メタのザッカーバーグCEO(写真:ロイター/アフロ)
(山本一郎:財団法人情報法制研究所 上席研究員・事務局次長)
先日、自身のnoteで調査報道的な記事を発表しました。その中では、文春オンラインをはじめとする複数の日本メディアが、ロシアを起点とする詐欺広告ネットワークから大量のアクセスを受け、結果的に年間2億円規模の広告収益を得ている可能性がある内容にも触れています。
誤読して暴れる変な人が大量に出るのではないかと心配しましたが、幸いにしてそんなこともなく、当事者から若干の苦情や怒られは到来しましたが、想定よりもかなり平穏な日々を過ごしております。神に感謝します。
◎ロシアの対日不安定化工作に利用される文春の誤報と、文春を支える詐欺広告(note)
「文春砲」などと言われている文春系媒体の場合、特に政治系記事ではSNSを中心に記事が拡散されています。今回の自由民主党の総裁選でも、勝利が確実視されていた小泉進次郎陣営に関して、陣営にいた牧島かれんさんらが支持者に「ステマ」を行っていたというようなガセネタが報じられ、SNSで広く拡散されました。もう、大騒動です。
もっとも、こうした記事をSNSで拡散しているのは、ガセネタを信じて怒りを掻き立てられたアカウントと、そこへアクセスをブーストする役割を担うロシア製のボットファーム系のアカウントが主であることは分かっています。つまり、実質的にわが国の宰相を決める総裁選に外国勢力が介入しているということです。
さらに、文春系媒体の広告収益という点で見ると、文春に流れ込むアクセスは、多いときで約半分がロシア起点とみられる広告エッジから流入しています。もっぱら7月20日に投開票だった参院選から、10月の自民党総裁選ぐらいまでに大きな山がありました。やめろや。
その広告も、低品質なコンテンツ管理システムや偽装企業、ウイルス警告、IQテスト誘導など、クリックを誤誘導する悪性広告が中心となっています。これらの広告を踏んだユーザーは「マルバタイジング」と呼ばれる悪質な手法によって個人情報を抜き取られたり、マルウェアに感染させられたりする危険性があります。
この問題を一緒に調査した日本のサイバーコミュニティのホワイトハッカー集団クロマティ高校は、参議院選挙から自民党総裁選にかけての期間に、文春へ詐欺広告を出していた広告主がロシア関連のASN、つまり自律システム番号にまとまっていることを確認しています。どう見てもロシア発の詐欺広告です。本当にありがとうございました。
特に注目すべきは、この手法が2015年から2018年にかけてアメリカで摘発され、ロシア人ら8人が起訴されて有罪判決を受けた「3ve(イヴ)」というデジタル広告詐欺スキームと酷似している点です。