メインコンテンツにスキップ

南極海で30種以上の新種を発見!球体をたくさんつけた肉食の海綿動物の姿も

記事の本文にスキップ

13件のコメントを見る

(著)

公開:

モンタギュー島の東方、海溝北部で発見された新種の肉食性海綿動物この画像を大きなサイズで見る
新種の肉食性海綿動物  / Image credit:The Nippon Foundation-Nekton Ocean
Advertisement

 氷に閉ざされた南極海の深海で、驚きの発見があった。日本財団とネクトン財団が主導する国際プロジェクト「オーシャンセンサス」の調査で、これまで知られていなかった30種以上の物が確認されたのだ。

 新たに発見された種の中には、風船のような球体をたくさんつけた肉食性海綿動物も含まれていた。

 既存の生物としては、骨を分解して生きる多毛類のゾンビワームの姿も捉えられた。

 人類がほとんど足を踏み入れたことのない極限環境にある深海にも、生命は息づいていたのだ。

前人未到の南極海の深海調査、30種以上の新種を発見

 日本財団とネクトン財団が共同で推進する国際海洋プロジェクト「オーシャンセンサス」は、南極海の未踏海域を調査した。

 研究チームは、シュミット海洋研究所の協力を得て、調査船「Falkor too」に搭載された遠隔操作潜水艇「ROV SuBastian」を使用し、サウスサンドウィッチ諸島とベリングスハウゼン海の深海を詳細に探査した。

 この調査により、14の動物グループ(門)に属する約2000点の標本が採集された。また、数千枚の高解像度画像と映像が記録された。

 その結果、少なくとも30種以上の新種の生物が確認された。

風船をまとった肉食性海綿動物

 最も注目された新種の一つが、モンタギュー島の東方、トレンチ・ノース潜航地点の深さ3601mで発見されたコンドロクラディア属(Chondrocladia)の肉食性海綿動物である。

 通常の海綿動物は枝分かれした多孔質の体を持つが、この新種は球形の体表に無数のフック状の突起を備えている。

 それらが小型の生物を絡め取り、逃げられなくなった獲物を体表から吸収して摂食する。

 これまで海綿動物は、水を濾して栄養を得る「受動的な存在」とされてきた。

しかし、この新種はその常識を覆し、深海という過酷な環境の中で、能動的な捕食者へと進化したことを示している。

モンタギュー島の東方、トレンチ・ノース潜航地点の深さ3601mで、発見された新種の肉食性海綿動物この画像を大きなサイズで見る
モンタギュー島の東方の海溝北部、深海3601mで発見された新種の肉食性海綿動物  / Image credit:The Nippon Foundation-Nekton Ocean

骨を食べるゾンビワームも確認

 SuBastianは、モンタギュー島の東方、深さ3601mの地点で多毛類オセダックス属(Osedax)を確認した。

 オセダックスは口も消化管も持たず、鯨やアザラシなど大型動物の骨に含まれる脂質を、共生する細菌の力で分解して栄養を得ているため、ゾンビワームとも呼ばれている。

 沈んだ骨に群がるオセダックスの姿は、死の静寂に包まれた海底でも生命が循環していることを象徴している。

この画像を大きなサイズで見る
モンタギュー島の潜水地点で発見された、アザラシの骨の周囲にいるゾンビワーム/ Image credit:The Nippon Foundation-Nekton Ocean Census/Schmidt Ocean Institute

 さらに、深さ約700mの地点では、化学合成生物群集が生息する新たな熱水噴出孔が発見された。

 鮮やかなサンゴ群落や海底火山の爆発痕など、地質学的にも重要な発見が相次ぎ、南極海の生態系と地質活動の結びつきを示す貴重な手がかりとなった。

現地で新種を即時分類 10年分の研究を数週間で

 採集された標本は、チリ南部プンタアレーナスで開催された「南極海種発見ワークショップ」で国際チームの分類学者が確認した。

 研究者たちは現地で標本を選別し、撮影や形態比較を行い、必要に応じてDNAバーコーディングによる解析を実施した。

 DNAバーコーディングとは、生物のDNA配列を「バーコード」として読み取り、データベースとの照合で種を特定する遺伝子識別法である。

 この「海から研究室へ」を直結させた新しい手法により、通常10年以上かかる新種認定のプロセスをわずか数週間で完了させた。

 オーシャンセンサスの主任科学者ミシェル・テイラー博士はこう語る。

南極海は依然として十分に調査されていない。採集サンプルの分析はまだ30%未満だが、それでも30種以上の新種が確認された。この結果は、深海にどれほど多様な命が潜んでいるかを示している

多様な新種と未知の生態系

 発見された生物の中には、光沢のあるウロコを持つウロコゴカイ属(Eulagisca)の新種や、Brisingidae、Benthopectinidae、Paxillosidaeの各科に属する未記載のヒトデも含まれていた。

この画像を大きなサイズで見る
Image credit:oceancensus

 さらに、等脚類や端脚類の甲殻類では、新しい「科」に分類される可能性のある個体も確認されている。

この画像を大きなサイズで見る
Image credit:oceancensus

 火山活動や熱水噴出孔の影響を受けた特殊な環境に適応した巻貝や二枚貝、黒サンゴ、そして新属のウミエラの存在も報告されている。

この画像を大きなサイズで見る
Image credit:oceancensus

先端技術と科学者の連携で未知の領域の調査が進む

 シュミット海洋研究所の事務局長ジョティカ・ヴィルマーニ博士は、「精密な海底マッピングやSuBastianが撮影した高解像度の映像によって、人類がこれまで見たことのない場所を探索できるようになった」と語る。

 「オーシャンセンサスと共有する“発見の加速”という目標が、数多くの新種発見につながった。テクノロジーと世界中の科学者の協力が生んだ成果だ」と博士は述べた。

 南極海の深海生態系は、進化や生物地理、気候変動への適応を理解する上で重要な手がかりを秘めている。

 オーシャンセンサスの加速型発見モデルは、生物多様性の保全や将来の研究に役立つ高品質なデータを生み出し、確認された新種の情報はオープンアクセスの「オーシャンセンサス生物多様性データポータル」で公開される予定だ。

References: Oceancensus

📌 広告の下にスタッフ厳選「あわせて読みたい」を掲載中

この記事へのコメント 13件

コメントを書く

  1. クモヒトデとかウミエラとかウミケムシあたりは何処でも左程姿形変わんないのね。

    • +6
  2.  他の深海にすむ生き物のデザインもわけわからないというか見慣れないけど、南極の深海も例外でなく不思議な形してますね。 たしかにふうせんついてる海綿とかビックリですよ。 あのふうせんは何に役立つのか、どう進化してきたのか、ナゾ!謎!なぞ~
     ゾンビワームの写真を見てもどれがそれなのかわかりませんでしたが、検索したところ散らばってるビニールの破片みたいなのがそうみたい。 やっぱり命というか身体を構成するいろいろな成分はいろんな生物が食べて循環しているのだなと。 日本は火葬が一般的だから灰を海にまいてほしいと思ってましたが、できれば私の遺体をそのまま深海に沈めてほしくなりました(今だと遺棄罪にあたりそうで無理かな)

    • +8
  3. ピンポンツリースポンジとコンドロクラディアリラならカラパイアで履修済み

    • +10
    1. エルタニン・アンテナも忘れないであげて
      これがノンフィクションだなんて深海の生き物のデザインは秀逸よな

      • +5
  4. 私みたいなアホにはできない「一つのことを探究」!
    理系文系問わず、生きていると、賢い人たちに助けられているなあと感じます。
    何でもそうだが、根っこの研究がないと、物事の発見・応用には結びつかないと思ってます。

    • +8
  5. 南極ってだけでかなり冷たいだろうに、その深海に適応しているとは、驚きを禁じ得ない。(極度の寒がり)

    • +5
  6. 南極の地底には宇宙人がいるらしいからね?

    • -1
  7. 自然界を前にしたら人間の想像力なんて簡単に凌駕されちゃうな

    • +7
  8. ピンポンツリースポンジパイセン!いろんな種類のピンポンツリースポンジがいるなんて…!

    • +2
  9. 生命って何?進化って何?
    もうわけわかめ状態だわ(@Д@;)

    • +3
  10. 海綿動物くんクモヒトデに巻き付かれてない?
    場合によっては食われてる真っ最中だよなコレ

    • +2
  11. めちゃくちゃ気持ち悪いけどDNAとかw役に立ちそう

    • 評価

コメントを書く

0/400文字

書き込む前にコメントポリシーをご一読ください。

リニューアルについてのご意見はこちらのページで募集中!

知る

知るについての記事をすべて見る

  1. 記事一覧を読込中です。

水中生物

水中生物についての記事をすべて見る

  1. 記事一覧を読込中です。

最新記事

最新記事をすべて見る

  1. 記事一覧を読込中です。