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「続けられることを一つでも二つでも見つけて」 子宮体がんを経験して、健康に美しく生きるために 藤あや子さんインタビュー〈後編〉

ARTS & CULTURE
2025.10.06

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子宮体がんの経験について話す藤あや子さん=東京都港区、山本倫子撮影

子宮体がんの経験について話す藤あや子さん=東京都港区、山本倫子撮影

  • 坂本 真子
    Aging Gracefullyプロジェクト 元編集長

    朝日新聞記者として主にポピュラー音楽を取材。新聞紙面と朝日新聞デジタルの編集者も長く務め、人事部で社員研修やインターンシップを担当後、2021年12月から25年3月までAging Gracefullyプロジェクト編集長。現在はクリエイティブ部コンテンツディレクター。子どもの頃から合唱曲やロックを歌い、今は音楽と埼玉西武ライオンズを愛するAG世代です。

「想像しなかったような出来事が降りかかってくるのが人生」――。新曲「想い出づくり/小さな鐘の音~ラ・カンパネラ~」を発表した歌手の藤あや子さんは、インタビュー前編でこう話しました。後編では、その言葉の通り、全く予想していなかったという子宮体がんの経験などを語ります。

藤さんの体調に異変が起きたのは、2024年春。それまでは毎年欠かさず人間ドックを受け、特に問題はありませんでしたが、不正出血が続きました。

「ちょっと血が混じっている感じが1週間ぐらい続いて、また止まって、また出血する、という状態が結局1カ月ぐらい続いたんです。前にもときどき出血したことがあったので、またかな、と思いながら、ちょうど大阪で劇場公演があったので、終わった後に検査を受けました」

当初の診断は、子宮内膜異型増殖症。子宮内膜が必要以上に増殖して異常に厚くなるというもので、最も多い自覚症状は不正出血です。このうち3割ほどの人が子宮体がんを発症するとされています。

「私は、がんじゃないなら手術しなくてもいいと思ったんですけど、夫が、今までになく真剣に、『手術しなきゃいけない』と言うんですよ。でも、子宮を全摘出すると聞いて、私は『女性が子宮を取るってどういうことだと思っているの?』と、結婚して初めて夫と言い合いをしました」

夫妻がお互いに譲らない中、改めて細胞を採って検査を受けました。すると、子宮体がんとの診断が。ごくごく初期ではあるものの、医師からは全摘を告げられました。

「がんと言われなかったら反発したでしょうけど、がんと言われた瞬間、すぐに『わかりました』と答えていました。ほんの少しでも見つかったことで、私も覚悟を決められたんです」

「不正出血があったら、早めに婦人科で検査して」

藤さんは、ダ・ヴィンチというロボットによる内視鏡手術を受けました。

「おへその周りに1センチ弱ぐらいの穴を数カ所開けて遠隔操作するんですね。麻酔も、手術当日にすぐ目が覚めるぐらいの軽いもので、『終わりましたよ』という声も聞こえました」

その晩は集中治療室で過ごし、翌日には自分の病室へ。

「まだ麻酔が効いているとき、看護師さんに『痛いときはおっしゃってくださいね。すぐに痛み止めを点滴しますから』と言われて、母ががんで闘病中にモルヒネを点滴したことを思い出したんです。痛み止めを点滴すると意識がはっきりしなくなって普通の生活に戻るのに時間がかかるので、我慢しました。寝不足でほとんど寝ていたので耐えられたんです」

手術の翌々日には普通に食事ができるほどに回復。それからは院内の階段を上り下りしてリハビリに励みました。

「復帰に時間をかけないように頑張ったら、予定より1日早く退院できました。本当に初期だったので、転移もなく、抗がん剤治療を全くしなくて済んだのは大きかったですね。今も3カ月に1度の検診に通っていますけども、初期で見つかって本当に良かったです」

女性特有のがんの中で最も罹患(りかん)率が高いのは乳がんで、次に子宮体がん、卵巣がんと続きます。子宮体がんは子宮の上部にできるがんで、閉経前後の40代後半から60代にかけて発症リスクが高くなると言われています。

「不正出血があっても、なかなか婦人科で検査しない女性が多いそうです。私も、夫に強く言われなかったら、そのまま放っておいたかもしれません。私のように、ちょっとあやしいかも、という方でも早めに検査を受けていただきたくて、私の経験を公表することにしたんです。公表した後、主治医の先生から『検査に来る女性が増えてありがたいです』と言われたので、少しでも女性のみなさんのお役に立てていたのでしたらうれしいです」

2024年の暮れには、歌手仲間の市川由紀乃さんが卵巣がんの抗がん剤治療を終えたことを公表しました。

「婦人科の病気は、女性同士でもお互いになかなか言えないときがあるじゃないですか。だからこそ私は発信して、できる限りのことはお話ししようと思っています」

「できれば毎日、少なくとも週3日は」

腹部の手術を受けた後、おなかに力が入りにくくなり、声が出にくくなることがあります。藤さんもしばらくは影響があったそうです。

「でも、退院して数カ月でキックボクシングのレッスンに復帰できましたし、ヨガにも復帰して、三点倒立もやります。人間の体は戻るようにできていますし、特に女性はそんなに柔(やわ)じゃないですよ」

がんを経て、食事に対する姿勢が大きく変わりました。

「もともと体にいいものは何でも取り入れたいと思う、欲張りだったんです。栄養を考えて貪欲になりすぎて、いつのまにかそれがストレスになっていたんですね。でも今は、シンプルに自分の体が必要とするものだけを食べよう、という考えに変わりました。疲れたときは夫と外食しますし、手を抜いて、自分に甘くしてもいいんですよね」

Aging Gracefully世代(40代、50代)や60代は、できないことが少しずつ増えていき、自信を失うこともあります。この年代を少しでも前向きに過ごすために、いま64歳の藤さんはどのようなことを心がけているのでしょうか。

「健康を保つには、ある程度の決め事は必要だと思うんです。でも、自分の体に向き合う時間は、年齢とともに減っていくじゃないですか。忙しさや年齢のせいにしがちですけども、今の年齢で、自分が続けられることを一つでも二つでも見つけることをおすすめします。自分の今後のために、とても大切なことなので」

以前から藤さんは、毎晩の入浴前にシャドーボクシングのパンチを100回行うことを日課にしていたそうですが、この夏はあまりに暑くて2カ月ほど休んだとか。

「そうしたら、『何この下っ腹』みたいになって、ショックでまた始めました。私たちの年代は、何もしなければそれなりの体になっていくんですよ」

そう自戒する一方で、藤さんはヨガを13年続けていて、洗面台などを使う「斜め腕立て伏せ」も一日に30回を日課にしています。

「自分が得意なことを、できれば毎日、少なくとも週3日は続けると自信になるし、体もきれいになっていくし、免疫力もアップします。何よりも私はメンタルが浄化されていくと感じています。運動は体だけでなくメンタルも鍛えてくれるので、女性は運動を続けて、健康に美しく生きる時間を延ばさないと。『年だから無理』は言っちゃダメ。女性は死ぬまで女性ですから」

「想い出づくり/小さな鐘の音~ラ・カンパネラ~」のCDジャケットには、マル(左)とオレオ(右)の姿も=ソニー・ミュージックレーベルズ提供
「想い出づくり/小さな鐘の音~ラ・カンパネラ~」のCDジャケットには、マル(左)とオレオ(右)の姿も=ソニー・ミュージックレーベルズ提供

「マルオレちゃんとの出会いで変わった」

藤さんは2019年から2匹の猫、マル、オレオと一緒に暮らしています。XやInstagramで猫たちの様子を発信していて、合わせて数十万人のフォロワーも。彼らとの生活がきっかけで、猫用のワクチンを寄付し、保護猫を支援する活動も始めました。最近、野良猫を1匹保護したそうです。

「うちの庭にご飯を食べに来ていた子で、今年の夏の暑さもあって保護しました。男の子だったのでじゃこ天くんと名づけて、推定年齢は3歳ぐらい。マルオレちゃんたちより若めです。ちょっとずつ歩み寄れれば、と思いながら、マルオレちゃんたちとの関わり方を見ているのも面白いですね。この子たちからは幸せをもらっていますし、学ぶこともいっぱいあります」

「私が音楽以外の活動をするとは、以前は考えてもみませんでしたが、マルオレちゃんとの出会いで変わりました。最近では、小学4年生の女の子がSNSでマルオレちゃんを見て、『マルオレちゃんのお母さんは歌手だ』と知って、私の歌を聴いてくださっているそうです。そうやっていろいろなことがつながっていきますし、音楽によってもマルオレちゃんによっても、みなさんの幸せのために何か役立つことを、これからも発信していきたいと思っています」

3年前にインタビューした際、藤さんが「人生は自分探しの旅」と話していたことが印象に残っています。今回も「いろいろな思い出を作りながら、自分のアルバムがどんどん厚くなっていくんですよね」という話になりました。

「厚くなっていい絵ができたと思うことも、失敗も、全部意味のあること。失敗した頃の自分に『大丈夫だよ』と言ってあげたいし、全てをプラスに変えたいですね」

そう語る藤さんに、50代半ばの私が将来に不安を感じていることを話すと、「そこから楽しくなりますよ。楽になります。ぶっとくなります」と、笑顔で励まされました。

そして、この笑顔の奥には、「想像しなかったような出来事」が降りかかってもまっすぐに向き合い、道を切りひらいてきた強さがあるのだと感じました。

年齢を重ねても輝き続ける藤あや子さんの、しなやかで前向きな生き方に少しでも近づけたら……。Aging Gracefully世代の一人として、そんな願望を抱いたインタビューでした。

>>インタビュー前編はこちら

最近、音楽を聴いていますか。
振り返れば、あなたにもきっと、歌やメロディーに励まされ、癒やされた思い出があるはず。40代、50代になっても、これからもずっと音楽と一緒に過ごせますように。
そんな願いを込めて、子どもの頃から合唱曲やロックを歌い、仕事でも関わってきたAging Gracefullyプロジェクト元編集長の坂本が、音楽の話をお届けします。

取材&文=朝日新聞社  坂本真子(Aging Gracefullyプロジェクト元編集長)
写真=山本倫子撮影

「想い出づくり/小さな鐘の音~ラ・カンパネラ~」のCDジャケット=ソニー・ミュージックレーベルズ提供

両A面シングル「想い出づくり/小さな鐘の音~ラ・カンパネラ~」

MHCL-3140  1600円(税込み)
◇収録曲
 M1. 想い出づくり
 M2. 小さな鐘の音~ラ・カンパネラ~
 M3. 想い出づくり(オリジナル・カラオケ)
 M4. 小さな鐘の音~ラ・カンパネラ~(オリジナル・カラオケ)

◆藤あや子さん 「想い出づくり/小さな鐘の音~ラ・カンパネラ~」特設サイト https://www.110107.com/fuji_omoide

◆「創立百三十周年記念 御園座新春特別公演」
  2026年1月10日~17日、名古屋・御園座に出演。
  詳細はこちら https://www.misonoza.co.jp/lineup/month260110.html

◆藤あや子さん 公式サイト https://ayako.fanmo.jp/

◆藤あや子さん オフィシャルブログ「あや子日記」 https://ameblo.jp/ayako-fuji/

◆藤あや子さん X公式アカウント https://x.com/fuji_ayako/

◆藤あや子さん Instagram公式アカウント https://www.instagram.com/ayako_fuji_official/

◆「マルとオレオ」Instagramアカウント https://www.instagram.com/maru0reland/

◆藤あや子さんのインタビュー記事バックナンバーです。
>>自由に、好きなように、感覚で動く 「35年を経てようやくできたこと」
>>猫と、メンタルと、トレーニングと 「日々楽しく生きるための努力を」

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