【9月26日 MODE PRESS】 ~サルトリア健在。はたして音楽をどう仕立てたか?!~  

 前回「アンドロジナス」について取上げたが、今回はここ数シーズンの傾向として多くのメゾンでみられる「サルトリア」を提案したメゾンについて読み解いていきたいと思う。仕立ての伝統に基づいたマスキュリンスタイルというよりは、未来を見据えたかのような新たなシーチング使いが目を引き、洗練された男性像を象徴していた。ここではその「サルトリア」をどう音楽で表現したかを探ることにしよう。ミラノ・パリファッションウィークから3メゾンを取上げてみたい。

■ 最後に、ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN

 テーラードを迷彩柄でみせるという、あらたな匠。但しそこで終わらないのが「ドリス ヴァン ノッテン」。サテン、オーガンジー、シフォンなどフェミニンな素材を使い、モダンな男性像を醸し出している。異なるカラーと異なる素材を組み合わせたスタイリングでみせる「サルトリア」をどう音楽で表現したか探ってみよう。

 ホワイトに塗られたウエアハウスの長いランウェイをウォーキングするモデル達。イントロは、口でのタット音からはじまる。一聴するとアヴァンギャルドな感覚だ。そこからドラムと太いベースラインのメロディーが鳴り響く。ショーは最初から最後までこの曲で構成されている。アカペラヴァージョンとインストルメンタルヴァージョンを組み合わせたものだ。曲は何と、「ジーゼニア(Z zegna)」でも使用されていたスヌープ・ドッグ(Snoop Dogg)の「ドロップ イット ライク イッツ ホット」。かなり異端なヒップホップであり、タット音がランウェイミュージック的な面白さを感じさせる。

 では何故この曲が使用されたか考えてみよう。おそらく、フェンシングユニフォームや迷彩柄という軍服に想像される強さ、長いランウェイをウォーキングさせる行進的感覚、綺麗なものを綺麗にみせるのではなく、綺麗さの裏返しでギャングスター的ナスティビートをインストルメンタルで聴かせる事で調和させるドリス ヴァン ノッテン イズム。ということではないだろうか。

 サルトリアの解釈は様々であるが、「男性らしい強さ」だけが全てではない証しだ。先に取り上げたトラサルディは、フレッシュで若々しい男性像であり、モデルやシチュエーション、全てがみずみずしさに満ちあふれていたし、音楽を青春ニューウェイヴ・サーフ・ポップで構成、「ジーゼニア」にいたっては、色の巧みさと着心地を追求しカジュアルに着こなす「サルトリア」を掲げ、音楽は中南米系エレクトロで構成楽観主義、開放感を表現していた。どのメゾンも、様々な音楽で「サルトリア」を表現していたわけだ。

 毎回書かせて頂くが、4 都市で多くのコレクションが発表され、ランウェイミュージックが使用されるが、デザイナー、デザインチームとミュージックデザイナーと試行錯誤された創意工夫の結晶のみが実際コレクション音楽として聴く事ができるのである。

 次回は、「2012/13年秋冬オートクチュールコレクション~楽曲傾向はプレタと違うわけなの?!プレタとの違いってなに?~」と題してランウェイを飾った楽曲から最新コレクションを読み解きたいと思う。

 またここで述べてきた事柄は個人の見解であり、実際の意図とは違う可能性もあることを御理解いただきたい。【佐藤喜春】

プロフィール:
1986年より選曲に従事する。1991年より東京コレクション、2002年よりパリコレクションをそれぞれ手掛けるようになる。多くの国内外のブランド のコレクションやパーティー、エキジビション、ジュエラー、ビューティ、エディトリアルのサウンドプロデュースを行なう。
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