エネルギーについての基礎を頭に入れたところで、今回は、日本ではどんなエネルギーをどのくらい使っているのか、エネルギーの流れがどうなっているのか調べてみましょう。
日本のエネルギーバランス・フロー
日本のエネルギー需給については、毎年、経済産業省がとりまとめて発表しています(最新版は 2020 年度版)。また、エネルギー白書(最新版は 2022 年版)には 1 次エネルギー供給から最終エネルギー消費までの流れを示した「我が国のエネルギーバランス・フロー概要」が掲載されています。このフロー図はかなりややこしいので、簡素化した上で、国内供給量20,035 PJ(ペタジュール、1015ジュール)を 100 として表したものが図 3-3-1 です。

「平成30年度エネルギーに関する年次報告」(エネルギー白書2022)を元に作成
図 3-3-1 の左端には 1 次エネルギーの供給状況が示されています。エネルギー源としては石油がもっとも大きく、ついで天然ガス、石炭、水力・再エネ・未活エネ、原子力の順になっています。
図 3-3-2 には 1 次エネルギーの推移を示します。東日本大震災のあった 2011 年を境に原子力がほとんど無くなっていますが、その分を天然ガスが補っているのが分かります。石油は 1990 年以降、自動車の燃費改善などの省エネや石油代替エネルギー利用の進展などによって減少していますが、石炭は安価で価格が安定していることから、発電向けに増加しています。再生可能エネルギーは増加を続けているものの、まだ 11 %と小さく、その結果、供給エネルギー全体の 85 %を化石燃料が占めているのが現状です。原子力燃料・化石燃料のほぼ 100 %が輸入なので、エネルギーの約 9 割を海外に依存しています。

出典:経済産業省「エネルギー白書2022」
図 3-3-1 に戻ります。図の中央はエネルギー転換の様子を表していますが、全エネルギーの約 48 %が発電に振り向けられており、その 6 割(供給エネルギーの 29.3 %)が発電・送電時のエネルギー損失となってしまっています。
図 3-3-1 の右端は最終エネルギー消費ですが、企業事業所と運輸貨物を足し合わせると、供給エネルギーの 48.2 %になり、エネルギー消費全体(供給エネルギーの 67.3 %)の約 6 割を占めており、日本のエネルギー消費は産業に偏った構造になっています。

「平成30年度エネルギーに関する年次報告」(エネルギー白書2022)を元に作成
エネルギーフローを別の視点から眺めてみましょう。図 3-3-3 はエネルギーフローをエネルギーの種類別にまとめ直したものです。このようにすると、どのようにエネルギー変換が行われているかよく分かります。1 次エネルギーの大半は化学エネルギーで、ここに再生可能エネルギーの力学エネルギー 13 % が加わります。化学エネルギーは石油製品、都市ガスなどの様に、化学エネルギーのまま供給されるほか、熱エネルギーに変換されて供給、あるいはさらに力学エネルギーを経て電気エネルギーに変換されて供給されます。また、再生可能エネルギーは最終的に電気エネルギーに変換されて供給されます。従って、電気エネルギー、化学エネルギー、及び熱エネルギーが 2 次エネルギーとなります。エネルギーの変換損失等で全エネルギーの 33 %が失われます。そして、その主たるものが、化学エネルギーから熱・力学エネルギーを経由しての発電プロセスです(これについては次回以降、検討します)。なお、エネルギーの輸送は主に化学エネルギーと電気エネルギーの形で、エネルギーの貯蔵は化学エネルギーの形で行われます。
最終消費段階で、供給されたエネルギーは、熱、力学、光等さまざまな形に変換されて使用されます。電力は 100 % 近い変換効率で力学エネルギーに変換可能であるほか、さまざまな形に変換可能な、安全で利便性の高い、たいへん優れたエネルギーですが、貯蔵しにく点が最大の欠点です。この性質のために、電力はまさに「生もの」として、必要な分だけ製造(発電)しているのです。揚水発電や二次電池(蓄電池)という蓄電手段もありますが、前者は揚水時にエネルギーが必要で効率が悪いですし、後者は現状、まだまだ高コストのため大量に使うことができません。
燃料などの化学エネルギーは貯蔵・輸送に優れていますが、消費段階のエネルギー変換時にエネルギー損失を起こすのが問題です。例えば、ガソリンエンジンのエネルギー変換効率は 20 ~ 30 %、ディーゼルエンジンで < 50 %、航空機のタービンエンジンで 40 %程度です。
化石エネルギー資源
現在使われているエネルギーの大半は石油、天然ガス、石炭などの化石エネルギーです。これらの化石エネルギー資源について少し整理しておきましょう。
図 3-3-4 (表 3.2) にこの 3 つの化石燃料の標準発熱量と炭素の排出係数を、また図 3.9 に単位熱量当たりの価格を示します。石油は液体燃料であり、輸送・貯蔵等の取り扱いに優れているため、現在もなおエネルギーの主役です。石炭は図 3-3-5 に示すように、石油、天然ガスに比べて安価で、かつ価格変動が少ない燃料ですが、固体であるために取り扱いにくく、また重量あたりの発熱量が低く、大規模なボイラを必要とするため、発電向けを中心に伸びてきましたが、炭素排出係数が大きいため、気候変動問題では悪役にされてしまっています。天然ガスは気体燃料ですが、日本では液化天然ガス(LNG)の形で輸入され使われています。輸送・貯蔵に特殊な設備が必要ですがは、エネルギー密度が大きく、また炭素排出係数が化石燃料の中では小さいため、比較的クリーンな燃料として使用量が増加しています。


経済産業省 エネルギー白書2019を元に作成
3 つの化石燃料の埋蔵量と可採年数を図 3-3-6(表 3.3) にまとめました。11 章の海洋資源のところでも述べますが、石油便覧をもとに資源関係の用語を整理しておきます。
- 埋蔵量(Reserves):原油(天然ガス)の埋蔵量は、通常、地下の油(ガス)層中に存在する原油(天然ガス)の体積を地表での状態に換算した量で表す。単に「埋蔵量」といった場合には、可採埋蔵量を指す
- 原始埋蔵量:その油(ガス)層内に存在する原油(天然ガス)の総量をいう
- 可採埋蔵量(Recoverable Reserves):原始埋蔵量のうち技術的、経済的に生産可能なものをいう。可採埋蔵量は、確定度の高い順に確認埋蔵量(Proved Reserves)、推定埋蔵量(Probable Reserves)および予想埋蔵量(Possible Reserves)の3ランクに分別される
- 可採年数(R/P):ある年の年末の確認埋蔵量(R=Reserves)をその年の生産量(P=Production)で除した数値
ここで、石油・天然ガスの可採年数が 50 年となっているのですが、これはあと 50 年でこれらの資源が枯渇してしまうという訳ではありません。実は、石油の可採年数はずっと以前から 40 年と言われ続けているのです。上の定義にもあるように、可採年数の元になる可採埋蔵量は経済的に生産可能な埋蔵量です。ですから、新しい油ガス田の発見・開発のほか、シェールオイルやシェールガスなどの様に、生産技術が進歩して生産コストの低減や回収率の増加が実現すれば、埋蔵量が大きくなります。とはいっても、化石燃料はいつかは尽きてしまう「限りある資源」であることは間違いありません。

(更新 2022/10/18)


