ヒグマ対策やシカ捕獲減に危機感 ハーフライフル規制に相次ぐ反対

奈良山雅俊
[PR]

 警察庁がめざす銃刀法の改正が、野生動物の保護管理の現場に波紋を広げている。エゾシカやヒグマの捕獲に有効な猟銃「ハーフライフル」を、散弾銃の所持歴が10年以上ないと持てないよう基準を厳しくするといった内容だからだ。特に北海道内の鳥獣対策への影響は必至で、関係団体は規制強化を伴う法改正への反対を表明した。

 ハーフライフル銃は銃身の半分以下までらせん状の溝が彫られた銃。ライフル銃には及ばないが、単弾の専用スラッグ弾なら回転して直進性が増すため、100~150メートル先のエゾシカを仕留めることも可能だ。

 一方、溝のない「平筒銃」と呼ばれる散弾銃は単弾を火薬の爆発力だけで撃ち出すため、有効射程が40~50メートルと短く命中精度も低い。散弾銃は小粒が詰まった散弾を使うカモ猟などに適している。

 現行の銃刀法ではライフル銃を持つには10年以上の経験が条件だが、ハーフライフル銃は散弾銃に分類され、初心者でも所持できる。所持1年目からエゾシカの狩猟や駆除に参加でき、道内の捕獲数を底上げしている。経験を積めばヒグマを仕留めることもできる。だが、規制が強化されれば基準を満たすまで平筒銃しか使えなくなる。

□■

 早々に共同で反対声明を出したのは一般社団法人「エゾシカ協会」(事務局・江別市)とヒグマとの共存をめざす市民団体「ヒグマの会」(同)だ。

 ともに平筒銃の命中精度の低さを指摘し、「ハーフライフル銃はエゾシカ管理に大きく貢献している。規制されれば捕獲数の激減は明白だ」と主張。ヒグマ対策については「許可捕獲(駆除)の約半数が銃捕獲。逆襲されないためには急所を確実に射撃しなければならず、安全のためにもハーフライフル銃は必須」としている。

 世界自然遺産の知床でヒグマの管理対策を担う公益財団法人「知床財団」も、「反撃の危険を伴う駆除現場で捕獲従事者、地域住民、観光客の安全確保を確実に行うには命中度の高いライフル銃やハーフライフル銃が欠かせない」と強く反対している。

□■

 命の危険を伴うヒグマ対策だが、担っているのはほとんどが猟友会に所属する民間人のハンターだ。国有林内での伐採や送電線の点検などの際、作業員の安全のため同行を求められることもある。昨春に朱鞠内湖(幌加内町)で釣り人が襲われた時も、問題のヒグマを仕留めたのは猟友会のハンターだった。

 北海道銃砲火薬商組合は反対声明の中で、ヒグマ対策の難しさを強調する。「ヒグマの走る速さは秒速約16メートル」とし、単弾を用いた平筒銃で50メートル先のヒグマを撃って外した場合は3秒以内、30メートル先だと2秒以内で反撃されると試算。「自身の身を守るためにも新人ハンターにハーフライフルは必要」と訴えている。

 規制による影響は、野生動物の保護管理を担う次世代ハンターの育成にも及ぶ。猟銃を所持しても思うようにエゾシカが捕獲できなければ経験も積めず、魅力も薄れ、数年で猟銃を手放すケースも考えられる。有害駆除なら10年未満でもハーフライフル銃を所持できる特例を設けたとしても運用面などで課題が多く、結局一般のハンターは狩猟用と駆除用の猟銃2丁を持つことになりかねない。

 ■

 今回の銃刀法改正は昨年5月に長野県で起きた4人殺害事件がきっかけとされる。事件に使われた猟銃がハーフライフル銃だったことから所持許可基準の厳格化の動きになった。これに対し、エゾシカ協会とヒグマの会は共同声明で、「事件は『人』側の要因に起因する。『ツール』(猟銃)に対する規制を強めても抜本的な防止にならない」とした。

 さらに野生動物の保護管理の現場からは「問題は猟銃ではなく撃った個人」「エゾシカやヒグマの捕獲増をめざす道庁にとってはアクセルとブレーキを同時に踏むようなもの。知事は毅然(きぜん)とした態度をとるべきだ」「道内での駆除に関われない道外ハンターの減少も心配だ」といった声もあがっている。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

【30周年キャンペーン】今なら2カ月間無料で有料記事が読み放題!詳しくはこちら