EVのバッテリー火災が発生したら。万が一のために知っておきたい正しい対処法

電気自動車(EV)のバッテリーが発火してしまった場合には、何をすればいいのか。リチウムイオン電池の火災が起きる原因と対処法について解説する。
An employee assembles the cell block backpack and wiring harness of an electric vehicle battery at an Accumotive GmbH...
Photograph: Krisztian Bocsi; Getty Images

リチウムイオン電池の火災は強烈で恐ろしいものだ。中古のスマートフォンを修理していたわたしは、リチウムイオン電池がパンクして炎上したiPhoneを何度も消火してきた。そして、今あなたのポケットの中にあるスマートフォンのバッテリーは、電気自動車(EV)に搭載されているものと似ている。ただし、EVの電池はより多くのエネルギーを蓄えている。そのため、交通事故後にEVバッテリーが燃えて発する強烈な炎を消火するために、特別な訓練を受けている消防士もいるほどだ。

EVに関するニュースを読んでいれば、電池火災の事故が増加しているという恐ろしい報道をたくさん目にしたことがあるだろう。最近では、米国運輸安全委員会とカリフォルニア州ハイウェイパトロールが、木に衝突した後に発火したテスラの大型EVトラック「Semi」の火災を調査していると発表した。このリチウムイオン電池は約4時間燃え続けたという。

では、あなたのEVも火災の危険があると心配すべきなのだろうか?実際にはそれほど心配する必要はない。ガソリン車が火災を起こすリスクのほうが高く、比べてEVは発火する可能性が低いからだ。

ジョージア工科大学先進バッテリー研究センターで共同ディレクターであるマシュー・マクダウェルは、「バッテリーの製造上の欠陥が原因で火災が発生することは非常にまれです」と言う。「特にEVでは、バッテリーマネジメントシステムが搭載されているためです」とも話す。このソフトウェアは、EVの電池を構成する複数のセル(単電池)の状態を監視し、電池が限界を超えないようにする役割を果たす。

EVの火災はどのようにして起きるのか?

EV電池が損傷するような衝突事故が発生すると、熱暴走と呼ばれる現象により火災が発生する可能性がある。EV電池はひとつの塊ではなく、多数の小さなセルの集合体でできている。熱暴走が起きると、ひとつのセル内での化学反応が最初の火をつけ、その熱が隣接するセルに広がり、EV電池全体が燃えてしまう。

ミシガン大学バッテリー研究所のディレクターであるグレッグ・レスは、EV電池の火災を事故と製造欠陥のふたつのカテゴリーに分けている。彼は、事故カテゴリーを衝突による電池の破損から充電時のトラブルまで、あらゆるものを指すとみなしている。「こうしたケースは想定内です」と彼は語る。「車種に関係なく、事故が起きたら火災の可能性があると考えるべきだからです」

EV電池の火災はどれも消火が難しいが、製造欠陥による火災は、一見ランダムに見えるため、消費者にとってはより気になることだろう。バッテリーの問題で発火の危険があったため、サムスンのスマートフォンがリコールされたときのことを思い出してほしい。EV電池でまれに発生する製造上の欠陥は、どのようにして予測不能な瞬間に火災を引き起こすのだろうか?

それは電池の設計にすべて起因する。設計に何らかの問題があり、セルがショートし始め、その結果、熱が発生するのです」とレスは説明する。「熱が液体電解質を蒸発させ、セル内にガスが発生します。熱が高まりすぎると、火災が発生し、爆発し、その後ほかのセルにも炎が広がります」。このような欠陥が、最近韓国で大々的に報道されたEV火災の原因である可能性が高い。このうち、駐車場で100台以上の車両が被害を受けたものもある。

EVが発火した場合の対処法

全米防火協会によると、運転中にEVが発火した場合は、すみやかに安全な場所にクルマを停車し、車両通行帯から離れる。そして電源を切り、全員がすぐに車両から降りるようにする。荷物を持ち出そうとすると脱出が遅れるため、とにかく素早く外に出ること。緊急電話番号に(日本での119番)消防署に通報をし、燃えている車から30m以上離れた場所にとどまること。

また、絶対に自分で火を消そうとはしないこと。これは化学火災なので、バケツ数杯分の水をかけても鎮火することはできない。EV電池の火災で消火に要する水の量は、ガソリン車の火災の約10倍にもなる。消防士たちは、場合によっては水をかけずに電池がそのまま燃え尽きるまで待つこともある。

一度EVバッテリーが燃え始めると、最初の火が鎮火した後でも化学火災が再燃する可能性がある。場合によっては、数日後に再び火災が発生することもある。「消防士も、車両回収業者やレッカー業者などの二次対応業者も、電池の損傷していない部分に残っているかもしれないエネルギーに注意する必要があります」。米国国家運輸安全委員会の調査官であり生体力学エンジニアのトーマス・バースはメールでこう説明する。「このエネルギーによって感電したり、車両が再び発火したりするリスクがあるのです」

炎が小さくなったり、一瞬消えたりすると、車の中に戻って財布やそのほかの貴重品を持ち出したくなるかもしれないが、これも危険だ。最寄りの消防署が到着し、全体的な状況を把握してから安全が確認されるまで待つこと。クルマから遠く離れることで、電池火災から発生する有害ガスを吸い込むリスクを最小限に抑えることもできる。

EVバッテリーはより安全になるのか?

欠陥の可能性があるリチウムイオン電池の迅速なリコールと交換に加えて、わたしが取材した研究者ふたりは、全固体電池と呼ばれる新たなタイプのバッテリーがEVの信頼性をさらに高める可能性があることに非常に期待している。「これの電池は、リチウムイオン電池よりも熱的安定性が高くなる可能性があります」とマクダウェルは言う。「温度が非常に高くなっても、安定した状態を保てるかもしれません」。全固体電池では、液体電解質がバッテリーセルの一部ではなくなるため、電池設計の最も燃えやすい側面が取り除かれる。

このような全固体電池は、一部の小型電子機器にはすでに搭載されている。しかし、EVメーカーは、大型バッテリーの大量生産というハードルを克服しなければならない。

(Originally published on wired.com, translated by Eimi Yamamitsu, edited by Mamiko Nakano)

※『WIRED』によるEVの関連記事はこちら。


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