記者からの追及には「真摯に受け止める」「ご意見として受け止める」と決まり文句を繰り返す斎藤知事。写真は囲み取材で議長からの苦言について問われたときのもの
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「SNSの勝利、オールドメディアの敗北」と言われた昨年の兵庫県知事選からまもなく1年(11月17日に投開票)。県議会の不信任を受けた失職から111万票余りを獲得し、再選された斎藤元彦知事だが、告発文書に端を発した県政の混乱と県民の分断は一向に収まらない。直近の議会や記者会見では、質問に答えない答弁、個人PRのようなSNS、県の不祥事に対する説明の遅さなど、知事の情報発信のあり方にあらためて批判が高まっている。(以下、文中敬称略)

(松本 創:ノンフィクションライター)

兵庫から宮城へ広まったデマと誹謗中傷のSNS選挙

「兵庫県の知事選挙の時になあなあにしてしまった結果、このようなことが起こってしまったと思います」

 10月26日に行われた宮城県知事選で6選を果たした村井嘉浩は、SNSで「メガソーラー大歓迎」「外国人労働者大量受け入れ推進」といった自身に関するデマや誹謗中傷が飛び交い、参政党が全面支援する和田政宗(前参院議員)に猛追された選挙戦をそう振り返った。こうしたSNS投稿について「厳しい態度も必要」として、名誉棄損罪などでの告訴・告発を検討しているという。

 村井は、兵庫県知事の斎藤元彦が総務省官僚時代に宮城県へ出向し、財政課長などを務めたときの上司だ(2013年7月~2016年3月)。

 斎藤が初出馬した2021年知事選には出陣式に駆け付けた間柄で、告発文書問題の当初も「非常にまじめな方で、職員の評判も良かった。高く評価している」と語っていた。だが、昨年11月の兵庫知事選で、斎藤の対立候補や疑惑を追及した県会議員に向けられたデマや誹謗中傷と同様の攻撃を自ら受け、その深刻さを痛感したようだ。

 今年4月には、村井が会長を務めていた全国知事会が公正な選挙制度を国に求める提言書を出している。昨年の兵庫県知事選で政治団体NHK党の立花孝志が自ら立候補しながら斎藤を支援した「2馬力選挙」や、SNSでの誹謗中傷や真偽不明情報への対策、ポスターや政見放送の品位保持規定の徹底などを求める内容だ。これには当の斎藤も賛同している。

 9月県議会では、この点が問われた。兵庫が震源となった、つまり自分自身が応援を受けた2馬力選挙について、どういう認識で知事会の提言に賛同したのか。民主主義をゆがめる2馬力選挙は許されないと強いメッセージを出すべきではないか──。質問者は自民党の奥谷謙一県議。百条委員会委員長を務め、立花の攻撃の標的となった当事者である。

 だが、斎藤の答弁は従来通り、他人事のような一般論に終始した。