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公共の場を走るのは「悪」か 日本と海外で異なる社会の目(鏑木毅)

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7月に海外合宿でニュージーランドの山を走った際、ハイカーから頻繁に「登山口からどれくらいで来たの」と質問されたり、「頑張ってね」という励ましの声をかけられたりした。この国に限らず海外の山を走ると、トレイルランニングのスポーツとしての認知度にかかわらず、好意的に捉えられることが多い。

日本ではこのような声がけをあまり受けることがない。トレイルランニングの基本マナーは登山者やハイカーに出会ったら、歩きに変えて挨拶をすること。それは十分に留意しているのだが、先日すれ違った人から「なにも走らなくともいいのに」という言葉を投げかけられた。

相手が山をゆっくり歩いている際、走る人を目にしてどこか不愉快に感じたのかもしれない。真意は分からないが、山でスポーツをする、そのこと自体が悪だというような、後ろめたい感情に包まれた。

知り合いのサイクリストによれば、日本の公道をロードバイクで走ると車から幅寄せを受けることが多いという。確かに欧州は事情が違って、自転車への配慮が日本の比ではない。現地でレンタカーを運転中に、同乗者から「もっと自転車を気遣った運転をすべきだ」と言われて恐縮した経験がある。

国内の人通りがほぼない公道で少人数のランニング練習に取り組んだ時は、法令を守って、できる限り迷惑をかけないよう注意を払ったが叱責された。昨今はマラソン大会の開催に対して相当な苦情が寄せられると聞く。海外でも同様のことはあるが、日本では公共の場所で行うスポーツが諸外国と比べて理解を得にくいと感じる。

他者とのコミュニケーションの在り方の違いから来るのだろうか。日本は多様な価値観を認める空気が醸成されていないと感じるだけでなく、そもそもスポーツに取り組む人への社会的な視線が厳しいように思う。

あるトレイルランニングの大会準備中に、環境団体から道が荒れるから開催すべきでないという指摘を受けたことがあった。付近の山ではもっと環境にダメージがあるように思える無秩序な開発が行われていた。だが、大会はあくまで娯楽だからやめてほしいと言われ、疑問を抱かざるを得なかった。

言うまでもなく環境保全には十分な配慮が必要だし、決してスポーツが社会において何よりも欠かせないという身勝手な考えは毛頭ない。それでもスポーツが果たす社会的な役割は決して小さくないと考える。

長年にわたって大会の出場に情熱を傾ける人々の思いがあり、来訪者が増えることによる地域への好影響もある。人によっては病気や大きな悩みを乗り越えるよりどころになっている。そこにスポーツ文化の成熟を感じる。

大会に注がれる厳しい目は、不適切な運営をする大会が存在したり、一部の参加者のマナーの悪さに起因したりしている可能性が否めず、主催側は他者に配慮する心を決して忘れてはならない。とはいえ、息苦しさは拭えない。これも日本らしさだと割り切るしかないのだろうか。

(プロトレイルランナー)

かぶらき・つよし 1968年群馬県生まれ。早大から群馬県庁入り。県職員時代にトレイルランニングを始め、富士登山競走、日本山岳耐久レースなどで優勝。40歳でプロに転向し、2009年に世界トップクラスが集う「ウルトラトレイル・デュ・モンブラン(UTMB)」で3位。同年、世界で最も権威がある「ウエスタン・ステーツ・エンデュランス・ラン」で準優勝。競技の普及活動にも尽力し、日本トレイルランナーズ協会会長、Mt.FUJI100大会会長を務める。世界のレースを集めたシリーズ「ワールド・トレイル・メジャーズ」への全戦参戦を目標に、現在も日々のトレーニングを欠かさない。

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プロトレイルランナーの鏑木毅さんのコラムです。ランニングやスポーツを楽しむポイントを経験を交えながら綴っています。

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