【同人誌制作】激動の一週間を間違っても成功体験にするな【実録レポート】
前段。
知り合いから同人誌制作の手伝いを頼まれた際、かなり修羅場じみた経験をしたので、これはその実録レポである。先に言っておくがその同人誌自体は無事に完成し、ありがたいことに完売した。つまり最後はなんとかなったという前提で書かれているし、笑い話にするためにレポートを書き始めた。なんとかなっていなかったら、笑い話にできない。
同人誌「サツキトリプルクロス」制作者(この記事では一貫して息子と呼称する)が今回のことを歪んだ成功体験だと捉えないよう厳重に注意するべくここに糾弾記事を公開する。
#COMITIA154
— 息子 (@Son_of_Everyone) November 24, 2025
設営完了── pic.twitter.com/HuWleWJ2nu
ちなみに息子というのはハンドルネームであり、私の息子ではない。
今回、事情を知らない人に自分の息子の愚痴を書いていると勘違いされ、甚だ遺憾だったため最初にこれを書いておく。
繰り返して言うが奴は俺の息子じゃない。
11月1・2日
この日、遊戯王の大型大会Yu-Gi-Oh! CHAMPIONSHIP SERIES JAPAN NAGOYA 2025(YCSJ2025)が開催された。なんの話かと思うかもしれないが、話はここから始まっている。
今回の企画者戦犯・息子もまた遊戯王プレイヤーであり、この大会でベスト64という素晴らしい成績を残した。
(※5000人規模の大会で本選出場したということなので本当にすごい)

これはいわゆるプロモカードという希少なカードを獲得できるラインな訳であり、東京に帰ってきた息子の懐事情が暖かそうだったのも恐らくこれが理由だろう。

疲れているだろうし、妙に肉食いたいとアピールしてくるし、彼の凱旋を祝い奢ってやろうかという気分だった。
(ちなみにこの時、別件で息子はこちらに1000円の借金をしている)
だがこの肉を食いたいというフレーズがのちの伏線であるということにこの時の自分はまったく気づいていなかったのである。
ていうか改めて見たら、肉を先に食べたがったのがあちらであるという証拠が見つかってしまった。
11月3日(月)

昼過ぎぐらいに行くと言われていたのだが、結局16時ぐらいに着くという連絡が来た。まあデカい大会で疲れているだろうしなと思っていたのだが、予告通りやってきた息子の様子がなんだかおかしい。
「肉食べたくない?」「肉食べたいよな?」「肉行こう肉」と妙に焼肉に行きたがっているのだ。そういえば昨日から謎に焼肉食べたいアピールしていたなと思い、そんな腹減ってないけど良いかと(時間的にそんな腹減ってないだろ普通に考えて)近くの焼き肉屋に乗り込む。
時間的にランチはすでに終わっていた筈だが、店主の好意でランチOKみたいな雰囲気だった気がする。
そこで自分は奢るつもりで、とりあえずそんなノリを振ったのだが、息子は「いやここは奢るから」「俺はヴェーラーを手に入れたんだ」みたいなことを言って、逆にこちらを奢ろうとしてくる。
えらく気前が良いなと思いつつ、まあ金あるっぽいしカードゲームで勝って気分が大きくなってるんだろうと800円ぐらいのセットを頼もうとしたのだが「いやこれにしよう。これにしよう」と高めのセット(と言っても2500円ぐらいだが)を推してくる。
思えばここで様子がおかしいことに気づくべきだったのだが、労う気分だったので彼の言う通りのセットを食した。
「お前、俺の肉食ったよな?」
うん?
食事を終えたのち、息子が半笑いで妙なことをのたまい始めた。
「漫画書き終わったからさ、このあとのやり方教えて」
要するに俺の肉を食ったから同人誌づくり手伝えということである。
「納期は?」
「今日このあと、30分ぐらいで終わったら別のゲームやろう」
????????????
これは声を大にして言いたいが、息子はマンガやアニメに影響されたような言動を取りがちで、これもそのノリなんだと思うが、マジで止めろ。
普通に事前にその旨を連絡して、日程を調整させてもらった方が百億倍は物事がスムーズに行く。
今回のことも別に2500円の焼肉のためにこの意味不明な依頼に協力した訳ではなく、あくまでこれまでの関係値を踏まえた上で協力したのである。焼肉おごればなんでも頼めるというのはマンガの世界なのであり、これに対して成功体験を与えてしまうことは今後の彼の人生を踏まえてよろしくないと考えここに対しては強めに繰り返すのである。
息子、お前が偉いのは焼肉を奢ったことではなく、飯食うなり遊戯王の大会などを一緒に出るなりして関係値を築いていたことである。
どうかそれを忘れないでくれ。
(ちなみに流石に借金1000円は普通に返してきた)
ともあれこの時点からすでに割とキレつつ同人誌制作に取り掛かり始めたのだが、まず状況の確認である。場所は私の部屋である。
個人的にこれまで何度か同人誌を出したり、あるいは別人の同人誌づくりを手伝った経験があったため、本当にすべてのデータがまとまっているのならばすぐ終わる作業ではあった。
「漫画+寄稿小説+寄稿イラスト」が全部ひとまとめになっている
本のサイズはこの手の本としてはめずらしい新書版 ←むむむ
一部カラーページあり ←うーん?
当然カバーつき ←当然……?
寄稿者からの原稿はテキストデータのまま ←30分は無理確定
表紙にはまだ一切手をつけていない ←アホカス
ガチの納期は一週間後 ← 肉食ってる場合かボケ
要するにこの時点での息子は、漫画原稿を終わらせたそのままの状態であり、それ以外のことは一切手をつけていないということが判明する。
どうも彼は本作りというものを根本からナメているらしく、原稿を書き上げたらホッチキスで止めるぐらいのノリで完成すると思っていた節がある。
そのうえで意気揚々とほんの仕様を語る彼(なんかはよ終わらせて部屋にあるゲームをやりたいらしい)を前に、私はここから始まる一週間のことを思い暗澹たる気分になっていた。
(この時期、仕事がマジで死ぬほど忙しい時期だったことはここに記しておく。だから一緒に遊戯王の大会に出るのも断ったんだって!)
ともあれ受けた以上はやらねばならぬ。
まず前提として、こちらも漫画の同人誌に関してはさほど詳しくない。最低限写植だの同人誌の紙の質だのの知識はあるつもりだが、本当に漫画テンプレートを使うだけならまだしろ、「漫画+寄稿小説+寄稿イラスト」という仕様自体の本である。当然こんな形式のテンプレートなど存在しない。
そのためとりあえず新書版テンプレートを基に各原稿を配置していくところから始めたのだが……。

まず原稿のサイズがおかしい。
新書判で作りたいと言い始めたのはほかならぬ息子くん自身の筈なのだが、データを見てみると微妙に横に長い(記事に際して改めて見たけどこれA4サイズとかでもないし何だこのサイズ!?)。サイズが合っていないためそのまま流し込むと切り取られることになる。
「まあセリフとか読めるなら良いよ、だいたいで」
みたいなことを本人は言っていたが、それを流し込みながら逐一チェックしていたのはこちらである。一応不自然にならないように配置し、本全体を通すページ番号を振って形にはしたが、テンプレートを早々にガン無視する必要が出たため、セリフがノド(本の中央)に行き過ぎないかとにかく不安だった。
それを配置しながらふと気になったので尋ねてみる。
「ここ、モノクロだよね? これちゃんとグレースケールになってる?」
「グレー……スケール……?」
「この寄稿イラスト、そのまま貼り付けって言われたけど、これRGBになってない?」
「RGB……?」
「そもそもこれ何ページでどういう台割にしようと思ってる?」
「台……割……?」
後半になると勇次郎の「水道水を注文した客にする質問か!」という声が聞こえてきそうになっていたので、ジャックハンマーを相手にする心地で応対するべきだったのかもしれない。
詳細は省くが、とにかく息子くんは本に関する事柄を調べていなかった。
知識なしで完成させたのがすごいという見方もあるが、面倒なことを最初から全部丸投げする算段だったとも言える。
これで30分とかよく言えたな。
一応逐一説明をしていたのだが、息子くんはこちらの言葉をかなり適当に受け応える上に、微妙にナメてくるのも特徴だった。
例えば「奥付も作る必要あるだろ?」と問いかけるも「そんな思想強いこと言うなよ笑笑笑」と返してきて、後日サイト内で奥付が必須ということが記載してあり驚いていた(!????)。
奥付、思い返せば確かにどんな変にもどんな変な作者のにもちゃんと付いてた気がするものの原稿完成時点では作っておらず、知り合いから「これがない本は本じゃない」みたいなこと言われるも半信半疑だったんだけど印刷所のサイトにもかなりデカめの注意喚起が載ってたのでどうやらマジだったっぽい
— 息子 (@Son_of_Everyone) November 8, 2025
なんでこっちが教えたことに対して半信半疑になるんだよ!
とキレつつ、そのうえで息子くんがナメて渡してきたナメた奥付データには普通にバカでかいミスがあり、データを作り直すハメになったことをここに記しておく。
ともあれこの日は、まず全体の台割を作成し、漫画ページの配置を行い、テキストママの小説を流し込みフォントを整え、寄稿ページのデータをチェックしながら配置し、とにかく寄稿者にチェックで渡せるレベルには仕上げた。(時間がなかったので、とにかく寄稿者全体のチェックは急ぎたかった)
そのうえで当然、カバーと表紙にあたるデータがまだないため完成などするわけがないのだが――。
11月6日(木)

平日ど真ん中である。
とりあえずカバーと表紙を完成させたらしく、部屋に来て作業をさせてほしいと連絡が来る。忙しい社会人をやっている中、平日ど真ん中に表紙とカバーを完成させたことはすごいのだが、そもそもこれは計画性のなさがこの強行軍を生み出したともいえるので、褒めるのもなんだか違う気がする。不良が悪い事するより、普通に生きてる奴のが偉い理論である。
とはいえ繰り返すが、平日ど真ん中である。こちらも普通に仕事しているし、なんなら死ぬほど忙しい。在宅ワークの日であったものの、普通に夜の22時あたりまで仕事をする必要があった。
何故こんなことになっているかというと、印刷所は土日稼働しないらしいので、この夜にデータをまとめて金曜日に入稿する心づもりのようだった。(無理だろ)
そして、この夜、事件が起こる。
22時あたりに作業を終えて(まだ夕食も取っていない)。そこから息子くんの終電までに作業を済まそうと尽力していたのだが……。
21時:息子、なんかやってくる(夕食はすでに食べたらしい)
— ゼプ (@ZepzepMatsu) November 8, 2025
22時:遅めに夕食。息子はすでに夕食取ったと聴いたが何故か一緒食べ始める
23時:いろいろありつつ息子がコンビニ出発、なぜかおでんを買ってくる(↑で夕食を取った筈だが?)
24時~:帰れなくなったとのたまう。腹が膨れたのか寝始める
(このPOSTがちょっとだけ拡散された際、どこかのパパが息子について語っている様子だと勘違いされて、誠に遺憾な気分になった)
突貫での入稿データ作成に際して当然のようにトラブルがあれこれあり、仕事終わりで余裕がなかったので言葉が強くなってしまったかもしれないが、それを受けて突然おでんを買いに行くという奇行に走りだす。
そしておでんを差し出してくるのだが、さっき目の前で晩飯食べてるの見てるだろ! あと作業時間がないんだって!! コーヒーだけ一応いただいて作業をするも、おでんを食べ終えた息子くんはぬるっと終電を逃し、当たり前のように部屋で寝始める。
おでん買ってる時間でたぶん帰れた上に、おでん食って眠くなったのかいびきかいて寝始めたの本当に許さねえぞ!!
— ゼプ (@ZepzepMatsu) November 8, 2025
そして今回の件でもっとも許しがたい夜が起こる。
まず終電を逃して早々、部屋の寝心地の悪さに文句を言いながら、大声でバカでかいいびきをかきはじめたのだ。再三だが、この日は平日ど真ん中。普通に次の日には仕事があるのである。そんな最中、隣で気持ちよさそうに寝ている奴に対して抱いた感情はおそらく殺意に近い。うるせえ!と震えながらっとっと帰ってくれることを祈っていた。
いびきがうるさくロクに眠れない中、隣で寝ていた奴がのっそりと起き上がり始発に帰るのを「二度と部屋には泊めん」と伝えながら見送ってようやく睡眠することができたのだが……。
とりあえず昨日作った印刷用データ全然ダメだったんでさっさとゼプ起きてくれ
— 息子 (@Son_of_Everyone) November 6, 2025
早朝になんか通知があるから起こしやがった!
そのうえで確認したところ、データ的には間違いでなく、息子くんの勘違い――というかそれ昨日説明しただろ!! という箇所であった。
ロクに寝ていない目でとりあえず確認と報告をしたのち、仕事の合間に一応データの最終チェックを行っていたのだが、まあこんな状態で十全なものが仕上がっている訳もなく、やっぱりミスがあった。

まあこういったミスは起こるものなので、これは仕方がない。むしろちゃんと時間を取ってチェックした方が良いと話しつつ、月曜入稿にずらし、なんだかんだ次の土日も作業しつつ、なんとか本を完成させた。
11月24日(月)
コミティア来ました!
— ゼプ (@ZepzepMatsu) November 24, 2025
息子(@Son_of_Everyone )先生のサインをいただけて感激です pic.twitter.com/OhkV7khtSm
こうした紆余曲折ありつつ迎えた当日、刷り上がった本を見て問題なく仕上がっていることをこの上ない奇跡だと思いつつ、本を手に取った。
一冊ほしいと伝えたら渋られるという信じられない経験をした気がするがおそらくは気のせいだろう。
ちなみに息子くんだが、別の同人イベントなどに参加して、自前のポスターなどの必要性に気づき、ぱぱっとそのあたりを用意していた。また自分なりにどうやって会場内で主張を出せるかを考え値札やタブレットなどを用意しており、そのあたりのフットワークの軽さは純粋に偉いので、ここは見習っていきたい箇所だとも思う。
こんな経緯で作成された同人誌「サツキトリプルクロス」。書籍版はすでに完売してしまったのですが、漫画部分は息子先生のFANBOXにておいて公開されていますので気になる方はぜひご覧ください!
このNoteの書き手のフリーゲームもちょっと記載。
(PCでもスマホでもできるよ)
後日談

一通り入稿が済んだあと、懲りずに焼肉に誘ってきた。
どうも焼肉を奢ったのち、今後の作業用のパソコン購入について色々聴くつもりだったらしい。
別に肉奢らんで良いから最初からそう言え!
