【中学生のスマホ】持たせる? 持たせない? 脳科学が示すリスクと「iPad+AirTag」という第3の選択肢
はじめに
「みんな持ってる」のその先へ
「クラスのほとんどが持っているから」
「スマホがないと、友だちの輪に入れない」
中学校入学を控えた時期や、進級のタイミングで、子どもからこう言われて悩んでいる保護者の方も多いのではないでしょうか。
内閣府の調査によると、中学生のインターネット利用時間は平日でも平均で約4時間37分[1]。もはや「中学生=スマホ世代」と言っても過言ではありません。
一方で、私の運営する学習塾の現場でも、保護者の方からこんなため息交じりの声をよく耳にします。
「机には向かっているのに、成績が上がらない」
「夜中までスマホをいじっていて、朝まったく起きてこない」
「スマホを取り上げようとすると、別人のように怒り出す」
便利さと引き換えに、何か大切なものが失われているのではないか──。そんな不安を感じている方もいらっしゃるはずです。
結論から言えば、「中学生にとって個人スマホは、メリットよりリスクのほうが大きい」というのが、現時点でのデータと現場感を合わせた私の見立てです。
「みんな持っている」ことと、「中学生にとって本当にプラスかどうか」は、まったく別の問題です。
もちろん、スマホを持たせても自律してうまく付き合えているという家庭もありますが、10%に満たないと思います。それだけ、スマホの依存性は高いものです。
今回は、国内外の研究データをもとに「中学生がスマホを持つリスク」を整理し、そのうえで「友だちとのつながり」と「安全」をどう両立して守るかについて考えていきます。
そして、「スマホを持たせるか、持たせないか」の二択ではない、「スマホを持たせないで済む」ための現実的な選択肢として、「リビングiPadでのLINE+ AirTag」という方法をご提案します。
塾業界関係者の中では、「百害あって一利しかない」と囁かれている中学生のスマホとの付き合い方の参考になれば幸いです。
1. 学力と脳──「勉強しているのに成績が落ちる」の正体
1-1. マルチタスクが奪う「深い学び」
「うちは勉強時間を決めているから大丈夫」
そう思われるかもしれません。しかし、仙台市教育委員会と東北大学(川島隆太教授ら)が行った調査からは以下のようなデータが示されています[2]。
それは、「家で1日2時間以上勉強している子」であっても、スマホ等の利用時間が「3時間以上」になると、勉強を全くしない子よりもテストの点数が低くなるという結果です。
これは、「勉強時間が削られた」という単純な話ではありません。例外はもちろんありますが、少なくともこのデータから言えるのは、「とりあえず勉強時間さえ確保していれば安心」とは、とても言えない
ということです。
勉強中にLINEの通知が鳴り、それを気にして、また勉強に戻る。このネガティブな「マルチタスク(ながら勉強)」の状態が、脳への定着を妨げ、学習効率そのものを落としている可能性が高いと考えられています。
「机には向かっている」
「ノートも開いている」
でも、通知が来るたびに集中を断ち切られ、結果として記憶に残らない“やったつもり”の勉強だけが積み上がってしまう。これは中学生だけでなく、大人にも当てはまりそうな問題です。
1-2. 「ブレーキ役」の脳はまだ育ち盛り
脳科学の視点からも、気になる報告があります。意思決定や我慢、計画などをつかさどる「前頭前野」という脳の部位があります。いうなれば、心の“ブレーキ役”です。
川島教授らの研究では、紙の辞書を使ったときにはこの前頭前野が活発に動くのに対し、スマホで調べたときは活動が低下する傾向が見られました[2]。
さらに海外の研究(Montag & Becker, 2023)でも、過度なスマホ利用が、この前頭前野などの構造や機能に影響を与える可能性が指摘されています[7]。
中学生の脳は、まだ発達の途中です。
特にこの“ブレーキ役”の脳が完成するのは、20代になってからとも言われます。
まだブレーキの効きが弱い時期に、強い刺激と快楽を与え続けるスマホを手渡すこと。それは、私たちが想像する以上に、子どもたちの脳にとって負担の大きいことなのかもしれません。
2. 睡眠と心──夜のスマホがもたらすもの
2-1. 眠れない夜、起きられない朝
「夜遅くまで起きているな」と思ったら、布団の中でスマホの光が漏れていた。そんな経験はありませんか?
多くの子どもたちを対象にした調査でも、スクリーンタイム(画面を見る時間)が長いほど、睡眠時間が短くなり、寝付きが悪くなることが明らかになっています[3]。
画面から出るブルーライトが睡眠に向かうホルモン(メラトニン)を減らしてしまうこと、そしてSNSやゲームの興奮が脳を覚醒させてしまうことが原因です。
2-2. スマホが原因の不調
厚生労働省の研究班などの調査によると、病的なインターネット依存が疑われる中高生は、推計で約93万人にも上るとされています[4]。
ネットやゲームへの依存傾向が強まると、昼夜逆転や慢性的な頭痛、倦怠感などが現れやすくなります。
塾で見ていても、不登校や行き渋りの背景に、生活リズムの乱れとスマホの長時間利用が隠れているケースは少なくありません。
また、SNSの利用時間が長いほど、不安や抑うつといった心理的なストレスが高まりやすいという研究報告もあります[5]。
24時間、友だちとつながり続けることは、安心であると同時に、子どもたちの心にとって逃げ場のないプレッシャーにもなり得るのです。
3. それでも「持たせざるを得ない」というジレンマ
ここまでリスクをお話ししてきましたが、それでも「じゃあ、スマホはやめましょう」と簡単に割り切れないのが、親心の難しいところですよね。
子どもには子どもの世界がある。
「LINEグループに入っていないと、部活の連絡が回ってこない」
「話についていけなくて、仲間外れにされるのが怖い」
親には親の心配がある。
「塾の行き帰り、無事に着いたか知りたい」
「災害があったとき、連絡が取れないのは不安」
どちらも、もっともな理由です。
その結果、「リスクは怖いけれど、背に腹は代えられない」と不安を抱えながらスマホを契約してしまうご家庭が多いのが現実です。
その結果、多くのご家庭でこうなります。
「リスクは怖いけれど、子供の言い分もわかる。心配だし。
↓
本当に大丈夫かな、と不安を抱えたまま勢いでスマホを契約する
↓
いざ問題が起きても、一度渡したスマホは簡単には取り上げられない
ここが、最大のジレンマです。
ここで一度立ち止まって考えたいのは、
その「連絡」と「安全」を満たすために、本当に“個人スマホを24時間持ち続ける”必要があるのか?
という点です。
4. 「機能」を分ければ解決する。「iPad+見守りタグ」という提案
そこでご提案したいのが、スマホの機能を分解して、別の手段で満たすという方法です。
スマホは「連絡」「位置情報」「娯楽(動画・ゲーム)」などが一つになった魔法の箱ですが、意図的にバラバラにしてあげるのです。
4-1. 連絡は「リビングのiPad」で
部活や友だちとの連絡にLINEが必要なら、それは「リビングに置いてあるタブレット(iPadなど)」に入れてあげましょう。
LINEのアカウントは、自宅の固定電話番号や、通話専用のキッズケータイの番号を使えば、iPadでも作成することができます。
こうすれば、自然と次のような環境が生まれます。
LINEを見るのは、家に帰ってリビングにいる時だけ
家族の目がある場所でやり取りをする
夜、自分の部屋に持ち込んで寝不足になることがない
「いつでもどこでも」ではなく、「必要なときに場所を決めて」。それも
「自分のスマホ」ではなく、タブレットに。
これだけでも、勉強中や睡眠中への“侵入”を物理的に防ぐことができます。
4-2. 安全は「AirTag」などの見守りタグ
「居場所を知りたい」というニーズには、「位置情報」だけのツールを使いましょう。
AirTagなどの見守りタグ
子ども専用の見守りGPS端末
これらをカバンに入れておけば、スマホを持たせなくても「今どこにいるか」はおおよそ把握できます。
AirTagは周囲のiPhoneの電波を利用するため、人通りの少ない場所では位置の更新が遅れることもありますが、通学路や塾の行き来を確認するには十分な場合が多いです。より精度を求めるなら、月額制のGPS端末もおすすめです。
4-3. あるご家庭の「iPad+見守りタグ」運用例
あるご家庭では、中学入学のタイミングで「スマホはまだ持たせない」という方針をとりました。その代わりに用意したのが、
リビングに1台置いたiPad(ここにだけLINEを入れる)
通学カバンに入れるAirTag(位置情報の確認用)
という組み合わせでした。
「みんなスマホなのに、なんでうちだけ」
と子どもはかなり不満そうだったといいます。それでも、
部活の連絡はリビングのiPadで受け取れる
帰りが遅い日は、親がAirTagで「いまどのあたりか」を確認できる
という状態が一応まわり始めると、「とりあえずこれでいいか」と次第に落ち着いていったそうです。
もちろん、YouTubeを見すぎたりiPadでゲームをやりすぎて注意されたりする日もあり、「iPadだから依存しない」というわけではありません。それでも保護者の方は、
「iPadの方が、何をしているのかが分かり易いし、基本的に家の中のWi-Fiで動かしているというのも安心。スマホを渡していたら、もっと歯止めが利かなかったと思う」
と振り返っています。
実際に我が家でもまずはその形を導入してみました。当初は不満もありましたが、現在は周りの友だちも理解してくれているのでそんなに問題ない、とのことです。
これはあくまで一つの例にすぎませんが、「スマホ以外の組み合わせでも、なんとかなる場合がある」ことを示すケースではないでしょうか。
4-4. 「正解」ではなく、考える「入口」です
もちろん、この「iPad+見守りタグ」という方法が、すべてのご家庭にとっての正解というわけではありません。「緊急時の通話はどうする?」という場合は、これに通話機能だけのキッズケータイを足してもいいでしょう。
大切なのは、「中学生になったから、スマホね」と思考停止にならない方がい、ということです。与えてからでは遅いので。
「スマホを与えなければよかった」という塾生保護者の嘆きを何度聞いたことか……。
まずはスマホ以外の方法から始めてみて、必要に応じて少しずつ環境を変えていく。そんな「入口」として、この方法を検討してみてください。
4-5. 【追記】スマホへの「橋渡し」として。Apple Watchという選択
この記事を公開して以来、多くの反響をいただきました。その中で、「Apple Watch」を活用するというアイデアをいただきました。
「AirTagでは緊急時の連絡が取れない」
「でも、スマホを渡すのはまだ早い」
そんな悩みを解決する「高機能なキッズケータイ」としてApple Watchという選択をご紹介いただきました。
いやいや。
— 静 (@1wiKPP3E4P32518) November 28, 2025
iPad+セルラータイプのApple Watchがベスト。
個人的な感覚としては、AirTagのGPS機能はGoogleのそれに比べたら微妙やった。
それにタグ系は近くにiPhoneやiPadを持ってる人がいないと現在位置の更新されないし。
だから、大体の位置は把握しつつ、連絡とれるApple Watchがいい。
皆さんから頂いた情報や、web情報を元に調べてみると、これが中学生のデジタルデバイス導入期に非常に理にかなったツールであることが分かります。
特に、iPhoneを持たない子どもでも使える「ファミリー共有設定」(Series 4以降のセルラーモデルで対応)を利用することで、以下のような「ちょうどいい」使い方ができます。
① LINEも使える
多くの方が気にされるLINEですが、Apple Watch版のアプリを入れることで、メッセージの確認や返信が可能です。
ただし、画面が小さく文字が打ちにくいため、スタンプや定型文、あるいは音声入力での返信がメインになります。
② 「地図」と「少額の支払い」で自立をサポート
塾への行き帰りで役立つのが、SuicaやPASMOなどの交通系ICカード機能です。
改札をタッチで通過できるのはもちろん、コンビニで飲み物を買うといった「少額の支払い」も時計だけで完結します。財布を出す必要がないので、紛失のリスクも減りますね。
また、地図アプリも使えるので、初めて行く試験会場や遠征先でも、手首のナビを見れば迷子にならずに済みます。歩きスマホ防止の観点からも優秀です。
③ 授業中は「ただの時計」になる
親御さんにとって頼もしいのが「スクールタイム」という機能です。
これを設定すると、学校にいる間は通知が止まり、アプリも制限され、見た目もシンプルな時計表示になります。スマホのように「授業中にこっそり動画を見る」といった抜け道が、構造的に塞がれているのです。
④ 便利な「Suica」と「安全」
改札をウォッチで通過できるSuica機能は、荷物の多い中学生には便利です。
また、GPS非搭載のAirTagとは違い、Apple Watchは単独で正確な位置情報を取得できます。万が一の転倒事故を検知する機能や、ボタン一つで助けを呼べる「緊急SOS」機能も備わっています。
⑤ なにより、「依存」しにくい
画面が小さいので、YouTubeを見たり、長文のSNSに没頭したりするのには不向きです。「連絡と安全は確保したいけれど、デジタルの沼にはまらせたくない」。そんな保護者の願いを、Apple Watchのハードウェアとしての制約が叶えてくれます。
もちろん、
「毎日の充電が必要(スマホより電池が持たない)」
「端末代や月額通信費(数百円〜)がかかる」
といった、キッズケータイにはないハードルもあります。
しかし、iPad+AirTagでは少し不安だけれど、スマホへ移行する前の「橋渡し」として、この選択肢を知っておくことは有効だと思います。
我が家でもいずれ試してみたいと思います。
既存の枠組みにとらわれず、こうした新しいテクノロジーを「守るための道具」として賢く使っていく。それもまた、現代の環境づくりの一つなのではないでしょうか。
5. ご家庭でのルール作りのヒント
最後に、スマホやデジタル機器との付き合い方を決める際の、考え方を少しお伝えしたいと思います。
5-1. 機能ごとに分けて話そう
「スマホをどうするか」と大きく構えると、「禁止か許可か」の極論になりがちです。
「連絡はどうする?」「安全確認はどうする?」「動画はどこまでOKにする?」と、機能ごとに分けて子どもと話し合ってみてください。
5-2. 最初は「ちょっと不便」くらいでちょうどいい
ルール作りでいちばん難しいのは、「一度緩めたものを、あとから厳しく戻す」ことです。これは、大人でも同じですよね。
だからこそ、中学生のあいだは、
「ちょっと不便かな?」くらいからスタートして、成長に合わせて必要な機能を足していく
くらいがちょうどいいと感じています。
「最初から全部解禁して、問題が起きてから取り上げる」のは、親子双方にとって負担が大きすぎると思います。
5-3. 「よそはよそ、うちはうち」と自信を持って
ご家庭によって、状況はさまざまです。
「よそはよそ、うちはうち」。
この言葉を、ポジティブに使ってください。
周りがどうしているかではなく、「我が家にとって心地よい距離感はどこか」を、保護者の方が自信を持って選んでいただければと思います。
おわりに
スマホは決して「悪者」ではありません。便利な道具ですし、世界を広げてくれるツールでもあります。ただ、発達途中の中学生が、無防備に付き合うには少し刺激が強すぎるのかもしれません。
「スマホを持たせるか、持たせないか」の二択ではなく、「どう環境を整えるか」。
リビングのiPadでLINEを打ち、カバンにはお守り代わりのタグを入れる。
そんな「スマホを持たない」という選択肢が、大事で多感な時期となる中学3年間を守る一つの防波堤になるかもしれません。
万人に共通する正解はありませんが、それぞれのご家庭らしい「言葉とデジタルの環境づくり」をぜひ考えてみてください。
参考文献
[1]内閣府「令和4年度 青少年のインターネット利用環境実態調査」2023年.
[2]仙台市教育委員会・東北大学加齢医学研究所「学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト」, 川島隆太『スマホが学力を破壊する』集英社新書, 2013.
[3]Hale, L., & Guan, S. (2015). Screen time and sleep among school-aged children and adolescents: A systematic literature review. Sleep Medicine Reviews.
[4]厚生労働科学研究班による中高生のインターネット依存推計(2017年).
[5]Keles, B. et al. (2020). A systematic review: The influence of social media on depression, anxiety and psychological distress in adolescents.
[6]Orben, A., & Przybylski, A. K. (2019). Screens, teens, and psychological well-being. Psychological Science.
[7]Montag, C., & Becker, B. (2023). Neuroimaging the effects of smartphone (over-)use on brain function and structure. Psychoradiology.
