選挙ハックの怖さ、宮城県知事選でも明らかに。あなたの街にも参政党はくるかも
宮城県知事選、参政党にギリギリで勝つ
2025年10月26日(日)に投開票のあった宮城県知事選は、ギリギリの結果となりました。現職が6期目の当選を果たしましたが(多選そのものも批判はされてはいました)
村井嘉浩 34万190票(現職・自民党が応援)
和田政宗 32万4375票(参政党が実質的に応援)
僅差といってよいでしょう。しかも、一番大きな人口を抱える、県庁所在地の仙台市では、和田候補が得票数を上回っていたのです。
あなたの街の選挙にやってくる
次はあなたの街の選挙に、参政党がやってくるかもしれません。
彼らは人口の多い都市部、若者〜中年(20代〜50代)の多いエリアをターゲットにします。動画とSNSで、対立候補のデマや陰謀論を拡散させ、LINEのオープンチャットでサポーターを動かします。
新聞とテレビは、オールドメディアだとばかにされても、こういうときにこそ報道機関の意地を見せて、選挙期間前、選挙期間中でも、しっかり報道してほしいと思います。
オールドメディアは意地を見せて
筆者は自身が SNS や note という、ある意味、不埒な場所に文章を書いているからこそ思いますが、現場にいって取材する人の届ける情報が、やっぱりいちばん信頼できます(YouTube や SNS の情報に価値がないとは全然思いませんが、また別種のものでしょう)。
現地に足を運び、人に会い、書いたものを何度も直され、ボツにされて、校正・校閲を通し、フィードバックを反映させて修正する。映像もそうです。短い分数のために、膨大な手間をかける。
組織やチームでのトレーニングを経ないとできない仕事がある。だからこそがんばってほしい。選挙の終わったあとで「実はこうでした」と伝えても、文字通り、あとの祭りなのです。
デマと戦った河北新報
今回、地元・仙台の有力地方紙である河北新報は、選挙期間中にもファクトチェックの記事を積極的に載せました。メディアとしてなすべき仕事をしたということだと思います。
河北新報の立場としては、現職の村井知事はすでに5期を経ており、あまりにも長期県政となっているということで、当初は批判的なスタンスだったそうです。
しかし、参政党党首の神谷宗幣氏が仙台市に何度も足を運び、以前は自民党に所属していたはずの和田政宗候補を強烈にプッシュしました。同時に、SNS上で怪文書のようなものや、根拠のないショート動画が出回ります。
それらに対し、河北新報はファクトチェック記事を掲載し、選挙速報も会員登録なしで誰にでも見られる状態にして、ウェブで情報を公開しつづけました。
当選速報記事でもデマを解説
河北新報は、村井氏の当選が決まった直後の速報記事でも、今回の選挙がいかに異常だったか、しっかりと書いています。
「本当に苦しかった」。大激戦を制し、県政史上最多の6選を飾った現職村井嘉浩さんは何度も支持者と抱き合い、涙も流した。(中略)長期の治世は「飽き」を生んだ。突き進んできた仙台医療圏の病院再編は大票田の仙台市内で不評。交流サイトでは「メガソーラー推進」といったデマが流布した。
「売国奴!」。中盤、仙台市内で演説中に大声でののしられた。「今回負けると思っている」。村井さんは心身が削られた。 「デマに負けていいのか」。20日、誹謗中傷への法的措置の検討を表明。危機感を覚えた自民党県議らもようやく覚醒、最終盤で組織が猛回転を始めた。
宮城県知事選で検索、オレンジ一色
知事選で2位となった和田候補は、賛成党の公認ではないものの、神谷宗幣氏と並んで選挙演説をしており、実質的には参政党候補といってよい扱いでした(神谷氏もご自身でそのように発言なさっていました)。

また、選挙期間中に「宮城県知事選」というワードで検索すると、X(ツイッター)に出てくるのはオレンジ色の記号のついたアカウントばかり。

ネットに出回る画像も、一般的な選挙チラシのレベルを超えた好戦的なデザインのものが多く、過激な言葉が目立ちました。

兵庫県知事選でのN国の動きと重なる
筆者が思い出したのは、昨年の兵庫県知事選です。度重なるパワハラで辞めることとなった斎藤元彦氏は、信じがたいことに知事選に立候補したのです。あれだけの悪事を明るみに出されても立候補できるのか、と世間は厚顔無恥に驚きました。
もちろん、当初の世論調査では、斎藤元彦氏の支持率は他候補より低かったのです。
ところがN国が立候補をしました。そして「2馬力選挙」として、斎藤元彦氏と同期させて選挙演説をして回り、その動画を次々とYouTubeなどにアップしていったのです。
斎藤氏はひたすら、一人で頭を下げて、「かわいそうな風情」を見せる。同じ場所で少し時間をズラして、N国が他候補の誹謗中傷をし、デマを拡散させる。
悪口担当がN国で、かわいそうぶった姿をひたすら見せるのが斎藤氏の役割でした。その対比により、斎藤元彦氏は「ハメられて失脚した知事」のイメージをつくり上げ、知事に返り咲きます。N国が県議の自宅前で怒鳴り散らす映像もありました。この過激な行動は、やがて複数の自殺者を出すことになります。しかし斎藤元彦知事は、そのことに対して知らぬふりを決め込み、いまも知事でいるのです。
デマの内容は「利権」+「排外主義」
兵庫県知事選では、斎藤氏は「利権」と戦っているのだ、それをよく思わない連中が斎藤氏を引きずり下ろした、という屁理屈がばらまかれました。「巨悪」と戦う、という虚構を仕立て上げたのです。
今回の宮城県知事選でも「利権」という言葉は出てきました。それに加えて「排外主義」が加わったのがアップデートされた点です。
現知事は移民政策を進めている、ムスリムのための土葬墓地を建設する、メガソーラー利権にどっぷり、宮城県が大変なことになる、というSNSと相性のよい、トレンドに乗ったデマが流されたのです。それまで県政に興味を持っていなかった人ほど、このようなセンセーショナルな情報に接すれば「大変だ」と危機感を覚えるでしょう。

選挙ハックにやられると、政策が議論されない
今回はからくも参政党候補の当選は阻んだ宮城県知事選でしたが、ではそれで「めでたし、めでたし」かというと、そうではありません。さすがに6期目ともなると村井知事も高齢となっておられますし、長く続けてきたことによる信頼もあれば、批判の声もあります。
本来であれば、過去の県政のチェックと、新たな公約やビジョンによって、県民の総意が問われる選挙だったはずです。
しかし、参政党というパラシュート部隊のような選挙屋さんが登場することで、そういった政策論争などしているヒマはまったくなくなってしまいました。
参政党は、他の県知事選にも?
参政党にとっては、推している候補を勝たせることができればもうけもの、そうでなくても結果的に既存の一番強い候補(多くの都道府県において、たいていの場合は自民党です)を勝たせることになるのですから、もしかすると、変な話、恩を売るようなことにもなるのかもしれません。
参政党の神谷宗幣氏は「今回うまくいけば他の県でも候補を立てて知事選に打って出る」という趣旨のことを和田候補の応援演説で話していました。
和田氏は接戦で負けましたが、仙台市に限れば(つまり都市部では)村井現職に票数で勝っていたわけで、参政党としては手ごたえを感じたでしょう。あなたの住む街にもやってくるかもしれません。

東京、兵庫、宮城…知事選でハックが跋扈
参政党はもしかすると、このような「実績」を買われて、「呼ばれる」ことがあってもおかしくはありません。「現職には大きな不満があるが、デマをばら撒く落下傘候補に比べればマシだ」という「マトモ VS デマ」という究極の選択を、有権者は突きつけられることになるからです。判断基準がにぶってしまいます。
本当は「マトモ」「マトモ」「マトモ」の中で「どれがいちばんよいか?」を選ぶのが民主主義なのに、それが機能しなくなってしまいます。

2024年の東京都知事選では、石丸伸二氏がそのような役割を果たしました。彼の登場で、小池百合子知事 VS 蓮舫候補の「政策の違い」を問う意味合いが相当に薄まってしまったように感じます。「女性候補はなんとなく嫌だ」という人たちの票も相当、石丸氏に流れたように、当時は感じました。
東京、兵庫、宮城という大きな人口を抱える都県の知事選で、選挙ハックによる混乱が続いている、という見方もできます。今後、どうなるのでしょうか。
「若者=バカ」は間違い。無関心層に届く参政党
NHKの出口調査での世代別支持率が X(ツイッター)では話題になっていました。これを見て、若い人に判断力がない、というような意見も見られましたが、筆者はそうは思いません。

40代くらいまでは、まだ政治的な経験値も少なく(ああ主張していた候補に、当選後にこう裏切られた…とか)社会福祉も負担する一方でその恩恵にあずかる機会も少なく、また仕事も忙しく、情報の取得チャネルもテレビや新聞・雑誌ではなくスマホがメインです。
そういった人たちに「届く言葉(ワンフレーズ)」「届くパフォーマンス」「届くメディア(動画×SNS)」でリーチする、という参政党のマーケティング的な選挙手法がマッチした、ということではないでしょうか。安易に若い世代を糾弾することは、避けたほうがよいでしょう。
FNNの調査では、10代の評価は違う
FNNの出口調査を見ると、10代と20代で分けてあり、その2階層の回答は、かなり結果が異なるのです。
和田氏(参政党)に投票したのは、概観としては10代〜40代が多いのですが、10代では4割が現職の村井氏にも投票しています。

筆者の推測に過ぎませんが、10代には以下のような特徴があるのではないか、と考えます。
10代は高校で「公民」や「現代社会」の教育を受けてまもなく、判断基準となる社会科科目の素養がある
また、実家に暮らしの割合が高く、他の大人(保護者)の姿勢を見たり、会話したりする
家で購読している地元新聞やテレビからも情報を取得する
希望と危惧
もし前段の3つの仮説が当たっているのならば、以下がデマ選挙ハックに対抗する手段となりえるのではないでしょうか。
社会科科目の知識を大切にする(大人にも学び直しの機会が必要)
政治をタブーにしてしまわず、話せる空気をつくる
オールドメディア(新聞・テレビ)がしっかり報道する
やはり、政治についてなんとなく語る「空気」のようなものがあるかないかによっても、今後の選挙というのは変わっていくのではないか、と一縷の望みのようにも感じます。
話し合いや議論までいかなくてもいい。「ああ、一緒に働いているこの人は◯◯さん支持なのだな」となんとなく伝わっても、それがヤバい話題ではなく、大丈夫なこと。社会生活の支障にならないこと。
また、「あの政党だけはヤバい」くらいは最低限、口にできる空気。
それがないと、民主主義のための「手段」であるはずの選挙によって、コミュニティが分断されるようなことすらあるのではないか、と危惧します。
参考図書
「言った者勝ち」社会 ポピュリズムとSNS民意に政治はどう向き合うか (朝日新書)
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