日経サイエンス  2026年1月号

げっぷするブラックホール

Y. センデス(オレゴン大学)

ブラックホールはそれ自体目に見えないが,宇宙で最も明るい天体の1つだ。ブラックホールに近づきすぎた恒星は「潮汐破壊現象」という花火ショーで引き裂かれる。恒星は近づくにつれ,よじれて引っ張られ,約半分は最終的に外側に投げ飛ばされる。残りの半分はブラックホールの周囲にフリスビー形の降着円盤を作る。この新たに形成された円盤は不安定で,物質がぐるぐると回ってぶつかり合い,電波帯域で検出可能な光のショーを繰り広げる。

潮汐破壊現象は珍しい。天の川銀河の中心にある巨大ブラックホールでの発生頻度は100万年に1回程度と推定されている。しかし,ひとたび起これば放出される膨大な光とエネルギーは数百万光年,あるいは数十億光年先でも観測可能だ。

この最初の食事後,呑み込まれた恒星が再び観測されることはないと最近まで考えられていた。しかし,過去5年間の観測はそうではないことを示唆している。ブラックホールが恒星を引き裂いた数年後に消化不良を起こして物質を吐き出すことがあるように見えるのだ。理論では予測されていない驚きの活動だ。実際,恒星をむさぼるブラックホールの半分近くが,おとなしくなってから数年後に電波で再び輝くことが明らかになっている。これは宇宙規模の“ゲップ”だ。

もちろん,物質が事象の地平線を越えて戻ることは不可能だ。そのため,吐き出された物質は事象の地平線の外側にある降着円盤の中を漂っていた可能性が高い。それでも,ブラックホールがそれだけの期間をおいてゲップする仕組みを説明するのは困難だ。いったい何が起こっているのか? このような逆流の謎を解明できれば,宇宙で最も極端な環境の物理学についての秘密が明らかになるだろう。

続き2026年1月号の誌面でどうぞ。

関連記事
星を引き裂く姿 潮汐破壊現象」,S. B. センコ/N. ゲーレルズ,日経サイエンス2017年8月号。

著者

Yvette Cendes

オレゴン大学の物理・天文学科の教授。Blueskyアカウントは@whereisyvette.bsky.social

原題名

Black Hole Burps(SCIENTIFIC AMERICAN July/August 2025)

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