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平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と遊び』。今回は友人・Kさんとのエピソードをお送りします。

脚本家・井上敏樹エッセイ『男と遊び』第71回
男とバー  井上敏樹 

 人にはどうしても覚えられない言葉というものがあるのではないだろうか?別に世界一長い昆虫の名前ーセイタカアワダチソウノヒゲナガアブラムシとか、日本一長い植物の名前ーリュウグノオトヒメノモトユイノキリハズシとかではなくもっと身近な言葉で、だ。私の場合なぜか『ピクルス』。言うまでもなく野菜の酢漬けの事である。これを書いている今も『ピクルス』だったか『ピルクス』だったか分からなくなりスマホで調べたぐらいである。たとえばバーで酒を飲んでいてピクルスが食べたくなっても名前が思い出せない。だが、『マスター、ほら、あれ、頂戴。西洋風の野菜の酢漬け……』とは言えない。馬鹿だと思われるからだ。そこでこそこそとスマホで調べる事になる。そして私は自信満々で言うのだ。『マスター、ピクルスをくれ』と。

 なぜこんな話をしたかと言うと最近吉祥寺に出来たあるバーでピクルスの話になり、バイトの女の子たちによるピクルス選手権を開催する事になったのだが、どれもこれも今ひとつでよしそれならひとつ俺様が作ってやろうという流れになったからだ。『ピクルス』という言葉も曖昧な私だが、作るのには問題ない。というか得意だ。というか得意というのが恥ずかしいくらい簡単だ。コツはひとつ――らっきょう酢を使う事だけである。同量のらっきょう酢と白ワインを火にかけてアルコールを飛ばし、そこに好きな野菜を放り込む。あとは香り付けにタカの爪やらニンニクを入れれば出来上がり。二時間後にはもう食える。簡単である。

 

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デザイナー/ライター/小説家の池田明季哉さんによる連載『"kakkoii"の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝』今回は「変身サイボーグ」の後継シリーズミクロマンを分析します。現実とフィクションを接続する“拡張現実”的な遊びの転換点を、ミクロマンから読み解きます。
 

池田明季哉 “kakkoii”の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝

現実とフィクションの反転

 本連載では繰り返し、勇者シリーズが子供とおもちゃの関係を正確に記述しようとしてきたと述べた。「少年」の生きる世界と「ロボット」の生きる世界は、幾つもの意味で分離している。まず玩具において、「遊び手」と「玩具」は同じ世界に存在していない。当然のことだが「遊び手」が過ごしている日常は、「玩具」が表現する想像の世界――「ロボット」たちの日常とは重なっていない。そしてこの「遊び手」の世界が(おおむね)平和であるのに対し、「玩具」たちの世界は戦いに満ちている。だからこそ「少年」が命じることで「ロボット」がそれに応えるという構造が、「遊び手」が「玩具」という成熟のイメージの世界に参加していくために必要なのだった。ここでは「少年」は「子供」であることを保ったまま、「ロボット」が戦いを繰り広げる「大人」の世界に間接的にアクセスすることになる。

 ところがこの構造は、ミクロマンにおいては反転している。ミクロマンは1/1スケールの小さな宇宙人で、現実そのものを物語の空間としているために「少年」と「ミクロマン」の生きる世界は一致する。「遊び手」と「玩具」がそもそも最初から同じ世界に配置されているのだ。「遊び手」が過ごす日常に対して、「玩具」が越境し、「ミクロマン」たちの日常は「遊び手」の生活空間――比喩的に表現するなら「机の上」へと浸潤してくることになる。「遊び手」はその日常の裏側に、「玩具」が参加する戦いの世界を感じ取ることになる。「遊び手」にとって「玩具」がもたらす成熟のイメージは、別世界で行われている戦争に司令官として参加することではなく、今ここに存在している小さな隣人を経由してもたらされるのだ。

 
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平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、2022年3月から放送開始の『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』も手がける脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と遊び』。約3年ぶりの連載となる今回は、頭のエンジンを切らない思考法からアクスタ誕生の裏話まで、近況と創作の心得をまとめてお届けします。

脚本家・井上敏樹エッセイ『男と遊び』第70回
男 と 遊 び  再び     井上敏樹 

 随分と間が空いてしまった。この男と遊びを中断してもう4年になる。それにはちゃんとした理由があってある夜、私がぼんやりしていると東映のRプロデューサーからラインが入った。『来年の戦隊やりませんか?』と。『よかろう』と私。Rとはもう40年近い付き合いになるが、彼との仕事は大体こんな風に始まる。

 戦隊をやれば丸一年拘束される事になる。プロットやらシナリオやら毎週のように締切りが来る。要するにクソ忙しくなるのだ。

 エッセイは休まざるをえない。ちょっと待て、お前が休んだのは4年だ。変ではないかと言われそうだが、それにもちゃんとした理由がある。

 
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