創刊準備号で廃刊した超短命漫画雑誌「アキバナ!」を読む
漫画雑誌の歴史は古い。たとえば講談社の「なかよし」は現存している漫画雑誌の中ではもっとも古く、刊行は1954年(昭和30年)で、とうに創刊70周年を迎えている。小学館の「週刊少年サンデー」、講談社の「週刊少年マガジン」はともに1959年3月17日に創刊されており、けっこうな古株だったりする。
では逆に、もっとも歴史が短い、短命に終わったドスベリ漫画雑誌はなんだろうか。こういう話題の時によく挙がるのが芳文社の「コミックギア」である。漫画家のヒロユキ主導のもと、「マンガ誌の作り方、変えてみました」というキャッチフレーズととともに登場した同誌は、編集者を介入させず、連載作家同士が協力して作られたという触れ込みであった。その結果、大ゴマ連発でページ稼ぎするスカスカの作品だらけになり、「マンガ誌の作り方は変えないほうがいいな」と世の中に周知するだけに終わった。このコミックギアはわずか2号しか刊行されていない。
2号より少ない1号、つまり創刊号で廃刊になってしまった雑誌もいくつかある。有名なのが株式会社ホビージャパンの「コミックジャパン」だ。ホビージャパン誌にプレ創刊号を付録でつけたり、「3号連続特製トレーディングカード全員プレゼント」などのキャンペーンを開催したりと鳴り物入りで刊行されたものの、想定より大幅に売れなかったためか2号以降は刊行されなかった。
実業之日本社の「コミックキューガール」も創刊号が最終号になってしまった雑誌である。「エロくてキュートな少女だけのハイブリッドコミック誌」を謳い、克・亜樹に渡真仁、ガビョ布といったなかなか通好みの連載陣でスタートしたが、成年指定を回避するためかパンチラや裸(乳首なし)程度に収まっているという中途半端さで、創刊直前に1号で廃刊になることが決定したらしい。
さすがに創刊号で廃刊という記録は越えられないだろう…と思いきや、世の中にはそれ以上の猛者がいる。それが今回紹介する、株式会社デジマ「COMICアキバナ!」である。創刊準備号、つまり0号で廃刊となり、正式に刊行されないまま終わったという羽化不全雑誌なのだ。まあ大々的にスタートしてから「あっ、やっぱアカンわ」となるよりも、創刊準備号の時点で撤退できるほうが商売的には正しいのかもしれないが。

「アキバ発刊」をアピールするこの「アキバナ!」、そもそもは「コミック・ガンボ」の姉妹誌という立ち位置だったようだ。2007年1月に創刊した「ガンボ」は定価0円のフリーペーパーで、世界初の無料週刊漫画誌を謳っていた。それで資金繰りがうまくいっていたのか!? と心配になるが、普通にうまくいっていなかったらしく、創刊から1年足らずの2007年12月に廃刊となっている。「アキバナ!」も「ガンボ」の流れを汲んだ無料漫画誌であり、秋葉原近辺で配布されていたという。
では、そんな「アキバナ!」創刊準備号の中身を見てみよう。巻頭は「アキバでミツケタオンナノコ」しおりチャンのグラビア。しおりチャンの尊敬する人はお母さんと大谷育江、好きなアニメは「ARIA」と「おおきく振りかぶって」とのこと。

漫画誌だけあってメインコンテンツは漫画である。基本的に天使だの守護獣だのの女の子がパンツを見せるという、おんねこの作者のfanboxみたいな内容が目立つ。目玉は松山せいじの「エイケン スピン★オフ」だろうか。当時すでに連載は終了していたとはいえ、アキバを闊歩している連中の知名度は高かっただろう。漫画的にいちばん面白かったのはMoo.念平の「アキバ風雲録 響!」で、武道家のメガネっ娘メイドがアキバの平和を乱す奴を空手で成敗するという、雑誌のコンセプトに100%の解答を見せてくれる逸品。他の作品もこれくらい気合が入っていてくれればよかったのだが。

その他、本田透の短編小説「那穂とぼくとクーワクーワの島」が掲載されているほか、巻末イラスト「MEGANE & BREAST」ではおっぱいが大きくてメガネの似合う女の子が集められている。
雑誌が無料な以上、広告費でペイするしかないんだからさぞかし広告まみれだろう、と思いきやそれほどでもない。もっとガンガン載せてもええんやでと心配になるほどだ。


さらに、裏表紙から反対側に読むかたちで、「よあにの16」という代々木アニメーション学院の広告特集が掲載されている。代アニ在籍のクリエイターの卵14名へのインタビューで構成されており、声優の松井恵理子のデビュー前の姿が見られたりする。「若人はフレッシュでええのう」と公園のジジイのような気分になれる読み物。

総ページ数は128P。そのうち「よあにの16」を除く広告は20ページ足らずなので、「無料のわりに読みごたえはある」と言っていいと思う。ただ、これが商売になるかどうかは全然別の話である。この創刊準備号が出たのは2007年の10月下旬で、株式会社デジマが同年12月に事業停止したことを考えると、かなりギリッギリの背水の陣だったことは想像に難くない。
紙の雑誌がゆるやかに滅びへの道を辿っている今、漫画はネットで「無料」で読むのが当たり前になった。「アキバナ!」並びに「ガンボ」は時代を先取りし過ぎていた…とも言えるが、時代とは関係なくいろいろとズサンだったのではないかという気もする。我々もがんばりましょう。何かを…。
