「彼女が支払うべき代償は指1本が相当だと思った。バレエ講師なので顔や足は遠慮した」-。バレエ講師の女性=事件当時(24)=の親指をタガネで切断して重傷を負わせたとして、傷害の罪に問われた住所不定、無職、橋本浩明被告(41)の第3回公判が6日、東京地裁(菅原暁裁判官)で開かれた。この日は被告人質問が行われ、「なぜ指を切断したのか」という謎について被告が初めて口を開いた。橋本被告は「正当な報復だった」と独善的な自己正当化に終始したが、一方でその話には奇妙な自己抑制もあった。橋本被告が語った事件の経緯とは-。(社会部 小野田雄一)
被害女性「罪の重さ認識して」
平成28年11月の初公判で検察側が主張したところによると、橋本被告は東京都内のバレエ教室に26年に入会。しかし練習日程変更の連絡などをめぐり女性に不備があったとして、女性を怒鳴るなどした。そのため教室側は27年10月、橋本被告を強制退会処分とした。強制退会は女性が原因だと恨んだ橋本被告は、28年7月6日朝、教室内に1人でいた女性の頸(けい)動脈を絞めて失神させ、金づちとタガネで親指を切断したとされる。
12月の第2回公判では女性の証人尋問が行われ、女性は事件後にバレエ講師をやめたこと、親指は接合手術を受けたものの現在も思い通りに動かず、幼い頃からバレエとともに打ち込んでいたピアノもできなくなったことなどを証言。「どうしてここまでされなくてはならないのか理解できない。自分がした罪の重さを認識してほしい」と時折声を詰まらせながら語った。
高まるバレエ熱、しかし…なぜ「復讐」決意?
6日に開かれた第3回公判では橋本被告に対する被告人質問が行われた。
橋本被告の話によると、高校卒業後、配管工などに従事。26年5月に整体師となった。同年11月、「仕事にも慣れてきて、趣味を作ろう」と思い、バレエ教室に入会。バレエ熱はすぐに高まり、一軒家に引っ越して1階部分をバレエ練習向けに床を改装し、畳約2枚分の大きさの鏡を壁に取り付けるなどしたという。
しかし講師の女性とは相性が悪かった。「分からない動きを私が聞くと、イライラしていた様子だった。ある時には『この程度の動きは、58歳の私の父でも教えればすぐにできるようになる。私をキレさせんな』と怒鳴られた」と話した。
確執が決定的になったのは27年8月。翌9月に控えた発表会に向け、生徒は正規レッスンとは別にリハーサルや補講を受けていた。しかしリハーサルや補講の日時が事前に聞かされていた日程から変更されていたが、橋本被告には連絡がなかったという。後日教室を訪れた橋本被告が「なぜ変更内容を伝えてくれなかったのか」と女性に尋ねると、女性は「伝えていませんでしたっけ。でも強制参加じゃないので、来なくても結構です」と述べたとした。



