特集

「iPhone Air」はなぜ人気がないのか?販売不振を招いた3つの理由

2025年のiPhone新機種の中でも、新機軸のデバイスとして大きな注目を集めた「iPhone Air」。だがその販売は振るわないようだ

 Appleが2025年、新機軸のiPhoneとして投入した「iPhone Air」。5.64mmという驚異的な薄さを実現したことで発表当初から大きな注目を集めたが、最近の動向を見るに販売は芳しくないようだ。

 筆者もiPhone Airなどの新iPhoneが発売された頃、家電量販店などの在庫状況を確認したのだが、「iPhone 17」「iPhone 17 Pro」などは在庫切れとなっていたのに対し、iPhone Airはおおむね在庫が残っていた。その状況は現在も続いているようで、 一部ではiPhone Airの販売不振から、生産数を大幅に減らしているとの報道も出ているようだ。

 しかしなぜ、ある意味で発売前から注目されていたiPhone Airが、そこまでの販売不振に陥っているのだろうか。

位置付けが中途半端な「Plus」に代わる新機軸

 そもそもなぜ、新機軸のiPhone Airが登場するにいたったのかと言えば、従来のラインナップによる販売層の拡大に限界を感じていたためと考えられる。同社では2022年発売の「iPhone 14」シリーズ以降、いわゆる「無印」のスタンダードモデルと、その大画面モデル「Plus」、そして上位モデルの「Pro」と、その大画面モデル「Pro Max」の4機種というラインナップ構成を続けてきた。

 だがその中で、位置付けが中途半端になってしまっていたのがPlusモデルだ。Appleは2021年発売の「iPhone 13」シリーズまで、Plusモデルの代わりにコンパクトモデルの「mini」モデルを用意していたが、こちらが販売不振だったことを受け、大画面のPlusモデルを復活させた。だが大画面を求めるユーザーは高い性能を求める傾向も強く、必然的にPro Maxモデルに流れる傾向にあったようだ。

 そうしたことからAppleはPlusモデルに代わる新たな軸を模索しており、その結果生まれたのがiPhone Airと見られている。実際iPhone Airは、薄型ながらディスプレイサイズは6.5インチと、スタンダードモデルのiPhone 17(6.3インチ)より画面が大きく、位置付けとしては従来のPlusモデルに近い。

iPhone AirはPlusモデルの後継であることを意識してか、ディスプレイは6.5インチと、「iPhone 17」より大きい

 そしてiPhone Airは、ある意味でiPhoneがAppleのラインナップ構成を踏襲するモデルにもなっている。そのことを示しているのが「iPad」や「MacBook」で、いずれもスタンダードモデルとProモデル、そしてスタンダードモデルより高性能ながら、薄型軽量で持ち運びやすい「Air」モデルが用意され、うまくすみ分けを図っている。

 そうしたことからiPhoneにおいても、スタンダードモデルとProモデルの間を埋める新機軸のモデルとして、薄さに重きを置いたiPhone Airを投入するにいたったのではないかと推測される。

「MacBook」「iPad」には、薄型軽量でスタンダードモデルより性能の高い「Air」モデルが用意され、明確なポジションを確立している。画像は2025年発売の「iPad Air(M3)」(出所: Apple)

薄さよりカメラやバッテリを求める消費者

 それゆえiPhone Airは、Appleが持つ技術やアイデアを軸に「これは売れる」と判断して開発がなされたモデルと言えるのだが、それが消費者のニーズに必ずしもマッチするとは限らない。それゆえiPhone Airの販売不振は、Apple側の意向と消費者ニーズのミスマッチによって生じたと言えるだろう。

  ではどこにミスマッチが生じているのかと言えば、多くの消費者がスマートフォンに求めている要素から見えてくる。具体的に言えば、1つはカメラだ。

 iPhone Airの背面カメラは1眼構成で、4,800万画素と高い画素数を用いて光学2倍品質のズーム撮影を実現できるとしている。だがこのカメラ性能は低価格モデルの「iPhone 16e」と変わらない。

iPhone Airの背面カメラは4,800万画素の1眼構成で、超広角カメラを備える「iPhone 17 Plus」より数が少ない

 一方で、iPhone Airの下位に位置付けられるiPhone 17は2眼カメラを搭載し、超広角撮影も可能であるなど、より高いカメラ性能を備えている。Airは上位モデルにも関わらず、薄さのためカメラ性能が犠牲になっていることが、ミスマッチ要因の1つと言えるだろう。

  そしてもう1つがバッテリだ。AppleはiPhoneのバッテリ容量を公表していないが、スペックシートを見るに、ビデオ再生時のバッテリ持続時間はiPhone 17が30時間、iPhone 17 Proが33時間、そしてiPhone Airが27時間となっており、iPhone Airが全体的にバッテリの持続時間が短いことが分かる。

 だが多くのスマートフォン利用者にとって、バッテリがどれだけ持つかは非常に重要な要素の1つだ。薄さよりバッテリの持ちを求める消費者が多かったことも、ミスマッチ要因の1つとなっているようだ。

iPhone Airは驚異的な薄さを実現するためかバッテリ容量が少ないようで、持続時間はほかの新機種より少なくなっている

  最後に、iPhone Airは、価格が256GBモデルで15万9,800円からと、前年の大画面モデル「iPhone 16 Plus」(128GBモデルで13万9,800円から)と比べ2万円高くなっているし、同じストレージ容量の256GBモデルで比べても5,000円ほど高い。

 消費者目線からするとニーズの高いカメラやバッテリが、ニーズの低い薄さの犠牲となり、それが値段にも反映されていることが、iPhone Airの販売不振には大きく影響しているのではないだろうか。

薄さ重視の「Galaxy Z Fold 7」はなぜ売れたのか?

 一方、2025年には薄さを追求したことで販売を伸ばしたスマートフォンもあり、それがSamsungの折り畳みスマートフォン「Galaxy Z Fold 7」である。実際Galaxy Z Fold 7は、折り畳んだ状態での厚さが8.9mmと、前機種「Galaxy Z Fold6」(折り畳んだ状態での厚さが12.1mm)と比べ大幅な薄型化を実現している。

Samsungの折り畳みスマートフォン新機種「Galaxy Z Fold 7」も、開いた状態で4.2mm、閉じた状態で8.9mmという驚異的な薄さが特徴となっている

 だがGalaxy Z Fold 7は薄さ実現の代わりに、Samsungが力を入れてきたスタイラスペン「Sペン」に対応するためのデジタイザや、ゲーミングなどで高パフォーマンスを維持するのに求められる放熱機構、ベイパーチャンバーなどをカットしている。それにも関わらず国内での販売は好調で、日本法人のサムスン電子ジャパンによると、Galaxy Z Fold 7の販売数はGalaxy Z Fold 6と比べ1.8倍もの伸びを記録しているという。

 なぜiPhone Airとは違って、Galaxy Z Fold 7が薄さで好評を得たのか。その理由は薄型化が、横折りタイプの折り畳みスマートフォンに消費者が求めるニーズにマッチしていたためだろう。

 折り畳みスマートフォンはその構造上、折り畳んだ状態での厚みが生じやすいのだが、横折りタイプのスマートフォンは、実は開いた状態で利用するよりも、閉じた状態で通常のスマートフォンと同じ感覚で利用することが多い。だがその状態で厚みがあると、操作や収納の面で不便が生じていたことから、折り畳んだ状態でも通常のスマートフォンと同じくらい薄いことを求める声が非常に多かった。

 そこで海外ではOPPOやHuawei などの中国メーカーが、薄さに重きを置いた横折りタイプのスマートフォンを相次いで投入、好評を博していた。それゆえGalaxy Z Fold 7も、顧客ニーズに応え大幅な薄型化を進めたわけだ。

横折りタイプのスマートフォンは閉じて使用する機会のほうが多く、閉じた状態で厚みがあると使いづらいことから、Galaxy Z Fold 7もそれを意識して薄型化を進めたようだ

 そして薄型化のニーズが、Sペンやベイパーチャンバーに対するニーズを上回ったからこそ、Galaxy Z Fold 7は人気を獲得するにいたったと言える。iPhone AirとGalaxy Z Fold 7は同じ薄さにこだわった製品とはいえ、新市場開拓か、顧客ニーズに応えるかという発想の根本が大きく違っているからこそ、評価が大きく分かれたと言えよう。

 ただ消費者ニーズに応えているだけでは、新たな市場を切り開く製品は登場しないだけに、スマートフォンに新たな変化をもたらす上でもiPhone Airのようなチャレンジは重要だ。それだけに今後関心を呼びそうなのは、AppleがiPhone Airを継続して改善し、本格的にシリーズ化していくのかどうかだろう。

 Appleの例年の傾向を見るに、iPhoneは同じボディのハードを少なくとも2年は継続して提供する可能性が高いことから、2026年に消費者の声に応えて改善を加えた新しいiPhone Airが登場することも考えられる。ただ各種報道を見る限り、iPhone Airの不振はかなり深刻な様子だけに、シリーズを打ち切る可能性も十分あり得るだろう。次の新機種に向けた一手が、大きく問われていることは間違いない。