「欧米系のコンサルにはできない、
現場重視の対応をしてくれた」
青木あすなろ建設がベトナムFPTを
DXのパートナーに選んだ理由とは

東京都港区に本社を置く総合ゼネコンの青木あすなろ建設は、2025年4月に就任した望月尚幸代表取締役社長の下、様々なDX(デジタルトランスフォーメーション)施策を進めている。同社がDXのパートナーに選んだのは、ベトナムICTのリーディングカンパニーであるFPTグループの日本法人、FPTコンサルティングジャパン(FCJ)だ。青木あすなろ建設が進めているDXの内容や、FCJをパートナーに選んだ理由について、青木あすなろ建設の望月社長と、FCJの瀬田 建設DXチーフコンサルタントに聞いた。

——今、建設業界が抱えている課題について教えてください。

望月:以前から慢性的な人手不足と言われていたところに、昨年「建設業の2024年問題」がありました。建設業の2024年問題とは、労働者の時間外労働短縮を目的とした2024年の法改正にちなんだもので、これ以降、建設業界の人手不足がさらに深刻化しました。

 労働者が足りない中で業務を遂行するには、より効率を高める必要があり、各社がDXに注力している状況です。例えば、建設業界は紙媒体で資料を取り扱う文化が根強くあるのですが、当社を含めペーパーレス化に取り組む企業が増えています。

 人手不足を解消するためには、若い人に建設業に対して良いイメージを持ってもらうことも必要です。建設業は、3Kや4Kなどと言われるように厳しい労働環境であるというイメージを持たれてしまうことが多いのですが、それを変えていかなくてはなりません。

——青木あすなろ建設の業界内でのポジションや特徴について教えてください。

望月:土木業メインの会社としてスタートし、当時先進的な分野だった機械化土木にいち早く取り組んだことで、「機械化土木のパイオニア」と言われていました。

 そういった「新しいことにチャレンジする」という社風は今も続いています。例えば、大阪・関西万博では「未来の水中工事」をテーマに「水陸両用ブルドーザ」の進化形として、コマツ様と共同開発した「水中施工ロボット」を展示しました。水陸両用ブルドーザは浅水域を作業領域とする水中掘削機で、これまで東日本大震災の災害復興など1200件以上の水中工事に使用してきました。現在、日本で稼働している水陸両用ブルドーザは5台あり、その全てを当社が所有しています。

 一方で私は、当社が「最近は新しいことにチャレンジする機会が減ってしまっているのではないか」「少しおとなしくなってしまっていないか」とも感じていました。建設業界は大手と言われる企業だけで50社以上あるため、「新しいことに常に取り組み、当社にしかない特徴を作って行かないと埋没してしまう」という危機感もありました。

 そこで私が社長に就任してから、「もう1度、改めて新しいことに取り組んで行こう」というメッセージを強く発信してきました。実際にこれまで、既存の建物の用途を変更して価値を再生させる「リモデル」や、データセンターの建設など、他社があまり取り組んでいない分野を積極的に強化してきました。

 新しい事業をもっと創出していこうという意図で、「未来を切り拓くベンチャー」という言葉をキャッチフレーズとして掲げています。ただし、自分達が得意な分野を広げるのではなく、お客様や市場のニーズにお応えする新事業、新技術を作ることが欠かせないと考えています。そういった考えのもと、ニーズがあり社会貢献にもなる耐震技術の開発や、建設業界の人手不足解消につながるサービスの提供、各種のDX推進などに取り組んでいます。

望月 尚幸 氏

青木あすなろ建設株式会社
代表取締役社長
望月 尚幸

1987年清水建設(株)入社、建築総本部東京支店副支店長を務め、外資系大手コンサルティングファームシニアマネージャーを経験。その後日本国土開発(株)取締役副社長執行役員。2023年髙松コンストラクショングループ顧問、2024年青木あすなろ建設副社長執行役員を経て、2025年4月より同社社長に就任し現職。

現場を最優先にしたDXを推進

——どういったDXに取り組んでいますか。

望月:2024年5月から、請求業務の電子化・ペーパーレス化や現場所長が行う原価管理のシステム化など、業務改善のための様々なDXに取り組んでいます。

 今取り組んでいることの1つが、市場のニーズをタイムリーに捉えて経営指標化する機能を備えた、案件管理システムの開発です。「APM」という名称で、当社版のEPM(エンタープライズ・パフォーマンス・マネジメント)と言えるものです。現在の建設業界は、変化のスピードがとても速くなっており、それに対応するには変化を捉えるためのシステムが必要だと考えました。

 新しい形での現場BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービス(以下、新BPOと表記)の導入にも取り組んでいます。新BPOは、これまで建設業の現場監督が担ってきた書類作成業務を、BPOで代行するサービスです。

 現場監督の最も重要な仕事は、施工計画の立案と実行です。これは大変な仕事ではありますが、多くの現場監督はやりがいや楽しさも強く感じていると思います。ただし現状では現場監督が業務に関連する様々な書類の作成も対応する必要があり、それを含めると業務の負荷が高まり過ぎていると感じております。

 新BPOはこうした課題を解消するためのサービスです。書類作成業務をBPOで代行するため、現場監督は施工計画の立案・実行に集中できるようになります。

 現場監督の業務負荷が高すぎることは当社だけの問題ではありません。そのため新BPOについては、複数のパートナー会社と一緒にサービスを開発し、広く外部に提供することを予定しています。現在、第一段階の取り組みとして自社を対象にサービスを提供しています。新BPOの利用が広がり、現場監督の負荷が下がれば、建設業に対する3Kや4Kといったイメージも変わっていくのではないかと期待しています。

 ここまでに挙げたいずれの取り組みにおいても、FCJにご支援いただいています。新BPOにおいては、パートナー各社とのやり取りや、意見のとりまとめ、業務標準化のための手順書作成なども担当してもらっています。

※株式会社アルコブレーン、株式会社einaka、Aureole Construction Software Development Inc.(三谷産業株式会社のグループ会社)、株式会社パソナJOB HUB、株式会社BREXA Technology、株式会社ママスクエア、株式会社ワールドコーポレーション(全て敬称略・あいうえお順)

——FCJとの出会いや、発注を決めた理由を教えてください。

望月:瀬田さんとご縁があったのが最初のきっかけです。以前、私がコンサルティング会社に在籍していた際、建設専門の部署が新たに設置され、私は初期メンバーとして配属されました。その後、私は建設会社に転職したのですが、しばらく経って瀬田さんがそのコンサルティング会社に入り、同じ建設専門部署に配属されました。

 コンサルティング会社に在籍していた時期が重なっていなかったため、瀬田さんとは直接面識はありませんでした。しかし、とても優秀だという評判はかつての同僚から聞いており、その後、FCJに移って建設専門チームに所属しているという話も教えてもらっていました。今回、DXに取り組むに当たり、知人から改めて瀬田さんを紹介してもらったというのがFCJとつながった経緯です。

 FCJにお願いしたいと思ったことにも、私がコンサルティング会社に在籍していた経験が関係しています。私が在籍していたような欧米系のコンサルティング会社の場合、業務改革やDXを依頼すると、非常に大がかりなプロジェクトになってしまうことがあります。例えば、「大手ITベンダーのERP(統合基幹業務システム)を全社的に導入する場合、現場の担当者を含めた全員がERPを利用しよう」といった具合になります。

 そういった対応だと、お金も時間もかなりかかってしまいます。当社には80ほどの現場がありますが、現場の所長80人にERPの操作を教育するのにも非常に手間がかかります。ですから当社は、そういった大がかりな形ではない、現場の状況に合った柔軟な業務改革を求めていました。

 FCJには、アジャイルでプロジェクトを進めながら、使いやすさを優先し、適材適所で改善策を提示するという姿勢が明確にありました。例えば、現場の担当者に業務システムの操作を覚えさせるのではなく、これまでの使用感と変わらないよう、エクセルとほぼ同じ画面を使って業務システムに入力できるようにしようといったアイデアを出していただきました。このように、我々の要望にとても前向きに応えていただけると感じたことが、FCJにお願いした理由です。

瀬田:当社はコンサルティング会社なので、本来やるべきことは「本質的にどう業務を変えるか」ということであって、システムを入れることではないと考えています。望月さんも、「本当に必要なことは何か」というところからスタートして、それを実現する手段としてDXがあるというお考えでしたので、認識が共通していました。

 私は、親が工務店を経営していて、兄弟や親戚にも建設や工事関係の仕事をしている人が多いため、建設のプロに対して強い尊敬の念を抱いています。ですから、そんなすごい技術を持つプロの方が、DXの一環として導入されるデジタル技術を、うまく扱えないために負い目を感じるといったことがあってはならないと考えています。青木あすなろ建設様とのプロジェクトにおいても、現場の方が使いやすいものを提供するべきということを重視しています。

瀬田 博之 氏

FPTコンサルティングジャパン
ビジネストランスフォーメーション部
建設DXチーフコンサルタント
ディレクター
瀬田 博之

——実際にプロジェクトがスタートしてからはどういったことを感じましたか。

望月:新BPOを提供するうえで参考になればと、ベトナムのダナンにあるFPTのBPOセンターに見学に行きました。FPTの社員の方は若く、はつらつとしていて、やる気に満ちあふれているように感じました。

 仕事の早さにも驚きましたね。日本語のパンフレットを作成している現場を見学した際は、日本語入力作業をものすごく早く進めていました。

 人材の育成策にも感銘を受けました。個人成績を貼り出して積極的に表彰したり、成績優秀者だけが使えるラウンジがあったりして、人材のモチベーションアップの工夫が随所に感じられたのです。当社にも是非こういった仕組みを取り入れたいと考え、FCJの人事専門チームに、当社の人事制度改革にもご支援いただいているところです。

新BPOを海外拠点からも提供したい

——今後のDXについて、展望をお聞かせください。

望月:市場のニーズをタイムリーに捉えるためのAPMを作っているというお話をしましたが、それをより高度にしていくことを考えています。これまでにも、分析したニーズを実際の事業につなげる機能や、既存事業と新事業に関して人材の最適な振り分けを計算する機能、新事業を業績の予測に反映させる機能などを追加してきました。今後はこれをより発展させ、各機能の連携を自動化することや、業績予測の期間を現在の1年先から3〜4年先までに伸ばすことなどを計画しています。

 新BPOについては、将来的にFPTグループのベトナムでのBPOサービスと連携できないかと模索しています。日本とベトナムには時差が2時間あるため、ベトナムでBPOを請け負うことができれば、日本企業が定時に仕事を終えた後も、ベトナムで定時まで2時間作業できることになります。そうすると、日本企業の社員が帰宅前にBPOに依頼した作業が、翌日の朝には完了しているといった具合に、サービスがより魅力的なものになります。これを実現するためにFPTグループと連携できたらと思いますし、ベトナム以外の国にもBPO拠点を作ることを考えています。

 今後取り組みたいDXとしては、若手や多国籍の社員を育成するためのVR研修センターやAIチャットボットの構築があります。建設業は人手不足により、先輩社員が若手社員を教育する時間が無いことも問題になっています。その対策として、若手社員がVRで現場を仮想的に体験できるようにすることや、施工管理基準などの様々な規定や仕様について質問できるAIチャットボットを作ることを考えております。AIチャットボットの英語版を作れば、外国の方でも使えるはずです。

 当社のDXに関連する取り組みは他にも複数ありますが、FCJには領域を限定せず、強みを活かせる分野で今後もご協力いただけたらと考えています。

——青木あすなろ建設として、これから目指すところについてもお聞かせください。

望月:2025年夏に、「2040年までにこういう会社になろう」という長期ビジョンを作りました。現在は、2027年度までの中期経営計画の初年度であり、長期ビジョンを実現するための足掛かりになる大事な時期です。

 「当社にしかない特徴を作ることが必要」とお話した通り、「こういう時は青木あすなろ建設にお願いしよう」とお声がけいただける企業にならなくてはなりません。これからは、簡単な仕事だけやっている企業は勝ち残れない時代になりますが、何らかの分野でトップランナーになれれば絶対に生き残れます。当社はそのような、特徴のあるトップランナーを目指したいと考えています。

左より望月 尚幸氏、瀬田 博之氏
ページトップへ