参政党の支持者の素描

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 前回のノートは参政党の支持者がどこかから来たのかを調べた。今回のノートでは参政党の支持者たちの姿を多少なりともとらえることを試みる。なお、類似のレポートはすでにいくつかあるが、疑似インタビュー調査形式のものが多い。インタビューは深く話を聞けるが対象が目立つ対象に偏りやすい欠点があり、このようにアンケート調査で平均的な姿を調べることにも意味があるだろう。
 なお、長くなったので簡単に要約しておく。
(1)   参政党の支持者の情報源は、テレビ新聞等のマスメディアではなく、XとYouTubeのようなSNSである。近年の「政界への新規参入はSNS経由である」が今回も見られたことになる。
(2)   参政党の支持者の重視する政策は「外国人問題」「国債発行して積極財政」「自民党右派の主張」の3つである。ジェンダー、反ワクチン、同性婚・夫婦別姓、オーガニックは優先度が低い。
(3)   参政党へのネガティブキャンペーンは、参政党への投票を止めもしたが、促進もした。「叩けば叩くほど伸びる」という面はあったが、全体としてネガティブキャンペーンが参政党への投票を増やしたか減らしたかはわからない。なお、批判するならレッテル張りより、個別の政策批判をしたほうが効果的である。
(4) 参政党の支持者が考える提携先の政党は国民民主党と保守党である。自民党でも維新でもない点に、既存政党への反発が感じとれる。


1 参政党への投票の理由

 まず参政党を選ぶ理由に何か特徴があるかを見てみよう。人々が参政党を選ぶ理由に何か特徴があるのだろうか。4つの選択肢を用意して自分にあてはまるかどうか聞いてみた結果が図1である。4つの選択理由は、政策、候補者個人、党首、そして他によい政党がないので消去法でしかたなく、の4つである。比較のために国民民主党、自民党、立憲民主党も挙げてある。

 これを見ると参政党に大きな特徴はない。政策での支持、また党首への信頼性がやや高いが、それほど大きな差ではない。政党として選ばれる理由に大きな違いがあるわけではないようである。

 違いがあるのはそこではなく、参政党の利用するメディアがマスコミではなくネットであることである。参議院選挙で使った情報源を3つほど挙げてもらうと結果にはっきり差がある。図2に代表的なネットメディアとマスメディアの結果を記した。参政党投票者の場合、X(ツイッター)とYouTubeの利用率が37%と57%で他の政党より多い。これに対し自民党と立憲民主党への投票者はネットメディアの利用率が低く参政党の半分程度しか利用していない。一方、マスメディアでは、参政党の投票者のテレビニュースと新聞の利用率は41%と11%で。自民党の投票者の64%、35%を大きく下回る。

 参政党がネットメディアを通じて支持を増やしたことは、相関を見るとさらに明らかである。表1は、それぞれの投票先を被説明変数としてロジット回帰を行った結果である。表の中の数値は限界効果で、たとえば、(1)列の参政党でYouTubeが0.0725となっているのは、参議院選挙の時の情報源としてYouTubeを使った人は、参政党への投票率が7.25%ポイント高いことを意味する。有意なものは色付きでしめしてあり、正の値なら赤で、負の値なら青にしてある。

 これを見ると、(1)列の参政党はX(ツイッター)、YouTube、ヤフーニュースが有意にプラスであり、これらネットメディアを利用している人では参政党の支持者が多い。マスメディアでは、テレビのニュースと新聞がマイナスで、このふたつが情報源の人では参政党への投票率は低下する。参政党はネットで支持を調達していることがわかる。[1]
 これに対して(3)列の自民党はX(ツイッター)とYouTubeがマイナスであり、ネットメディア利用者では支持されていない。フェイスブックのみプラスであるが、フェイスブック利用者は1割程度と低いため大勢に影響しない。一方、マスメディアはニュースと新聞の利用者の自民党への投票率が高く、マスメディア利用者が自民党支持者の中心であることがわかる。(4)列の立憲民主党も自民党と似た傾向である。これは年齢のせいではない。年齢や性別など他の要因は制御してあり、これらを一定としたときのメディアだけの効果であることに注意されたい。
 なお、興味深いことに国民民主党はほとんどの変数が有意でない。国民民主党の支持者は特定メディアに偏っていないことになる。国民民主党が1年ほど前に躍進したとき、ネットを中心に支持が広がったと言われていた。それが今回、突出した利用メディアがほとんど見られない。これは例の問題含みの2人の候補を公認したことでネットでの支持を失ったためか、あるいは1年たって国民民主党への支持がひろく浸透したためか、これだけの調査ではわからない。

いずれにせよ参政党がネットで支持を調達したのは明らかである。政界の新規参入者(挑戦者)はネットを利用して参入してくるのは、兵庫知事選での斎藤陣営(立花陣営)、昨年衆議院選挙での国民民主党、東京都知事選の石丸現象、など繰り返されてきた。今回もまた同じことが起きたことになる。



[1] なお、友人・知人の口コミも参政党だけ有意である。これはDIY政党の名前の通り、各地での集会でのさまざまな活動の成果と考えられる。

2.どの政策を期待して支持しているのか

 参政党は多くの政策をかかげているが、投票した人はこの中でどの政策に魅かれたのだろうか。参政党へ投票した人に追加アンケートを行い、10の政策リストを用意して、最も気に入った政策をひとつ選んでもらった(今回のサンプル内の参政党投票者201人に配信し、150人から回答を得た)。その結果が図3である。

 最も多いのは、1の「移民受け入れ反対、外国人労働者の受け入れは慎重に」で、ついで、2の「外国資本による土地・水資源買収を規制」が並んでいる。外国人問題がトップ二つに来ていることから、外国人への警戒感が参政党の支持者を特徴づけていることは間違いない。
 ただ、ふたつあわせても4割であり、他に関心のある人もいる。3の、国債発行して積極財政をして減税も行うというのは、国民民主党やれいわなど他の政党も言っていることである。次の4から6までは自民党の右派がながらく主張してきたことである。4で安全保障のためにスパイ防止法を制定し、5で自虐史観でない歴史教育を行い、6では日本の伝統的価値観を大切にする。この3つの政策を支持するのは自民党から流れてきた岩盤保守層であろう。

 それ以外の7以下の政策は優先順位が下がり、最重要視する人は少なくなる。7の家庭での女性を支援するというのはジェンダー問題への反旗と解釈され、メディアではよく取り上げられたが、参政党の支持者から優先度が高いとは思われていないようである。8のワクチンもあまり気に掛けられていない。反ワクチンの人々が参政党を押し上げたとされる分析があり、確かに明確に反ワクチンの姿勢を取る政党が参政党しかいないため、反ワクチンを重視する人は参政党を支持するだろう。しかし、参政党支持者の中でこれを最重視する人は数としては多いわけではないようである。9の夫婦同姓・同性婚問題も関心が低い。10の有機栽培と食の安全は、オーガニック右翼という言葉で一部で取り上げられたが、これも政策としての重要度は参政党支持者の中では低い。
 さらに、参政党の政策の中で気に入らない政策をあげてもらったところ、7~10の下位の政策を挙げる人が多かった。図4がその結果である。参政党はできたばかりの政党で政策体系が周知されていないので、投票者から見て気に入らない政策が含まれていることは十分ありうる。図を見ると特に8~10の政策について気に入らないという回答が10%弱存在する。これら下位の政策は参政党の重要政策にはならないだろう。

 望む政策によって参政党の支持者を特徴づけるなら、「外国人への慎重なあるいは警戒的な態度」、「積極財政と減税」、「安全保障と伝統的価値観の維持など自民党右派の主張」の3つ政策の組み合わせである。ジェンダー、ワクチン、夫婦別姓・同性婚、オーガニックは参政党支持者の優先事項ではない。外国人問題、積極財政と減税、自民党右派の主張、の3つのうち積極財政と減税は他の野党も主張する政策なので、参政党を政策面で特徴づけるのは、外国人問題と自民党右派の主張と言ってよいだろう。

 別の見方として、参政党を構成する2大グループ別に政策の優先順位を見よう。前のノートで述べたように参政党の支持者は、元は自民党を支持していた岩盤保守層とこれまでは投票に行かなかった無関心層からなっている。この二つのグループ別に気に入った政策を描いたのが図5で、緑色が元自民党支持者で紫色が元無関心層である(元自民党支持かどうか、無関心層かどうかは、21年の衆議院選挙のときの投票先で決めてある)。グループに分けたせいでサンプル数が少なくなるので大きな傾向だけ見ていただきたい。



 これをみると、大筋の傾向として似てはいるが違いもある。4,5,6の自民党右派の主張を支持するのはやはり元自民党支持だった人たちである。かれらは同時に2の外国人による水資源や土地の買収を規制すべきと考えている。元無関心層は1の移民と外国人労働者問題には熱心であるが、水資源や土地の買収にはあまり関心がない。それよりも減税をして手取りを増やす積極財政を望んでいる。
 無関心層では特にあてはまるものがないという人も多い。参政党の政策にここに挙げた以外の政策もないわけではないがあまり知られていない。それより元無関心層のなかには政策を特定せずに、現状に全般的な不満を感じており、それを打破してほしくて参政党を支持している人がいるのではないかと推測される。


3.ネガティブキャンペーンの効果

 今回の参議院選挙中、リベラル陣営から参政党にネガティブキャンペーンが行われた。参政党は排外主義、極右、レイシストであるという批判である。自民党右派の主張が自民党本体から切り離されて独立し、それに外国人問題が加わった政党というのは日本では初めて登場する。欧州の極右政党やトランプ政権の類似性も指摘され、リベラル陣営からこれへの警戒感が出るのは自然である。
 しかし、このようなネガティブキャンペーンに対しては、「叩けば叩くほど支持が伸びる」という不思議な論評がある。本当にそんなことがあったのだろうか。これを調べてみよう。そのために、次の二つのことが自分に当てはまるかどうかを聞いた。

 A:参政党に入れようと思っていたが、ネットやメディアでの批判を聞いて、入れるのをやめた

 B:参政党に入れるか迷っていたが、ネットやメディアでの批判を聞いて、むしろ入れようという気になった

 Aはリベラル陣営のネガティブキャンペーンが効果が発揮し、参政党へ投票しようとしていた人を止めたケースである。Bはネガティブキャンペーンが逆効果になり、参政への投票が増えるケースである。全回答者に自分がこれに当てはまるかを4択+1(あてはまる、ややあてはまる、あまりあてはまらない、あてはまらない、わからない)で答えてもらった。「あてはまる+ややあてはまる」、をグラフにしたのが図6である。


 ネガティブキャンペーンを聞いて参政党に入れるのをやめたという人が、回答者2041人中に279人おり、割合としては13.7%になる。この人たちにはネガティブキャンペーンが成功している。一方、ネガティブキャンペーンを聞いてむしろ参政党に投票しようと思った人も247人いて、割合にして12.1%である。両社は拮抗しており、どちらの効果もあったことになる。
 この問いは気持ちを聞いたもので、実際の投票行動を聞いたものではない。実際の投票行動は図7で、279人、247人それぞれの投票先を記した。Aの入れるのをやめたと答えた人のうち95%(人数で265人)は参政党以外に投票しており、言葉通りに行動している。一方、Bの批判を聞いてむしろ参政党に入れようと思ったと答えた人のうち、実際に参政党に投票したのは40.9%(101人)である。この人数だけを比較すると、Aの投票を止める効果の方が大きかったように見えるが、批判を聞いて参政党に入れるをやめたという265人が、キャンペーンがなかったときどれくらい参政党に投票していたかはわからない。それゆえ、どちらの効果が大きいかはこの結果だけからはわからない。言えるのはどちらの効果もあったということである。「叩けば叩くほど伸びる」面は確かにあった。しかし、キャンペーンが効いて投票を止めた人もかなりいるので、キャンペーンが全体として参政党への投票を増やしたか減らしたかは依然、微妙である。
 ネガティブキャンペーンの効果についてはアメリカで実証分析がされており、投票にはあまり効果がないという結果が多い。[2] 今回も最終的な効果ははっきりしない。が、相殺しながらもかなり効果が出た。これは参政党が新しい政党だからであろう。新しい政党の場合は情報が乏しく、人々は判断材料を求めるのは自然である。

 ネガティブキャンペーンにはもうひとつ、分断を深めるという問題点がある。[3] この点で気になるのは、図7で、批判を聞いてむしろ参政党に入れたという人の数101人が、参政党の支持者のなかの比率でみると多いことである。今回のサンプルでの参政党の投票者は201人なので、101人はその約半分になる。すなわち、今回、参政党へ投票した人のうち、半分は「批判を聞いてむしろ参政党に入れる気になった」という心理を経験していることになる。批判を聞いてかえって支持する気持ちが強まるとき、敵愾心を煽られ、分断がふかまっている可能性がある。

 何が起こっていたかを知るために、どんな批判だったかをしらべてみよう。批判と言ってもいろいろあるので、8つ候補を並べてみて、どのような批判を聞いてそう思うようになったのかを聞いてみた。図6の該当者279人と247人に追加調査を行い、それぞれ200人と180人から回答を得た。図8がその結果である。



  用意した批判は、上から順に1,2,3は排外主義、差別主義、極右という良く行われる批判である。4,5は外国人問題で、6、7、8は個別政策の問題点をついたものである。これら8つは選挙戦中に参政党に向けられた批判群から抜粋したものである。黒いバーは参政党に入れるのやめた人の場合、赤いバーはむしろ参政党に入れようと思った人の場合で、いずれもどの批判を聞いてそう思ったのかを答えもらった。複数回答なので、絶対水準の比較には意味がなく、相対比較だけに意味がある。
 これをみると、1,2,3の排外主義、差別主義、極右という批判は、参政党に入れるのを止めたという人の20%程度の人が挙げており、入れるのを押しとどめる効果が大きい。しかし、逆にこれらの批判を聞いて参政党に入れようと思った人も25%程度おり、逆方向の効果も大きい。このよう相手にレッテルを貼る批判は、正義を掲げて相手を悪とし非難する時によく使われるが、すでに自陣営にいる人にはアピールはするものの、相手陣営に近い人には効果が乏しい。逆の立場に立つとわかるだろう。参政党支援者がリベラル陣営に対し、売国だ、反日だとレッテルを貼ってもリベラル陣営の人は何の痛痒も感じないはずである。正義を掲げた非難の応酬に効果は乏しく、むしろ双方の人々を頑なにして分断を深めやすい。
 参政党への流れを押しとどめたいのなら、6,7,8の個別政策の問題点を衝いた方が効果的である。6,7,8では批判を聞いて参政党に入れるのやめた人が、参政党に入れることを決めた人より相対的に多いからである。参政党は憲法や個別政策に多くの穴があることがわかっているので、参政党の勢力をそぎたいなら、その問題点を衝いて支援者を引きはがしていくのがよい作戦であろう。


4.参政党が組む相手


 参政党は勢いがあると言っても小政党であり、政策の実現のためにはどこかの党とある程度提携する必要がある。どの党と提携するかは党の執行部がきめることであるが、支持者の意向も重要であろう。これを見てみよう。これは参政党支持者の他の政党への心理的な距離を表すとも考えられる。
 図9は、参政党が提携するとしたらどの党が良いと思いますかと聞いた時の答えである。まず、そもそも「提携はしない」が23.3%で最も多く、「わからない」という回答が20.7%あったので、参政党の投票者は提携自体をあまり考えていない。できたばかりで勢いがある政党であれば提携の必要性はまだ考えないのかもしれない。


 そのうえで言えば、提携の候補として上がるのは国民民主党22%と保守党14%である。ともに新しい政党である点が一致している。保守系で非自民ということなら維新の会も候補のはずであるが、はるかに下である。このことから参政の投票者には既存の政党に対する幻滅と反発があると推測できる。
 自民党を連携先に考える人が6.7%しかいない。れいわが4%なのでそれにちょっと毛が生えた程度である。参政党の投票者のなかには、元は自民党に投票していた岩盤保守層が30%程度いることを考えると、この数値は低い。念のために出身グループ別に提携先を描きなおしたのが図10である。元自民党支持者では、自民党を提携先に選ぶ人が12%と増えるが、それでも12%どまりである。岩盤支持層だった人は、少なくとも現在の自民党には愛想がつきていることがうかがわれる。自民党がこれを取り戻すためには思い切った手段を取らなければならないだろう。

5.結語:含意と評価

 前回と今回の二つノートを通じて、ここでの分析からどんな含意が得られるか。統計データの読み方は自由なので、人によってさまざまな含意が得られよう。以下では私見を述べる。私見なので統計の結果だけに関心のある方は、ここで読み終えていただいて結構である。
 含意は立場によって異なるから、以下では、自民党、リベラル陣営、参政党、そして最後に国民ににとっての含意を考えてみる。

 自民党にとっての含意は、岩盤保守を取り戻すべきということに尽きる。すでに現在の自民党の支持層の政治傾向は国民民主党以上にリベラル寄りであり、岩盤保守層は離れてしまった。自民党が復活するには、離れた保守層を取り戻すしかないが、これを取り戻すのは簡単ではない。参政党に移動した保守層のなかで提携先に自民党を挙げる人が1割程度しかいないことでわかるように、現在の自民党は保守層に見放されている。何か思い切った手を打つしかない。高市擁立を見越した石破おろしはこのための動きと解釈できる。ただし、これが成功するかは自民党内の力学次第で、現時点ではどうなるかまったくわからない。

 リベラル陣営にとっては、この事件は保守陣営の分裂であり、分裂すれば弱体化するのでその点では望ましい。特に自民党内左派である石破氏には総理をつづけてもらって、右派政権(高市政権)を阻止したほうがよい。「選挙に負けたのは石破氏のせいではなく、自民党のせいだ」という石破擁護論が見られるのはこのためであろう。なお、参政党はリベラルの理念とはまったく真逆の政党なので、できるだけ勢力をそぎ、弱体化させるべく参政党批判は続くだろう。ただ、そのとき正義を掲げて排外主義者などとレッテルを張るのは効果的ではない。具体的な個々の問題や政策ごとに論戦をしていく方が効果的である。

 参政党は、多くの人が言うように排外主義批判にどう応えるか、個別政策の穴をどうするかなどの課題に応える必要があるだろう。しかし、本稿での分析から得られる課題は別のところにあり、それは支持者が異質な人々のあつまりだということである。参政党を支持する人のうち、1/3は元自民党支持の岩盤保守層、1/3がこれまで投票所に行ったことがない無関心層、そして残りの1/3はそれ以外から集まった人(陰謀論の傾向がある人が多い)である。これはかなり異質な集団の集まりであり、まとめるのには困難がともなうはずである。一般に政党をまとめるためには政治理念を必要とするが、いまのところ参政党は既成政党に不満のある保守系の人々の集まりという以上の共通項がないように思える。そもそも参政党は党費で運営される組織政党であるが、日本の政治風土では組織政党(公明党・共産党が典型である)はあまり成功した例がない。現在は勢いがあり、まとまっているが、何らかのトラブルや主導権争いなどで混乱すると一挙に瓦解する可能性がある。例えば岩盤保守層が自民党に戻り、無関心層が再び関心を失えばたちまち勢力を失う。異質な層をいかにまとめていくかが参政党の課題になるだろう。

 最後に国民にとっての含意を考える。個別の党を離れて考えると、ここ1年の現象は多党化と言い換えることができる。これまでは保守である自民党が優越政党(Dominant party)で政権を担当し、これを批判する複数のリベラル政党が存在するという体制であった。いわゆる55年体制である。政権交代はないが、巨大政党である自民党内部には右派と左派(タカ派とハト派)があって疑似的な政権交代を行い、それでも足りない左派成分はときおり自民党を過半数割れの危機に追い込んで注入された(“お灸をすえる”と言われる)。国民民主党とそして今回の参政党が伸びてくるとこれが崩れ、多党化すると考えられる。この多党化をどう評価するか。
 多党化は良い現象という評価がある。自民党内の右派・左派の交代では起こせる変化には限界があり、大きな改革ができない。これまで自民党内で行われていた政策論争は、多党化すると外部に出てきて可視化され政党間論争になるが、これこそが本来の政党政治の在り方だというわけである。実際、103万円の壁の撤廃や消費税減税が、多党化によって議論されるようになった。そもそも自民、参政、国民民主(あるいは維新)をあわせて保守票と考えると、保守は傾向的に増えており、これを一つの政党が代表するのは無理がある。国民の志向も多様化しており、それにあわせて多党化するのは自然である。実際、ヨーロッパでは多党化して連立内閣を組むのは当たり前であり、日本もこの道を歩むだろう。この考えに従うと多党化は定着し、連立内閣が常態化することになる。
 しかし、多党化は良くないという評価も可能である。多党化すると連立内閣あるいは政党間連携が必要になるが、これは不安定であり、時間がかかる。たとえば103万円の壁は自民党と国民民主党の間で実施する話になったが、それぞれ抱える支持者がいるため容易に妥協ができず、話が進んでいない。また、連立内閣では責任の所在が曖昧になる。連立内閣は連立ごとに政策協定を結ぶため、連立内閣Aと連立内閣Bは別物である。ゆえに、政策の整合性を問われたとき、あれは連立内閣Aで決めたことですから(いまの我々とは関係ありません)と言い逃れれることが論理的には可能になる。立憲民主党の議員は民主党時代の政策を問われて、あれは民主党の時のことですから、と答えることがあるが、あれが政党規模で起こる。さらに、連立内閣は選挙ごとに変わりうるため、長期的な視野も持ちにくい。現在の自民党がどんなに不評でも消費税減税に後ろ向きなのは、長期的視野で考えるからである。消費税は下げるのは簡単だが上げるのは非常に難しく、財政赤字を国債発行でしのぐことは短期はできても長期ではできない。最後に、どんな連立政権ができるかは議員が選ぶことで有権者は選べず、投票の段階で連立の組み合わせをある程度は予想しながら投票しなければならない。
 国民は、以上を全部をひっくるめて、投票をしなければならない。したがって、国民への負荷は大きくなる。誰だ何を言っていたか言い逃れしないように記憶し、長期的な影響も自ら考え、どんな連立の組み合わせが起こりそうかを予想しながら投票する。この政治的負荷は大きく、国民の政治的成熟を要する
 これに比べれば55年体制(優越政党システムDominant Party System)は楽な制度である。自民党がすべての責任を持ち、長期的な配慮もしてくれる。国民は結果を見て不満をぶつけるだけでよく、政策の整合性や現実性は自民党が内部処理で考えてくれる。自民党の内部には左派から右派まで幅広い人がいるため、その調整をへて出てきた政策は極端にひどいものにはならない。それでも足りない左派成分は時々野党を勝たせて注入すればよい。国民は政治過程の詳細に入らずに済む。いわば「任せて安心、自民党」のようなところがあり、保守から中道左派まで含めて幅広い人々が委任することができた。これはこれで楽なシステムだったと言えるだろう。多党化するとそれができなくなり、国民に負荷がかかる。
 日本の国民はそのような負荷に慣れていない。自民党が政権から外れた民主党政権になった時にも多党化の兆しがあったが、結局自民党が復調し、55年体制に戻っている。今回もおなじことになるなら、国民民主党と参政党はやがて自民党に吸収されて終わる。果たしてどちらが実現するかはこれから数年ではっきりしてくるだろう。



[2] Martin, D., & Nai, A. (2024). ”Deepening the rift: Negative campaigning fosters affective polarization in multiparty elections.” Electoral Studies, 87. https://doi.org/10.1016/j.electstud.2024.102745



[3] Lau, Richard, Lee Sigelman, Ivy Brown Rovner, 2007, ”The Effects of Negative Political Campaigns: A Meta-Analytic Reassessment,” Journal of Politics 69(4), pages 1176-1209

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