小売業のECサイトを広告媒体(メディア)化する。2029年の米国リテールメディア市場規模は15兆円と言われる。日本でも導入の動きが活発化してきた。潮流に乗り、いかに差をつけるか。米国と日本両市場の小売業界、リテールメディアに豊富な知見を持つIBAカンパニー代表取締役の射場瞬氏と、「購入の瞬間」をビジネスチャンスに変える、EコマーステクノロジーのグローバルリーダーRoktの三島健氏が対談。なぜ小売業がリテールメディアに取り組むべきなのか。広告主がリテールメディアに出稿する理由は何か。米国最新動向とともに、成功ポイントについて語り合った。

2029年の米国リテールメディア市場規模は
15兆円との予測

―小売業がリテールメディアに取り組むべき理由について

Rokt
Head of Japan,VP
三島 健

三島 日本の広告費は現在、全体で7兆円です。2024年の米国リテールメディア市場規模は7兆5000億円との試算も出ており、日本の広告費全体相当にあたります。2029年はその規模は15兆円に拡大するとも言われています。リテールメディアはブームではなく、急速に成長を続けている市場です。

Rokt
Head of Japan,VP
三島 健

射場さんは米国小売業、リテールメディアに関して豊かな知識と見識をお持ちです。NRF(全米小売業協会)主催の流通・小売分野における世界最大のコンベンション「NRF Retail’s Big Show 2025」のAPAC(アジア太平洋)版「NRF2025 APAC」のアドバイザリーボードメンバー」の1人にも選出されました。米国小売業がリテールメディアに取り組む理由を教えていただけますか。

IBAカンパニー
代表取締役
射場 瞬

射場 小売の一般ビジネスに比べてリテールメディアの収益性は格段に高く、収益を見込める点が重要な参入の動機となっています。物価高や人件費高騰の影響で米国小売業も疲弊しており、将来的な成長を含め、新しい収益向上の柱の一つとして、リテールメディアに取り組む傾向が強いと考えます。2025年10月に米国で開催されたグローサリー向けのコンベンション、「Groceryshop」でも、3つの重要テーマの1つとして、リテールメディアが語られていました。

IBAカンパニー
代表取締役
射場 瞬

三島 日本の小売業も、人口減少に伴う顧客数減少の中で売上の継続的成長は難しく、収益向上は重要な課題です。リテールメディアは既存の事業アセットを最大限に活用し収益を上げる解決策となります。しかし、本業があってこそのリテールメディアという視点は大切です。先日、Roktを導入している企業の方にリテールメディアの選択的意義について伺ったところ、「ユーザー体験を最大化するための原資に使っています」とのお答えでした。

射場 お客様に素晴らしいサービスを提供するためには、コストがかかり、その金額は上昇し続けています。だからこそ、リテールメディアを含む新しい収益源から得た収益をお客様に還元し、より良い体験や価値を提供していくことが重要です。こうした取り組みが、持続的な顧客との関係向上につながり、収益の向上にもつながると考えます。

NRF2025 APACのRoktセッションに登壇した射場氏

導入フェーズから浸透期へ移行する
リテールメディア

―リテールメディアを成功に導くポイントについて

三島 リテールメディア市場規模拡大は小売業と、生活者へのダイレクトな訴求方法を求めている広告主の両方にメリットがあることが原動力です。リテールメディアを成功に導くポイントについて、広告主の観点も含め、どのようにお考えですか。

射場 米国では今、GMSやスーパー、コンビニを含む一般小売、専門小売、メーカーなどを含め、200社以上がリテールメディア市場に参入しています。2024年末の時点で、アマゾンとウォルマートの両社でリテールメディアの広告売上の85%のシェアを占める中、残りの15%で200社がチャレンジする理由は何か。高いマージンの魅力だけでなく、自社の顧客の特性やサービスの魅力や独自性を生かすことで、自社なりのリテールメディアの勝ち筋を描けるからだと思います。

例えば、10代20代の化粧品好きが熱いファンになっている化粧品のECサイト。「若く、化粧品に興味がある人だけが頻繁に訪れる」というターゲットに興味があるメーカーには、メディアとして価値が高くなります。広告主の視点に立つと、販売機会拡大と共に、これまでリーチできなかった新たな顧客開拓につながります。デジタル広告コストが上昇する中、米国では、効率的・効果的にターゲティングできるメディアとしてリテールメディアを選択肢に入れる企業が増えていると見ています。

三島 効率的・効果的という観点では、生活者がショッピングしている状況で、動的にアプローチできるというのがリテールメディアの革新性です。生活者の購買意欲が高いシーンで、その生活者が関心を持つであろう広告をタイムリーに打つことができます。

ポイントは生活者の方が商品やサービスの購入直後に、そのECサイトになかった広告のオファーが提示されること。クーポンが出てくる感覚に近いと思います。潜在ニーズに訴えることで広告主にとってのビジネスチャンスが広がります。

射場 認知、検討、購入から購入後の推奨、ファン化までを含め、カスタマージャーニー全体を最適化する「フルファネルマーケティング」が、リテールメディアの新しいキーワードとして使われるようになってきました。

お客様に近い場所でフルファネルマーケティングを行うことで、お客様と新たな関係性が築けます。「購入した瞬間」のアプローチとして、Roktの存在感も高まっていると思います。

三島 RoktはECサイトを運営する小売業に対し、各ECサイトやアプリの購入の瞬間をメディア化し収益源とするためのプロダクトを提供しています。お客様が商品を購入したタイミングとデータを活用し、そのECサイトにはない別の商品広告をお客様に合わせてお届けします。広告主の観点からすると、ワンストップで、大手のEC事業者の購買直後のタイミングに特化したネットワークにアプローチできることはアドバンテージとなります。

Roktはグローバルで大手1000社、SMB(中堅中小企業)を含めると約3万社をネットワーク化し、購入時に提案する広告オファーを表示することができるトランザクションは75億回に上ります。うち、日本のトランザクションは4億回です。例えば1件当たりの購買金額を5000円とすると、2兆円ほどの流通や取扱高をもつEC事業の中で、購入直後のタイミングに特化し、オファーを提示することができるメディアとも言えます。

RoktでECサイトをメディア化する企業数は日本では約50社。広告主にとってのもう一つの魅力は、多様な業種のサービスがネットワークに含まれていることです。リテール事業者だけでなく、チケットや映画など多くの大手EC事業者に活用いただいています。最近の傾向の一つとしては、特にリテール事業者のソリューションの採用が加速していることです。

「明らかに風向きが変わった」

―少ない投資でリテールメディアの効果を最大化する方法について

射場 日本でも、リテールメディアの活用は大手企業からSMBへと裾野が拡大していくと思います。米国の動向を追随するかたちですね。その流れを加速するためには、リテールメディアの仕組みを開発から運用も含めて任せられるパートナーの存在がポイントとなります。

大事な視点は、小売業は技術に投資したいわけではないということ。リテールメディア市場において、エコシステムを構築していく動きが、去年と今年では随分スピード感が変わってきたと感じています。

三島 リテールメディアは、1社で完結できません。エコシステムの構築が成否の鍵を握ると思います。小売業が自社ECサイトに広告を掲載するメーカーを、自ら仕入れ先やそれ以外の事業者を継続的に探し続けることは非常に難易度が高いです。加えて、自社のファーストパーティデータをAI活用し、購入時のお客様にパーソナライズした広告を提案する技術とノウハウも必要です。

※ファーストパーティデータ:人口統計学的属性データ、購買データなど

射場 自社ECサイトを運営する小売業のファーストパーティデータを活用できるのは、リテールメディアの強みです。Cookieに依存することなく、ターゲティング広告の精度を向上できるのは、デジタル広告との大きな違いだと思います。

三島 デジタル広告が普及する中、広告主にとって「自社広告がどこに表示されるか」は重要な課題です。表示環境をコントロールしづらい第三者の広告ネットワークからコンテンツを調達するような場合や、様々な広告フォーマットが複数展開されるような場合では、自社ブランドイメージを棄損するリスクと隣り合わせです。

2025年6月に当社が実施したアンケート調査によると、広告主の76%が「自社の広告が不適切な文脈や媒体に表示されることに対し懸念を感じる」と回答しました。生活者の視点では「なぜこの広告が自分に表示されたのかわからない」が回答者の82%、「自分に関係ない広告を見せられた時に不快を感じたことがある」との回答者も79%を占めました。また「ユーザーが買い物モードにあるタイミングで表示されるリテールメディア広告は、他の広告に比べて好意的に受け止められると思う」との回答者も79%でした。

利用者の「買い物モード」に合った広告は、ノイズではなく情報になる。そのことが調査結果から見えてきます。広告主とECサイトをつなぎ、車の両輪のように回していかないと、リテールメディアは成立しません。

射場 小売業とメーカーが協力し、共通の目標を達成するために戦略を一緒に考え、実行する「JBP(ジョイント・ビジネス・プランニング)」が、今後進んでいくと考えています。リテールメディアは、その実現に向けて有効な手段の1つです。JBPは米国が先行し、欧州が追いかけました。

日本は先行モデルを学びながら進めることができるため、JBPを実践するスピードは速いと考えています。リテールメディアはトレンドではなく実践段階に入りました。Roktなどを利用することで環境は準備できます。小売業各社は強みを生かし、収益向上、顧客への還元を図り、広告主は販売機会拡大、新規顧客開拓を促進していく。デジタル時代における小売とメーカーの関係を再構築できます。

三島 Roktを導入する国内のEC事業者が増えています。導入のスピードが早まり、明らかに風向きが変わったと感じています。従来は、オンラインで小売を展開しているお客様に、導入に向けた技術的ハードルの低さや、運用がいらない点を説明し、その上で「ブランドイメージの担保もした上で収益機会の拡大につながります」と説明しても、事業モデル自体の説明や、戦略の確認含めた事業化に向けた調整を長い時間をかけて一つずつ進める必要がありましたが、今は、「どれくらいで開始できるのか。収益はどのくらい出るのか」といった事業インパクトから議論がスタートし、導入に向け具体的に落とし込んだお話をしています。

大事なのは、購買行為という顧客との接点で何をするべきか。データに基づき、潜在的ニーズに応える商品広告を行うことで、小売業、広告主の両方にとって、確度の高いビジネスチャンスを創出できます。

本社 米国
創業 2012年
事業
内容
Eコマースのグローバル企業として、顧客による購入の瞬間に、トランザクションにレレバンス(関連性)をもたらすソリューションを提供し、さらなる価値創出を支援する。RoktのAIプラットフォームとネットワークは、Live Nation、AMC Theatres、PayPal、Uber、Huluほか世界中の主要企業に利用され、年間数十億件ものトランザクションの収益化を支える。現在は北米、ヨーロッパ、日本を含むアジア太平洋地域で事業を展開している。

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