リアルな密室殺人
――密室殺人のトリックにも定評がある。これもリアル(実現可能性)にこだわりますか
「不可能なものは基本的に書きたくない。『困難』はいいけど『無理』は書きたくないのです。調べるだけ調べて、できるなら実験してみたいくらい。想像力の中に『生(リアル)』が混じっていると読者にとって面白いでしょう。空想と現実が地続きになっている感じがいいですね」
――出版不況。今後の見通しは
「確かに読書家の数は減っているのかもしれませんが、時代とともにいろんなエンタメが増えても、小説は完全に代替できません。いい小説を読むと心が落ち着く。文字から物語を再生するという行為は人間の精神にいいものを与えるからでしょう。私はそう信じて書いてきました。あまり功利的なことは言いたくないのですが、本を読む子は学力が違う、と思います。その根底に日本語があるからですよ」
――少年時代からのタイガースファン、だそうですね
「以前は甲子園球場のすぐそばに住んでいて、ふろに入っていても、誰が打席に入ったか、誰がホームランを打ったか分かったほど。(2023年のシーズンは)岡田・阪神に大いに期待しています」
■『秋雨物語』KADOKAWA 1870円(税込)
遅筆で有名な作家、青山が締め切りを目前にして姿を消す。そのパソコンには、超常現象の体験をつづった何とも奇妙な物語が残されていた。原稿を青山の同居女性から受け取った編集者の松浪は、それを読み進めてゆくうちに、物語が青山の実体験ではないか? と疑い始める。やがて、松波は戦慄の真相にたどりつく(『フーグ』)。このほか、命がけの心霊ゲームを題材にした『こっくりさん』など4つの中編集。
■貴志祐介(きし・ゆうすけ) 作家。1959年大阪市出身。63歳。京都大学経済学部卒。生命保険会社勤務を経て96年、日本ホラー大賞長編賞佳作を受賞した『十三番目の人格 ISOLA』で作家デビュー。翌年『黒い家』で日本ホラー大賞、2005年『硝子のハンマー』で日本推理作家協会賞、10年『悪の教典』で山田風太郎賞受賞、同作で144回直木賞候補。凝ったトリックによる密室殺人ミステリーにも定評がある。
