
Design I/O (including Theo Watson)"CONNECTED WORLDS"(2015)
Design I/O (including Theo Watson)"CONNECTED WORLDS"(2015)

上記はEMILY GOBEILLE、THEODORE WATSON、NICK HARDEMANらのクリエイティブスタジオ「Design I/O」(アメリカ)が、2015年に発表した没入型大型インスタレーション"CONNECTED WORLDS"。

Design I/O "FUNKY FOREST"(2007)
Design I/O "FUNKY FOREST"(2007)

こちらはさらに遡って、2007年のDesign I/O "FUNKY FOREST"(2007)。

そして、下記がチームラボが2018年にオープンした施設。

teamLab(2018)

■チームラボは、「アート」なのか?

タイトルのゴッホより普通にラッセンが好き〜チームラボと「アート」についてというのは、この「チームラボはアートなのか」という問いについてです。

2015年、「六本木アートナイト」で、落合陽一さんら、メディアアーティストらが集うカンファレンス六本木ダークナイトが開かれました。イベントのディスクリプションには「日本のテクノロジー・アートはクール・ジャパンなキラキラ魔法の遊園地?」と書かれています(書いたのは私です)。そこで登壇者の一人が出したスライドには大きな文字でこう書かれていました。

チームラボはアート界のラッセンである

ラッセンがアート界でどんな文脈で語られているか?もしきれいなイルカで心が癒やされるから大好きです!と思っておられたら、もうこの記事は読む必要がないので今すぐにページを閉じて下さい。

この「チームラボ=ラッセン」説は、原田 裕規の書籍『評伝クリスチャン・ラッセン 日本に愛された画家』においても展開され、ラッセンの存在はチームラボに近いものであると書かれています。

ラッセンに対して「君はコンテンポラリーアートの文脈が分かってないよ!」と説教する奴はいません。ラッセンは、そもそも正当な"アート"の文脈の上で勝負をしていないからです。その代わりに、秋葉原でオタクをおねえちゃんが引き込んで高額な絵画を買わせるという文脈上で活躍しています。

チームラボに対しても、「君はメディアアートの文脈が分かってないよ!」と突っ込む人は居ない。ただ施設に行き、インスタ映えのする写真を撮影してアップすれば良い。あのマドンナだって来日の際はチームラボの施設を訪れているし、「チームラボプラネッツ」の年間来場者数が、「単一アート集団の美術館で世界最多」としてギネス世界記録に登録されたくらい、評価されています。世界的ギャラリーのPACEとも契約をして、世界中でエキシビションを開いています。

他のテック・アーティスト/クリエイティブスタジオの通例とは違って、チームラボの体質として特徴的だと思うのは、現場で手を動かしているクリエイターの個人名を積極的に打ち出さないように見えることです。コンテンポラリーアートの世界では、いわゆる"裏方"の名前が出ることは異例ですが、チームラボがいるのも"コンテンポラリーアート"の文脈であるのかもしれません。問題なのは、我々がチームラボを同時代のテック・アーティスト/クリエイティブスタジオと並べて語ってしまうことにあるのかもしれません。

例えば、紀元前の彫刻ですら、作品名のプレートには材料が書いてあります。しかし、チームラボは、これは◯◯(例えばUnity)を使っているな?という場合にも、ツール名を明かすことを避けます。理由は「アート作品だから」です。下記に、他クリエイティブ・スタジオの"WORKS"欄において我々が見慣れている典型的な事例を挙げます。

下記は制作の一部にUnityを使って作られた大丸300周年記念インスタレーション「Flower Mirror」dot by dot inc.

Webサイトには、詳細なクレジットがあります。

こちらは元チームラボメンバーの方たちで作られた「stu.」のUnityを使ったプロジェクトですが、独立後は積極的にビハインド・ザ・シーンの公開を行っています。

最後に、真鍋大度が「アート二次利用問題」について書いた記事を貼ります。記事ではたくさんの例の後に、石橋素(モトイ・イシバシ)がこうコメントしています。

「実は、僕自身、同じようなことをやっている作品を見たり誰かが似たようなことをやっているのを見ることは、実は嫌いではないです。自分の考えていたことが間違ってなかったと証明してもらったような気分になるから。〜略〜 アート制作が短距離走なら、プロダクトはマラソンでしょうか。普段短距離ばかり走っている自分としては、マラソンを走る選手は尊敬に値します。広告とアートが微妙な立場になりがちなのは、お互いに短距離走者だからかもしれません。アートが短距離というのはおかしい、アートは本来100年残るものであるべきだ、という意見もあると思います。でも、広告でも、本当に素晴らしいものは、いつまでも残っています。広告でもアートでも、そういうものを作りたいと、日々思います。」ー 石橋素

https://www.cbc-net.com/dots/daito_manabe/manabe_02/

とりあえず、今回は2025/5/30に観測できる範囲内での情報をお伝えしました。続報は、もしあればあります。




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