デジタル時代に“人”が変革を決める リコーが挑む人的資本経営 デジタル時代に“人”が変革を決める リコーが挑む人的資本経営

デジタルサービスへの転換を進める企業にとって、最大の課題は社員のマインドセットの変革だ。どれほど最新技術を導入しても、社員の考え方や働き方が変わらなければ成果は出ない。人的資本経営は、DXの成否を左右する要として位置づけられている。全世界に約8万人の人材を抱え、この難題に真正面から挑んでいる株式会社リコー コーポレート執行役員CHRO 人事総務部部長 長久良子氏に、日本企業がデジタル時代を勝ち抜くヒントを聞いた。

CORE & CHANGE

変革を加速するために
変えるべきこと、
変えてはいけないもの

リコーは2020年、「デジタルサービスの会社になる」と宣言した。だが、長久氏は「社内外でデジタルサービスの会社だと広く認識されているとまでは至っておらず、今は過渡期の状態だ」と語る。2026年から始まる新しい中期経営計画に向けて、リコーはどうなりたいか、どうあるべきかを役員層と議論し、グローバルの人事トップたちとも課題を洗い出した。

そこで見えてきたのは、マインドセットを変える必要性、カルチャーの重要性、そしてミドルマネジメントの役割などの共通課題だった。これらは、日本だけでなく欧州・米州・アジアのすべてで共通していた。

また、その議論の中でリコーの「変えてはいけないもの」と「変えるべきこと」も明確になっていった。変えてはいけないものは、創業以来受け継がれてきた「人を愛し、国を愛し、勤めを愛す」という「三愛精神」、そして「お客様の『はたらく』に寄りそうため、まずは自分たち自身が社内でその価値を実践・検証し、体感したうえで社会や顧客に届ける」という社内実践のカルチャーだ。この2つは時代や国境を越えて、同社の価値観の根幹を形づくっている。

株式会社リコー
コーポレート執行役員CHRO
人事総務部部長

長久良子

一方、変えなければならないのはスピードだ。複写機ビジネスでは製品を導入すれば長期間のサポートや消耗品販売が約束されていたが、デジタルサービス領域では顧客ニーズが目まぐるしく変化する。求められるのは「テーラーメイドの提案力」と「走りながら考える力」だ。リコーはこれらの自律的な働き方を社員に促すことで、社員が自ら考え、お客様のために行動できるようになることを、人的資本戦略の最重要テーマに据えている。

MIDDLE POWER

ミドルマネジメントが要になる時代

社員一人ひとりが主体的に動ける「自律」を支える柱が、2022年以降に国内リコーグループに導入した独自のジョブ型人事制度で、「リコー式」と呼んでいる。背景には、デジタルサービスの会社への転換とそれに伴う2021年のビジネスユニット制への移行がある。組織を中央集権から事業ユニット主体に変えたことで、採用・配置・評価の裁量が現場に移った。

「権限委譲が進んだことで、ミドルマネジメントが担う役割が重要になってきました」と長久氏は語る。マネージャーには、会社の方針をしっかり理解し、部下と対話しながら方向性をそろえていくことが求められている。この役割がうまく機能すれば、全社が同じ方向に動き出せる。だからこそリコーはマネージャー教育を強化。

長久氏は「基本は誰もが知ってはいる。でも知っているだけではできないことが多い。だからこそ目新しい手法を取り入れるのではなく、基本を重視しています。基礎知識を知っているにとどめず、実行できる仕組みに変えるところまで落とし込むことが重要」と強調する。

また、社員が自分のキャリアを主体的に描けるよう、「自律型人材」の意味を会社として明確に定義した。役員自らが語るメッセージ動画を公開し、「リコーにおける自律型人材とは何か」を解説。その上で個人のキャリアビジョンと能力開発計画を社員自らが考える仕組みも整え、社員が「会社の方向性が分かるから自分の打ち手が描ける」状態をつくっている。人事異動では社内公募に対して社員が自発的に異動希望を出せる仕組みもあり、自ら挑戦できる機会も広がっている。

CULTURE

「“はたらく”に歓びを」を
仕組みに落とす

リコーの使命と目指す姿である「“はたらく”に歓びを」を単なるスローガンに終わらせないため、同社はエンゲージメント調査やストレスチェックを実施し、その結果や課題を経営層が自ら議論する場を定期的に設けている。人事が事業部門に深く関与し、人事面から経営課題を支えるHRBP(Human Resources Business Partner)も会議に参加し、各部門の状況や課題を持ち寄る。人事部門だけに任せず、役員自身が調査結果をもとに改善策を検討し、良い事例を各部門に共有することで、人的資本経営を経営課題として自ら責任をもって推進する姿勢が特徴だ。

ストレスチェックについても、組織全体の傾向を産業医と人事・役員が分析し、対応策を検討している。たとえば「相談相手の有無」といった指標を重視し、心身の実態と組織の空気感とのズレを早期に察知することで、必要なサポートや環境づくりにつなげている。こうした仕組みが、従業員の心理的安全性を高め、カルチャー浸透の下支えとなっている。

また、各リージョンで、EVP(Employee Value Proposition=社員にとっての働く価値)の言語化を進めている。「“はたらく”に歓びを」を「Love to Grow」「Love to Connect」といった短いフレーズで各リージョンが自分たちの言葉に置き換え、具体的なアクションにつなげられるようにするのが狙いだ。同時に、変わらないものとして「三愛精神」は残しつつ、現代の価値観や多様な働き方に対応した指針づくりも必要であると考え構想している。これらの取り組みは、経営から現場までが共通の価値観を持ち、行動レベルで「リコーらしさ」を再定義していくプロセスそのものだ。

NEXT LEADERS

グローバルリーダー
育成に向けた
次の一手

リコーはさらに、次世代のグローバルリーダー育成にも踏み出している。2023年に初めて、グローバルの社長直下あるいはその下にあたるレイヤーを担う幹部候補に向けて、グローバルで共通の教育プログラムを実施した。長久氏は「自律して考え、行動できる人材を増やすことが、リコーの変革を加速する鍵になる」と語る。

こうしたジョブ型制度、ミドルマネジメント強化、EVPといった施策が連動することで、国内外の多様な人材が同じ価値観と判断軸を共有し、自律的に意思決定できる組織へと進化しつつある。

長久氏は「100点を目指すというよりも、環境や時代の変化に合わせて“動きながら学ぶ”会社でありたい」と語る。リコーが目指すのは、社員一人ひとりが「自分のキャリア」「自分の組織」を自律的にデザインし、顧客や社会に価値を生み出せる状態だ。こうして培われた“走りながら考える力”は、デジタルサービス時代の競争優位そのものになる。

長久氏は「人的資本経営は、人事部門だけで完結するものではなく、経営と現場が一体となって推進していくことが重要です」と話す。リコーの挑戦は、デジタル時代を勝ち抜くために「人と組織をどう変えていくか」という、あらゆる企業に共通する問いへのひとつの答えになりつつある。

VISION

デジタル時代における
“人”からの変革モデル

リコーの取り組みは、単なる制度変更やスローガンを超え、社員一人ひとりの行動や成長のあり方を変える挑戦だ。長久氏は「社内外からリコーで働きたいと思ってほしいし、リコーで働く人には市場価値があると思ってほしい」と語る。その思いを軸に、「“はたらく”に歓びを」という使命と目指す姿をさらに強固なものにし、挑戦の場や成長機会を通じて選ばれる会社を目指している。

リコーが示すのは「デジタル時代の成功はテクノロジーだけではなく、人材の自律とカルチャー浸透にかかっている」というシンプルな真理だ。変革を事業成果につなげるには、ミドルマネージャーが経営と現場をつなぎ、社員一人ひとりが「自分の頭で考え、行動する人」へと進化することが欠かせない。その挑戦を、人事部門が支えている。

アンケートはリコーが実施します。ご回答内容はSurveyMonkeyに送信され、リコーが取得し、今後のサービスの質向上やマーケティング戦略の立案に利用させていただきます。問1~6の回答のみが送信され、個人情報や行動履歴など回答以外は送信されません。なお、日経BPは本アンケートに関するいかなるデータも取得しません。