ザ・ホワイト・ストライプス、ロック殿堂入り。メグは欠席だったけど、ジャックがメグ宛てに書いた手紙が感動的。彼らを紹介したイギー・ポップとジャックのスピーチ全文。

ザ・ホワイト・ストライプス、ロック殿堂入り。メグは欠席だったけど、ジャックがメグ宛てに書いた手紙が感動的。彼らを紹介したイギー・ポップとジャックのスピーチ全文。

11月8日、今年も恒例のロック殿堂入り式典が開催された。今年の会場は、ロサンゼルスのピーコックシアター。アメリカではDisney+で生配信されたが、日本での配信は現時点では未定だ。

今年の殿堂入りアーティストは、アウトキャスト、シンディ・ローパー、サウンドガーデンなど、多彩なライナップ。また、イギー・ポップやチャペル・ローン、ドナルド・グローヴァー、オリヴィア・ロドリゴ、ミッシー・エリオット、タイラー・ザ・クリエイター、ザ・キラーズらも出演し、それぞれが紹介のスピーチやパフォーマンスなどを行った。ハイライトは数多くあり、例えば、タイラーがアウトキャストをカバーした場面など。

ザ・ホワイト・ストライプス、ロック殿堂入り。メグは欠席だったけど、ジャックがメグ宛てに書いた手紙が感動的。彼らを紹介したイギー・ポップとジャックのスピーチ全文。

全て取り上げると、非常に長くなってしまうので、ここでは、まずホワイト・ストライプスとイギー・ポップのスピーチを全文紹介したい。

ザ・ホワイト・ストライプス、ロック殿堂入り。メグは欠席だったけど、ジャックがメグ宛てに書いた手紙が感動的。彼らを紹介したイギー・ポップとジャックのスピーチ全文。 - Getty Images for RRHOFGetty Images for RRHOF

というのも、今年最も話題を呼んだのが、ジャック・ホワイトのスピーチだったからだ。メグ・ホワイトが式典に出席するかどうかが注目されていたが、残念ながら姿は見せなかった。しかしジャックは、スピーチのはじめに、「これはメグと一緒に書いた。メグが句読点を直してくれた」と語り、最後にメグに宛てた手紙を読み上げた。それが、多くの人の心を揺さぶったのだ。

ジャックは、ホワイト・ストライプスとは何だったのかを、まさにストライプスらしく、絵本を読むような寓話的な口調で、あまりに美しく語ってみせたから。

以下その部分の訳。

「最後に。これは本当はメグに送ろうと思っていたものなんだけど、結局できなかったから、今夜、ここでみんなに読ませてもらいたい。
昔、ある少女が木に登ってみると、そこには少年がいた。彼女はそれが、自分の弟だと思った。
その木はとても荘厳で、美しく見えた。でもそれは、ただの樫の木だった。

そして2人は、その世界をとても愛していたから、パレードの山車を作り上げた。
その木の後ろにある自分たちのガレージで、自分たちの手で作ったものだった。

少年は、その巨大なペパーミント・キャンディの車輪付きの山車を見て、誇りに思った。
それが大きな工場で作られたものと同じようにモーター・シティ(=デトロイト)で作られたんだ、と思えたからだ。

でも実際は、それは単に自分たちのガラージで作られたものだった。

少年は、少女を見て、自分の姉みたいだと思っていた。

それで2人で、「『ちびっこギャング』みたいにショーをやってみようよ!」と言ったんだ。

2人は、巨大なペパーミントの上に立って、その山車をキャス・コリドー(デトロイトの地区)を通って進ませた。
それを引いていたのは白い馬……ではなくて、赤いエコノラインのバンだったかもしれない。

彼らが通り抜けた道のほとんどには誰もいなかった。
でも、時々人々がいることもあった。

中には、歓声をあげる人もいたし、笑う人もいた。
石を投げつけてくる人すらいたんだ。

それでも2人は、自分たちの手で打ち鳴らし、歌を歌い、
曲を作り始めた。

すると、何人かは立ち止まり、体を揺らし、動き始めるようになった。
そしてついに、ひとりが微笑んだんだ。

そこで、少年と少女も、お互いを見て微笑んだ。

その時2人は、誇りという”罪”を感じた。でも2人とも微笑み続けた。新たな自由を得たと思えたから。

それを人と分かち合えたと思えたから。そして他人に何かを感じさせたと思えたから微笑んだ。

2人は、その微笑んだ人を自分たちの知らない他人だと思っていた。
まったく見ず知らずの誰かだと。

でも、それはただの他人ではなかった。
ーーそれは神だった。

姉が、皆さんに、感謝しています。そして、僕も感謝しています。
本当にありがとうございました」

ジャックのメグへの愛と感謝、そして深い敬意が、溢れ出るようなスピーチだった。その言葉の数々は、ジャック自身がストライプスという存在をひとつの寓話=伝説として語り始めた瞬間にすら思えた。

そして、ホワイト・ストライプスを紹介したのは同じデトロイト出身のイギー・ポップ。その時点でもう、すでに最高にカッコ良かった。
ザ・ホワイト・ストライプス、ロック殿堂入り。メグは欠席だったけど、ジャックがメグ宛てに書いた手紙が感動的。彼らを紹介したイギー・ポップとジャックのスピーチ全文。 - Kevin Mazur/Getty Images for RRHOFKevin Mazur/Getty Images for RRHOF

イギー・ポップは、下の映像のように何度も「ホワイト・ストライプス!」と叫び、続けて、“Seven Nation Army"のリフを生声で煽った。「これは、今ここで、俺の中から出しておかなきゃならないんだ!」と言って、一気に空気を温めた。ジャックが、本当に嬉しそうな笑顔を浮かべながら、目がうるんでいるようにも見えた。イギーはこう続けた。「一応スピーチは書いてきたんだが、今のより絶対つまらない。とりあえずそのクソを読んでみるよ」と前置きし、ストライプスの歴史を語り、ジャックと初めて会った時のことを最後に語った。

「ジャックが俺を抱え上げたんだ。そう、マジで持ち上げたんだ。
俺たちは両方ともコーチェラに出ていて、ジャックがこう言ったんだ。
『写真のアイディアがあるんです。僕が、あなたのことを『死んだキリスト』のように抱き上げてみたいんです』と。
ってことは、ジャックが聖母アリア、だったってことか?!

それでジャックが俺を落っことすまで本当にそうやって撮影した。

すごく短い関係性だったけど……でもライブはマジで最高だったよ」

ザ・ホワイト・ストライプス、ロック殿堂入り。メグは欠席だったけど、ジャックがメグ宛てに書いた手紙が感動的。彼らを紹介したイギー・ポップとジャックのスピーチ全文。
ザ・ホワイト・ストライプス、ロック殿堂入り。メグは欠席だったけど、ジャックがメグ宛てに書いた手紙が感動的。彼らを紹介したイギー・ポップとジャックのスピーチ全文。 - Kevin Mazur/Getty Images for RRHOFKevin Mazur/Getty Images for RRHOF

ジャックは、この日なぜか珍しくパフォーマンスはせずに、代わりに、ジャックを敬愛するオリヴィア・ロドリゴとファイストが、美しくオリジナルより物哀しい“We’re Going to Be Friends”のパフォーマンスした。


ザ・ホワイト・ストライプス、ロック殿堂入り。メグは欠席だったけど、ジャックがメグ宛てに書いた手紙が感動的。彼らを紹介したイギー・ポップとジャックのスピーチ全文。 - Kevin Mazur/Getty Images for RRHOFKevin Mazur/Getty Images for RRHOF
トゥエンティ・ワン・パイロッツは”Seven Nation Army"をカバー。


以下、ジャックのスピーチ全文。イギーが紹介した後に。
ザ・ホワイト・ストライプス、ロック殿堂入り。メグは欠席だったけど、ジャックがメグ宛てに書いた手紙が感動的。彼らを紹介したイギー・ポップとジャックのスピーチ全文。 - Getty Images for RRHOFGetty Images for RRHOF

「ありがとう、イギーおじさん。
感謝しています。そしてデトロイトのみなさんにも。いつも感謝しています。

今日、ホワイト・ストライプスは、デトロイトのパンクとガレージロックの音を代表してここに立っています。
そして、何年か前に世界中の想像力をつかんだ、あのガレージロック・ムーブメントも。

この前、メグ・ホワイトと話したんです。

彼女は今日ここに来られないことを、とても残念がっていました。
でも、長い年月を通して自分を支えてくれたみんなに、心から感謝していると。
今夜、それが本当に大きな意味を持ってるって、そう言っていました。

そして、実はこのスピーチも、ここ数日で、メグと一緒に書いたものです。
僕が書いて彼女に送ると、彼女がチェックしてくれて、
句読点の直しもたくさんやってくれました。メグはそういうのが本当に得意だから。

それでメグからみんなに伝えて欲しいと言われたことがあります。

『ねえ、ジャック覚えてる? 私たちは2人でよく外を歩いていたけど、どういうわけか、動物が私たちをじっと見ていたよね。立ち止まって、私たちを見ていたよね。

デトロイト動物園に行った時も、象が全く同じように、私たちをじっと見ていたことがあったよね』

メグから、それをみんなに伝えて欲しいと言われました。

ホワイト・ストライプスがここまで生きて、新たな山を登ってこられたのは、本当にたくさんの人たちのおかげです。
知らない名前の羅列は、聞かされる側からしたら退屈かもしれないけど、
でも、僕にとっては、ちゃんと名前を呼んで『ありがとう』と言うことが大事なんです。

イアン・モントーン、ベン・ブラックウェル、マット・ポラック、ステイシー・パス、デイヴィッド・ワイス、ベン・スワンク、グレッグ・サイモンズ、ジョン・ベイカー、ララ・メディナ、デイヴィッド・スワンソン、デッド・パスター、ティファニー・ステフェンズ。
XLレコーズのレオとマーティン・リチャード。V2のアンディ・グリシャム。
そしてもちろん、サード・マン・レコーズのみんな。

それから僕の、兄姉、両親にも感謝してる。
僕の人生に、いろんなかけらを足してくれて、背中を押してくれて、子どもの頃、家の中で僕があれだけ爆音で騒いでても、許してくれてありがとう。

そして今は、僕の子どもたち――スカーレットとヘンリー・リーへ。
それから妻のオリヴィア・ジーンにも感謝してる。
いまだに、家であれだけ騒いでても、ちゃんと受け止めてくれるから。

(観客からWe Love Meg!)

うん、そうだね。僕らはメグが大好きだ。

ここで、メグと僕から、ほんの一部だけでも感謝を伝えたい人たちがいる。僕らより先に道を切り開いてくれた人たち。僕らに火をつけてくれた人たち。そして、途中で手を貸してくれた人たち。

ザ・ゴリーズ、ガン・クラブ、ロレッタ・リン、フガジ、ミスフィッツ、エマーソン・レイク&パーマー、ラヴとアーサー・リー、フラット・デュオ・ジェッツとデクスター・ロムウェバー、ヘンチメン、ディック・デイル、ベック、リッチー・ブラックモアズ・レインボー、タンパ・レッド、ザ・ソニックス、ペイヴメント、ジェスロ・タル、ザ・ストロークス、ブラック・フラッグ、スリーター・キニー、デス、ザ・クリエイション、ザ・ブリーダーズ、ザ・クランプス、マール・ハガード、ザ・ハイヴス、ゼム、ザ・ダムド、ヤー・ヤー・ヤーズ、ザ・トログス、マイナー・スレット、ザ・ラッツ、そしてキャプテン・ビーフハート。

みんなに、心から言わせもらいます、ありがとう。

……ちょっと途中で順番がぐちゃっとなっちゃった。何人か名前を2回言ったかもしれない、ごめん。

それから、工場に。工具に。電気に。真空管に。ありがとう、と言いたい。

デトロイトのコニーアイランドに、ナッシュビルのホンキートンクに。ロンドンの街角のパブに。ありがとう、と言いたい。

ホームレスの人たちに。力を奪われた人たちに。忘れられた人たちに。いつだって、ありがとうと言いたい。

昔、ロックンロールが生まれようとしてた時に、ライバー&ストーラーっていう2人組のソングライターがいたのは知ってる?

みんなが知らないような曲をたくさん書いた人達だ。でも、その2人は、”Jailhouse Rock”とか、”Stand By Me”みたいな、みんなの心に届いた曲も書いている。聞いたことあるよね?

それから、ジェリー・シーゲルとジョー・シュスターという漫画家の2人組もいた。彼らも誰も知らないようなヒーローをたくさん描いた。スラム・ブラッドリーとか、ドクター・オカルトとか。

でも、2人は1人だけ、世界中の心に届いたヒーローも生み出したんだ。その名前は、スーパーマンだ。きっとみんなも知ってるよね。

それから、かつてアボット&コステロっていうコメディの2人組がいた。子供の頃、父さんから聞いたんだけど、彼らは何千ものジョークを白いカードに書いて、棚に閉まっていたらしい。だから誰にも届かない、披露されないままのジョークが山ほどあった。

でも中に一つだけ、人の心に届いたものがあった。”Who’s On First?”は、みんなも知ってるよね。

そして僕自身、いろんなバンドをやってきた。きっとみんなは知らないものばかりだと思う。でも、どういうわけか、人は特にこの2人組のバンドには共感してくれたみたいだった。

それがこのホワイト・ストライプス、というバンドだ。

僕らには、なぜあるものが人の心に届くのか、わからない。
でも、届いたとき、それは、アーティストやミュージシャンにとって、この上なく美しい瞬間となる。
人が自分の表現に応えて、それを一緒に分かち合ってくれるということだから。

だから、若いアーティストたちに言いたい。

自分の手を汚せ。
画面ばかり見ていないで、
ガレージでもいい、小さな部屋でもいい、そこにこもって。
なにかに取り憑かれて。夢中になって。情熱を持て。

僕たちは、君たちがこれから生み出す何かを、一緒に分かち合う準備ができてる。

そして、最後に。

これは本当はメグに送ろうと思っていたものなんだけど、結局できなかったから、今夜、ここでみんなに読ませてもらいたい。
(以下上に紹介した文に続く)」

ジャックは、スピーチの途中で、感謝するバンドの名前を誤って飛ばしたと思ったのか、バンド名が書かれているスピーチのカードをポストしている。


イギーのストライプス紹介スピーチ全文。
ザ・ホワイト・ストライプス、ロック殿堂入り。メグは欠席だったけど、ジャックがメグ宛てに書いた手紙が感動的。彼らを紹介したイギー・ポップとジャックのスピーチ全文。 - Kevin Mazur/Getty Images for RRHOFKevin Mazur/Getty Images for RRHOF

「(上の雄叫びの後に)一応スピーチを書いたんだけど、今のよりずっと退屈なんだ。でも、とりあえずこのクソを読んでみるよ。
ホワイト・ストライプスは、他のバンドとは違ってた。
俺が2人を初めて見たのは、1枚の写真だった。
ただ2人で並んで立って、何か楽しい秘密でもあるみたいにニヤニヤしてて
クッキーの瓶からこっそり盗んだみたいな顔してたんだ。
2人ともすごく若くて、
俺にはそれが、21世紀のアダムとイブがロックンロール・バンドを始めた、
そんな風に見えた。

『かわいいガキどもだな。どこかに辿り着くだろう』
――そう思っていたら、本当に辿り着いたんだ。

最初の活動場所は、ミシガン州デトロイトにある小さなバー、ゴールド・ダラーだった。
ゴリーズとかダートボムズなのかと一緒にやっていた。ダートボムズって名前が、最高だろ?
2人は、とにかく大きな、でかい音を鳴らしていた。
俺は、ひと目で好きになったんだ。
でも、全員がそうだったわけじゃない。

あるやつは書いた、「ドラムがひどい」って。
(観客:ブーイング)
そうだ、ブーだ。

もっと有名なやつはこう言った。
「ギターレッスンが必要だ」と。

だけど、キッズは夢中になった。それだけで十分だった。

それで、まずメグ・ホワイト。
メグ・ホワイト。
メグ・ホワイト……メグ・ホワイト。

メグ・ホワイトには、時を超える美しさがあった。
このバンド名にも、彼女の名前をつけて、
自然な魅力を持つ、誰からも好かれる人だった。
俺は一度会ったことがあるけど、
あれほど 真っ直ぐで、心からの笑顔を見せる人はなかなかいない。

彼女のドラムは、自己主張じゃなく、バンドのための鼓動だった。
ベイビー・ドッズが言っていたように、
それは“キット全体をひとつの楽器として叩く”ということ。
フレッド・ビーローがマディ・ウォーターズやチャック・ベリーのために叩いたように。

そして、メグの支えがあったからこそ、
ジャックというロケットは、ちゃんと打ち上がったんだ。

ジャックは、フクロウみたいに叫ぶこともできるし、
ヒルビリーみたいにツワンとした音も出せる。
でも、曲を書くこともできたんだ。
さて、この紙の山のどこまで読んだっけな……

ジャックの演奏には、ザ・フー、スモール・フェイセズ、ビートルズ、
ハードロックとカントリー・ブルースの響きが聞こえる。
なんでもできた。

そして、ジャックの書く曲は、
60〜70年代のデトロイトの偉大なバンドには
あまりなかったタイプのものだった。
もっとメロディックで、もっとフックがあったから。

なにせ、もう新しい世紀だった。
ホワイト・ストライプスの音楽は、
“革命”からじゃなくて、
根っこにある愛から生まれていた。
ページをめくる時が来ていたんだ。

……でも、クソ。
ジャックに会った時の話をしよう。

(以下上のコーチェラの話に続く)」

メグが最後に公に出たのは、2009年で、夜のトークショー『Late Night with Conan O’Brien』の最終回でパフォーマンス。


また、その回の映像ではないけど、2003年に同じ番組に出演した際のパフォーマンス映像が最近HDで再公開された。
中村明美の「ニューヨーク通信」の最新記事
公式SNSアカウントをフォローする
人気記事

人気記事

最新ブログ

フォローする
音楽WEBメディア rockin’on.com
邦楽誌 ROCKIN’ON JAPAN
洋楽誌 rockin’on