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稼げなくなった日本棋院

とりあえず日本棋院の主な収益手段を大きく5つに分類してみます。

  • 棋戦運営による収益

  • 指導碁や普及活動による収益

  • 物品や書籍などの販売による収益

  • サロン経営による対局場収益

  • 会費や寄付による収益

一番上は前回に書いたので、今回は下3つのお話です。
一番肝心な部分であり、数字を追いかけるだけで心が豊かに楽しくなれる部分でもあります。
間にある指導系の収支は特に面白い数字でもないので、各自で勝手にお調べ下さい。


物品で稼げなくなった日本棋院

扇子や色紙といった定番物から碁盤といった高級品まで取り扱う日本棋院の物品販売。
決算書類上では販売品売上による収入と販売品仕入・販売経費による支出に分けられ、その差額を利益として見る事ができます。
さっそく平成23年度以降の数字を見てみることにしましょう。
なお、数字の小さい手数料収入や販売促進費は無視している事に留意して下さい。

徐々に減少していた利益が平成30年度から加速し、コロナをバッコリ食らって以降は回復の兆しがありません。
平成30年度というのは本院の工事があった年で、その影響の可能性もありますが、その後の推移を考えると割と折れた理屈付けが難しいところです。


紙で稼げなくなった日本棋院

初心者向けの入門書から高段向けの棋書に囲碁を打てなくても読める棋士本といった書籍、囲碁未来や碁ワールドといった雑誌、そしてコンビニ展開もしていたタブロイド紙「週刊碁」といった印刷物は日本棋院の重要な収入源でした。
決算書類上では書籍、雑誌、新聞がそれぞれの収入と制作費で分別して計上されているので順に見ていきます。

書籍で稼げなくなった日本棋院

本の文化は電子化されたものが主流となってしまいましたが、局面図と盤面を並べながら読み進めるとなると、本の方が勝手が良かったりするわけでなかなか捨て難いものがあります。
そんな書籍類の利益推移がこちら。
なお新刊数は事象報告書内に載っている冊数です。

物品同様に平成30年で折れ曲がり、コロナで制作も止まって現在の利益は10年前の10分の1。
そもそも、囲碁年鑑(たぶん書籍扱い)以外の制作は2023年に出された一力の評伝本が最後という有様。
下手に制作体制を維持して部門赤に転落する前に撤退したとも言えます。
人件費が別枠で計上されてることを考えると実質赤な気もしますが。
なお、電子書籍も別項計上されていますが年間収入が100万前後しかないので省略しています。

雑誌で少し稼げなくなった日本棋院

初心者向けの囲碁未来と最新情報を追いかける碁ワールドの2雑誌を発行していましたが、令和4年4月号で囲碁未来が休刊で現在はワールド一本勝負。
雑誌ブームの90年代は稼げたのぅ、という昔話もしたくなりますが、ネットで簡単に出せる決算は21世紀物だけなので現実を直視しましょう。

こちらは平成29年度から1000万~2000万の減収が発生し、コロナ禍で追い打ち食らって囲碁未来が昇天した形。
しかし、平成の末にピンポイントで囲碁界に何かありましたっけね。
片割れが無くなった割に利益を保持しており他の項目より見栄えは悪くないのですが、コロナで3000万ほど削れてる現実は直視したくないものです。

新聞で稼げなくなった日本棋院

一部地域ではコンビニでも展開されており、読んでなくとも一般的に実物を目にする機会は一番多かったと思われる週刊碁。
新聞・夕刊、スポーツ紙に混ざって置かれるタブロイド新聞でした。
youtubeの棋戦中継でもロゴを大きく載せて販促していたものの、令和5年8月一杯で46年の歴史に幕を下ろしています。
一般的には赤字解消できずに力尽きた、という認識かと思われますがその数字の推移を見ていきましょう。

こちらも平成末から怪しくなり、コロナで大ダメージを喰らって令和4年からの原価高騰で介錯された感が一番ハッキリと現れているかと思います。
変に続けるよりはマシであったことは確かですが、次の項目との連携面では言いたい事があったり。

電子媒体で稼げなかった日本棋院

週刊碁を終わらせた日本棋院は、後継媒体としてnote上に棋道webを作ります。
立ち上げは週刊碁が終わった翌月の令和5年9月。
そして令和7年3月で配信停止。
わずか1年半での瞬殺でした。
その間の利益はどれほどだったのか、見てみましょう。

売上月平均30万円。純赤早期撤退やむなし。
ではあるのですが、他の項目と異なり個人的に関わっている業種でもあるので、この項だけ少し掘り下げます。
紙からwebへ完全移行した雑誌はそれなりの数が存在していますが、移行成功の可否を分ける一つの大きなポイントがあります。
それは、紙とwebの並行期間を設けること。
web媒体の読者となる最大の読者層は紙媒体の読者です。
その読者に対して「webに移行するから発表を待っててね」ではなく
「webに完全移行するからこのサイトに登録してね」と直接導線を設けるか否かで移行者数が1桁以上平気で変わります。
webで先行配信した記事を紙で後追いする形にしてwebの優位性を示せれば尚良しです。
反対に紙が無くなった後にwebを始めても、紙時代の読者の大半には届かず後の祭り。

本気で棋道webを運営する気があったのであれば、体制に多少以上の無理が生じたとしても1ヶ月以上は平行運用してwebへの移行を直接促す必要がありました。
主要読者が腰の重い高齢層であれば尚更です。
という要点は令和5年の段階で割と明確だったと思うのですが、小林体制の日本棋院はこれができなかった。
個人的に指摘できる経営陣の失策がこれです。
紙と比較した電子書籍の利益率というのは一般の方が想像する以上に優秀でして、休刊前の数字から見ると定期購読が10%ぐらい移行できれば事業としてOK、棋道webの記事量であればそれより下でも十分だったはずなのですが、所属棋士の人数にも満たない契約者数ではどうしようもありません。
私は多くの項目で収支が悪化している事に対し当時の経営責任を問う材料を有していませんが、これに関しては致命的な手順前後を犯したと指摘しておきます。
まぁ、軌道に乗ったとしてもトントンぐらいでしょうが


碁会所の稼ぎが減った日本棋院

東中西の本部に有楽町、梅田、茶屋町の囲碁サロン。
一般的に経営面で語られることは少ないようですが、対局場の提供は事業報告書でも割と掘り下げられている項目であり重要な収入源の一つとなっている事が示唆されています。
という事で決算の数字推移を出すのですが、その前に一つ注意を。
囲碁サロンでは指導碁なども行われていますが、指導関連は他の事業と混ぜられてるので、ここでは入場料の項目のみで見ます。
また、サロンの経費となる家賃経費が単独の項目で存在しておらず、賃借料として計上されている様子。
この項目はOA機器等のレンタル代も含まれているはずで純粋なサロン経費とならないと思われるので、右側に考慮数字として載せました。
その辺を踏まえた上で御覧ください。

こちらは減少傾向だったものがコロナでボッキリと折られた形。
そして完全に社会が戻った現在も7割程度の回復率というのが、日本棋院だけでなく囲碁産業全体を表しているようでもあります。


会費の稼ぎが減った日本棋院

適当な会報だけでお金をくれる会員さんはあらゆる組織の強い味方。
それは日本棋院も変わりません。
そんな会費利益がどのように変化しているかも見ていきます。
なお、幽玄の間会員と思われる利益は平成29年度まで事業利益「インターネット」、それ以降は受取会費「インターネット会員」として集計されているようなため列を分けています。
また、個人、法人、ネットと列が多いため収入、経費、利益の3つに表を分けました。

会費収入
会費経費
合体して会費利益

9桁の利益があるため一瞬の見栄えは悪くないのですが、10年で1億削られており金額的には一番エグい。
直近3年の赤が実質億超えしている理由はここの減収が一番の原因です。
特に令和5年の減少幅を見ると、週刊碁会員の収入もこの中に入ってたのかな?、そして一般会員への移行に大失敗したのかな?
という疑問もよぎる所ですが、その辺は内部事情の詳しい人に丸投げします。


稼げなくなった日本棋院

長くなりましたが、これらの事業収入の減少をまとめるとこんな感じになります。

という事で、平成末から拡大しコロナでザックリやられている正味財産の赤字を大まかに表現することが出来ました。
なにか特定の要因ではなく全体を通して稼げなくなっている状況がわかります。
当時の経営責任を問う声もありますが、詳細が見えないものの関西棋院も割と似た雰囲気の数字になってる事から「業界として終わっている」という身も蓋もない言葉で終わらせても良いのですが、まだ掘り下げられる部分はありますのでもう少し続きます。

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