島にすむ常識外れな哺乳類 アマミトゲネズミ

写真=ジョエル・サートレイ(撮影地:埼玉県こども自然動物園)
写真=ジョエル・サートレイ(撮影地:埼玉県こども自然動物園)
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Y染色体をもたないのに雄が生まれてくる不思議。その長年の謎が少しずつ解き明かされつつある。

 哺乳類の染色体は雌が「XX型」、雄が「XY型」と学校で習った。だが、1977年にY染色体をもたない生物がいることが判明。しかも、生まれるはずのない雄がいるという。そんな常識外れの生物が、奄美大島だけにすむアマミトゲネズミだ。

 Y染色体はどこへ行ったのか? この報告に衝撃を受けたのが、当時まだ博士課程の学生だった北海道大学の教授、黒岩麻里さんだ。そして、約20年にわたってトゲネズミの性染色体を研究し、今回、東京科学大学や久留米大学の研究者らと共同で、より詳細なゲノム解読に成功した。

 Y染色体のないトゲネズミは、性を決定する役割をもつ「Sry遺伝子」を失っているが、解読の結果、本来Y染色体にあるはずの遺伝子が7個、X染色体にあることを確認。現在のゲノム構造になった過程についても一定の仮説を導くことができた。性決定遺伝子がない状態でどのように雄・雌が決まるのか。その謎を解く鍵となる性決定因子も明らかとなり、大きな成果を得た。

「島という隔離された環境のなか、集団の個体数が急激に減少し、その後の世代で遺伝的多様性が著しく縮小する“ボトルネック効果”によって、ユニークな染色体が固定されたと考えています」。黒岩さんは今後、この考えを証明する研究に取り組みたいと語る。まだまだその探究心が尽きることはなさそうだ。――熊倉 浩子(ナショナル ジオグラフィック日本版)

アマミトゲネズミ

学名:Tokudaia osimensis
種目:げっ歯目ネズミ科
食性:雑食
サイズ:体長 8〜12センチ、体重 110〜170グラム
生息地:奄美大島

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