林 ここ数年、AIが急速な進化を遂げたことで、世界におけるイノベーションのスピードはますます速まっているように感じます。日本は置き去りにされてしまうのではないかと危惧していますが、グローバルなイノベーションの動向に精通するフィリップさんは、どのように見ていますか?
フィリップ 同感です。10年前と比べると、日本企業によるイノベーションの事例は確実に増え、スピードも速まっていますが、世界中で起こっている変化の速さとは比べものになりません。いかにグローバルのスピードに追い付けるようにするか、これが日本企業の大きな課題の一つだと思います。
ここに興味深いデータがあります(下図参照)。2010年から20年にかけて米国の株価成長率は約9.0倍、日本は約1.9倍でした。ところが、GAFAMを除けば、実は米国と日本の株価成長率はそれほど変わりません。また、スタートアップの集積地であるカリフォルニア州のGDPは、日本のGDPを上回るとも言われています。つまり、米国の経済成長もスタートアップの成長に頼るところが大きく、イノベーションは経済成長のドライバーと言っても過言ではありません。
林 グローバルでスタートアップの存在感が増していく中、日本におけるスタートアップ連携やイノベーションの状況はどう見ていますか?
フィリップ 我々は10年から20年を日本におけるスタートアップイノベーションの黎明期と捉えていて、当時はアーリーアダプターが手探りでイノベーションに挑んでいました。現在は成長期ですが、実はすでにマジョリティに差し掛かっています。言い換えれば、日本でも多くの企業がスタートアップと連携したイノベーションに取り組まなければならないし、実際に取り組み始めている時期に来ているということです。
林 たしかに、自前で連携相手を探すなど、日本企業のイノベーションへの取り組みは、以前より積極的になっていると思います。しかしそれでもイノベーションのスピードは上がらない。その背景には、「スタートアップを知ること」の価値が、この10年で飛躍的に高まっているにもかかわらず、その重要性を十分に理解できていないことがあるのではないでしょうか。イノベーションを起こすためには、第一にスタートアップを正確に「知る」ことが必要です。日本企業は今、スタートアップについて、まず何を「知る」べきでしょうか?