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ゲームメディアとインディーゲーム業界は、ハラスメント問題にどう向き合うのか

国内のインディーゲーム業界において、ハラスメントに関する問題が表面化するケースが出てきています。SNSなどを通じて当事者が声を上げ、説明や対応を求めている状況です。


しかし、そうした告発に対して、ゲームメディアによる検証や報道、業界関係者からの発信はほとんど見られません。なぜでしょうか。

この状況には、いくつかの理由があることは理解しています。

ハラスメント問題のようなセンシティブな話題の検証は、非常にハードルが高い作業です。事実確認には人的・時間的コストがかかり、訴訟リスクが伴います。インディーゲーム業界という小さなコミュニティの話題は、ニュースバリューが高いとは言えないでしょう。当事者との間に利害関係があれば、その関係性を考慮せざるを得ない場合もあります。

端的に言えば、割に合わない仕事です。

そもそもゲームメディアは、一般紙のような報道機関ではありません。多くのゲームライターは、いわゆるジャーナリストではありません。「ゲームに対する取材」と「人に対する取材」では、必要なスキルセットが全く異なります。

このあたりは現状のゲームメディアの構造的な問題で、個人的には思うところは色々ありますが、今回はその話は置いておきます。

インディーゲーム業界のコミュニティの方々が黙っている理由も似たようなものだと思います。係争中の問題に触れるのはリスクがありますし、そこに直接的なメリットはありません。何も言わない、関わらないというのが無難です。

ともかく、それぞれなにかしらの事情があって検証・報道・発信が難しいことは理解できます。しかし、このような状況で業界全体が静観を続けることは、はたして健全なのでしょうか。


誤解のないように明記しますが、私は特定の事案について追及したいわけでも、誰かを糾弾したいわけでもありません。係争中の事案の真偽を外部から判断するべきではないですし、不可能です。しかし、問題が表面化したとき、業界やメディアがどう向き合うべきかという議論は必要だと考えます。


一般の視点からは、業界やメディアが沈黙する理由など知る由もありません。そうなると、客観的には「問題が起きても誰も何も言わない」という印象だけが残ります。

それによって「業界やメディアに対する心象が悪くなる」というのは、正直それほど問題ではありません。本当に深刻なのは、被害者が声を上げる動機を失うことです。

もし現在、ハラスメントに苦しんでいる人がいたとして、この状況を見て何を思うでしょうか。「声を上げても、誰も何も言わない業界」と感じてしまうのではないでしょうか。業界全体がこの状況を容認しているように見えるのではないでしょうか。


インディーゲーム業界は、大きな組織に属さない独立したチームや個人が活躍する場です。それゆえに、ハラスメントに対して脆弱な構造を持っています。相談する先も分からず、逃げ場もなく、声を上げることさえ困難になりやすい環境と言えます。

この問題の発生自体を抑止するような「構造的な解決」は難しいのかもしれません。しかし、起きてしまった問題への対応や受け皿という点については、議論する価値があると思います。

被害者の中には、解決に向けた第一歩を「まずどこに踏み出せばいいか分からない」という状態の人もいます。困ったときに取れる選択肢やガイドラインを業界やメディアが示すことには、大きな意味があります。


ハラスメントは、ときに人の命を奪います。精神的にも肉体的にも、人を再起不能な状態に追い込むことがあります。私自身、ハラスメントが原因で友人を亡くした経験があります。

だからこそ、こういった問題を「当事者間の個人的なトラブル」として風化させることには賛同できません。


業界関係者の方やメディア関係者の方、そしてインフルエンサーの方々が語る「インディーゲーム業界のために」という言葉があります。私はそれを信じています。

認知や市場の拡大だけが「業界のため」になるわけではないのです。どんなに輝かしい栄光であろうと、クリエイターの屍の上に立っているのであれば、それはゴミです。クリエイターは守られるべきです。

沈黙は、ときに容認のメッセージとして受け取られることもあります。「この業界では問題を見て見ぬふりをする」という風土を、作りたくないはずです。

ハラスメントという深刻な課題に対して、業界全体で向き合い、建設的な議論が広がっていくことを心から願っています。


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